データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アフリカ難民援助国際会議における愛知首席代表演説

[場所] ジュネーブ
[年月日] 1981年4月10日
[出典] 外交青書26号,394−396頁.
[備考] 
[全文]

議長

私は,はじめに,閣下がアフリカ難民援助国際会議の議長に選出されたことに対し,祝意を表します。私は,閣下の優れた指導の下に今次会議が実り多きものとなることを確信致します。

また,この機会に,アフリカ難民救済のために一貫して努力してこられたワルトハイム国連事務総長閣下をはじめ,国連の諸機関の関係者各位,特に会議の開催にイニシアティブをとったOAUを中心とするアフリカ各国の関係者各位に対し深甚な敬意を表します。

議長

 アフリカの難民問題は,ここ数年来最も悲惨で困難な問題の一つとしてアフリカ大陸の上に重くのしかかってきております。我々は,飢餓と疾病に苦しんでいる数百万のアフリカ難民の悲惨な状況をもはや座視することはできません。この問題は単に一地域の問題としてではなく,国際社会全体が協力して早急に解決を図らなければない問題であります。私は,各国がこのような共通の認識を持ち,人道上の観点に立ってアフリカ難民救済のため,最大限の援助を行うよう希望するものであります。

 我が国は,この難民問題の推移を重大な関心を持って見守ってきましたが,本年2月のOAUオヌー次長を団長とするミッションの訪日により,難民の実情についての詳細な情報に接し同問題に対する認識を一層新たにすることができました。そして,各国と相携えて人道的立場からこの問題の解決のため,我が国の国際的役割りにふさわしい貢献を行いたいとの決意の下で今次会議に参加した次第であります。

議長

 我が国は,アフリカ地域の問題についてはできる限り域外諸国の手をかりることなく,自らの努力によって解決しようとするアフリカ諸国の積極的な姿勢に強い共感をおぼえるものであります。この意味でアフリカ諸国がOAUを中心として行ってきている難民問題解決のための努力,とりわけ1979年5月のアルーシャ会議において強調されているNon−refoulementの原則に基づき政治的,経済的,社会的に多大な負担を伴うにもかかわらず,大量の難民の受け入れに常に積極的姿勢で取組み,必要な援助を与えんとしてきた努力を高く評価するものであります。しかしながら,難民を受け入れているアフリカ諸国が被っている政治,経済,社会等の面における負担は大きく,これら諸国の国造りにとり重大な障害となっているという事実が同時に指摘されなければなりません。更に難民被災国が被っている政治的,経済的,社会的な重荷と混乱はアフリカ諸国,ひいては世界の平和と安定に対する大きな脅威となりつつあると言えましょう。かかる観点から,難民の流入により最大の影響を受けているアフリカの難民被災国に対して,その負担を軽減するための国際的援助が一段と強化される必要があるということも強調されなければなりません。

議長

我が国は,以上述べたような考慮に基づき,1980年度においてソマリア、ウガンダ,カメルーン内の難民を対象に12億円の日本米による緊急食糧援助を実施しました。更にこの他難民を直接対象としたものではないがアフリカの難民被災諸国に対し,無償資金協力約162億円,有償資金協力299億円,他種々の技術協力を実施した。無償資金協力約162億円の内訳は,経済・社会インフラ整備に資する経済開発援助約112億円,穀物・ミルク食糧援助24億円,肥料・農機具等の食糧増産援助26億円であります。

この他,国際機関に対する通常拠出であるIEFR100万ドルを含むWFP640万ドル,ICRC15万ドル,ユニセフ520万ドル等の資金協力を通じて各国国際機関が行っているアフリカ難民援助活動を側面より支援しました。

我が国は事態の深刻さを再認識し,今後次のような協力を行っていく所存であります。

 第1に,我が国は,国連難民高等弁務官等国際機関が数百万にのぼるアフリカ難民の救済のために行っている援助活動を高く評価しており,同高等弁務官のアフリカ難民救済計画に500万ドル拠出する方針であります。

第2に,我が国はアフリカ難民が緊急に必要としている食糧援助としてWFPを通じ約1,500万ドルの援助を実施致します。

第3に,我が国は,人道上の見地からアフリカ難民を受け入れているアフリカ諸国の努力を高く評価するものでありますが,私はアフリカの難民被災国が行っている救済活動を国際社会が挙げて支援すべきものであると考えます。かかる見地から我が国はこれら難民被災国に対する無償資金協力及び技術協力を今後とも積極的に実施していく方針であります。

 この他,我が国は国際機関に対する通常拠出としてIEFR125万ドルを含むWFP700万ドル,ICEC20万ドル,ユニセフ600万ドル等を予定しており,これらを通じて1981年度における各国際機関のアフリカ難民援助活動を側面より支援する予定であります。

議長

 難民問題の根本的解決のためには,難民の流出原因を除去することが何よりも重要であります。こうした基本的認識の下に,我が国は,従来種々の場で紛争対立等が平和的手段を通じて早期にかつ円満に解決されることを希望する旨を繰り返し訴えてきております。アフリカにおいても現在までOAUを中心として難民の流出原因たる紛争等の解決のための努力が払われておりますが,今後ともこの方向でのアフリカ諸国の努力がなお一層強化されんことを希望しております。

議長

 以上,私は,我々が当面する重要な問題についての日本政府の考えと対応について述べました。各国は今回の会議で述べたところを誠実に履行し,もってこの会議をアフリカ難民問題解決のための国際協力の出発点とすべきであります。

 最後に,私はアフリカ難民救済活動における国際協力の必要性を改めて強調するとともに,難民の状態の早急な改善がはかられることを心から希望するものであります。