データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第四回日加閣僚委員会共同コミュニケ

[場所] オタワ
[年月日] 1966年10月6日
[出典] 外交青書11号,20−23頁.
[備考] 
[全文]

一 日加閣僚委員会の第四回会合は、昭和四一年一〇月五日及び六日オタワの国会議事堂西館で開催された。

 この会合に出席した日本側代表は椎名外務大臣、福田大蔵大臣、松野農林大臣、三木通産大臣、藤山経企庁長官及び板垣駐加日本大使であった。

 カナダ側代表はマーティン外務大臣、ウインタース通商大臣、シャープ大蔵大臣、ロビショー漁業大臣、ドルリー工業大臣、マルシャン移民大臣、グリーン農業大臣及びモラン駐日カナダ大使であった。

 委員会は太平洋をはさんだ隣国として、また、国際社会のメンバーとして両国が有する共通の利益及び拡大しつつある両国間の貿易その他の関係を反映して広範な分野に亘る問題を討議した。

二 委員会は最近のアジア情勢を中心として世界情勢一般について、有益な意見の交換を行なった。

 両国閣僚は友好と融和の基礎の上にアジア地域の平和と安定を促進するため、アジア諸国が自らとりつつある諸措置を歓迎した。

 両国閣僚はヴィエトナムにおける情勢の発展を討議した。両国閣僚はこの紛争において問題とされている争点は、交渉によってのみ解決し得ることを確信した。両国閣僚は紛争当時者の間の利害の調整をもたらすために、従来提示されてきた調停案に留意した。さらに両国閣僚は当事者間の立場の差異を交渉が可能になるところまでせばめ得るか否かを試みるため日本及びカナダがそれぞれ行なってきた努力を検討した。

 両国閣僚はこの紛争が国際の平和と安全、とくにアジアの将来に及ぼす影響を深く憂慮し、その反映としてさらにこれらの努力を続ける決意を表明した。両国閣僚は、ヴィエトナム紛争およびアジアの平和と安定に関する一層広範な諸問題の永続的な解決のためには中共が建設的な寄与をしなければならないことに意見が一致した。両国閣僚は中共としても国際協力の利益を受け入れその責任を負うようにとの希望を表明した。さらに、両国閣僚は中国国民との間の接触と交流がこの目的のために貢献しうることを重視した。

 さらに、両国閣僚は、両国が共通の関心を有する他の諸分野についても意見を交換した。特に両国閣僚はローデシア情勢および同国の不法政権に対する制裁の適用に当り国際協力を維持するための最善の方途を検討した。さらに両国閣僚は最近の東西関係の方向を検討し、関係国間の理解と接触の分野を拡大するためあらゆる機会を探索することが引き続き望ましいことに意見が一致した。

 両国閣僚は国際連合が世界平和の促進のため必須の機関であるとの両国の信念を再確認した。

 両国閣僚は、国連における両国間の緊密な協力関係を維持し特に国連の平和維持能力の強化のため努力することに合意した。

 両国閣僚は、核兵器保有国がらさに出現することは国際安全と世界平和に対する新たな脅威となるであろうとの確信を表明した。両国閣僚は、核兵器の拡散を防止し、また部分的核実験禁止条約を地下核実験の禁止にまで拡大することによって総ての核兵器実験に終止符を打つために国際的合意を達成する努力を継続することを約した。両国閣僚はかかる合意が有効であるためには検証と管理のための適切な取り決めが含まれなければならないと信じた。さらに両国閣僚は、大国間の軍拡競争の継続に対する憂慮を表明し軍縮のための適切且つ有効な手段によってこの傾向を阻止するためあらゆる可能性を探索することを約束した。

 委員会は、国際情勢特にアジア情勢に関するかかる討議の結果、日加両国にとってアジア諸国の安定を促進し開発を援助するため相互に協力しうる機会が増加して行くことに合意した。

三 委員会はカナダにおける当面の経済情勢を検討し、現在、進行中の前例をみない経済の拡大に留意した。

 カナダ側代表は一人当り平均実質所得が過去五年間に約二五パーセント上昇したことおよび貿易の好調がこの経済拡大の重要な原因であると同時に結果であることを指摘した。

 カナダ側代表はまた過去数年間にわたる非常に大幅な生産能力の伸びにもかかわらず資源に対する圧力が昨年半ばまでに表面化し、カナダ当局が需要の拡大を緩和する必要を認めたことに留意した。委員会は、カナダにおける需要の抑制が長期にわたって維持し得る経済成長率および貿易拡大率の確保を目的としたものであることに留意した。

 委員会は、日本における現下の経済情勢を取り上げ、日本経済が昨年の景気停滞を脱して本格的な回復過程を歩んでいることを満足の意をもって迎えた。

 日本側代表は今後の経済運営上物価問題、低生産部門の近代化、社会資本の充実及び企業の体質改善に重点が置かれることを明らかにした。現在作成中の経済五カ年計画の関連においてこれらの諸問題を解決し、国民経済の各部門の調和のとれた発展をはかるために、具体的な措置が検討されている。

 日本側代表は国際収支の均衡の維持がこれらの目的を達成するために基本的な要件であることを指摘した。

四 委員会は、国際経済関係の分野における主な動きにつき討議を行なった。委員会は、関税および非関税貿易障壁を無差別の原則のもとで大幅に削減しようとしているケネディ・ラウンド交渉の成功が両国に対して有する重大な意義を認めた。両国代表団は工業製品および穀物を含む農産物貿易のためのこれらの交渉から最大限の成果を確保するために、他の関係国と協力してあらゆる努力を払うべきことにつき、意見の一致をみた。この点に関連して両国代表団は、相互の市場に対するアクセスに相当の改善をはかることが重要であることを、強調した。日本側代表は広範な産品について事態の改善が実現をみることを強く希望した。カナダ側代表は農産物及び製品、半製品に対する関心を強調した。両国閣僚は、低開発地域における経済開発を促進することが緊要であることを強調した。両国閣僚は第二回国連貿易開発会議の重要性をあらためて確認し、会議の主眼を実際的な成果を期待し得る特定の問題に置くようあらゆる努力を払うべきであるとの点に同意した。両国閣僚は、またケネディ・ラウンドは特に低開発国の関心品目の貿易拡大に重要な役割を果すことを期待した。両国閣僚は、低開発国にとって国際商品協定の有する重要性を認めた。

 委員会は、規模の拡大をみている両国の開発援助計画を検討し、この分野における政策につき意見を交換した。委員会は、低開発国が自国民の福祉の増進のために従来にも増して払っている努力の跡を検討し、開発の過程においてこの様な努力が有する重要性を認めた。

 日本側代表は、昭和四一年四月東京で開催された東南アジア開発閣僚会議について説明を行ない、特に各参加国が示したこの地域の生活水準を向上させようとの決意について述べた。日本側代表は、また、一二月初旬に東京で農業開発会議を開催する準備が進められていることを明らかにした。委員会は、四一年一二月に業務の開始を予定されており、両国が参加することとなっているアジア開発銀行の果たすべき重要な役割を指摘した。

 両国閣僚は、共産圏諸国との貿易関係につき討議を行ない、これらの諸国との間で相互に有利な貿易を一層拡大する余地があるとの点につき意見の一致をみた。

 委員会は昨年中に新たな国際的準備資産を創設するためのしかるべき取決めを成立させる努力が進展をみたことを認めた。委員会は十カ国の蔵相代理と国際通貨基金理事会との合同会議の開催につき十カ国グループと国際通貨基金が最近とったイニシアティヴを歓迎すると共に、今後、更に大幅な進展をはかる必要があることを強調した。委員会は適当な取決めについての合意が成立すれば国際通貨制度に対する世界の信頼を著しく強化することとなることを認めた。

 委員会は主要工業国の国内経済政策が世界経済の発展におよぼす影響を検討し、金融政策と財政政策との間に妥当なバランスをはかることが望ましいことを認めた。

五 委員会は両国間の貿易の引き続く拡大を歓迎した。委員会は両国経済が引き続き拡大し、経済関係が緊密化するにともない貿易は、更に大幅に増加する余地があることを認めた。

 両国間の貿易は昭和四一年には約六億ドルに達するものと考えられる。委員会は一部の産品のカナダへの輸出について討議し、過去数年間に実施された規制の緩和と一部の産品が規制品目リストから除去された事実に留意した。しかしながら日本側代表はなお現行の規制が実施に移されてから既にかなりの時日が経過している点に鑑み、これを現在の形で継続することの必要性につき綿密な検討を行うよう要望した。カナダ側代表はこれらの規制がカナダ市場の攪乱が発生するか又はその危機のある場合にのみ求められるものであると述べた。委員会は規制が最小限にとどめられるべきであること、また、特定の産品について不必要となった時にはいつでも撤廃されるべきであることにつき意見の一致をみた。

 日本側代表はカナダの関税評価制度のうち、貿易に対して制限的効果を有すると考える諸点につき注意を喚起した。カナダ側代表は、カナダの関税法の目的を説明し、その無差別的な性格を強調した。カナダ側代表はカナダの輸出が非加工品に集中していることについて関心を表明し、より高度に加工された工業原料および製品を含むあらゆる産品の対日輸出の拡大に関心を有することを強調した。カナダ側代表はこれらの商品に対するアクセスを一層改善するよう要請した。日本側代表はこの方向に沿って措置が進められるべきことを言明した。

 委員会は両国間の連けいが、企業投資を通じて深まりつつあることに歓迎の意を表した。カナダ側代表は日本におけるカナダの投資について、今なお残されている制限が、可及的速やかに撤廃されることおよびカナダに対する日本の投資者がカナダからの輸出品の加工度を増大せしめることが望ましいことに考慮を払うことを希望した。

六 委員会は漁業の分野における両国の協力を促進する必要を再確認し、両国政府がこの分野における未解決の諸問題につき早期かつ満足すべき解決を得るために緊密な協議を続けることに意見が一致した。

 委員会は、本年東京に移民事務所が開設され、カナダへの移民の申し込み件数の増加を通じて日本国民一般が積極的反応を示したことを歓迎した。両国代表団は自国政府が両国の相互の利益のために引きつづきこの計画の発展を助長することにつき意見の一致をみた。

 日本側代表は大阪における一九七〇年日本万国博覧会の計画の概要を説明し、カナダがこれに積極的に参加するよう強く希望した。カナダ側代表はこの博覧会に参加するとのカナダ政府の決定を発表した。委員会はモントリオールにおける一九六七年世界博覧会及び大阪における日本万国博覧会が共に成功することを祈念した。

七 両国閣僚は、委員会の第四回目の会合が両国間の理解を深め、関係を強化する上に貢献するところが極めて大きかったとの確信を表明した。委員会は次回会合の日本における開催を招請する日本政府の申し出を受諾した。

八 日本国外務大臣は日本政府の名においてカナダ国首相に対し、訪日を招請した。同首相はこの招請に謝意を表明し、原則としてこれを受諾した。訪日の時期は両国政府間の今後の協議により決定される予定である。