データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エチェペリーア大統領主催午餐会における田中内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1974年9月13日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,502ー504頁.
[備考] 
[全文]

 エチェベリーア大統領閣下、御列席の皆様

 只今は、大統領から暖かい歓迎の御言葉をいただき、一同深く感激致しております。

 このたび、貴大統領の御招待により、永年の念願でありましたメキシコ訪問の機会に恵まれ、初めてラテン・アメリカの土を踏むことができましたことは、私の無上の欣びとするところであります。

 日本とメキシコは、太平洋を隔て、向かい合っていて、黒潮という海流で結ばれております。そのため、太平洋は交通の便宜を与えこそすれ、交通の障害物ではなく、史家、エドウィン・ディローが述べておりますように、太平洋上に漂流した日本船十隻に一隻はメキシコ海岸に漂着しております。

 こうした偶然の渡航のほか、美しいアカプルコ湾にそそり立つ支倉六右衛門常長の銅像が示しておりますように、十六世紀から十七世紀にかけての日本人が交易を最も強く望んだ国の一つがメキシコでありました。前世紀後半に至っては、わが国の近代化と国際社会への仲間入りに当たり、わが国が欧米先進国により強いられていた不平等条約の改正のため外交の総力を結集しているとき、貴国は欧米諸国に先んじて平等を約束する修好通商条約をわが国と締結しました。この条約は、当時のわが外交に計り知れない勇気と自信をあたえてくれました。また、百年前のこと、金星接近の際、日本で行われた国際観測に参加した貴国の専門家達は、メキシコ観測隊に協力したわが国の若き科学者、海軍士官に、宇宙の神秘への桃戦について指導してくれたものであります。

 最近の日墨関係において特筆されるのは、いうまでもなく、エチェベリーア大統領の訪日であります。大統領が就任後初めての外国訪問先としてわが国を選ばれ、両国間の伝統的な関係に一層の幅と深みを与えられましたことを日本国民は感謝の念をもって想起するものであります。

 メキシコ合衆国は貴大統領の優れた統率の下、「社会正義」の理想をかかげ、内にあっては果敢に諸改革と取り組み、外に向かっては南北の懸け橋となって世界の平和と調和ある繁栄のため貢献しておられます。このことは、わが国において極めて高く評価されており、また、世界の注目のまととなっているのであります。      

 本日の大統領との会談におきまして、われわれ両国は最も近い間柄にある環太平洋国家として、相互にその国際的責任を自覚しつつ、質と量との両面において協力の度合いを拡充することに意見の完全一致をみたのであります。それは、日墨両国が相互補完的な関係にあることに加え、超大国の影響力が相対的に低下しつつある今日、新たな中枢的実力国家として登場しつつある日塁のような国には、相携えて国際社会の平和と安定のための潤滑油として寄与しなければならない分野が一層拡大するものと思われるからであります。

 かかる観点から、私は、協力の礎となる相互理解増進のため、エチェベリーア大統領が精力的に取り組まれた日墨若人の交流計画に改めて最大の賛辞をおくるとともに、末永い両国民交流の基礎となるべき日墨学院設立のため資金的協力を行うことにつき皆様の御賛同を得たいと思います。

 私ども一行は、幸運にもメキシコ合衆国一六四年の独立を祝う目出度いときに貴国を訪問しましたが、日本国民を代表して心よりの祝意を表する次第であります。

 ここに御列席の皆様とともに、大統領の御健康、メキシコ国民の繁栄、日墨両国友好関係の一層の緊密化を祈念し、杯を挙げたいと存じます。