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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 在京カナダ大使館新庁舎落成式での海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1991年5月27日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,305−306頁.
[備考] 
[全文]

 マルニーニー首相ご夫妻、高円宮・同妃両殿下並びにご列席の皆さま

 今夕は、栄えあるカナダ大使館の新庁舎「プラス・カナダ」の落成式に妻共々お招き頂き大変光栄に存じます。

 まずは、カナダ政府の関係者がこの素晴らしい新庁舎の建設のために払われたご努力に対し、深甚な敬意を表しますとともに、その完成に対し心からお祝い申し上げます。カナダ政府がこのような立派な大使館を建てられたことは対日関係を更に強化せんとするカナダ政府の熱意と意欲の現われであり、日本政府としてもこのカナダ側の熱意に積極的に応えていかねばならないと私は決意を新たにしている次第です。

 今夕私は建物の素晴らしさとともに二つの事柄に強い印象を受けました。

 先刻私どもはジョン・キムラ・パーカー氏のピアノ演奏に酔いしれましたが、その名演奏に東洋的な繊細なタッチを感じ取ったのは私だけではありますまい。そしてレイモンド・モリヤマ氏の設計にかかるこの建物は時代の先端を行く機能を生かしつつ、カナダと日本の「美」が見事なまでに具現されています。私はここにおられるお二人の著名なカナダ人芸術家が日本人の名を持っておられることに喜びを覚えますとともに、カナダの誇る「多様文化主義」即ちカナダを構成する諸民族が各々の文化と伝統を保持発展させつつ独自のカナダ文化を形成していくという二十一世紀の地球社会の模範ともなるべきユニークな試みが着々と成功しつつあることを眼のあたりにした思いがいたします。

 もう一つはこのホールに見られるごとくカナダ政府がこの新庁舎を既存の大使館の概念を破り、できるだけ日本人との交流の場にしようとしておられる姿勢です。本年の「イヤー・オブ・カナダ」の諸行事をはじめとし、ここで開催される様々なカナダの文化と産業紹介の催しを通じ、より多くの日本人がカナダがもはや美しい自然と豊かな天然資源と「赤毛のアン」だけの国ではないことを知るでしょう。

 この「プラス・カナダ」はそのユニークなデザインによって遠からず東京の新名所の一つになるでしょうが、同時に日本人とカナダ人と出会いと交流の場となることにより、カナダ国民のみならず東京に住む人々にとっても誇りになると信じております。