データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大平日本国総理大臣とロペス・ポルティーリョ=メキシコ合衆国大統領との共同コミュニケ

[場所] メキシコ市
[年月日] 1980年5月3日
[出典] 外交青書25号,420−424頁.
[備考] 
[全文]

1.大平正芳日本国総理大臣及び同令夫人は,ホセ・ロペス・ポルティーリョ=メキシコ合衆国大統領の招待により,1980年5月1日から4日までメキシコ合衆国を公式訪問した。総理大臣は,到着に際し,エンリケ・オリバレス・サンタナ内務大臣及びホルヘ・カスタニェーダ外務大臣の出迎えを受けた。

 メキシコ滞在中大平総理大臣は2度にわたりメキシコ合衆国大統領と会見した。同会見には,日本側より大来佐武郎外務大臣,加藤紘一内閣官房副長官,松永信雄駐メキシコ大使及び日本政府関係者が出席し,メキシコ側より,ホルヘ・カスタニェーダ外務大臣,ホセ・アンドレス・オテイサ国有財産・工業振興大臣,ホルヘ・ディアス・セラーノ=メキシコ石油公社総裁,アルフォンソ・ローセンツアイク・ディアス外務次官,ホルヘ・エドゥアルド・ナバレーテ外務次官,ローサ・ルス・アレグリア予算企画次官,フランシスコ・ハビエル・アレホ駐日メキシコ大使及びメキシコ政府関係者が出席した。

 総理大臣は,また,カルロス・ハンク・ゴンザレス連邦区長官よりメキシコ市の名誉市民である旨宣言された。

2.総理大臣と大統領は,国際情勢に関する諸問題及び2国間関係につき,極めて友好的な雰囲気の下に会談した。

 両首脳は,日墨関係の進展及び多様化につき満足の意を表明するとともに,互恵的な行動を促す広い視野の下に,両国関係を強化かつ豊かにするために今後とも努力する意向を確認した。

3.総理大臣と大統領は,世界の平和と安定を構築するため最大限の努力を行うことは,すべての国家にとって至上の義務であることにつき意見の一致をみた。両首脳は,更に,すべての国の平和と繁栄を共に探求するために多国間の場における協力関係を推進して行くことにつき意見の一致をみた。

4.両首脳は,国際粉争の平和的解決の重要性を強調しつつ,アジア,中南米情勢を中心に現下の国際情勢に関する検討を行い,東南アジア,イラン及びアフガニスタンにおける事態の展開がもたらした世界の平和と安定に対する脅威に強い懸念を表明した。両首脳は,また,より多くの中南米諸国の間で民主的政治制度が確立されつつあることに満足の意をもって留意するとともに,各国が置かれた個別事情に考慮を払いつつ,かかる民主化の過程が継続することを希望する旨表明した。中米及びカリブ諸国の情勢に関し,両首脳はこれら諸国の国民の自由な意思に基づき,待望されている安定が早期に達成されることを希望する旨表明した。

5.両首脳は,国際連合が国際平和と安定の維持及び開発のための国際協力を多角化し,より効率化するために果している役割を高く評価するとともに,国際連合を強化するための努力を今後とも継続することの重要性につき意見の一致をみた。

6.両首脳は,現実的軍縮措置を漸次積み重ねて行くことが恒久的な世界平和の達成に大きく貢献するとの認識で一致し,両国政府が各国の安全保障に留意しつつ,その促進に最善の努力を払って行く考えである旨明らかにした。

 両首脳は,更に,ラテン・アメリカにおける核兵器の禁止に関する条約が完全な有効性を有しつつあることの重要性につき共通の認識を表明した。

7.総理大臣と大統領は,世界経済の現状を検討するとともに,特に国際連合における多国間経済交渉の努力につきレヴューし,国際経済の動きの中に保護主義等の懸念すべき要素が存在する旨指摘した。

 両首脳は,80年代の新国際開発戦略並びに一次産品,エネルギー,貿易,開発及び通貨,金融に関するグローバル・ネゴシエーションの開始につき意見交換を行い,同交渉がすべての国に対し,成果をもたらすよう努力するとの意向を表明した。

 両首脳は,開発途上国の十分な工業化及び経済の多角化を達成し,これらの国の輸出所得のより一層の安定,過重な対外不均衡の軽減,世界貿易へのより一層のアクセス及び対外累積債務の軽減を図るため,これら開発途上国の必要を考慮に入れた2国間及び多国間の努力によって継続されるべきであるとの点につき意見の一致をみた。

 大統領は,東京ラウンド交渉妥結のため日本が払ってきた努力を評価した。

 総理大臣は,東京ラウンド合意の実施により世界貿易の拡大及び開放化が促進され,開発途上国の貿易にとっても大きな利益がもたらされることを確信する旨表明した。また,大統領は,現行の国際通貨制度を時代の要請,特に開発途上国の要請に適応させることの必要性を強調し,この点に関し,1979年ベオグラードにおいて開発途上国より提示された国際通貨改革案を支持する旨改めて説明した。

8.両首脳は,エネルギーの国際市場の情勢を検討し,石油資源の過度の使用を基礎とした世界経済構造から,新規及び再生可能エネルギー源の重要性が増大する構造への移行がみられることに留意した。この複雑な移行の過程においては,協調的な国際行動を必要とし,また国内においてはすべての国が適切なエネルギー政策を採ることを必要とする。

 かかる関連において総理大臣は,昨年9月の第34回国連総会においてロペス・ポルティーリョ大統領が提唱した「世界エネルギー計画」は極めて時宜を得たものであると賞賛した。同計画は,すべての者に利益を及ぼし,かつ参加を求めるものであり,すべての既存のエネルギー並びに新規及び再生可能なエネルギーを対象とし,あらゆる方法によるエネルギーの消費の合理化,あらゆるエネルギー,就中,非涸渇エネルギーの保有を増大かつ多様化するとともに,非産油開発途上国の極めて深刻な状況に効果的に対処し得る適切な金融及び技術のメカニズムを探求するための措置をとることを提案している。

 総理大臣と大統領は,メキシコ大統領によって提唱された計画の採択にむけての検討及び同計画と密接に関連する国際経済協力に関するその他の重要な問題解決のための国際連合における検討が今後とも前進することへの希望を表明した。

9.総理大臣と大統領は,貿易,経済,科学技術,文化等広範な分野にわたる日墨両国関係の現状と今後の展望につき詳細な検討を行い,両国関係が伝統的な友好協力関係の下に近年とみに緊密化かつ多様化していることに祝意を表明した。

 両首脳は,80年代における新しい時代をめざした互恵を基盤とし,広範な枠組の中における高次元の日墨協力関係を構築して行く決意を表明した。

 両首脳は,1978年11月のロペス・ポルティーリョ大統領の訪日並びに今回の大平総理大臣の訪墨は,長期的かつ広範な視野の下での両国間の協力関係を樹立するための基本的なステップであることに意見の一致をみた。

10.総理大臣と大統領は,両国間の経済関係に占める貿易の重要性に鑑み,今後とも均衡のとれた通商関係の増大,多様化を図るべく,相互に一層の努力をすることに意見の一致をみた。

 両首脳は,この意味で本年5月メキシコ市において「日本機械・技術見本市」が,また10月東京において「メキシコ展」が開催される運びとなったことに満足の意を表明した。

11.両首脳は,両国の通商,工業,鉱業及びエネルギー分野における2国間の協力の強化は両国間の経済協力の新たな基本的要素であるとの点で一致した。

 両首脳は,かかる協力の強化という共通の目的に貢献するに当っては,それぞれの国の発展段階を考慮に入れつつ,相互的で均衡がとれ,かつ段階的であるべきとの認識で一致した。

12.総理大臣は,鉄鋼関係の3プロジェクト(シカルツア第2期,鋳鍛造及び大口径管)に関し,誠実に協力して行く意図を表明した。この関連で,両首脳は,資金上の協力を含め,かかる協力の諸態様を決定するために,できるだけ早急に交渉を行うことに合意した。

 総理大臣は,更に広範に工業,鉱業,工業港及び施設の建設,国鉄電化,漁業,観光の分野でのその他のプロジェクトを検討し,共同投資その他の方法により実施するとの日本政府の真剣な意向を表明した。

 両首脳は,双方の関係当局に対し,上記分野での具体的プロジェクトの定義,検討及びその枠組の作成を前向きに継続するよう指示を与えた。

 また,同様の考え方に立って,メキシコ大統領は,全体の協力関係の枠組において,エネルギーの必要性に対し原油の対日輸出によってメキシコ政府として貢献する旨の意思を繰返して述べた。また,大統領は,それは80年末までには10万バーレル/日に達する旨述べた。更に,大統領は,この輸出及びその将来の増量は,2国間の協力の総合的スキームに対するメキシコ側の貢献の中核をなすものであり,従って,その実施は合意されるべき計画にしたがい,上記協力プロジェクトが前進することに伴って行われる旨述べた。

 また,両首脳は,メキシコの輸出力の増大及び多角化のために共同の努力を行うことに意見の一致をみた。

13.総理大臣は,今年から,10万バーレル/日の原油対日供給開始に謝意を表した。総理大臣はこの供給が1982年までに30万バーレル/日まで増化されるようにとの希望と期待を表明した。

 大統領は,石油生産及び輸出の増大はこれがもたらすべき外貨の追加的収入を生産的に吸収する経済能力に応じて決められるとのメキシコの政策を説明した。この関連でメキシコにおいて両国間で共同して行われている開発プロジェクトの推進と実施はかかる吸収能力の増大に貢献するであろうと認識された。この関連で大統領はメキシコ経済の長期的な総合的開発政策の枠内で日本の要請に配慮するとの政治的決意と善意を表明した。

14.両首脳は,日墨間で行われてきた技術協力に満足の意を表明するとともに,現行の計画をレヴューし,かつ強化し,新たな技術協力の分野を探求するために努力を行っていくことにつき合意した。両首脳は,また,両国にとり関心のある分野における人造りを可能とした日墨研修生交流計画に対し今後も改善をはかりつつ支援する用意がある旨表明した。

15.総理大臣と大統領は,文化交流が両国間の真の友好関係の基盤たる両国国民間の相互理解を増進する上で果たす極めて重要な役割を認識するとともに,芸術,学術,スポーツ,その他文化の分野における交流を今後とも促進していく旨確認した。

 総理大臣は,かかる文化交流の諸プロジェクトを助成する目的で,両国が共同で運営していく日墨友好基金がメキシコに設立されるよう100万ドル相当の贈与を行うとの日本政府の意図を表明した。大統領は,同構想の実現は,両国国民の間のより一層の緊密化に寄与する旨満足の意を表明した。

 両首脳は,また,本年4月ロペス・ポルティーリョ大統領夫人が,メキシコ市の管弦楽団の日本公演を機に訪日したことは,両国間の文化交流を促進する上で極めて有意義であったことに意見の一致をみた。更に,両首脳は,両国間の文化協力の一環として近く日本政府よりメキシコ合衆国政府に対し,工科大学等における実験・研究用の機材が供与されることに満足の意をもって言及した。

16.大統領は,東京に本部を置く国連大学の実施してきた活動が開発途上国にとり重要であることに留意し,国連大学の基金に対しメキシコ政府として拠出を行う用意がある旨述べた。

17.大平総理大臣及び同令夫人は,今次訪墨に際しメキシコ政府より受けた厚遇及び同国国民により示された友愛の情に対し深甚なる感謝の意を表明した。