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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 移住及び植民に関する日本国とブラジル合衆国との間の協定

[場所] リオデジャネイロ
[年月日] 1960年11月14日
[出典] 外交青書5号,288−295頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びブラジル合衆国政府は、

 移住に関する両国間の協力を調整し、及びそれぞれの利益に合致する形で移住を組織化することが必要であることを確信し、また、

 日本人の技術及び労力の活用によるブラジル合衆国の経済開発を目的とし、かつ、国際協力の精神に基づいた適切な政策を実施することが両国を結ぶ伝統的な友好のきずなを強化することとなることを自覚して、

 この移住及び植民に関する協定を締結することに決定し、このため、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。

日本国政府

ブラジル合衆国駐在特命全権大使 安東義良

ブラジル合衆共和国大統領

外務大臣 オラシオ・ラフェール

 これらの全権員は、互いにその全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次のとおり協定した。

目的

第一条

 この協定は両国間の移住及び植民の問題を実際的に、迅速に、かつ、効果的に解決するため、両締約国の努力を結集してブラジル合衆国への日本人の移住の流れを指導し、組織化し、かつ、規制することを目的とする。

第二条

 ブラジル合衆国への日本人の移住は、計画移住であると自由移住であるとを問わず、この協定の規定に従い、両締約国のすべての援助及び保護を受ける。

自由移住

第三条

 自由移住とは、移住者の自由な発意及び経費負担により、単独で又は一家族若しくは二以上の家族の集合による集団で行なわれる移住であり、この移住は、それぞれの国の現行の関係一般法令の規定に完全に従って行なわれるものとする。

第四条

 両締約国は、ブラジル合衆国への日本人の自由移住を促進し、かつ、容易にするため、取極を行なうことができる。

第五条

 ブラジル合衆国政府は、第四条にいう取極が行なわれない間は適当な二人の立会人によって正当に証明されたか又は一人の公証人の面前で作成された雇用契約に基づく仕事をブラジル合衆国の法令の範囲内で行なう意図をもってブラジル合衆国に定住することを希望する日本人に対し、自由移住に関する規則に従い、永住査証を付与する。

第六条

 両締約国は、ブラジル合衆国への日本人の自由移住を促進するため、現行の法令の範囲内で、移住希望者の指針となるあらゆる情報を提供し、かつ、これらの者の利益となるあらゆる便宜を供与することを約束する。

計画移住

第七条

 計画移住は、両締約国の合意により作成された計画に基づき、両締約国の責任の下に行なわれる。

第八条

 計画移住の量は、ブラジル合衆国の移住政策における自由の原則に基づき、日本国の移住者送出の可能性とブラジル合衆国の労働市場の必要性とを照らし合わせ、かつ、配置の実際的見通しに従って決定される。

第九条

 ブラジル合衆国への日本人の計画移住は、家族を同伴するとしないとを問わず、次の種類の者の移住とする。

(a) 農業者、農業労務者、家畜飼育者、一般農村人、農畜産技能者並びに農村産業及びこれに関連する分野の専門的技術者で、直ちに土地所有者となるとならないとを問わず、定住する意図をもって移住するもの。

(b) 農業者、農業労務者又は農畜産技能者の協会又は協同組合で、土地所有者となるとならないとを問わず、ブラジル合衆国にすでに存在しているか又は新たに設立する農場、農畜産企業又は計画植民地で就労する意図をもって集団的に移住するもの。

(c) 技術者、工芸者、専門的技能者及び諸職業の専門家で、ブラジル合衆国の労働市場の必要性及び関係法令の要件に合致するもの。

(d) ブラジル合衆国の経済開発に有益である工業的又は技術的性質の事業単位又は企業で、同国の権限のある機関があらかじめ承認するもの。

第十条

 計画移住の制度によりブラジル合衆国に定住する日本人移住者は、この協定に定めているか又は両政府間の特別の取極により認められることがある便宜を与えられる。

第十一条

 日本国政府は、ブラジル合衆国に定住しようとする移住者に対し、日本国の経済条件が許す限り、次の財産を携行することを許可する。

(a)農業者、農畜産技能者及び農村産業の専門的技術者については、農業用の機具、道具及び機械(トラクター及び農畜産物加工用機械を含む。)

(b) 技術上又は経済上有益な選択された動植物の種苗

(c) 工芸者及び専門的技術者については、その職業用具

第十二条

 ブラジル合衆国政府は、第十一条に掲げる財産について、事前許可制及び輸入税、消費税、通関手数料その他ブラジル合衆国への輸入について課される課徴金を免除する。

 前記の特典は、移住者の活動の初期において絶対的に必要であり、かつ、その職種と経済状態とに相応した数量の財産のみに与えられる。

 この条の規定による免除を受けた財産は、そのブラジル合衆国への輸入の時から二年を経過した後でなければ売却することができない。

募集及び選考

第十三条

 日本国の権限のある当局は、第九条に定める種類でブラジル合衆国政府が提供する情報に合致するものに従い、計画移住者の募集及び予備選考を行ない、並びに確定選考に必要な事項を記載した候補者名簿を作成する。

 日本国政府は、必要な場合には、いずれかの団体又は機関を指定して、この条に定める募集及び予備選考を行なわせることができる。

第十四条

 ブラジル合衆国の当局は、第十三条の規定に従って募集され、予備選考を経た候補者で、移住及び植民に関するブラジル合衆国の現行の法令の要件並びに選考のために定められた基準に合致するもののうちから、日本国の当局の協力を得て、計画移住者を確定的に選抜する。

 確定選考は、乗船港の附近その他の適用な場所で、能率的な方法で実施される。

 日本国政府は、必要な場合には、いずれかの団体又は機関を指定して、ブラジル合衆国政府が行なう確定選考に協力させることができる。

第十五条

 日本国にあるブラジル合衆国の領事官憲は、移住者に対し、その者が第十四条にいう法令の要件に合致していることを確認した後、ブラジル合衆国への入国の査証を付与する。

 日本国政府は、移住者に対し、ブラジル合衆国向けの乗船に先だち、及び可能なときは旅行中に、ポルトガル語の知識を与えるようにあらゆる努力を払わなければならない。

送出及び輸送

第十六条

 日本国政府は、ブラジル合衆国の領事査証を取得した計画移住者の自由な乗船及びブラジル合衆国に持ち込むことを認められた財産の自由な船積みに必要な便宜を与える。

第十七条

 日本国政府又は同政府が特に指定する団体は、計画移住者及びその財産の日本国からブラジル合衆国の上陸港までの輸送並びに旅行中の移住者に対する援助について、予算の範囲内で責任を負う。

第十八条

 移住者の海路又は空路による輸送は、当該事項に関する現行の法令又は協定に従って行なわれる。

出迎え、国内輸送及び配置

第十九条

 ブラジル合衆国政府は、計画移住者が上陸した後最終目的地に至るまで、次の事項について責任を負う。

(a) 出迎え、宿舎の提供、給食及び医療衛生上の援助

(b) 移住者の財産の通関及び保管

(c) 移住者及びその財産の最終目的地までの輸送

(d) 動物の畜舎への収容及び獣医上の援助

 上陸予定港、移住者団の到着日程の確定その他の事項に関する個個の問題については、日本国の当局とブラジル合衆国の当局との間又は両国の当局と関係実施団体との間で、各別に取り決める。

 ブラジル合衆国の領域への入国に際して行なわれる移住者及びその財産の検査は、関係法令に従って行なわれる。もっとも、財産については、第十二条の規定が守られるものとする。

 ブラジル合衆国政府が希望するときは、いずれか一方の締約国が指定する団体は、この条に定める事項について、補助的に同政府に協力することができる。

第二十条

 第十九条の規定に基づきブラジル合衆国政府が負う責任は、移住者及びその財産を最終目的地に配置した時に終了する。ただし、第二十一条の場合は、この限りでない。

第二十一条

 最終目的地において受け入れられた移住者又は農業上若しくは工業上の役務の正常な提供を開始した移住者は、配置されたものと認める。

 ブラジル合衆国政府は、移住者の到着の後一年以内は、第四十三条に定める混合委員会の意見を聴取した上で、配置換え並びに移住者及びその家族に対する援助の請求に応ずることができる。

植民

第二十二条

 両締約国は、ブラジル合衆国への日本人の植民的移住の実施を容易にする行政上、技術上及び財政上の措置を執ることにより、この移住を促進するように努力する。

第二十三条

 日本人の植民的移住は、農村特有の活動の遂行のため植民者を土地に定着させることをその主たる目的とし、この移住は、ブラジル合衆国政府が作成する移住及び植民に関する一般指導計画に従い、ブラジル合衆国の発展及び日本人植民者の繁栄に最も適切なブラジル合衆国の領域内の地域において実施される。

第二十四条

 両締約国は、土地所有者であるとないとを問わず、公的又は私的の発意に応じて農村地帯に定住し、又は定着して、農村特有の活動を行なうすべての農業者を植民者と認める。

第二十五条

 農村地帯とは、住民が農村特有の活動に従事しており、かつ、農業生産に経済的に依存している地域をいう。

第二十六条

 第九条(a)及び(b)に掲げる種類の移住者の定着は、第二十三条の規定に従って行なわれるものとする。

第二十七条

 配置の日から三年の期間が満了する前にブラジル合衆国の権限のある当局の特別の許可を得ないで農村地帯を去った植民者は、この協定が植民者に与えることを定めた利益を受けることができなくなる。

 さらに、農村地帯における植民者に職業上の能力がないことがその定住の日から少なくとも三年の期間内に認められたときは、ブラジル合衆国政府は、その植民者について、この協定に定める責任から解放されるものと了解される。

定住

第二十八条

 計画移住の制度によりブラジル合衆国に定住する日本人移住者は、第二十三条及び第二十六条の規定に従い、公的計画植民地又は私的発意に基づく計画植民地に入植することを認められる。

第二十九条

 日本人植民者の定住に必要な土地は、ブラジル合衆国の連邦政府及び州政府並びに個人(現行の法令に従って組織された私的団体を含む。)が購入することができる。

第三十条

 第九条(a)及び(b)に掲げる種類の移住者が購入する土地が連邦政府又は州政府の所有地であるときは、売却の単位価格は、取引時における当該地方の現行の価格以上であってはならない。

第三十一条

 州政府及び地方公共団体の当局による土地の低額譲渡の場合には、その価格は、それぞれの法令に基づいて定められるものとし、連邦政府は、その価格が評価の地方的条件の範囲内において最低価格となるようにあっせんすることを約束する。

第三十二条

 連邦政府は、州政府及び地方公共団体の当局と交渉して、日本人植民者が分割農地に入植した後最初の三年の間、その分割農地、農作物、乗用車、生産物の運搬用の車両、生産物の加工施設及び生産物の販売に対して現に課されているか又は将来課されることがあるすべての租税その他の課徴金(地租並びに全額支払済みの分割農地の譲渡及び相続に対する租税を含む。)が免除されるように努力する。

第三十三条

 教育、医療及び厚生に関する援助は、ブラジル合衆国の権限のある当局が行なう。

 両締約国が正当に認める団体は、日本人植民者が入植した各植民地において、植民者に対して医療に関する援助を行なうことができ、また、教師がブラジル合衆国の国籍及び法律に基づく正規の資格を有することを条件として、初等教育に関する援助を例外的に行なうことができる。

第三十四条

 ブラジル合衆国政府は、この協定の目的を達成するため、州政府と交渉して、日本人植民者が入植した計画植民地に至る道路及び、可能なときは、分割農地に通ずる道路が当該州政府の負担により建設されるように努力する。

第三十五条

 ブラジル合衆国政府は、日本人植民者が入植した地域における熱帯地特有の農法に特に留意し、また、必要なときはいつでも、この農法のための試験農場を、要請のあるときは、日本国政府の協力を得て、設立する。

 両締約国は、農業技師、獣医及び農牧監督である日本人及びブラジル人の技術者を指名し、ブラジル合衆国の権限のある当局は、これらの者を契約によって採用することができる。

第三十六条

 両締約国は、ブラジル合衆国の環境に順応することが困難である移住者に対しこの協定の規定に従って援助を与えるために執るべき措置について協議する。

 移住者がブラジル合衆国の環境に絶対的に順応することができないことが明らかになった場合には、混合委員会は、その者を帰国させることが都合がよいかどうかについて意見を求められる。帰国させることが都合がよいという意見のとおりに決定された場合には、その者の乗船までの生活維持についてはブラジル合衆国政府が、その日本国への輸送については日本国政府が分担する。

融資及び援助

第三十七条

 両締約国は、移住者、協同組合及び正当に認められた団体に対し、金融機関による融資についての便宜を与える。

 この条に定める融資が農業及び牧畜業の開始及び助政を目的とするときは、当該融資は、金融機関があらかじめ承認する個別の計画に従って行なわれる。

第三十八条

 ブラジル合衆国における植民者の活動の初期における生活を保証するため、日本国政府は各家族がその到着後最初の六箇月間の生活維持に必要な額の外貨を携行するように努力する。

 前記の金額は、混合委員会が、ブラジル合衆国の現行の生計費指数に基づき、同国の通貨建てで毎年決定する。

第三十九条

 両締約国は、日本人植民者の土地への定着を促進することを主たる目的として、特に指定した団体を通じて、日本人植民者に財政的援助を与えることができる。

 ブラジル合衆国政府は、日本国政府の財政的援助の供与に対し、租税上のいかなる負担をも免除する。

第四十条

 この協定に定める混合委員会は、適当なときはいつでも、この章に定める融資又は援助の必要性について検討する。

保険

第四十一条

 両締約国は、日本人移住者に対し、ブラジルの最終目的地までの旅行中に死亡し、又は偶発的な事故により損害を受けた場合に、日本人移住者又はその家族のために金銭の給付が保証されるように、適当な保険を利用することを勧奨する。

第四十二条

 両締約国は、日本人移住者が、植民活動の遂行に際し、農業保険の分野で自然現象に基づく偶発的な危険及び失敗について保険を行なうことを業とするブラジル合衆国の企業と農業保険契約を締結することを勧奨する。

混合委員会

第四十三条

 日本人の技術及び労力をブラジル合衆国の経済開発に活用しようとするこの協定の高度の企図を実際的かつ効果的に実現するため、日本国政府及びブラジル合衆国政府が三人ずつ任命する六人の代表者からなる混合委員会を設置する。

 混合委員会の日本国の代表者は、日本政府が任命し、ブラジル合衆国の代表者は、外務省、移植民院及び移植民院審議会がそれぞれ一人ずつ指名する。各締約国は、適当と認めるときはいつでも、自国の代表者の一人を首席代表に任命することができる。

 前記の代表者のほかに、各代表団につき三人をこえない技術顧問を任命することができる。

第四十四条

 混合委員会の所在地は、ブラジル合衆国の首都とする。同委員会は、この協定の実施のための必要に応じて、日本国及びブラジル合衆国の領域内のいかなる場所においても会合することができる。

第四十五条

 混合委員会は、定期的会合のほかに、一方の代表団の要請により、臨時に招集される。

 混合委員会は、同委員会に認められた権限を一層よく遂行するため、実施事務局を設ける。

第四十六条

 混合委員会を構成する代表者、技術顧問及び実施事務局員の報酬は、これらの者を任用する各政府の負担とし、同委員会の設置及び運営に要するその他の経費は、両政府が共同して負担する。

第四十七条

 混合委員会は、いずれの国においても、常に両政府の権限のある機関と緊密に協力して行動し、次の主たる権限を有するものとする。

(a)この協定、特に第七条に定める計画の十分な実施のため必要な基準、勧告及び行政上の措置を移住及び植民の問題について権限のある両政府の機関に提案すること。

(b) 第九条にいう計画移住について第八条の規定に従って決定される量を毎年提案すること。

(c) 第二十三条にいう最も適切な地域の範囲を提案すること。

(d) 第三十三条に定める援助の実施に必要な措置を執るようブラジル合衆国政府に勧告し、及び同条第二項の場合について関係団体が援助を行なう条件を備えているかどうかを審査すること。

(e) 第三十六条第二項の規定に従い、意見を求められたときは、移住者の帰国に関し意見を述べること。

(f) 第三十八条第二項にいう金額を定めること。

(g) この協定の適用について生ずる疑問を解き、及び意見の対立を調整すること。

(h) 委員会の運営に関する規則を定めること。

(i) 両政府間の合意に基づいて付託されたその他の問題を取り扱うこと。

 混合委員会は、この協定の十分な実施のため必要と認めるすべてのことを両締約国に勧告することができる。

第四十八条

 混合委員は、同委員会に付託されたいずれかの問題について満足すべき決定を行なうことができなかた{前1文字ママ}ったときは、その問題を両政府に提出し、両政府は、これを外交上の経路を通じて解決するものとする。

改正

第四十九条

 両締約国は、それぞれの又は混合委員会の発意により、この協定又はこの協定に基づく取極について、その実施及び経験の示すところに従い、これを改善して現実に即したものとするように改正することが適当であるかどうかを検討するため、定期的に協議する。

発効及び廃棄

第五十条

 この協定は、各締約国の憲法上の手続を完了した後批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかに東京で交換されるものとする。この協定は、批准書の交換の日に効力を生じ、いずれか一方の締約国により一年の予告をもって廃棄されない限り、引き続き効力を有する。

 廃棄は、それ以前に執られた具体的措置、実施中の事業又は前記の予告が行なわれた日にすでにこの協定に基づいて負っている約束にはいかなる形においても影響を与えず、これらの措置、事業及び約束は、完了するまで継続される。

 以上の証拠として、各全権委員は、この協定に署名調印した。

 千九百六十年十一月十四日にリオ・デ・ジャネイロ市で、日本語及びポルトガル語により本書二通を作成した。

日本国のために

安東義良

ブラジル合衆国のために

オラシオ・ラフェール