データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ディウフ・セネガル大統領歓迎午餐会における(竹下内閣総理大臣)挨拶

[場所] 東京(首相官邸)
[年月日] 1988年6月30日
[出典] 竹下演説集,231−233頁.
[備考] 
[全文]

 ディウフ大統領閣下並びにご列席の皆様

 このたびセネガル共和国より、ディウフ大統領とそのご一行を我が国にお迎えし、ここに歓迎午餐会を催すことができましたことは、私にとりまして、この上ない大きな喜びであります。

 殊に貴大統領は、私が総理就任以来、国賓としてお迎えする最初のアフリカの元首でありますだけに、一層嬉しく思う次第であります。

 すでに、両国間の関係は順調に発展しておりますが、特に、一九七九年、当時のサンゴール大統領が国賓として訪日され、更に、一九八四年には、我が国の皇太子・同妃両殿下が貴国を訪問され、暖かい歓迎を受けられたことは、私たちにとってなお記憶に新しいところでございます。

 私自身、両国関係の緊密さをかねてより喜ばしく思うと共に、サンテグジュペリの有名な童話、「星の王子さま」の中にも登場するあの神秘的なバオバブの木が、貴国では「地球と宇宙をつなぐ木」と呼ばれ、親しまれていると聞いており、貴国には早くから強い関心を寄せてまいりました。

 そしてここに、貴大統領をお迎えし、直接率直な意見交換を行う機会を得たことにより、貴国、ひいてはアフリカに対する理解と関心を一層深めることができました。

 私がとりわけ強い感銘を受けましたのは、貴大統領が民主主義を確保しつつ、経済・社会開発を推進することに身命を賭して励まれておられることであります。

 貴国の民主主義の伝統は、遠く一七八九年のフランス大革命にさかのぼると承知いたしております。すなわち、我が国が近代の目覚めを知る八十年も前に、貴国の先達は、近代民主主義の発展に、一石を投じることとなったフランス革命に際し、サンルイとゴレの二つのコロニーからパリの憲法制定議会に対し請願書をたずさえた代表を派遣していたのであります。

 このような伝統を背景に、貴大統領が、自由な選挙の実施と複数政党制の定着に日夜努められてきたことに改めて敬意を表したいと存じます。

 我が国では、一八九〇年の議会制度発足以来、あとわずかで百年を迎えるに至りましたが、我が国の経験からも民主主義は経済開発の条件であると考えられます。

 すなわち、経済開発に不可欠な国民の合意と主体的な参加は民主主義の下で初めて確保できたからであります。私は、このような観点から、民主主義という、開発に必要な条件を備えた貴国の将来は極めて明るいものがあると確信いたしております。

 貴大統領は、本年二月には三選を果たしておられますので、今後ともセネガルにおける民主主義を発展させ、貴国がアフリカにおける国づくりのモデルとなられることを願ってやみません。また、我が国としても、貴国の開発促進のために今後とも可能な限りの支援を続けていく決意であることを明らかにしておきたいと思います。

 大統領閣下

 私はこの八か月の間に、「世界に貢献する日本」を目指し、最近の訪欧、第三回国連軍縮特別総会、トロント・サミット等を通して、平和のための協力、国際文化交流の拡充、政府開発援助の強化を三本柱とする「国際協力構想」を明らかにしてまいりました。

 この方針に基づき、我が国としては、貴国と共に世界平和のため貢献することはもとより、今後、両国間で緊密な連絡をとりあいながら、経済、文化など広い分野にわたる協力関係を築いていきたいと願っているところであります。

 大統領閣下

 今回私は、貴大統領との率直な意見交換を通じて、アフリカの安定と発展のため、他の多くの国々とも力を合わせて今後とも努力しつづけなければならないという確信が一層強固なものとなりました。これからも末長く、アフリカの、そして世界の平和と繁栄のために、互いに協力していこうではありませんか。

 ご列席の皆様

 ではここに、ディウフ大統領閣下のご健康を改めてお祈り申し上げるとともに、セネガル共和国の繁栄、そして日本とセネガルの友好協力関係の開かれた将来を祝い、その発展を願ってここに杯を上げたいと思います。