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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 鈴木内閣総理大臣のブラジル連邦共和国公式訪問に際しての共同プレス・リリース

[場所] ブラジリア
[年月日] 1982年6月15日
[出典] 外交青書27号,449ー452頁.
[備考] 
[全文]

1.鈴木善幸日本国総理大臣は,ジョアン・フィゲイレード・ブラジル連邦共和国大統領の招待により,ブラジルを公式訪問した。鈴木総理大臣は,1982年6月12日から14日までサンパウロ及びリオ・デ・ジャネイロに滞在した後,14日から15日までブラジリアを訪問した。

2.総理大臣と大統領は,親密かつ友好的な雰囲気の中で,国際情勢及び日伯両国関係について意見交換を行った。

3.総理大臣と大統領は,総理大臣の訪問により,日本とブラジルとの間に存在する相互理解の関係が改めて確認され,伝統的に存在する両国間の友好関係が一層強化されたことに深い満足の意を表した。

 総理大臣と大統領は,広範な国際問題に関し同様の見解を有することに満足の意をもって留意した。両首脳は,地域的及び世界的領域で両国により果たされるべき役割が増大していることを認めた。この意味において,両国は,可能な限り広範な国際連帯を意図した開放的かつ建設的な対話を基礎に,今後とも各々の対外政策を遂行することとした。

4.総理大臣と大統領は,最近開催されたヴェルサイユ・サミットの結果につき検討を行い,世界経済の再活性化及び南北関係につき意見交換を行った。両首脳は発展途上国の経済の強化が国際経済体制の危機及び不安定を回避するため不可欠であるとの共通の信念を表明した。このため,両国は真に安定した世界秩序の永続的な基礎として南北対話の効果的発展を求め今後とも建設的な努力を行うことにした。

5.総理大臣と大統領は,両国政府の平和に対する献身,並びに世界の平和及び反映のため,それぞれの立場から今後とも協力するとの決意を再確認した。

 この関連で,両首脳は国際連合憲章の目的及び原則を支持し,諸国家の行動を調和し国際の平和と安全の維持のため果たしている国際連合の役割を支持することを再確認した。

 総理大臣と大統領は,国際連合の諸機関における協力を今後も維持強化する意向である旨述べた。

6.総理大臣と大統領は,国際情勢における最近の発展及び軍備競争,特に核兵器の競争再発に対し懸念を表明した。両首脳は,軍縮に関し意見交換を行い,ニューヨークで開催されている第2回国連軍縮特別総会が実り多い成果を生むよう最善の努力を払う考えであると述べた。

7.総理大臣と大統領は,伝統的な友好関係の基礎の上で両国関係が飛躍的に発展した事実に満足の意を表明した。この広範な分野に及びますます多様化している関係は互恵の原則に基礎を置くものである。両国政府は,両国間及び,両国民間における緊蜜な結びつきをさらに堅固なものにすることを決意した。国際政治,世界経済及び二国間問題に関連する幅広い諸問題につき,両国政府間のあらゆるレベルにおいて頻繁に協議を行ってきたことは,双方にとり大変有意義であった。総理大臣と大統領は,1976年及び1979年8月と2度にわたり開催された日伯閣僚議会の実り多い成果を想起した。両首脳は,活発な要人往来の促進により,相互理解及び二国間協力を強化すべきであることにつき意見の一致を見た。

8.総理大臣と大統領は,両国間の経済協力の順調な進展を満足の意をもって留意し,多様化の傾向を確実なものにするため今後とも所要の措置がとられるべきことにつき,意見の一致をみた。両首脳は,ブラジルに対する日本の資金の流れのもつ重要性につき合意した。この関連で,

総理大臣は,日本の対外投融資においてブラジルは最大の受入先である旨を指摘した。

 また,両首脳は,ブラジル政府の最優先プロジェクトの一つであるカラジャス鉄鋼山開発プロジェクトに対し,日本側関係者から5億ドルの融資が行われることになったことに満足の意をもって留意した。

9.総理大臣と大統領は,ウジミナス製鉄所,ツバロン製鉄所,アマゾン・アルミ製錬等多くの進行中の日伯間大型協力プロジェクトの進捗状況について意見を交換した。両首脳は,これらのプロジェクトの計画通りの進捗が,両国間に存在する相互信頼を更に一層強化するものであることを確認した。両首脳はまた,これらのプロジェクトが円滑かつ成功裡に進歩するよう引き続き日伯双方がしかるべき配慮を払っていくことに合意した。

10.総理大臣と大統領は,ブラジルのセラード地帯における農業開発協力計画の試験的事業が,両国官民の強調と努力の下に,順調に進捗し,所期の成果を達しつつあることに満足の意を表明した。大統領は,セラード農業開発に対する日本側の協力を高く評価するとともに,この協力事業を更に拡大して実施したいとの希望を表明した。総理大臣は,去る5月になされたブラジル側の要請に対しては,日本としてもできる限りの努力を行っていきたいとの意向を表明するとともに,日本側の具体的な協力の在り方については,このためのブラジル側計画の詳細を承知した上で,かつ,本年7月に日伯合同で行なわれる予定の試験的事業についての評価を踏まえ,十分検討したい旨述べた。

 また,総理大臣は,セラード地帯における生産力向上のための灌漑計画に対し120億2,100万円までの円借款が供与されるよう所要の措置をとる意図がある旨述べた。

11.総理大臣と大統領は,両国間の技術協力関係が順調に進展していることに満足の意をもって留意した。ブラジルは,その実績においてこの分野の日本の最も重要なパートナーの一つとなっており,日伯間の技術協力プログラムにおいてブラジルの受入機関に移転される技術は高い水準に達している。現在,免疫病理学に関するプロジェクト等の新たな協力プロジェクト及びその他の双方に関心のある分野における提案が検討されている。総理大臣と大統領は,両国間の技術協力を引き続き積極的に推進していくとの決意を表明した。

12.総理大臣と大統領は,両国間貿易が拡大するとともにブラジルの製品輸出が急速に増大することを満足の意をもって留意し,かかる傾向が今後とも継続するよう両国において努力するべきであることを確認した。両首脳は,国際貿易が直面している現在の困難を克服するために,世界貿易における保護主義的傾向の増大を防圧することの必要性を強調し,貿易政策面において開発途上国の特段のニーズが考慮されるべきことを強調した。さらに総理大臣は,各国が開放・多角的貿易体制を維持するために強固な意思を示すことの必要性を強調して,自由貿易原則に基づいた世界貿易の拡大のため日本が採ってきている措置につき説明し,ブラジルがその主要な受益国の一つである一般特恵関税制度にも言及した。大統領は,ブラジルが国際貿易の発展のためその有する経済力にふさわしい寄与をなすべき必要性を強調した。

13.総理大臣と大統領は,科学技術の分野における協力が両国関係においてますます大きな地位を占めることを期待し,両国間でかかる分野の協力を今後一層進めることに意見の一致をみた。総理大臣は,ブラジル側の要請に応じ,科学技術協力協定を締結するための交渉を進める用意がある旨表明し,大統領はかかる日本側の意向を歓迎する旨述べた。

14.総理大臣と大統領は,既に活発となっている両国間の文化交流及び学術交流をさらに促進する意向を表明した。この関連で,総理大臣は,ブラジルにおいて日本の関係機関を通ずる日本研究振興のための協力を強化したいとの意向を表明した。大統領はかかる発意を歓迎するとともに,日本においてもブラジル研究が振興されることが望ましい旨指摘した。

15.大統領は,ブラジルは最大の日本人移住者の受入国であり,また,日本人移住者はそのブラジルにおける子孫と共にブラジルの開発のために重要な寄与を行った事実を想起した。総理大臣は,この大統領の発言を深い満足の意をもって留意した。両首脳は,両国間の人的交流が今後一層増大することを希望する旨表明した。

16.総理大臣は,大統領に対し,双方にとり都合の良い時期に日本を公式訪問するよう招請し,大統領はこの招請を受諾した。

 総理大臣は,ブラジル滞在中に総理大臣及び随員一行が受けた友情に満ちた温かいもてなしに対し,衷心より感謝の意を表した。