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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 三木内閣総理大臣によるピエール・トルドー首相(カナダ)歓迎晩餐会における挨拶

[場所] 
[年月日] 1976年10月22日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,188ー190頁.
[備考] 
[全文]

 ピエール・卜ルドー首相閣下、令夫人並びに御列席の皆様

 この度、トルドー首相閣下並びに令夫人を日本にお迎えし、今夕歓迎の晩餐会を開くことができましたことは、私の大きな喜びであり、かつ、光栄とするところであります。私は、ここに、日本国政府及び国民を代表し、心から歓迎の意を表するものであります。

 トルドー首相閣下は、四十八歳の若さで首相に就任されて以来、八年半という長きにわたり政権を担当してこられています。この間、世界は激しく変動を続け、特に国際経済は、先進民主主義諸国の国民の生活を直接脅かすような幾多の難問に直面してきましたが、このような難しい時期に、勇気と決断をもって内政・外交の諸問題に対処してこられました貴首相の業績に深い敬意を表するものであります。また、貴首相閣下は、過去三回の総選挙を経て、先進民主主義諸国の中では最も長期に政権を維持しておられますが、この変化の激しい時代に、この大記録は、閣下の並々ならぬ政治家としての識見と手腕を示すものに他なりません。

 貴首相閣下は、青年時代に米国、フランス、英国で学問を身につけられた後、世界の実情を知るため旅立ち、第二次大戦直後の欧州の情勢を広く見聞するとともに、中近東から日本にこられ、一カ月間にわたり、田舎の宿屋に泊ったりしながら、日本国中を広く旅行されたと承知しております。私も、かつて青年時代に米国に留学し、さらに世界旅行の途次一九三〇年代初期の渾沌とした欧州情勢を直接見聞した経険があります。世界の動きを自分自身の目で確めながら、世界の将来を真剣に考え、学問を実践に移してこられた貴首相の生き方に私は深い共感を覚えるものであります。

 トルドー首相閣下、今日の世界においては、諸国間の相互依存関係が著しく緊密化しており、われわれが青年時代に見聞した世界の姿とは、その様相を大きく異にしています。今日の世界は、スタグフレーション、エネルギー、食糧、人口、環境、南北問題等多岐多様にわたる長期的な諸問題に直面しており、これらの問題の解決について、先進民主主義諸国の果すべき役割が問われています。その意味で、先般、貴首相閣下とともに参加したプエルト・リコ首脳会談において、関係諸国間の密接な協議と協調により、事態の悪化を事前に防止することの必要性について意見の一致をみたことや、インフレの再燃を回避しつつ、経済の持続的拡大を図る必要性について共通の認識をえたことは、きわめて有意義であったと考えております。しかし、かかる多国間の協力を円滑に実施するためには二国間レベルの関係の強化が前提となることはいうまでもありません。

 日加両国は、いくつかの重要な側面において、緊密な協力を行うための共通の基盤を有していると思います。まず、政治面においては、両国は、自由と民主主義という共通の政治理念を分ち合うのみならず、核兵器の脅威から解放された平和な世界の実現を念願して、核保有国になることを自ら拒否するとの立場を内外に宣明しております。また、両国は、太平洋国家として、アジア・太平洋地域の安定と繁栄に共通の関心を有しております。さらに、経済面においては、日加間の貿易規模が過去十年間に七倍に伸びたという実績が、日加経済関係の発展ぶりを如実に物語っています。貴国は、雄大な国土を擁して、豊富な天然資源に恵まれておりますが、他方、高度に発達した技術水準は世界に誇る工業製品を作り出しており、今後両国の相互依存関係が一段と深まるに従って日加貿易の一層の拡大が期待されます。

 その関連において、昨日貴首相閣下との間に署名しました日加経済協力大綱は、今後の日加経済関係の発展を大きく推進するのみならず、日加両国がグローバルな規模の諸問題に対処していく上でも、協力の枠組みを設定するものとして高く評価されます。

 貴首相閣下が、先日カナダを御出発された頃は、貴国の象徴であるメープルはすでに一面に紅葉していたことと想像します。私も、一九六六年十月及び翌六七年十一月に、それぞれ通産及び外務大臣として貴国の美しい首都オタワを訪問しましたが、今日でも、ふと首相官邸付近で秋風に舞っていたメープルの色の鮮かさを思い出すことがあります。トルドー首相閣下並びに令夫人は、今週末を静かで美しい古都金沢で過される由でありますが、その際、貴国のメープルとは、また趣を異にした日本のもみじを観賞しながら、日本の秋を十分味っていただきたいと思います。

 御列席の各位、トルドー首相閣下と令夫人の御健康並びにカナダの発展と繁栄を祈って杯を上げたいと思います。