データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マルルーニー首相歓迎晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 総理大臣官邸
[年月日] 1991年5月28日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,350−352頁.
[備考] 
[全文]

 マルルーニー首相閣下ご夫妻、ようこそ日本にいらっしゃいました。

 今夕は、英語とフランス語の二か国語を公用語とされるカナダの首相をお招きしての晩餐会ですので、私はどちらの言葉でスピーチを行ったら良いか、ずいぶん悩みましたが、結局、中立を保って日本語で喋べらせて頂きます。

 私がマルルーニー首相とお会いするのは、今回が四度目です。一九八九年九月、私が総理就任直後にカナダを訪問した際、貴首相ご夫妻が私たち夫妻を暖かくもてなして下さったことを、なつかしく思い出します。私の貴国に対する親しみが一気に増したのもそのお陰であります。その時の会談においてマルルーニー首相は、今後日本とカナダが二国間の関係を超えて協力していくことがますます重要になると述べられましたが、今正に私たち両国が二国間の枠を超えて、アジア・大平洋という我々両国が属する地域、ひいては世界のために協力するという幅広い関係の強化に向けての機が熟しつつあります。

 冷戦構造が崩れ、湾岸戦争が終わった今世界は、二十一世紀に向け新たな国際秩序の構築へと大きな動きを示しています。しかし、新たな秩序確立に向けての過渡期においては、引続き不安定さと共存していく覚悟が必要であります。その際、自由と民主主義、市場経済原理といった価値観を共有する貴国や我が国が、米国や欧州とともに、その持てる力を持ち寄って、地域的にも世界的にも、又あらゆる分野で協力していくことが重要になってきています。

 本日の私とマルルーニー首相との大変率直かつ有意義な会談における重要なテーマは、アジア・大平洋についてでありました。我が国とカナダは、ともにアジア・大平洋地域の一員であり、この地域における政治的安定と経済的繁栄は、両国にとってかけがえのないものであります。貴首相が一昨年以来、「大平洋二〇〇〇年戦略」と名付けたアジア・大平洋地域との関係強化のための総合的な政策を自ら推進しておられるのも、正にこのような認識によるものであると思います。アジア・大平洋は、それぞれの民族が長い歴史と独自の文化を持つ多様性豊かな地域です。それ故、日本とカナダがこの地域でそれぞれの個性を発揮しつつ協力を進めていけば、地域全体の平和と発展に大きく寄与できると私は確信しております。このような協力も日加のグローバルな関係強化の一つの柱となりましょう。

 昨日、マルルーニー首相と私は、カナダ大使館の素晴らしい新庁舎の落成式に出席しましたが、本日この晩餐会に出席されているレイモンド・モリヤマ氏の設計による、この日加の友好関係を象徴する建造物は、日本との関係強化にかけるカナダ政府の意欲を示すものであります。

 現在の日本とカナダとの関係は、緊密な政治的結び付き、順調な経済関係の発展、更には拡大しつつある文化・青少年交流の上に、極めて良好です。特に貿易関係は従来からの日加関係の基礎を成してきました。日本はカナダにとり二番目の貿易相手国で、カナダは日本にとり十番目の貿易相手国です。往復貿易額は百八十億カナダドルにのぼり、順調に成長してきました。投資面でも、日本からカナダへの直接投資は近年著しく伸びており、カナダに進出している日系企業が自動車等の工業品を生産し、世界に輸出しています。文化・教育交流も拡大しています。例えば、カナダの多くの大学や高校で、日本研究ないし日本語教育が行われており、日本語を学ぶカナダ人は一万人に近いともみられています。在京における最も有能な外交官の一人であるテーラー大使も熱心に日本語を学んでいる学生の一人であると承知しています。日本政府はJET計画の下で年間約三百人のカナダ人青年を日本に招き、日本の高校で英語を教えてもらっていますが、これらのカナダの青年は大変評判が良いと聞いています。しかし、日加関係の歴史が既に百年を越えた今、私は、このような現状に自己満足することなく、両国関係の飛躍的な発展を目指していかなくてはなりません。何故なら私は日加関係の潜在的活力を更に一層くみとって行く余地が大きいと信ずるからであります。

 マルルーニー首相

 日本とカナダとのグローバルな関係を二十一世紀に向かってより総合的かつ包括的に強化することについて、貴方と私は全く一致していると思います。このような観点から、我々は今回の首脳会談において、両国関係のあり方と今後の協力の方向について長期的展望に立った検討を行うため、日加間で初めての「賢人会議」とでもいうべき「日加フォーラム二〇〇〇」を設置することに合意致しました。本フォーラムの日本側座長には大河原良雄日米欧三極委員会日本委員会副委員長に就任頂くこととしておりますし、またカナダ側ではローヒード元アルバータ州首相が座長を努められると聞いております。私は、今後の両国関係の飛躍的な発展に結び付く提言がこのフォーラムより頂けることを確信しております。

 マルルーニー首相

 今後とも貴首相とグローバルな共通の課題に向けて共に取り組んでいけることを期待しております。またその一環として、七月にロンドン・サミットでお会いすることを楽しみにしています。

 ご列席の皆さま

 それでは、皆さまのご健勝、日加関係の更なる発展、そして最後に去る五月二十六日に結婚十八周年を迎えられたばかりのマルルーニー首相ご夫妻のご健勝を祈って、ここに杯を上げたいと存じます。

 乾杯!