データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ガイゼル大統領主催晩餐会における田中内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1974年9月16日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,510ー512頁.
[備考] 
[全文]

 ガイゼル大統領閣下、御列席の皆様

 只今、ガイゼル大統領から暖かい歓迎の御言葉をいただき、一同深く感謝しております。私は、少年時代より憧れを抱いていたブラジルを、ぜひこの眼で見たいとの希望を持ち続けてまいりました。今般、ガイゼル大統領の御招きによりこれが実現し、初めて貴国を訪問する機会に恵まれましたことは、私の最も欣快とするところであります。また、さきほどは、大統領より、最高の栄誉である南十字星大綬章を拝受し、光栄これに過ぎるものはありません。

 私は、今朝アンデス山脈を越えて当地ブラジリアに到着しましたが、朝日を受けて眼下一望に拡がる緑の大原始林と、その中を白く光って蛇行する大アマゾン河、さらには果てしなく拡がる中央平原に驚嘆するばかりでありました。

 私は、あのアマゾンの大樹海が黙々と生産し続ける新鮮な酸素こそが気宇広大なブラジル民族の力の原泉であると感じました。ブラジル民族のこの活力をもってしてはじめてサッカーでも世界を征服できるのであります。ペレーに代表されるブラジルの選手たちは、日本の豆サッカーファンたちのアイドルなのであります。本年の世界選手権は西独のものとなりましたが、ブラジルの惜敗に涙をのんだ日本のサッカーファンが多かったことを御披露しておきたいと思います。

 私は、「ブラジルの奇蹟」として世界の賞讃の的となっております貴国経済のめざましい成長振りと、その充実した国力とを背景に、ラテン・アメリカにおける主導的国家として、国際政治の場においても積極的な役割を演じられ、世界の平和と繁栄に貢献しておられることに対し深く敬意を表します。ガイゼル大統領の卓越したリーダーシップのもとに、ブラジルはいよいよその秘められた可能性を昂揚し続けられることと確信致すものであります。

 わが日本も、国民の刻苦と勉励によって国民経済の復興を成し遂げ、今日では世界経済の責任の一端を担うまでに至っておりますが、わが国は、その存立と国民の福祉を国際社会の安定と世界各国との幅広い交流に大きく依存しております。今日既に経済発展の可成りの段階に達し、しかもなおその潜在力の故に、わが国以上の輝しい将来を約束されている貴国の国際的責務は、ますます重大となっております。

 われわれ両国は、お互いに地球儀の裏側に存し、したがって、この地上で最も遠く離れ合った国同志でありますが、相互にその国際的責任を自覚しつつ、最も近い間柄の国として、建設的役割を果たしあう立場にあると考えます。それは、日伯両国が相互補完的な関係にあることに加え、超大国の影響力が相対的に低下しつつある今日、新たな中枢的実力国家として登場しつつある日伯のような国には、相携えて、国際社会の平和と安定のための潤滑油として寄与しなければならない分野が一層増大するものと思われるからであります。かかる観点より私は、本日の大統領との第一回会談において世界情勢とわが国の立場を説明申し上げつつ、腹臓ない極めて有益な意見交換を行いましたが、明日は両国の諸関係の一層の緊密化について協議いたしたいと思っております。

 今世紀初頭以来、多数の日本人が貴国において永住の地を与えられ、今日ではブラジルの国民として多くの分野で活躍しておりますが、数多くの人種系列の人々が渾然一体となって大いなる国造りにあたっている貴国の姿の中に、私は、ブラジルの真の偉大さがあると信ずるものであります。私の今次訪問は短時日でありますが、できる限り深く、広く、この偉大なブラジルを勉強して帰国したいと念願しております。また、日伯新時代の幕あげともいうべき今日の絆を世界注視の的たらしめるため、私は、明年ガイゼル大統領を最大級の歓迎をもってわが国に御迎えしたく、大統領はじめ皆様の御賛同を得たいと思うのであります。

 私は、この念願のブラジルに御招き下さったガイゼル大統領の御厚情と御歓待に対し、改めて感謝申し上げますとともに、ここに大統領閣下の御健康、ブラジル国民の繁栄、日伯両国友好関係の一層の緊密化を祈念し、杯を挙げたいと存じます。