データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 三木武夫内閣総理大臣とピエール・エリオット・トルドー・カナダ首相との間の共同声明

[場所] 
[年月日] 1976年10月26日
[出典] 外交青書21号,71−75頁.
[備考] 
[全文]

1.ピエール・エリオット・トルドー・カナダ首相夫妻は、日本国政府の招待により、10月20日から26日までの間、日本を公式に訪問した。トルドー首相夫妻は、10月21日、皇居において天皇・皇后両陛下に謁見を賜わつた、

2.三木総理大臣とトルドー首相は、10月21日及び26日に、友好的で建設的な雰囲気の下に会談した。トルドー首相は、また、滞在中、副総理兼経済企画庁長官、外務大臣、大蔵大臣、農林大臣、通商産業大臣及び経済界の主要な代表と会見した。両国首相は、日本及びカナダが政治、経済及び文化の各分野で、近年急速に、緊密で広範な結びつきを強めていることに満足の意を表明した。両国首相は、トルドー首相訪日の機会に、両者により、日加間の貿易経済関係に関する経済協力大綱が署名されたことを歓迎した。両者は、また、文化協定の交渉が妥結し、同協定の署名が行われたことに欣快の意を表明した。両者は、この結果、両国民の間の相互理解を一層増進し、もつて日加関係がより豊かで拡大されたものとなることを希望した。両者は、日加両国の国会議員間の交流が深まりつつあることを強く歓迎した。両者は、本年3月に、東京で日加議員連盟が設立されたこと及び本年4月に上下両院議長を団長とするカナダ国会議員団の日本訪問が大きな成果をあげたことを特に評価した。両者は、1977年に日本議員団のカナダ訪問が実現することを期待した。

3.両国首相は、日加間の友好協力の増進が、単に両国のみならず、国際社会にとつても重要であるとの見解をともにした。両者は、両国政府が各々の政策目的及び目標に関する情報の交換を続けることの意義を再確認し、共に関心を有する多国間及び2国間の問題について両国政府間で協議と協力関係を強化することを約した。両者は、各層における協議を緊密化し、かつ、制度化する努力が報いられてきたことを認めた。この関連で、両者は、日加閣僚委員会の意義を強調するとともに、次回の会合を、双方にとつて都合のよい早い時期に、カナダで開催することに合意した。両者は、また、両国の外務大臣が、過去数年にわたり、その頻度を増してきた緊密な協議の慣行を維持し、強化することに合意した。

4.両国首相は、今日の国際社会の当面する諸問題について意見を交換するとともに、先進工業民主主義国として、世界の平和と繁栄という人類共通の目標にむかつて。より緊密かつ幅広い協力を発展させていくとの両国の揺ぎない決意を確認した。

 両者は、なかんずく太平洋に面する両国が特別の関心を有するアジア・太平洋地域における動向について討議するとともに、両国が同地域の平和と発展のために、引続き積極的かつ建設的な役割を果していくとの両国の決意を確認した。両者は、東南アジア諸国連合及びその加盟国が、この地域の安定と開発のため自主性と相互協力を強化するよう引続き努力していることを歓迎するとともに、東南アジアのすべての国の間に安定し、かつ、協力的な関係が発展することを期待した。両者は、アジア開発銀行が行つている地域開発問題に対処するための活動を支持するとの日加両国の強い誓約を確認した。両者は、朝鮮半島において、いまだ不安定な要因が存在していることに留意するとともに、同半島の緊張の緩和を推進するため、南北両朝鮮が、1972年7月4日の南北共同声明の精神に沿つて、対話の再開に努力することが必要であると強調した。両者は、南北両朝鮮の関係改善を助長するような国際環境をつくるため、国際的な努力が継続されることを強く希望した。

5.両国首相は、軍備競争を抑制し、すべての核兵器の貯蔵を制限・削減し、あらゆる核実験を停止する効果的な取り決めを締結するために、一層緊急かつ具体的な措置が、特に核兵器国によつて、とられることの必要性を強調した。両者は、武力の行使または武力による威嚇を抑制し、緊張を緩和するとともに、資源を生産的な、社会的・経済的目的のために解放するような、軍備管理・軍縮に関する取り決めに到達せんとの両国政府の誓約を再確認した。トルドー首相は、本年6月日本国政府が核兵器不拡散条約を批准したことを歓迎した。両国首相は、核拡散を防止し、原子力が平和目的にのみ使用されることを確保するための国際的な努力に貢献するとの両国政府の決意を強調した。

6.両国首相は、国際連合及びその専門機関が、世界の平和と進歩のために大きく寄与しうる国際的な場を提供していることを認識し、日加両国がこれらの機構を、その実効性を一層高めるために、発展させるよう建設的な方法で協力していくべきことを確認した。この関連で、両者は、従来から行われている日加国連協議の役割を高く評価し、今後とも両国が引き続き緊密に協議していくことを確認した。

7.両国首相は、世界各国間の経済的相互依存関係がますます深まりつつあることに鑑み、世界経済が直面する諸問題に対処するためには各国間の一層緊密な協力と建設的対話が必要であるとの確信を表明した。両者は、日加両国が緊密な協議を通じ世界経済の一般情勢、貿易、国際投資、国際金融、資源及びエネルギー並びに先進国と開発途上国との間の協力に関する諸問題をすべての国の利益となるような方法で解決するため、積極的な役割を果すことに合意した。

8.両国首相は、本年6月プエルト・リコにおいて開催された工業国7カ国首脳会議が、世界経済の諸問題の解決のための国際協力の重要性を確認する上で成果をあげたことを想起した。両者は、同会議の共同宣言で示された経済運営、貿易、国際投資、国際金融等に関する諸原則を遵守していくことが重要であることに意見の一致をみた。両者は、また、本年ジャマイカ及びフィリピンで開催された国際通貨基金の会合を想起し、それらの会合が今日とられつつある通貨上及び金融上の指針に実体を与えたものであることに合意した。この関連で、両国首相は、昨年来景気回復が進行しつつあることを歓迎した。両者は、生産の回復並びに高水準の雇用及び物価の安定の達成を確保するための努力を追求する公約を再確認した。両者は、特に、経済の健全な回復を確保するための不可欠な要因として、インフレと闘う努力を継続することが必要であることを強調した。

9.両国首相は、現在ジュネーブにおいて関税及び貿易に関する一般協定の枠内で進められている多角的貿易交渉を1977年末までに完結するとの目標を再確認した。両者は、東京宣言に規定された諸原則に従い、就中、貿易障害の漸進的な撤廃及び世界貿易を律するための国際的な枠組の改善を通じて、世界貿易の拡大とより一層の自由化を達成するとの目的を実現するにあたり、両国が積極的かつ建設的役割を果すことに合意した。

10.両国首相は、中期及び長期にわたるエネルギー情勢にはなお不安定要因が多く、また、世界経済の回復に伴うエネルギー需要の増大により近い将来この不安定要因が顕在化するおそれがあることに留意し、これまで進められて来た国際エネルギー機関を中心とする消費国間の協力をさらに促進する必要性につき意見の一致をみた。両者は、同時に国際エネルギー問題の解決のためには、全ての関係国間、就中、産油国との間の相互理解と国際協調が必要であることにつき意見の一致をみ、今後とも産油国と消費国との間の調和ある関係の進展とエネルギーの価格と供給の安定化が達成されるよう努力することに合意した。

 両者は、また、国際協力とともに、エネルギー分野における2国間協力も奨励されるべきことであることに意見の一致をみた。

11.両国首相は、開発途上国が自国の経済的及び社会的発展の度合いを改善するために行つている努力を助長することの重要性を強調し、両国が、国際経済体制の発展と先進国と発展途上国との間の経済格差の減少に関する諸問題の解決を見出すことを目的とする緊密な協議を維持するとの決意を表明した。

12.両国首相は、上記の第10項及び第11項に言及されている諸問題に関して、国際経済協力会議が有意義な役割を果たしていることを認識して、12月中旬に予定される国際経済協力会議の閣僚会議が国際経済協力における顕著な進展を達成し、また有意義な結果をもたらすよう引続き努力することに合意した。この関連で、三木総理大臣は、カナダが国際経済協力会議の共同議長国として建設的役割を果していることを高く評価した。

13.両国首相は、両国間の貿易が継続的かつ急速に増大しており、日本はカナダの第2の貿易相手国であり、カナダは日本の第7の貿易相手国であることに満足の意をもつて留意した。両者は、この2国間関係が強化され、さらに貿易が調和ある方法で拡大し続けることを希望する旨表明した。

 両者は、特に、石炭、非鉄金属、木材及びその製品及び紙製品、穀類並びに油糧種子の両国間貿易の重要性に言及しつつ、両国それぞれの経済における鉱物及びエネルギー資源並びに農林産品の重要性を再確認した。これらの主要貿易品目に関する討議に際し、トルドー首相は、カナダの主要な輸出品目として豚肉に言及した。両者は、原材料の加工度の向上に関するカナダの政策につき討議し、この政策が互恵的な方法で実施されうることに意見の一致をみた。両者は、また、加工品、工業製品及び高度技術製品のカナダよりの輸入の増大に関する事項につき協議した。

14.両国首相は、日本とカナダの経済において、経済面での協力の増大と互恵にとつて最も有望な分野を確認するために、双方により行われた努力に満足の意をもつて留意した。両者は、現在までの具体的分野における進展、特に経済面の協力から得られる互恵的な結果を示す住宅及び計算機の分野における進展を再検討した。

 両者は、タール・サンドの開発及びウラニウムの探鉱及び開発の分野における日本の調査団、並びに燃料炭、製鉄用炭、住宅、ベニア板及び自動車部品に関する同様の調査団がカナダへ派遣されたことに留意した。両者は、また、カナダが石炭及びパルプ及び紙に関する技術的調査団、並びに航空機分野における長期的な産業協力の可能性を探究するためのSTOL(短距離離着陸機)調査団を日本に派遣したことに留意した。両者は、かかる調査団が、経済面における一層の協力の重要な契機を提供するために寄与することを確認した。この関連で、両者は、日本のハイレベルの経済使節団が現在カナダを訪問していることを歓迎し、双方の経済界の間の接触が引続き拡大することを希望する旨表明した。

15.両国首相は、両国間の貿易経済関係の長期的発展に確固たる基礎を提供する経済協力大綱を両者が署名したことにつき、特に満足の意を表明した。両者は、本文書が、両国政府として商業交流の進展と多様化を促進し、かつ両国産業間の協力を奨励し容易ならしめるものであることを述べていることに留意した。両者は、また、本大綱が経済協力を推進するために合同委員会の設立を規定していることに留意するとともに、その最初の会合が来年双方にとつて都合の良い時期にカナダにおいて開催されることに合意した。両者は、さらに、合同委員会が既に設置されている協議機構を補完し、かつ強化するものであることに意見の一致をみた。

16.両国首相は、両国間の資本交流の一層の増大が両国間の経済関係をより緊密且つ高度のものとしうることに留意し、両国のそれぞれの外資政策が両国にとつて顕著な利益をもたらす投資を容易ならしめる方法で運用されるべきであることに意見の一致をみた。

17.両国首相は、海洋法会議における進展を検討するとともに、より一層の努力を集中することにより、本交渉が大洋の新たな基本秩序に関する協定にすみやかに到達することを希望する旨表明した。

18.両国首相は、水産品の分野において、経済協力の可能性を含めた両国間の協力措置を促進することに関し、意見交換を行つた。両者は、来るべき2国間漁業協議において、漁業管轄権を200海里に拡大するとのカナダの決定により生ずる新たな情況の下における日本の漁船団の操業のための取決めを含めた将来の漁業関係に関し話し合いが行われることに留意した。

19.両国首相は、原子力の平和利用における協力のための日本国政府とカナダ政府との間の協定の一般的な枠組の中で、原子力の分野のあらゆる平和的側面(ウラニウム、原子力発電に関するものを含む技術交流等)における一層の協力を探求することに意見の一致をみた。

20.両国首相は、科学技術の分野における両国間の協力が進展しつつあることに留意するとともに、両国が、今後も引続きこの分野における協力の拡大に努力することに合意した。

21.両国首相は、経済交流及び人的交流の促進に寄与し、ひいては日加間の総合的な友好関係の一層の増進に貢献することとなるような、健全で相互に利益のある民間航空関係を拡大することに合意した。

22.両国首相は、2国間の観光面の交流が着実に増加していることを歓迎し、この傾向が持続するよう希望を表明した。両者は、観光が日加間の経済関係において意義深い分野であり、かつ、相互の理解の増進のため優れた手段であると指摘した。

23.両国首相は、両国の豊かな文化遺産に留意し、両国間の各層の、特に文化の分野における、交流を促進することが両国民の間の相互理解を深めるのに肝要であると合意した。この点で、両国首相は、文化協定の実施に伴い、両国間のより広範な文化的交流と接触が展開することを希望した。両国首相は、また、両国国民間の相互理解を増進するため両国の報道機関を通ずる情報の相互伝達が一層増大するよう希望した。

 両国首相は、日本におけるカナダ研究及びカナダにおける日本研究の促進並びに両国間の学術交流の面で進歩があつたことに満足の意を表明し、これらの努力が続けられ、一層発展されるべきことに同意した。この関連で、三木総理大臣は、トルドー首相が日本訪問の機会に日本におけるカナダ研究計画を正式に発足させたという事実を歓迎した。

24.カナダ首相は、日本国総理大臣に対し、将来互いに都合のよい時期に、カナダを公式に訪問するよう招待した。三木総理大臣は、この招待を喜んで受諾した。