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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フジモリ大統領主催晩餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶

[場所] ペルー
[年月日] 1996年8月27日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上)、245−247頁.
[備考] 
[全文]

アルベルト・フジモリ大統領閣下、

ご列席の皆様、

 この度の私のペルー訪問にあたり、フジモリ大統領閣下に種々のご配慮をいただき、大統領をはじめ、関係の皆様に心からお礼申し上げます。

 私は三年前の一九九三年三月にフジモリ大統領のお招きで、ペルーを訪問して以来、二度目の訪問でありますがそれにしても、ペルーの変貌ぶり、繁栄ぶりには驚かされました。「人はエゴイストでなければ誰でも、他人や共同体、あるいは祖国に仕えることで自己を実現したがるものです。確かに、そのような時が人生に一度もしくは何度か現れるべきです。」フジモリ大統領は以上のようなことを書き残されています。私が目にしている今日のペルーは、フジモリ大統領の祖国への献身とペルー国民の祖国愛が結集した成果であります。

 一九九〇年に大統領に就任されて以来、フジモリ大統領を毎年我が国にお迎えしてきましたが、その間我が国において、ペルーへの親近感が著しく増進してきております。特に、貴国における経済面の成果のみならず、治安対策面での成果も広く我が国国民の知るところとなり、貴国を訪れる我が国観光客も確実に増加しております。現に丁度今、私の慶応義塾大学在学中の山登りの仲間達がアンデスの奥深く分け入り、新たなペルーの魅力ある観光コースを開きつつあります。私が前回貴国を訪問した時には、大統領のご好意により、クスコのマチュピチュ遺跡などを視察させていただきました。この他、貴国には、我が国のアンデス考古学者が調査に協力しているクントゥル・ワシ遺跡やシカン遺跡など無数の文化的遺産があり、貴国は日本と同様に数千年の古い歴史と伝統を有する国であることを深く実感したことを思い出します。

 また、ペルーとアジアとの間には、スペイン植民地時代よりガレオン船による交流があり、貴国が古くからアジアとの交流に熱心であったことが分かりますが、近年、貴国がアジア太平洋地域との関係緊密化に力をいれておられるのも、このような伝統に支えられているものと理解しております。

 さて、太平洋を挟んで向かい合う日本とペルーは、三年後の一九九九年に迎える日本人移住百周年を契機として、両国関係を二十一世紀に向けて更に増進させていく格好の機会を迎えております。この百年間、日本人の移住者及びその子孫は、ペルー国民として、さまざまな分野において地道な努力を積み重ね、ペルーの経済や社会の発展に大きく貢献していますが、それと同時に、両国関係緊密化の大切な仲立ちの役を果たされています。私は、二十一世紀に向けた日本とペルーの間の新たな友好と協力の姿を思い描くとき、両国が、単に国の繁栄を追求するにとどまらず、太平洋を挟んで成長を続けるアジアと中南米との交流を一層拡大し進展させるために、手を携えて貢献してゆけると確信するものであります。

 日本国民は、平和とそれを支える経済成長の大切さを、心の底から理解する国民であります。この意味で、ペルーと我が国は、共通の認識と価値観を有しております。また、閣下は七月二十八日のお生まれ、私は七月二十九日生まれで、ともに獅子座生まれであり、性格的にも似たところがあるように感じられます。平和で繁栄する二十一世紀の国際社会を築いていくという目的は、歴史がこのような二人に与えている使命と考えています。大きな勇気とビジョンをもって、互いに協力して行こうではありませんか。

 貴国は、中南米の中でも経済成長の著しい民主主義国家として、国際社会の敬意と評価を受け、国内にあっては、閣下の政治信念に沿って、大きな構造改革が実施され、新しいペルーが築き上げられつつあります。ここに、フジモリ大統領のご活躍と、貴国のさらなる発展と繁栄を祈念し、また日秘友好協力関係の一層の強化を祈念しつつ、共に盃をあげたいと思います。

 乾杯! サルー!