データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マルルーニー首相主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1989年9月7日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,204−206頁.
[備考] 
[全文]

 マルルーニー首相並びにご列席の皆さま

 本夕ここに、私共一行のためにかくも盛大な晩餐会を開催いただきましたことに対し、心からお礼申し上げます。また、只今は、心暖まる歓迎のお言葉を賜り、誠に感激に耐えません。

 私がこの度、総理就任早々に、貴国を訪れることを希望致しましたのは、今後、国政を進めていく上で貴首相と隔意なき意志の疎通を図り得ることが、大変貴重と考えたからに他なりません。

 貴首相は過去五年、この美しく素晴らしい国の指導者として、カナダ国民の先頭に立ってこられました。この間、英知と勇気を持って多くの挑戦と困難を克服してこられました。米加自由貿易協定を敢然と推進されたことがカナダ国民から高く評価されました。また国際場裡において、就中過去五回のサミットにおいて、いかんなくその手腕を発揮されてきました。

 一か月の期間は、私の実績を語るには余りにも短すぎます。政治家としての実績を語るのは、次の機会にゆずるとして、今夕は、国の施策の舵取りに誤りなきよう最善を尽くすとの決意を明らかにしたく思う次第です。

 私が政治において理想とするのは、より公正で人間性豊かな社会の実現であり、そのため私は、我が国の政治改革を進め、更には国民の生活の質を高めるための改革を進めていくことが緊要と考えております。そして、外に向かっては、国際社会の責任ある一員として、国際協調の実をあげることに力をそそぎたいと考えております。カナダは日本にとって、国際協調を進める上での自然なパートナーであります。日加両国は、ともに自由と民主主義を信奉し、自由で開放的な経済体制を守る決意を有し、そして、公正で平和な国際社会を築くための努力において共通の目的を有しております。そして、両国間には、百年を超える交流の歴史が存在しています。日加両国が外交関係を樹立したのが丁度六十年前であります。日本においては、六十歳になりますと「還暦」といって人がこの世に生を得てから六十歳までの「第一の人生」をつつがなく終え、「第二の人生」へ踏み出す出発点としてお祝いをする習慣があります。私は、日加関係の「還暦」にあたる一九八九年を境として、日加関係の第二の人生をスタートさせ二十一世紀へ向けての新たな日加協力関係を構築していきたく、今夕、ここにご列席の皆さまのご支持を得たく存じます。

 本日、私はマルルーニー首相と会談を行い、政治、経済、文化の種々の分野における濃密な関係を更に一層進めていくことで意見の一致をみました。また、東西関係、ウルグアイ・ラウンド、環境問題、累積債務問題など多くの重要な問題に共通の関心を有する日加両国が、協力を強化し、パートナーとしての関係を育んでいくことを確認致しました。私共は、ともにアジア・太平洋地域に多大の関心を有しております。この地域はダイナミズムに富んでおります。一九六〇年代に日本を含むアジアの国々のGNPは世界の一〇パーセントにも満たなかったものが、今世紀にはこれが二〇パーセントを超えるとの予測もあります。アジア・太平洋地域の政治的安定と経済的繁栄は、世界の平和と経済的繁栄にとっても極めて重要であります。この地域のダイナミズムと安定を確保していく上で日加両国の協力は今後一層重要になってくるものと確信しております。

 最近の喜ぶべきことの一つは、両国の青少年の交流が活発化していることであります。我が国は、このような人的交流による相互理解を促進・強化していくとの立場から、語学指導を行う青年を日本に招聘するJETプログラムという計画を実施しております。この計画に基づき、現在二百九十名のカナダの青年が日本各地で活躍し、日本の社会、日本の生活を直接体験しております。また一九八三年に発足したワーキング・ホリデー制度の下で、発足以来カナダ人約一千三百人、日本人約二千二百人が各々日本、カナダを訪れております。このような生活体験を通じ、友情が生まれ、その輪が両国において広がっていくことに大きな期待を寄せております。

 首相閣下

 貴首相は過去一度訪日されました。貴首相は過去三代の日本の総理と親交のあった知日派であります。貴首相と共通の課題をたずさえて取り組んでいくことを楽しみにしております。

 ご列席の皆さま

 それでは、マルルーニー首相、及びご列席の皆さまのご健康、カナダの繁栄、そして日加両国の末永い協力を祈って、ここに杯を挙げたいと存じます。