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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大平日本国総理大臣とアリスティデス・ロヨ=パナマ共和国大統領との共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1980年3月26日
[出典] 外交青書25号,415−418頁.
[備考] 
[全文]

1.パナマ共和国アリスティデス・ロヨ大統領閣下及びアデラ・デ・ロヨ同令夫人は,日本国政府の招待により,1980年3月23日から28日まで国賓として日本国を公式訪問した。

 同大統領には,ブラス・セリス国会議長,カルロス・オソーレス外務大臣,エルネスト・ペレス・バリャダレス大蔵大臣,ファン・J・アマード商工大臣,アルベルト・カルボ本邦駐箚特命全権大使,エリ・アッボ大統領顧問,エドウィン・ファブレガ電力公社総裁,エドゥアルド・モルガン特派大使,ルイス・アリエタ大統領府儀典長兼外務省儀典長及びその他のパナマ政府高官が随行した。また,ルイス・H・モレーノ氏およびその他の実業界の要人が,大統領に同行した。

2.大統領閣下及び同令夫人は3月24日皇居において天皇皇后両陛下と会見した。

3.総理大臣と大統領は国際問題及び両国間関係につき極めて友好的かつ建設的な雰囲気の下に2度にわたり会談した。

4.両首脳は,現下の国際情勢に照らし,世界の平和と安定の確保及び強化のための国際連合等を通ずる国際的努力を一層強化してゆくことが,全ての政府にとって至上の義務であることを確認するとともに,そのために,両国がそれぞれの立場から最善の努力を払うことに意見の一致をみた。また,国連憲章の精神に従った交渉,その他の平和的手段が,国際粉争解決のための最も適切な手段であるとの確信を表明した。この関連で両首脳は,世界の平和と安定のために非同盟諸国グループが独立した世界的規模の勢力として引続き建設的な役割を果してゆくことの重要性を強調した。更に,両首脳は,現実の国際関係の中で実現可能な軍縮措置を漸次積み重ねていくことが恒久平和の達成に大きく貢献することで意見の一致をみ,両国政府が各国の安全保障に留意しつつ,その促進に最善の努力を払っていく考えである旨明らかにした。

5.両首脳は,1980年代の第3次国連開発10年のための新国際開発戦略の策定は正義,平等および互恵に基づくべきであることに意見の一致をみた。

 大統領はかかる戦略は開発途上国の開発を促進し,かつ新国際経済秩序を樹立することを目ざすものでなければならない旨を表明した。

 これに対し,総理大臣は,公正かつ衡平な新しい国際経済秩序の樹立に向っての開発途上国の願望と意欲に共感を表明した。

 両首脳は,1980年の国連特別総会においては,国際協力の枠の中において実質的な進歩を達成するために共に努力する旨言明した。

 総理大臣及び大統領は,また,第3次国連海洋法会議は,この複雑な問題について合意に達するため,また,可及的速やかに新しい海洋法制度を樹立するため,もっとも適切な場であるとの認識の下に,日本・パナマ両国政府が公正な同制度確立のための同会議の作業に対する支持を継続することに合意した。

6.両首脳は,アジア情勢ならびに中南米情勢をはじめとして,国際関係の広範な分野にわたって意見交換を行った。その際,両首脳は,話し合いにより紛争を解決することが最良の方法であることにつき意見の一致をみた。この関連でソ連軍のアフガニスタンより即時,無条件,全面撤退を要請した国際連合の決議への支持を再確認した。

7.大統領は,新パナマ運河条約によりパナマ共和国が得た権利と責任,同地域における調停役としてのパナマの参画,並びにラテン・アメリカの統一と統合にむけてのシモン・ボリーバルの理想を実現するためのたゆまざる関心について説明した。更にラテン・アメリカ地域の発展と国際関係の枠組の中でのラテン・アメリカの影響力の増大についての考え方を説明した。

8.両首脳は,新パナマ運河条約について広く意見を交換し,両洋間の交通路としての運河の安全が永久に確保され,また,運河があらゆる国の船舶の平和的通航に対して完全に平等かつ無差別の条件の下に開放されることの重要性につき意見の一致を見た。

 この関連において,大統領は日本政府が「パナマ運河の永久中立と運営に関する条約の附属議定書」に加入することを希望する旨述べた。これに対し,総理大臣は同議定書への日本の加入について深い関心を表明した。

9.総理大臣と大統領は政治,経済,社会面並びに政府および民間レベルにおける両国間関係につき,詳細な検討を行った。両首脳は,両国関係の友好と緊密化に満足の意を表明するとともに,かかる関係が一層強化されることを祈念した。また,共に太平洋の沿岸国として日本とパナマとの協力関係を増進していく努力を続けていくことに合意した。

10.両首脳は,増大する国際貿易に対応するためパナマ地峡の通航能力を拡大する可能性について意見を交換した。大統領は海面運河の建設に係るフィージビリティ・スタディ実施の双方にとっての有用性を指摘するとともに,パナマ運河条約第12条の規定を踏まえて,日本が米国をはじめとする他の諸国とともにかかるフィージビリティ・スタディに参加することの重要性を強調した。総理大臣は大きな関心を示しつつ,本件計画の規模の大きさにかんがみ国際的な参加を得て調査を実施することが適切であろうと述べるとともに,日本としては多角的協議を行うことにつき,パナマ及び米国とともに積極的にイニシアティブをとる用意があり,そのような協議の結果を踏まえ日本にとりどのような具体的協力が可能かを検討したいとの意向を表明した。両首脳は右多角的協議の早期開催を希望する旨表明した。

11.大統領は,日本の経済協力はパナマの経済社会開発に寄与することにより,パナマ国民に利益をもたらすとともに,両国間の友好関係に貢献をするものであるとの確信を表明しつつ,両国間の経済技術協力が今後とも着実に拡充されることを希望した。

 総理大臣は,日・パ両国の友好協力関係を維持発展させるべく引き続きパナマに対する経済技術協力を推進していく考えであることを明らかにするとともに,特にパナマに対する政府ベースの経済技術協力においてはパナマの国造りの基盤となる人造り協力を主体とした協力を実施していくことを表明した。この関連で,総理大臣は,大統領訪日という機会に,「パナマ癌センター」に対する資金協力及び「国営教育テレビ放送」,「職業訓練・生産性向上計画」,「パナマ首都圏交通整備計画」,「大西洋水産資源調査」及び「冶金鉱物調査研究」に対する種々の技術協力を供与する用意があることを明らかにした。両首脳は,かかる広範にわたる協力は,両国関係の歴史上最初のものであり,必ずや今後の両国関係の幅広い展開に資するであろうことに意見の一致を見た。

12.両首脳は,また,文化交流を通じても日本・パナマ両国国民間の相互理解を一層促進していくことに意見の一致をみ,この分野での協力と交流を一層拡大したいとの意向を表明した。

13.大統領は,パナマの開発,特に,工業,商業部門に日本企業が,急速に参加を増大していることに歓迎の意を表明した。大統領は,特に,コロン自由貿易地帯,組立工場又は保税加工工場の設立並びにバルボアおよびクリストバル両国際港の運営に関連した事業に有利な条件を付与する用意がある旨強調した。

14.総理大臣と大統領は,経済分野における両国関係の増進をはかるため,両国事務レベルの政府関係者が時宜に応じて2国間委員会を開催することの有用性を確認した。

15.ロヨ大統領は,大平総理大臣がパナマ共和国を訪問するよう招待した。大平総理大臣は,この招待を感謝の念をもって受諾した。訪問の具体的日程は外交チャネルを通じて決定される。

16.ロヨ大統領閣下は,今次訪問に際し,同令夫人および随員一行とともに日本政府および国民より受けた厚遇および歓待に対し,感謝の意を表明するとともに,かかる厚遇と親愛の情は,日本国民とパナマ国民とが相互に抱いている友情のしるしであるとの意向を表明した。