データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フィゲイレード大統領主催晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] ブラジリア
[年月日] 1982年6月14日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,219−221頁.
[備考] 
[全文]

 フィゲイレード大統領閣下

 御列席の皆様

 本日は、私ども一行のためにこのように盛大な晩餐会を催して頂き、又、只今は大統領閣下より暖かい歓迎のお言葉を頂戴して感激いたしております。

 この度、貴大統領閣下の御招待により念願の訪伯が実現し、サンパウロ、リオと貴国を代表する都市を歴訪したあと、本日ここブラジリアを訪れ、近代的都市計画による新首都の造成という歴史的偉業の成果を目のあたりにできたことは、私の大きな喜びとするところであります。また、それ以上に大きな喜びは、フィゲイレード大統領閣下に親しくお目にかかり、率直で有益なお話し合いができたことでありました。私は、この三日間の貴国滞在を通じ、溢れるばかりの活力と豊かな人間性に充ちた貴国社会の発展ぶりに強い感銘を受けております。

 大統領閣下

 私は、貴国訪問に先立ち、ヴェルサイユでの首脳会議と国連軍縮特別総会に出席する機会を得ました。ヴェルサイユにおいては、参加国首脳の間で、現下の国際社会の直面する諸困難を乗りきるため連帯と協調の精神に基づき、一致して世界経済の再活性化に取り組む姿勢を打ち出すことに努めました。

 特に現在の厳しい経済情勢の下で、自由貿易体制を維持しつつ世界経済の再活性化を図るという重要な課題については、今後とも日本として適切な貢献を行っていく所存である旨を明らかにいたしました。

 また、国連においては、日本は平和憲法の下で軍事大国とはならず、その持てる力を世界の平和と繁栄のために用いるという基本方針を堅持していることを明らかにいたしました。さらに、核の廃絶を含めた全面完全軍縮を究極の目標としつつ、核実験の全面禁止、核不拡散体制の強化及び化学兵器禁止等の具体的な軍縮措置の促進を訴えるとともに、軍縮によって生じた余力を開発途上国への協力及び世界経済の発展に向けて行くよう主張いたしました。

 大統領閣下

 我が国は自由と民主主義という我が国がよって立つ基本的価値を守るとともに、安全で豊かな国民生活を確保することをその外交の使命とし目標といたしております。もとより、このような目標は、相互依存関係を深めつつある現在の世界にあっては、国際社会全体の平和と発展の中ではじめて可能となるものであります。ヴェルサイユおよびニューヨークにおける私の主張も、まさにこのような認識に基づくものでありましたが、我が国は中南米地域との関係でも、相互依存関係を深め、連帯を強めることを基本方針といたしております。

 なお私はこの際、そのような中南米地域との外交を進めるにあたり、我が国としては常に一貫性と継続性を重視するものであることを申し上げておきたいと思います。すなわち、我が国は、その時々の情勢の変化に左右されることなく、中南米諸国のそれぞれとの伝統的友好関係を維持し、発展させるよう努めているということであります。それは、一貫した継続的な政策こそが、相互信頼と永続的な友好の基礎であると信ずるからであります。

 大統領閣下

 日伯協力関係は、我が国と中南米諸国との友好関係の中でも、最も代表的であり、その相互信頼関係は最も強固なものであります。両国は、地理的には遠隔ではありますが、友好関係の歴史は古く、当初は日本人の対ブラジル移住を中心に、近年は貿易・経済関係を中心に、めざましい発展を遂げております。私は多数の邦人並びに日系人が、貴国社会に暖かく迎え入れられ、活躍の場を与えられていることを感謝するとともに、この人達が良きブラジル市民として貴国の繁栄と発展に貢献していることを誇りとするものであります。

 さらに、現在では両国の持てる人的・物的資源を結合して、多数の大型プロジェクトが進行し、カラジャス計画あるいはセラード農業開発計画のような新しい協力計画も、その緒につきつつあります。とりわけ貴大統領閣下の進めておられるセラード開発計画は、食糧問題が人類の直面する最も深刻な問題の一つとなっている現在の世界において貴国の経済開発に寄与するばかりでなく、世界的課題に対するひとつの解答としても、まことに意義深いものと考えます。我が国としては、今後とも、この壮大な事業に可能な限りの協力を行っていく所存であります。

 大統領閣下

 今日、両国の協力関係は、経済・貿易の分野を越えて、政治・文化その他広範な分野に広がりを見せつつあります。私は、このような状況を歓迎するとともに、今後一層の努力を重ねて、新たな次元での協力と信頼関係を構築したいと望んでおります。

 新たな日伯関係は、今後ともより深い相互理解とより強固な信頼の基礎の上に立つべきものであります。そのためには、文化・学術面での協力、人物交流をますます活発に進めなければなりません。特に、科学技術、学術等の分野での協力を促進することは、今後の日伯関係をいわば質的に高めるためにも重要であります。その意味で私は、科学技術協力協定を両国間で締結する必要につき、今回大統領閣下と意見の一致を見ましたことを喜んでおります。

 大統領閣下

 貴国が貴大統領の卓越した御指導の下に、目覚しい経済開発を進められていること、更にその国力の充実を背景に国際場裡において積極的役割を演じられ、世界の平和と繁栄に貢献しておられることに深い敬意を表します。私は、すでに輝かしい協力の実績を有する日伯両国関係が、今後とも一層の発展を見るよう祈念しつつ、貴国の一層の繁栄と大統領閣下の御健康のために、皆様と乾杯いたしたいと存じます。