データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20貿易・投資大臣会合の成果文書及び議長総括(G20貿易・投資大臣会合 成果文書・議長サマリー)

[場所] 
[年月日] 2023年8月25日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

成果文書は、議長サマリーに関するパラグラフ32を除き、G20全メンバーが 全会一致で同意した全文で構成されている。

導入

1. 我々、G20貿易・投資大臣は、2023年8月24日及び25日、インドのG20議長国のテーマである「一つの地球・一つの家族・一つの未来(One Earth, One Family, One Future )」の下、ジャイプールで会合を開催した。

2. 我々は、マクロ経済の不安定性、食料不安、グローバル・バリュー・チェーン(GVCs)の混乱など世界的な課題を提起する多次元的危機の真っ只中にいる。我々は、貿易が、国内生産とともに、あらゆる側面において世界の食料安全保障を改善する上で重要な役割を果たしていることに同意する。この危機は、強靱で、持続可能かつ包摂的な経済成長を弱体化させ、経済発展及びグローバルな貿易の成長に対する脅威となっており、特に開発途上国及び中小零細企業(MSMEs)に影響を与えている。我々は、深刻な世界経済の課題に取り組むに当た り、再び協力するとのコミットメントを再確認する。

3. 我々は、世界の貿易・投資の短期的な見通しが不透明であることに留意する。世界貿易機関(WTO)は、2023年の国境を越えた貿易の成長率は1.7%と引き続き低調であると予測している。この観点から、強靱で、多様かつ持続可能なGVCsを育成し、MSMEsのグローバルな貿易への統合を促進し、国境を越えた貿易を促進するための技術の利用を奨励する貿易及び貿易関連投資のイニシアティブは、包摂的で、強靱な成長の見通しを改善する上で重要な役割を果たすことができる。したがって、我々は、グローバルな貿易及び投資を強化するための共同の行動をとり続ける。

成長と繁栄のための貿易

4. 我々は、ルールに基づく、無差別的で、公正で、開かれた、包摂的で、公平で、持続可能なかつ透明性のあるWTOを中核とする多角的貿易体制が、包摂的成長、イノベーション、雇用創出及び持続可能な開発という我々が共有する目標を推進するために不可欠であることを再確認する。山積する課題は、世界貿易の予見可能性及び強靱性に悪影響を及ぼし、貧困及び不平等を悪化させ、持続可能な開発目標の達成に悪影響を及ぼしている。我々は、不必要な混乱を回避し、SDGsを達成するため、国際貿易・投資に関する協力を強化することにコミットしている。我々は、女性のエンパワーメント、ジェンダー平等及びその他の社会経済的側面の平等を促進すること、我々の全ての国民の開発機会を拡大すること等により、包摂的な貿易に向けた進展を加速させる必要性を強調する。我々は、全ての者にとって好ましい貿易・投資環境を醸成するため、公平な競争条件及び公正な競争を引き続き確保する。我々は、貿易・投資が全ての者にとって成長及び繁栄の原動力として機能することを可能にする政策を支持し、それにより、国連2030アジェンダとその三側面における持続可能な開発目標を支持する。

5. 我々は、開発途上国、特に後発開発途上国(LDCs)が、強化された現地での価値創造を通じることも含め、世界貿易に効果的に参加することを可能にするWTOの「貿易のための援助イニシアティブ」の重要性を認識する。我々は、この件について必要な資源を動員する全ての努力を歓迎する。

6. 我々は、WTO協定に従って衛生植物検疫(SPS)措置及び貿易の技術的障害(TBT)措置の透明性を高めるための協力を強化し、技術的要件を策定し遵守する能力を強化するための技術支援及び能力構築を通じて、途上国、特にLDCsを引き続き支援する。

7. 我々は、世界の成長及び雇用の創出におけるサービス貿易の重要性を再確認する。我々は、サービス貿易のための健全で、予見可能かつ透明な国内規制の枠組みの重要性を認識する。さらに、我々は、資格要件、資格の審査に係る手続、技術上の基準並びに免許要件に関連する措置がサービス貿易に対する不必要な障害とならないことを確保することの重要性を想起する。加えて、我々は、G20メンバーによる自由職業サービスに関する相互承認協定(MRAs)に関するベスト・プラクティスの自主的な共有及び「自由職業サービスに関するMRAsに関する議長国のベスト・プラクティス集」の作成提案を歓迎する。

8. 我々は、新型コロナウイルス(Covid-19)のパンデミック以降の世界経済の回復にはばらつきがあることを認識し、将来の世界的な緊急事態やパンデミックに、効果的な方法で、かつ、メンバー国固有のニーズに従って対処するため、多角的貿易体制及びその加盟国の備えを強化する必要性を強調する。

9. 我々は、貿易及び環境政策が、WTO及び多数国間の環境条約と整合的な形 で、相互に補完的であるべきことを想起する。さらに、我々は、共通の環境及び 持続可能な開発の課題に効果的に対処するための多国間協力の不可欠な役割を 認識する。我々は、貿易及び持続可能性に関する更なる議論を行う。

10. 我々は、我々によるWTOのルール及び基本原則の遵守を強調し、その目 的を達成するための我々のコミットメントを再確認し、貿易から得られる利益 が全ての者によって共有されることを確保する必要性を強調し、国際的な貿易・ 投資が、不平等を是正し、より大きな強靱性を促進し、経済的脆弱性に対処する 助けとなり得ることを強調する。我々は、WTOが我々の国民にとって重要な貿 易問題に取り組み、包摂性及び公正な競争を促進する必要性を認識し、それによ りSDGsの達成に貢献する。

WTO改革

11. 我々は、WTOを中核とする多角的貿易体制の不可欠な役割を再確認する。我々はまた、多角的貿易体制が直面している課題を認識する。この観点から、我々は、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定で定められた基本原則及び目的を再確認しつつ、WTOの機能を改善し、多角的貿易体制に対する信頼を強化するために必要なWTO改革に向けて建設的に取り組むことに引き続きコミットする。

12. 我々は、全てのWTO加盟国がWTOの全ての機能を改善するために必要な改革に向けて取り組むことにコミットした第12回WTO閣僚会議(MC12)の成果を評価し、再確認する。我々は、開発課題を含む全ての加盟国の利益に対処しなければならない、加盟国主導の、開かれた、包摂的なかつ透明性のあるプロセスを通じた、WTO改革を追求する必要性を含んだMC12の成果文書の指針を再確認する。我々は、より広範なWTO加盟国に対し、全てのWTO改革の努力を引き続き推進するよう奨励する。我々は、紛争解決制度の改革に関する進行中の議論に留意し、2024年までに全ての加盟国が利用できる、完全なかつよく機能する紛争解決制度の実現を目的とした議論を行うことに引き続きコミットする。

13. 我々は、貿易、投資及び産業に関連する事項の間で交わる事項を含む、多角的貿易体制に影響を与える全ての課題、及び貿易を透明性のある、開かれた、公正で、より包摂的なかつ全ての人々にとってアクセス可能なものとするための努力に関するWTOにおける審議の重要性に留意する。我々は、開発の側面がこのような審議の不可欠な一部であるべきであることを強調する。

14. 我々は、貿易交渉を促進し、世界貿易のルールブックの更新を促進することにより、WTOのルール形成機能を強化することに引き続きコミットし、WTOにおいて進行中の交渉の重要性を強調する。

15. 我々は、第13回WTO閣僚会議(MC13)におけるWTO改革を含む前向きな成果を確保するため、引き続き建設的に取り組む。

強靭なグローバル・バリュー・チェーン(GVCs)のための貿易と投資

16. 過去の議長国の下での作業を踏まえ、我々は、将来のショックに耐え得る強靱で包摂的なGVCsの構築を促進し、また、支持するために、GVCsを包摂的な開発のために機能させるとともに、GVCsの成長を回復するために企業を支援する我々の努力を継続する。我々はまた、強靱なGVCsを維持する上で、自由で、公正なかつ開かれた市場及びルールに基づく多角的貿易体制が重要な役割を果たすことを認識し、GVCsの強靱性を高めるためのメンバーの努力を支援するため、この体制を強化及び改善することの重要性に留意する。

将来のショックに耐える、強靱で持続可能なGVCsの構築

17. GVCsは時間の経過とともに複雑さを増してきた。このことは、依存関係を強め、混乱に対する脆弱性を高めることにつながっている。いくつかのセクターのGVCsは、大きな混乱に迅速かつ効果的に対応する上で、大きな課題に直面している。そのため我々は、開かれた、包摂的で、強靱で、持続可能で、多様なかつ信頼性のあるGVCsの重要性を強調する。我々は、GVCsマッピングに向けた作業の重要性を強調し、マッピングの枠組みは、メンバーがGVCsの中で強靱性を構築する機会を特定することに役立つと確信する。このため、我々は、自主的で拘束力を有さない「G20GVCsマッピングのための包括的な枠組み」(附属書A)を支持する。この観点から、我々は、GVCsに影響を与える措置の透明性を高めるための協力の価値を認識する。

GVCsを持続可能で包摂的な開発のために機能させる

18. 我々は、各国、特に多くの開発途上国によるGVCsへの参加を拡大し、持続可能で包摂的な投資を通じてバリューチェーン上でその位置を上昇させることなどにより、経済成長を促すことができることを認識する。

19. 我々は、GVCsへの参加において、一部の開発途上国と先進国との間に大きなギャップが存在していることに留意する。我々は、GVCsへの参加は、外資系企業と国内企業、特にMSMEsとの間の連携を促進・育成することを含め、グローバルな生産を誘致する国の能力にも一部依存していることを更に認識する。よって、我々は、近年のG20貿易・投資大臣声明を想起し、持続可能な投資を促進する、開かれた、包摂的で、無差別的で、予見可能なかつ透明性のある条件を促進することの重要性を改めて表明する。我々は、持続可能で包摂的なGVCsには投資が必要であると認識し、したがって、この観点から関連する投資の流れを増進する上で、投資円滑化が果たし得る積極的な役割を強調する。

GVCs成長の回復

20. 我々は、高水準のGVCsへの参加を維持し、GVCsの成長を回復させることができる、デジタル・ソリューションを含む解決策を特定することの重要性を強調する。我々は、この目標は、規制協力の強化、能力構築の努力、アクセス可能な情報の提供、ルール及び規則の透明性並びに行政手続の合理化を通じて達成され得ると認識する。

MSMEsのグローバル貿易への統合

21. 我々は、MSMEsが包摂的成長及び開発において中心にあると信じる。しかし、MSMEsは、世界貿易への参加を拡大しようと努力する一方で、不均衡な課題に直面している。我々は、サウジアラビア議長国下における「中小零細企業の国際的競争性増進に関するG20政策指針」、及びイタリア議長国の責任において作成された、G20の拘束力を有さない「中小零細企業政策ツール・キット」を想起し、我々は、MSMEsの情報、金融及び市場へのアクセスを強化する上で、適切な政策及び制度的措置とともに、デジタル・テクノロジー及びテクノロジーに基づくツールが果たす役割及び重要性を認識する。

22. 我々は、特に開発途上国のMSMEsが、ターゲットとする市場に関する全ての関連情報を収集・分析するために必要なリソースを欠いていることが多いことを認識する。この観点から、我々は、MSMEsの情報へのアクセスを強化するための「ジャイプール行動要請」(附属書B)を発出する。我々は、ITCのグローバル・トレード・ヘルプデスクの更新を通じてこれを成功裏に実施することが、貿易関連情報の利用可能性を支援し、MSMEsのグローバル貿易への統合を促進すると確信している。この観点から、G20メンバーは、「ジャイプール行動要請」は、WTO、UNCTAD及びその他のフォーラムを含むMSMEsに関する他の進行中の国際的な取組にも資することに留意する。23. 我々は、また、MSMEsの資金調達のコストと障壁を削減するための革新的な情報技術ソリューションの可能性に留意する。

24. 我々は、世界中の、特に開発途上国のMSMEsが、ビジネス機会の拡大を活用する一方で、特に技術、金融及び市場へのアクセスにおいて大きな障害に直面していることを認識する。この観点から、我々は、電子商取引に関する作業計画に関する閣僚決定に留意する。電子商取引に関するJSIのG20参加国は、このイニシアティブへの全てのWTO加盟国の積極的な参加を奨励・支持し、MC13に向けた有意義な進展を期待する。我々は、JSIに参加していないいくつかのG20メンバーによって、ルール形成への懸念が表明されていることに留意する。MSMEsの急速なデジタル化を可能にするため、我々は、MSMEsのデジタル・プラットフォームへの参入障壁を下げることの重要性を強調する。

貿易のための物流

25. 我々は、国際貿易及び貨物オペレーションの信頼性及び予見可能性、国際的なペーパーレス貿易取引の促進並びに的を絞った投資による物流インフラの発展が、世界の貿易需要を回復させるために不可欠であることを認識する。我々はまた、ルールに基づく多角的貿易体制が貿易のための物流において果たす重要な役割を強調する。

貿易関連文書のデジタル化のためのハイレベル原則

26. 我々は、ペーパーレス貿易の広範な採用が、女性所有の又は女性主導のMSMEsを含めたMSMEsの貿易コストを削減することにより、また、参入障壁を下げることにより、生産性の向上と経済成長を促進すると確信する。電子的な貿易文書が紙のものと同等であると認識されることは、そのような移行を支援する。したがって、我々は、拘束力を有さない「貿易文書の電子化に関するハイレベル原則」(附属書C)を支持する。我々は、G20メンバーとして、この原則の実施に努力し、他の国々にもこの原則を検討するよう奨励する。

物流セクターの強靭性向上のためのG20諸国間の協力

27. 世界貿易の参加者、特にMSMEsは、物流サービスの混乱及びコスト上昇に対して脆弱である。サービスの混乱、コンテナ及びその他の重要な機器の不足並びにコストの変動は、多くの場合操業上及び市場の状況により引き起こされることを認識しつつ、我々は、このような混乱が世界貿易に与える影響を最小化するために、国内での監視を強化することの重要性を認識する。我々は、より安定し、より予見可能な輸送運賃の重要性を認識する。

物流インフラ及びサービスに対する重点的な投資の役割の認識

28. 我々は、サプライチェーンの強靭性を強化し、経済成長を促進し、繁栄を促進するため、質の高い物理的及びデジタルの物流インフラ及びサービスに対する的を絞った投資の重要性を強調する。WTOにおける開発のための投資円滑化に関する共同声明イニシアティブ又は電子商取引に関する共同声明イニシアティブに参加するG20メンバーは、この点において、これらのイニシアティブが果たし得る積極的な役割を強調する。我々は、JSIに参加していない一部のG20メンバーが、JSIや及びJSIを通じたルール形成について表明している懸念に留意する。

29. 我々は、国際貿易のための包摂的な物流の発展の確保における、官民パートナーシップ、革新的な資金調達及び国・地域・多数国間機関の間の協調を促進すること並びに投資を促進することの役割を認識する。

効果的な規制協力

30. 我々は、規制に関する相違とそれに関連する貿易コストを削減し、また、不必要な貿易摩擦を防止し、貿易・投資に関連する措置を監視し、既存の不都合を解決するための効果的な規制対話の重要性を認識する。我々は、WTOのSPS委員会及びTBT委員会における協力を強化することにコミットする。

31. 我々は、2023年にG20標準対話を開催するとの議長国の提案を歓迎する。同対話は、優れた規制慣行や標準といった共通の関心事項について議論するため、G20メンバー、政策立案者、規制当局、標準化団体及びその他のステークホルダーを一堂に会する。このイベントは、世界標準協力(World Standards Cooperation)とのパートナーシップの下、能力構築及びベストプラクティスの共有を促進することを目指し開催される。

地政学的な問題

32. 今年、我々はウクライナにおける戦争が世界経済に更なる悪影響を与えていることも目の当たりにした。この問題に関して議論が行われた。我々は、2022年3月2日の国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土からの完全かつ無条件での撤退を要求している国連総会や、国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどの構成国は、ウクライナでの戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に関するリスクの増大といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁措置について、他の見解や異なる評価があった。G20は安全保障問題を解決するフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する。(注)

33. 平和と安定を守る国際法と多角的体制を擁護することが不可欠である。これには、国連憲章にうたわれている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における民間人及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取組並びに外交及び対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない。

今後の進め方

34. 国際貿易・投資が、強靱なGVCsに効果的に貢献し、MSMEsの世界の貿易への統合に拍車をかけ、世界的な成長及び繁栄を促進し、貿易のための物流を促進できることを確保するため、また、WTO改革を進めるため、我々は、ニューデリー・サミットにおいてこれらの重要な優先事項を検討するよう、首脳に共同提案する。

35. 我々は、インド議長国の協調的な努力及びリーダーシップを賞賛し、ブラジルが議長国を務める2024年のG20及びそれ以降に向けた協力を継続する。

注: パラ32に関し、次の国々が以下の異なる立場を表明した。

1. ロシアは、パラ32はG20のマンデートに合致してしないとの理由で地政学的なパラ32を盛り込むことを拒否し、また、パラ32は議長サマリーであると認識している。ロシアは、他のテキストに同意する。}

2. 中国は、G20貿易投資大臣会合は地政学的な課題を議論するための適切なフォーラムではく、同国は地政学的な内容を含めることを支持しない旨述べた。}