データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フィゲイレード=ブラジル大統領の訪日に際しての日本とブラジルの共同新聞発表

[場所] 
[年月日] 1984年5月27日
[出典] 外交青書29号,466ー470頁.
[備考] 
[全文]

1)ブラジル連邦共和国大統領ジョアン・フィゲイレード閣下及び同令夫人は,日本国政府の国賓として1984年5月23日から27日まで日本国を訪問した。

 大統領にはラミロ・サライヴァ・ゲレイロ外務大臣,ネストル・ジョスト農務大臣,ルーベン・カルロス・ルードヴィック大統領府武官長,アントニオ・デルフィン・ネット企画庁長官の他,ブラジル連邦共和国政府の多数の高官が随行した。

2)ブラジル連邦共和国フィゲイレード大統領夫妻は,5月24日,日本国天皇陛下と会見し,また,同日陛下御主催の宮中晩餐会に出席した。

3)フィゲイレード大統領と中曽根総理大臣は,5月24日友好的かつ親密な雰囲気の中で会談した。大統領と総理大臣は双方が関心を有する国際政治経済問題につき意見を交換し,特にラテン・アメリカ及びアジアにおける情勢につき大きな関心を払った。また,両首脳は日伯両国関係の現状と将来につき検討し,今回の大統領の訪日により両国間の伝統的友好協力関係が一層強化されたことに満足の意をもって留意した。

 ブラジル大統領の滞日中,大統領に随行したゲレイロ外務大臣は安倍外務大臣と会談し,有益なる意見交換を行った。また他のブラジル閣僚もそれぞれ日本側閣僚と個別に会談し有益なる意見交換を行った。

4)依然として緊張状態が続いている中米情勢につき,両首脳はコンタドーラ・グループ諸国を中心とする域内諸国による問題の平和的解決の努力を高く評価し,域外の諸国はこれを支持するべきであると認識した。

5)両首脳は,国際連合が諸国家の行動を調和し,国際の平和と安全を確保する上で果たしている役割を評価するとともに,国際連合の諸機関において従来から維持されている両国間の緊密な協力を今後更に強化する意向を表明した。

 両首脳は,軍備競争が依然拡大する傾向にあり,米ソ間の二つの核軍縮交渉たるINF交渉及びSTART交渉が無期限休会のままであることに強い懸念を表明するとともに,出来る限り早期にこれら交渉が再開されるよう強い希望を表明した。また両首脳は,有効な国際管理の下での包括的軍縮の促進のため両国が引き続き努力を払う決意を表明した。

6)両首脳は,開発途上国,特にラテン・アメリカ諸国の債務累積問題が,これら諸国の経済的社会的発展を阻害し,これら諸国の国民に著しい困難を強いているのみならず,国際金融・貿易取引の円滑な継続をも妨げていることを憂慮の念をもって留意した。大統領は,1984年1月ラテン・アメリカ経済会議において採択された「キト宣言」に言及しつつ,6月にロンドンで開催が予定されている主要国首脳会議が,開発途上国,特にラテン・アメリカ諸国の直面する諸困難に十分な配慮を払い,問題の早期解決を図るようにとの期待を表明した。それに関連し,大統領は,開発途上国の債務負担を絶え間なく増大させこれらの国の調整努力の成果を減殺する一部の先進国における高金利の重大な影響を強調した。大統領は,本年5月19日にアルゼンティン,ブラジル,コロンビア及びメキシコの大統領によりこの問題に関し採択された宣言に言及した。総理はこれらの大統領発言に留意しつつロンドン主要国首脳会議に参加する旨述べるとともに,債務国側が健全な経済運営を確保するよう引続き努力すること,また,債権国側と債務国側が相互に協力すること,更に,「南」と「北」の双方が両者の間の相互依存関係の存在を認識して夫々の立場を調和せしめることが,問題の早期解決のために肝要である旨指摘した。

 両首脳は,国際貿易が直面している現在の諸困難を克服するため,世界貿易における保護主義を巻き返すことの必要性を強調し,更に,貿易政策面において開発途上国の特別の事情に配慮が払われるべきであるとの信念を再確認した。両首脳は,開放された多角的貿易体制を一層発展させるため,今や最大限の努力を集中すべき時である旨述べた。かかる見地より総理大臣は,多角的貿易交渉の新ラウンドのための準備を促進することが肝要であるとの見解を説明した。かかる観点から,大統領と総理大臣は,ガット作業計画の実施の重要性につき意見の一致を見た。大統領は開発途上国が特別な関心を有する事項を含む同作業計画の分野には特別の配慮が払われるべき旨述べ,またガット加盟国たる開発途上諸国により最近提示された立場へのブラジルの支持を再確認した。更に,大統領は,ブラジル側がこれら諸点について引続き意見交換を行う用意がある旨述べた。

7)両首脳は,日・ブラジル両国間の伝統的友好関係が近年益々増進されつつあり,両国政府間及び両国国民間における交流が多様化し広範な分野に及んでいることに満足の意を表明した。両首脳は,特に国際政治経済問題及び二国間関係につき両国政府間の各種のレベルにおいて頻繁に協議が行われてきたことは双方にとり極めて有意義であったことに留意し,かかる協議により両国間の協力及び相互理解が強化されるべきことにつき共通の認識に達した。

8)両首脳は,ウジミナス製鉄所,ツバロン製鉄所,アルブラス・アルノルテ・アルミ精錬及びセニブラ・フロニブラ・プロジェクト等の日伯間大型プロジェクト及び日本からの融資を得て進められているカラジャス鉄鉱山開発等のプロジェクトの進捗状況について意見を交換した。両首脳は,両国関係機関の協力を得て最近ツバロン製鉄所が成功裡に操業を開始したことに満足の意をもって留意した。

 大統領は,ブラジル政府がこれらのプロジェクトのために引続き全面的支持を与える旨述べた。大統領は,パラー州ベレン近郊におけるアルブラス・アルノルテ・プロジェクトに関し,第一段階が1985年に操業開始の予定であり,同年中に第二段階が予定通り着工される旨説明した。また,大統領は,日本からの融資を得て進められているカラジャス鉄鉱山開発計画に言及し,同計画がカラジャス地域の総合開発を促進することが見込まれる旨指摘した。大統領は,大カラジャス計画に最高の重要性を付与している旨述べた。両首脳はこれに関連して,同総合開発に関する基礎調査の面で日本の技術協力が果たしている重要な役割を想起した。

 両首脳は,両国を隔てる長い距離に鑑み,ブラジルを中心とする南米諸国の一次産品及び食糧の東アジア地域への輸送力を飛躍的に拡充し,輸送コストを引下げる,いわゆる「アジア・ポート」構想につき意見を交換し,引続き同構想に関し,日伯間で必要な調査を実施するために緊密な協議を継続する意向を確認した。

9)農業分野における協力に関し,両首脳は,ブラジル中西部の広大なるセラード地帯における農業開発協力計画の試験的プロジェクト(PRODECER)が,両国政府,関係機関及び民間の協力により多大なる成果をおさめたことに満足の意を表明した。大統領は,セラード開発の第一段階の実施のため供与された日本の協力を高く評価した。

 協力計画の拡大(PRODECER II)に関し,総理大臣は15万ヘクタールを上限とする規模での拡大計画の実施に必要と見込まれる総事業費約700億円を日伯間で折半することを提案し,また,日本政府は,民間銀行より所要の融資が実施されることを前提として,日本のしかるべき機関より279億円までの融資が行われるよう所要の措置をとる用意がある旨述べた。大統領はブラジル政府にあっても本事業の円滑な実施を確保するため所要の措置をとる旨述べた。

 両首脳は,灌漑計画(PROFIR)に対する120億円の融資契約に関する交渉が最終段階にあることに満足の意をもって留意した。

10)両首脳は,両国の利益のために,両国間貿易を維持・拡大しまた多角化することの重要性につき共通の認識に達した。両首脳は,両国間貿易の量に関し,両国間の輸出及び輸入を増大する努力が払われるべきことに留意し,また,貿易の構造に関しては,ブラジルの対日輸出に占める製品の比率が増大していることに留意しつつ,かかる傾向を促進するよう努力すべき旨確認した。

 大統領は,ブラジルが他の開発途上国とともに直面している債務問題を含む経済的諸困難及びブラジルの政府及び国民によるこれら諸困難克服のための努力につき説明した。また,大統領は,これらの諸困難は,未曾有の利子率上昇など,ブラジルの手の及ばない要因によるところも大である旨指摘した。

 大統領は,日本の民間銀行がブラジルに対して与えた支援及びパリ・クラブの枠内において日本政府がとることとしている債務救済措置に対し謝意を表明した。

 総理大臣は,日本政府が諸般の事情,特に二国間の伝統的友好関係を考慮し,ブラジルに対し約1億ドルを上限とする輸出信用を供与する用意がある旨述べた。

 また,総理大臣はかかる輸出信用,セラード農業開発協力事業拡大計画のための約1億2千万ドルの融資,潅漑計画(PROFIR)のための約5千万ドルの円借款等の融資の合計額は,パリ・クラブ債務救済措置の金額を加えれば7億ドルを大幅に超える旨説明した。大統領は深い満足をもって右説明に留意した。

 日本側は,これらの新規融資及び既存の融資の双方の返済を確保するため,ブラジル政府により適切な配慮が払われるべき旨強調した。

11)両首脳は,広範な分野における両国間の高い水準の技術協力が着実に進展していることに満足の意を表明した。両首脳は,主要なプロジェクトのうちペルナンブコ大学において免疫病理学に関する協力プロジェクトが最近開始されたこと及びエスピリト・サント州の職業訓練センターに対する協力の話し合いが進められていることに留意した。両首脳は,両国間の技術協力を引続き積極的に推進していくとの決意を表明した。

12)両首脳は,科学技術分野における両国間の協力が着実に進んでいることに満足の意を表明した。また両首脳は,大統領の滞在中,かかる分野における活動の拡充のための制度的枠組を提供する科学技術協力協定が署名されたことを歓迎した。

 大統領は,ブラジル政府が,日本政府の招請に応じ,1985年3月より日本の筑波研究学園都市にて開催される国際科学技術博覧会へ正式に参加する意向である旨表明し,総理大臣はこれを歓迎した。

 両首脳は両国の科学者の発意により数次にわたり科学シンポジウムが開催されてきておりかかるシンポジウムが両国の科学分野における交流の促進に大きく貢献していることに鑑み,84年8月に予定されている日伯科学技術シンポジウムの成功のため所要の措置を講ずるとの希望を表明した。

13)両国間の相互理解を深めるため観光が重要であることに鑑み,両首脳は航空運送能力を増大し,営業割引運賃を設定することが望ましいことにつき共通の認識に到達した。

14)両首脳は,両国間にて青年の各種交流計画が充実しつつあることに満足の意を表明した。総理大臣は将来の両国間及び両国民間における結びつきを一層緊密にするため,将来を担う100名の青年指導者層の交流を行うことを提案し、日本側は政府と経済界の協力により1984年中に50名の伯国の青年指導者を受け入れる用意がある旨述べた。大統領は,右提案を歓迎し,伯政府としても日本の青年指導者を受け入れる用意がある旨述べた。

15)両首脳は,両国間の文化交流を更に促進し,近々双方の国において重要な文化行事を開催したいとの意向を表明した。

16)大統領は,ブラジルは今世紀の4分の3の期間にわたり日本人移住者を受け入れてきた国であり,また,日本人移住者はそのブラジルにおける子孫とともにブラジルの開発のために重要な貢献を行ったことを想起した。総理大臣は,この大統領の発言に深い満足の意をもって留意した。両首脳は,両国間の人的交流が今後一層増大することを希望する旨表明した。

17)両首脳は,両国間の経済交流を促進する上で両国の経済界が大きな役割を果たしていることを高く評価し,また,近年,双方の経済界の協力関係が深まり大統領訪日の機会に第3回日伯経済合同委員会が開催の運びとなったことに満足の意をもって留意した。

18)大統領は総理大臣に対しブラジルを訪問するよう招請した。この招請は感謝の念をもって受諾された。

19)大統領は,日本訪問中に大統領及び夫人並びに随員一行が天皇陛下,日本国政府及び日本国民より受けた厚遇に感謝の念を表明した。