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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とボリヴィア政府との間の移住協定

[場所] ラ・パス
[年月日] 1956年8月2日
[出典] 外交青書1号,210−212頁.
[備考] 
[全文]

昭和三十一年七月三十一日 署名の内閣決定

同年八月二日 ラ・パス市で署名

同年同月同日 効力発生

 日本国政府及びボリヴィア政府は、相互の友好関係を発展させ、かつ、促進することを希望し、このため移住協定を締結することに決定し、よつて、それぞれ次の代表者を指名した。

日本国政府

外務政務次官 森下国雄

ボリヴィア共和国大統領

外務宗教大臣 マヌエル・バラウ

 これらの代表者は、次のとおり協定した。

第一条

 この協定の規定に従つてボリヴィアへ入国することを認められる日本人移住者(以下「移住者」という。)の数は、この協定の署名の日から五年の期間において一千家族又は六千人とする。

 両政府は、適当と認めるときは、前記の期間の後ボリヴィアへ入国することを認められる移住者の数につき合意するものとする。

第二条

 この協定に別段の定がある場合を除くほか、移住者の入国の時期、数その他入国に関する細目は、各政府が三人ずつ指名する六人の委員からなる日本・ボリヴィア合同協議会が作成する計画に基き、ボリヴィア政府が決定する。

第三条

 移住者は、農畜産業に従事するものとし、主として農畜産地方出身の特に勤勉誠実で労働能力のある家族又は個人の中から選考されなければならない。ただし、移住地の保健及び正常な発展を確保するため、少数の保健衛生員、医師、獣医、農畜産技術者、工業技術者及び企業者を移住者に含めることができる。これらの者の活動は、各移住地又はその周辺に限るものとする。

第四条

 移住者の募集及び選考は、日本国政府又は同政府が指定する団体が行う。ただし、ボリヴィア政府は、必要と認めるときは、この選考に参加することができる。

第五条

 出発港から移住地までに要する移住者及びその携行荷物の輸送費は、ボリヴィア政府の負担としない。入植当初において移住者の生活に必要な住宅の建設並びに水及び食糧の供給のための費用も、同様にボリヴィア政府の負担としない。ただし、ボリヴィア政府は、これらの費用を軽減するため必要なすべての措置を執るものとし、かつ、将来できる限り早い機会にこれを負担するように努力するものとする。

第六条

 ボリヴィア政府は、移住者又は移住者を受け入れる団体若しくは個人の申請により、移住者の定住に適当な国有地を無償で譲与する。このような国有地の分譲は、この協定の第二条に規定する日本・ボリヴィア合同協議会の勧告を考慮して行われる。

第七条

 ボリヴィア政府は、移住地の設定及び発展を容易にするため、移住者又は移住者を受け入れる団体若しくは個人に対し、あらゆる援助及び協力を与え、土地の調査、測量及び開発並びに土地及び土地開発用機械器具の入手及び借用につき特別の考慮を払い、並びに営農に必要な情報を提供する。

第八条

 ボリヴィア政府は、移住地の隣接市場その他移住地に密接な関係を有する地区に至る主要な道路及び橋りようを建設し、並びにかんがい及び排水の工事を行う。

第九条

 ボリヴィア政府は、移住者のための医療施設を設置し、及び維持し、並びに移住者の子弟のための教育施設を提供する。

第十条

 ボリヴィア政府は、移住者に対し、入国査証料その他入国に際して移住者に課せられることのある課徴金の支払を免除する。

 ボリヴィア政府は、移住者がボリヴィアに入国するために通過しなければならないその隣接国と、移住者及び第十二条に掲げる荷物の自由通過及び可能な場合には無税通関のために必要な便宜につき交渉するものとする。

第十一条

 日本国政府の権限ある当局又は同政府が指定する団体が発行し、かつ、在外ボリヴィア官憲が認証した健康上及び衛生上の証明書を所持して到着する移住者は、ボリヴィアへの入国に際し再検査されないものとする。

第十二条

 ボリヴィア政府は、移住者の自由品及び移住者が携行する業務上必要な農工機械器具につき、関税及び他の課徴金を免除する。これらの自用品及び作業道具が移住者の入国の前又は後の六箇月以内にボリヴィアに到着した場合にも、同様とする。

第十三条

 ボリヴィア政府は、移住者が禁制品以外の商品で一人当り平均三百五十米ドルに相当するものをボリヴィアの領域内に持ち込み、かつ、同領域内で自由に売却することを許可する。この売却代金は、その全額を定着又は営農の費用に充てなければならない。

 ボリヴィア政府は、前記の商品に対し、関税を課するが、その他のすべての課徴金(C・I・F・加重課金を含む。)を免除する。これらの商品の品目及び数量は、その輸入許可を得るため、ボリヴィア政府にあらかじめ通報しなければならない。

第十四条

 ボリヴィア政府は、移住者の入国後三年を経過した後は、当該移住者が、渡航費用に充てるために受けた貸付金を返済するため、一人当り最高三百五十米ドルの額の自由市場で入手した外貨を日本国に送金することを許可する。

第十五条

 ボリヴィア政府は、営農資金及び企業資金の貸付及び回収を主たる目的とする日本国の団体がボリヴィア国内に支店、出張所又は代理店を設置することを許可する。

第十六条

 ボリヴィア政府は、この協定の規定にかかわらず、この協定に基いて入国した移住者に対し、第三国の移住者に与える待遇よりすべての点につき不利でない待遇を与える。

 ボリヴィア政府は、この協定に基いてボリヴィアに入国する移住者に対し、社会保障及び労働に関する現行法令上自国民に認められている待遇と同様の待遇を与える。

第十七条

 第二条に規定する日本・ボリヴィア合同協議会は、この協定の実施に関するすべての事項について正常な運営を図るため定期的に又は随時会合するものとする。

第十八条

 この協定の終了は、この協定に基きボリヴィアに入国した移住者の法的地位及びこれらの移住者に認められた待遇並びにすでに開始された計画の実施に影響を及ぼすものではない。

第十九条

 この協定は、日本国及びボリヴィアによつてそれぞれの国内法上の手続に従つて確認されるものとし、署名の日に効力を生ずる。いずれの政府も、一年の予告をもつてこの協定を廃棄することができる。

 以上の証拠として、正当に委任された日本国政府及びボリヴィア政府の代表者は、千九百五十六年八月二日にボリヴィア共和国のラ・パス市で、ひとしく正文である日本語及びスペイン語による同一内容のこの協定の本書二通に署名した。

日本国政府のために

森下国雄

ボリヴィア政府のために

マヌエル・バラウ