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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中韓三国間協力に関する行動戦略

[場所] 
[年月日] 2004年11月27日
[出典] 外務省
[備考] 2004年11月27日外相三者委員会により採択、外務省仮訳
[全文]

李肇星中華人民共和国外務大臣、町村信孝日本国外務大臣、潘基文大韓民国外交通商部長官を長とする三者委員会は、

 2003年10月7日、インドネシア・バリの日中韓首脳会議において発出された「日中韓三国間協力に関する共同宣言」(以下、「共同宣言」)を想起し、

 また、2004年6月21日、中国・青島にて開催された三者委員会初会合における決定を想起し、

 「共同宣言」において、三国協力の基本原則として、首脳間で共有された5つの基本的見解を再確認し、

 現在、日中韓の経済的な相互依存の度合いが、三国間の更なる協力のために強固な基盤を提供する嘗て無いレベルにまで発展したことに着目し、

 三国間協力を促進する上で、三国の相互補完性がもたらす利益を活用する重要性を認識し、

 三国間協力は、種々の分野で規模の経済を達成するための効果的な枠組みを提供し得るものであることを認識し、

 我々の共通の関心事項である国境を越える問題への取り組みにおける三国間協力の重要性に着目し、

 三国共同の努力により達成された三国間協力の大きな進展、特に、いくつかの大臣級会合の開催を含む分野及び枠組みの急速な拡大に意を強くし、

 三国間協力の良好な勢いは、様々な分野、特に経済分野におけるグローバリゼーションの波の浸透を含む、地域及び国際環境の急速な変化に適切に対応するために、維持・加速されるべきであることを認識し、

 三国が、三国間協力に関し、その研究、企画、調整及び監督を更に強化することがますます必要になっていることを強調し、

 三国間の緊密かつ包括的な連携が、地域及び世界の平和、安定及び発展と東アジア共同体構築に向けた我々の努力に貢献することを認め、

 ここに決定する。

1.「共同宣言」に基づく未来の三国間協力に向けた指針を提供する「日中韓三国間協力に関する行動戦略」(以下、「行動戦略」)を作成する。(各協力分野の指針は別添の文書に明記した。)

2.「行動戦略」を発展させる具体的措置を含む行動計画を、関係機関も巻き込んで、策定するための可能性を探求する。

3.三者委員会、及び他の三国の大臣会合を通じて、全体的な三国間協力の活動、特に、「行動戦略」に描かれている活動を調整する。

4.「行動戦略」を11月29日に開催予定である三国の首脳会議に対し、承認のために提出する。

1)貿易・投資

(ドーハ開発アジェンダ交渉の促進)

●三国は、WTO一般理事会の決定を、交渉を合意に導く基礎として歓迎しつつ、ドーハ開発アジェンダ交渉の迅速な終了のための三国間協力を強化する。

(税関、運輸及び品質監督・検査・検疫)

●三国の港湾当局は、北東アジア港湾局長会議を引き続き年一回開催し、三国の港湾の発展のため、港湾行政に関する広範な意見交換を行う。また、三国の港湾関係者間の友好関係の増進を図る。

●三国の税関当局は、貿易手続の簡素化を通じ、貿易の円滑化のため適切な多国間のフォーラム(WTO、APEC、ASEM、WCO等)及び二国間(経済パートナーシップ協議、或いは共同委員会、税関当局間の会議等)の枠組みにおいて対話と協力を増進させる。三国の税関当局は、二国間を基本とした税関支援協定の重要性を確認しており、日本と中国は税関支援協定の交渉を更に促進する共通の認識を持っている。

(知的財産権保護)

●三国は、知的財産権保護の重要性を再確認するとともに、日中韓特許庁長官会合における三国間協力をさらに強化し、協議メカニズムと協力を改善するための方策を議論する。

(自由貿易地域)

●三国は、それぞれ三国の研究機関シンクタンクによって現在行われている日中韓の間のあり得べき自由貿易地域の経済的効果についての共同研究を支援する。

(航空)

●三国は、既存の対話と協力を促進させる。

(直接投資)

●三国は、時期を得た方法で三国間の投資に関する法的枠組を探求する協議を行う。

(ビジネス環境の向上)

●三国は、共同研究で合意に達した措置を出来るだけ速やかに実施する。三国は、提言の実施状況をフォローアップし、ビジネスセクターからのインプットを得てビジネス環境改善のための追加的な措置を取るため三国政府間のメカニズムを立ち上げる。進捗状況は、経済局長協議を通じて、毎年行われている閣僚レベルの会議へ報告される。

(経済紛争の解決)

●三国は、既存の三国のメカニズムを通じた情報交換を促進し、事前協議を奨励していく。

2.ICT産業

●三国は、ICT企業及び研究機関の更なる参加を促しつつ、既存のワーキンググループ、フォーラム、連絡体制を通じ、情報通信分野における三国協力を促進する。三国は、2004年7月、第3回日中韓ICT大臣会合で合意されたとおり、ユビキタス・ネットワークの研究に関する新たな協力を実施する。

3.環境保護

●三国は、三カ国環境大臣会合(TEMM)を継続し、また、TEMMプロジェクトが三国間の様々な環境面での協力へと発展・拡大して行くように評価と見直しを行う。また、三国は、環境分野(NOWPAP、NEASPEC、EANET、AFP、黄砂の予防と管理等)における様々な枠組みの中で、三国協力を拡大する。

●三国は、「東アジアモンスーンの季節予報に関する合同会議」を引き続き開催し、気象機関の季節予報担当者、研究機関・大学の研究者のみならず、さらに広範囲な参加者を募ることにより、季節予報の社会的経済的発展の活用強化を目指す。

●三国は、データの交換など、優先して取り組むべき課題について新たに設立された作業グループを中心に、「北東アジア地域海洋観測システム(NEAR?GOOS)」の向上に取り組み、同システムを通じた観測ネットワークの強化を図っていく。

●三国は、特に、「3R(発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)」の促進を通じて、東/東南アジアにおいて健全な循環型社会を作るため、更なる協力の努力を行う。

●三国は、2003年12月に開催された「東アジア海域の持続可能な開発に関する閣僚会議」において採択された「東アジア海域の持続可能な開発戦略(SDS?SEA)」を実行することにより、東アジア海域の持続可能な開発のためのPEMSEA(東アジア海域環境管理パートナーシップ)の枠組みの下、貢献と協力を強化する。

●三国は、2005年3月に、ソウルで開催されるアジア太平洋環境と開発に関する閣僚級会議がアジア太平洋地域の持続的な開発及び北東アジアのサブリージョナルな環境協力の推進力に貴重な貢献をもたらすことを確実にすべく協力する。

4.災害予防・管理

●三国は災害予防の分野における日中韓協力を強化する。

●三国は、2003年3月に日本で開催された第3回世界水フォーラムにおいて、日本のイニシアティブで設立された国際洪水ネットワーク(IFNet)を通じ、洪水被害の減少のため、相互の協力を促進する。

●三国は、ESCAP及びWMOにより設立された台風委員会を通じて、洪水ハザードマップや土砂災害予警報システムに関する技術協力を強化する。

●三国は、三国により創設された地震当局間の三国会議を通じ、地震災害軽減の分野における協力を強化する。

5.エネルギー(エネルギー安全保障の強化)

●三国は、エネルギー効率及び省エネの重要性を認識し、地域全体のエネルギー安全保障の強化における三国間協力を促進する。この観点から、三国は、2004年6月のエネルギー大臣会合のような現在進行中の既存の枠組みを通じて、エネルギー戦略対話を進め、目標を達成するために共に取り組む。

6.金融協力

●三国は、ASEAN+3財務大臣プロセスの下で、地域金融協力の強化や、経済情勢に関する政策対話を行う。

7.科学技術

●三国は、科学技術協力に関する日中韓大臣会合を設立する。また、三国は、共同研究や学術研究交流など、アジアのパートナーシップ強化のための方法に関する研究を開始する予定である。

●三国は、他の当事者と共に、成功裡に実施することを目指し、六極の枠組み内でITERの早期着手のための協力を継続する。

8.観光

●三国の観光当局間で交わされた覚え書きを基礎として、三国のグローバルなレベルにおける、観光の目的地としての知名度を上げるとともに、三国を周遊するツアーなど観光産業を活気づける具体的措置を促進する。

9.漁業資源保存

●三国は、漁業資源の持続可能な利用及び保全のための漁業管理及び計画の効果的かつ具体的な方策を見いだすために、必要に応じ水産当局間の実務レベル会合及びハイレベル会議を開催する。三国は、水産研究機関の当局者同士の三国会議及び民間分野の三国協議機関の設置可能性を模索する。

10.文化・人的交流

(文化交流、人的交流)

●三国は、文化及び人的交流の促進に最大限の努力を行う。

●三国は、三国の元留学生ネットワークの構築、青少年や若手指導者、芸術家の交流の促進等、様々な活動の支援や促進を通じ、文化面での協力及び人的交流を引き続き奨励する。

●三国は、文化産業の協力を行い、日中韓文化コンテンツ産業フォーラムの共催を継続する。

●三国は、「日中韓ジュニア交流競技会」、「日中韓A3サッカー・チャンピオン・カップ」等の様々なスポーツイベントを通じて三国間のスポーツ分野における更なる交流を促進する。

(人事行政)

●三国は、三国の人事行政機関(日本の人事院、中華人民共和国の人事部及び大韓民国の中央人事委員会)の長の会合を通じて、人事行政分野における三国間の緊密な連携と交流を推進する。

(教育)

●三国は、ハイレベル協議の促進を通じて教育分野における協力を強化する。

●三国は、引き続き、高い資質を有する者の養成における協力を奨励する。

●三国は、学位、単位や成績の相互認定を促進する。

●三国は、三国の高等教育機関における学生交流及び高校生間の交流プログラムを引き続き促進する。

(メディア交流)

●三国は、招待プログラムや三国間の相互理解を更に深め、広げるための他の手段を通じてたメディア交流を支援する。

(地方政府間の交流)

●三国は、姉妹都市の創設を促進することにより、地方政府の交流を支援する。

11.国際情勢

三国は、国連システムの代表性、透明性、効率性及び有効性の改善・強化及び向上の観点から、国連総会及び安全保障理事会を含む国連及びその主要機関の改革に関する継続中のプロセスを支持する。

12.アジア地域協力

●三国は、EASG最終報告書の措置の実施を含む、ASEAN、中国、日本及び韓国の協力の促進を通じ、東アジア共同体の設立に貢献する。東アジア共同体を形成するためのコンセプト及びアプローチを作成するために、三国は、更に様々なレベルでの議論を深める。

●三国は、アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易・投資の達成というボゴール目標への取組みを含めた主要な分野において、APECの下での協力を継続する。

●三国は、地域の平和と安定に向けてのASEAN地域フォーラム(ARF)の役割を高上させるために、ARFプロセスの枠組みの中で、交流と協力を促進する。この目的のため、三国はARF安全保障政策会議の発展を引き続き支援し、三国は、ARF専門家/著名人(EEPs)運用ガイドラインに従い、EEPの活動を活性化させるために共に取り組む。

●三国は、ASEMプロセス内で、(1)情報交換を行うことにより、調整国の役割の引き継ぎをシステム化し、また定期的に緊密な協議を行うこと、(2)定期的な局長級会議においてASEMに関し協議すること、によって三国協力を強化する。

●三国は、様々なレベルにおいて地域政策対話を強化する。

●三国は、特に東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラムの枠組みで、三国間協力を含むラテンアメリカ政策に関する日中韓局長級会合を立ち上げる。

●三国は、東アジア地域協力強化のための努力の一部として、メコン地域開発の政策に関する情報を交換する。

●三国は、ACD(アジア協力対話)機会を通じ、アジア諸国の共通の関心事項についての様々な問題の議論を継続する。

13.安全保障

(安全保障)

●三国は、三国間の相互信頼の醸成のため、三国の防衛当局の長の間でより頻繁な接触を持つとともに、実務者レベル及び高級実務者レベルの交流を促進するよう努力する。

(軍縮・不拡散)

●三国は、グローバルな不拡散メカニズム強化のために協力する。

●三国は、民間部門が必要な専門的な技術を得ることを可能にするため、アジア輸出管理政策対話及びアジア輸出管理セミナーを通じ、輸出管理にかかる法執行能力の強化に向けた協力を強化する。

(六者会合)

●三国は、六者会合を通じ、朝鮮半島の平和的な非核化のために緊密な協議及び協力を促進すると共に、各々の核問題及び関連する懸念に対処し、朝鮮半島の平和及び安定の維持のために共に努める。三国は、六者会合の実質的な進展を迅速に達成するために緊密な連携を更に強化する。

14.社会及び国境を越える問題

●三国は、海賊や海上テロ対策のように海上セキュリティ分野において、他のASEAN諸国との相互の協力と協調を向上させる。

●三国は、WHOと協調し、ASEAN、中国、日本、韓国の枠組みの下、主要な感染症の監督及び検査のための地域ネットワークの構築において協力し、三国は、相互の感染状況を迅速に相互に説明を行いかつWHOに報告し、また地域的な感染症の共同予防及び共同管理を実施する。三国は、疫学及び研究技術を交換し、伝染病の予防・治療に関する共同協議メカニズムの設立の可能性を探求していく。

●三国は、国連エイズ特別総会で発出された政治宣言を実施するための三国の義務を再確認し、HIV/AIDSに対する闘いを継続する。