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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20 腐敗対策閣僚会合成果文書及び議長総括

[場所] インド・コルカタ
[年月日] 2023年8月12日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

[成果文書は、パラグラフ1~21およびパラグラフ23~25に関連するものであり、これらはG20代表による全会一致で合意されたものである。議長総括は第22項のみに関するものである。]

1. 我々、腐敗の防止と撲滅に責任を有するG20の閣僚・当局者は、腐敗に対抗するための共同の取組を強化し、国際的な腐敗との闘いにおける模範を示すため、2023年8月12日、インド議長国の下、コルカタでG20腐敗対策閣僚会合を開催した。腐敗は、我々の国と地域社会の経済成長、繁栄と安全保障の構築に深刻な障害となっている。それは、市場競争を阻害し、法の支配を弱体化させ、制度に対する市民の信頼を損ない、その結果、持続可能な開発のための2030アジェンダの実施や17の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に影響を及ぼすものである。G20腐敗対策作業部会(ACWG)のプラットフォームを通じて、国際的な腐敗対策に係る枠組みを強化するための措置を講じるにあたり、我々は、2023年のG20議長国のテーマである「一つの地球、一つの家族、一つの未来」というビジョンに触発されている。

2. 我々は、過去のG20議長国による貢献を認識するとともに、包括的な腐敗対策のアジェンダを策定した、2020年にサウジアラビア議長国の下で開催された1回目の腐敗対策閣僚会合を基礎とする。また、我々は、ACWGの活動を支援する全てのメンバー国、招待国、G20のエンゲージメント・グループ、国際機関、法執行機関の協力ネットワークによる貢献も認識する。

3. 国連腐敗防止条約(UNCAC)が国連総会で採択され、2003年12月9日から11日までメキシコ・メリダで開催されたハイレベル政治会議において加盟国による署名が開放されてから20年目を迎えるに当たり、我々は、同条約に基づく義務を履行することを改めてコミットする。我々は、2021年6月2日から4日まで開催された国連腐敗特別総会を賞賛し、同特別総会で採択された2021年政治宣言に謳われているとおり、腐敗の防止及び撲滅のための課題に効果的に対処し、対策を実施し、国際協力を強化するための我々の共通のコミットメントを再確認する。我々は、UNCAC締約国会議を含む多国間の場において、我々の共通の利益と目的を推進することにコミットする。

4. UNCACに加え、我々は、国際的な腐敗対策に係る枠組みを構成する他の条約及び基準、特に、国際組織犯罪防止条約(UNTOC)、国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD外国公務員贈賄防止条約)及び金融活動作業部会(FATF)の基準並びに他の関連する条約の重要性を引き続き強調する。また、国際的な腐敗対策に係る枠組みを強化するG20諸国によって採択された基準の効果的な促進を確保するための最善の努力を行うこと、及び、それらの効果的な実施を確保することの重要性を再確認する。この文脈において、我々はまた、腐敗対策に係る法執行協力に関するイスラム協力機構加盟国のマッカ・アル・ムカラマー条約の採択(2023年)を歓迎する。我々は、これらのフォーラムや文書が、腐敗や関連する課題に対する国際的な協力と協調を拡大・強化するための将来の取組の基礎となることを認識する。

5. 我々は、ハイレベル原則、ガイド、共通原則、G20腐敗対策行動計画、その他の共有されたコミットメントという形で、G20ACWGによってエンドースされた我々の過去のコミットメントと目標に引き続き導かれる。我々は、説明責任報告書メカニズムを通じて、これらのコミットメントの実施状況を示し、共通の実施上の課題を克服するための好事例を共有し、懸案となっているコミットメントをフォローアップするための努力を倍加することにコミットする。

6. 我々は、1回目の腐敗対策閣僚会合において、国際的な腐敗対策に係る法執行協力促進のための、腐敗対策法執行当局のグローバル・オペレーショナル・ネットワーク(GlobEネットワーク)の創設に向けたリヤド・イニシアティブが立ち上げられ、2020年にG20首脳によって歓迎されたことを想起する。GlobEは、法執行当局間の国際協力メカニズムの強化に向けた我々の決意を明確に示すものである。この文脈において、我々は、GlobEネットワークの運用開始における進展に留意し、GlobEが、国際協力のための他のプラットフォームやネットワークとともに、国際協力を強化し、腐敗との闘いを更に強化する上で大きな役割を果たすことを期待する。

7. 我々は、国連腐敗防止条約締約国会議及びその補助機関、並びに腐敗の防止や闘いのための国際協力を強化するための他の関連する地域的及び国際的なチャンネル、更にUNODC、WBG、OECD、FATF、IMF、エグモント・グループ及びINTERPOLのようなG20ACWGの会合に定期的に参加する国際機関の重要な役割を認識する。

8. 我々は、腐敗防止の取組において、公的部門以外の個人やその他のステークホルダーが果たす役割を認識し、腐敗の防止及び撲滅に向けたマルチステークホルダー・アプローチの採用及び推進に対する我々のコミットメントを再確認する。また、我々は、G20ハイレベル原則、その他のG20のコミットメント及びUNCACのより広範な目的の効果的な実施を支援するための全体的なアプローチの一環として、そのようなステークホルダーのより広範な参加を促進する必要性を認識する。我々は、UNCAC実施レビュー・メカニズムに関連して、自発的なものも含め、我々の腐敗対策の取組に対するこれらのステークホルダーの関与を強化し、これらのステークホルダーによる積極的な参加を促進する必要性を認識する。このような参加を促進するため、我々は、国内法及びそれぞれが適用される国際的な義務に従い、かかる取組のために報復を恐れることなく独立して活動できる能力を含め、条約の目的達成に効果的に貢献するための条件を整えるよう努力する。

9. 我々は、国際的な腐敗防止に係る法執行協力、説明責任と透明性、財産回復、実質的所有者の透明性、セーフ・ヘーブンの拒否、贈収賄の犯罪化、公的・民間部門の清廉性、市民参加と腐敗防止教育、公的部門以外のステークホルダーとの関与の強化といった現在行われている腐敗対策の優先分野に対する、2020年閣僚会合及び腐敗対策行動計画2022-2024において策定されたものを含む、我々の過去のコミットメントを想起し、これらのコミットメントに向けて引き続き取組むことを改めて表明する。

10. 我々は、2020年閣僚会合を含め、UNCAC第16条に沿った外国贈収賄の犯罪化及び外国贈収賄法の執行に向けた我々の行動に関する具体的な努力を示し、継続し、情報を共有するとの我々のコミットメントを想起し、この目標に向けて努力するACWGの努力を歓迎する。我々は、適切な場合には、OECD外国公務員贈賄防止条約への参加を拡大することを期待する。

11. 我々は、腐敗と他の形態の犯罪、特に組織犯罪及びマネー・ローンダリングを含む経済犯罪との関連性について懸念を表明し、腐敗がしばしば他の国際犯罪や不正な資金の流れを助長する可能性があることを認識しつつ、既存の、また、拡大しつつある、あるいは潜在的な関連性に対する理解を深めるとともに、それらへの対応を強化し、妨害し続ける。我々は、腐敗関連犯罪や犯罪収益の実行に関与する者の国境を越えた移動に対抗するため、国内法と合致した捜査及び訴追を行うだけでなく、欠陥の除去を含め、規制体制の強化に努める。国内法及び国際的義務に合致する場合、我々は、腐敗関連犯罪のために捜索されている者の送還を促進するための国際協力を強化することも視野に入れつつ、腐敗関連犯罪を犯した者と、その犯罪から故意に利益を得ているその家族に対し、セーフ・ヘーブン及び国内への入国を拒否するよう取り組む。

12. 我々は、腐敗撲滅のための法執行関連の国際協力及び情報共有の強化に関するG20ハイレベル原則を支持し、国内法及び国際的な義務に従い、効果的、効率的かつ適切な関連情報の共有及び活用を含む、法執行機関(LEA)及びその他の関連当局間の協力の強化に向けて取組むことにコミットする。我々は、必要に応じて、国際的な法執行協力を可能にする効果的な枠組みを確立・維持し、腐敗との闘いにおける支援を提供するための関係当局間の協力のチャンネルを活用することにコミットする。我々は、FATFの基準に沿って、受益者情報を維持・共有するための効果的なメカニズムを確保し、国内法に合致する場合には、自発的な情報共有を検討し、また、新たな技術に関連する課題への対応を含め、法執行当局が他の管轄区域におけるカウンターパートと協力するための能力を向上させるための措置をとることにコミットする。

13. 我々は、腐敗撲滅のための財産回復メカニズムの強化に関するG20ハイレベル原則を支持し、犯罪収益の回収と返還を腐敗対策に係る政策の主要な目的とすることにコミットする。我々は、犯罪収益の適時かつ効果的な特定及び追跡のためのツール、メカニズム及びプロセスが、各国の関連当局に利用可能であり、国内法及び適用される国際的な法的義務に合致した、資産の追跡及び特定に関する要請の作成及び実行のために効果的に利用できるための措置をとる。我々は、中央当局及び関係当局が、捜査共助事前協力を促進するためのフォーカル・ポイントとして機能することが、犯罪収益の効果的な識別及び追跡のための我々の努力を強化することができることを認識する。我々は、犯罪収益と疑われる財産の散逸を防止するため、犯罪収益の適時の制限、凍結又は差押えのために必要な要件を満たすよう協力することを誓約する。我々は、国内の財産回復の枠組みが、効果的な財産回復のための広範な法的権限、ツールや手段の利用の提供を確保することにコミットする。この枠組みには、国内法に合致し、適切な場合には、有罪判決に基づかない没収、及び外国からの没収命令の効果的な執行が含まれる。また、我々は、財産回復を成功させるために、オープンソースやその他の関連情報を効果的に活用すること、及び、司法管轄権を越えた財産回復要請の適時の実行を促進するために、各国当局間の適時かつ効果的な調整と意思疎通を確保することを誓約する。

14. 我々は、腐敗の防止及び撲滅に責任を有する公的機関及び当局の清廉性及び有効性の促進に関するG20ハイレベル原則を支持し、腐敗の防止や撲滅に責任を有する公的機関及び当局が、腐敗の防止及び腐敗との闘いのための明確かつ適切なマンデート及び能力を備えることを確保するための措置をとることにコミットする。我々は、国内の枠組み、法制度及び法律の基本原則に従い、これらの機関が、不当な影響から解放され、効果的にその機能を遂行できるよう、必要な独立性と資源を提供することにコミットする。我々は、これらの機関が開放的で透明性が高く、その職務の遂行において説明責任を維持することを確保することにコミットする。我々は、このような機関や当局が関与する職員その他の者が、倫理規範や行動規範を通じたものを含め、高い水準の清廉性を維持することを確保するとともに、女性の完全かつ平等で有意義な参加とリーダーシップを確保することを目指すことを含め、包摂性を促進し、このような機関や当局間の一貫性を促進する上で役立つ効果的かつ包括的な清廉性の枠組みを確保するための措置を講じる。我々は、これらの機関や当局間の効果的な協力を強化し、新たな課題やリスクに立ち向かう能力を高めるための措置を講じることを誓約する。これらの原則においてなされたコミットメントを実施する我々の決意を示すため、我々は、腐敗対策に責任を有する閣僚及び当局として、公務員の倫理規範又は行動規範の整備に向けた実質的な進捗を示すとともに、関連する場合には、好事例を共有することにコミットする。

15. インド議長国期間中、G20諸国は、腐敗に関する民事及び行政手続きにおける国際協力要請、刑事事件における捜査共助の要請、財産追跡、財産回復を含む、国際協力に関する既存のG20ガイドを更新することを承認した。これにより、G20諸国における腐敗との闘いにおける国際協力の様々な側面や、盗まれた財産の回復に関する既存のリソースの有用性が高まる。

16. 我々は、腐敗関連犯罪に関連する事項における捜査共助に関する我々の進捗の概要を提供する、捜査共助に関するG20ACWG説明責任報告書を歓迎する。我々は、G20腐敗対策作業部会が将来の作業分野を決定する際に、説明責任報告書において特定された課題及び強調された提言を検討する。

17. 我々は、2022年のインドネシア議長国の下、策定された「腐敗対策における監査の役割の強化に関するG20ハイレベル原則」を基礎とする、「腐敗の追跡における監査の役割強化に関する好事例集」を歓迎する。我々は、公共部門における清廉性、説明責任及び透明性を促進することにより、グッド・ガバナンスを強化するため、経験、課題、ベスト・プラクティス及び教訓を共有することを通じた、より効果的な腐敗の防止及び撲滅のために、最高監査機関とその他の関連機関/団体との間の継続的な協力にコミットする。

18. 我々は、電子ガバナンスと情報通信技術(ICT)の活用が、ガバナンスを近代化し、効率を高め、サービス提供を改善することにより、腐敗の手段を減らし、公共部門及び民間部門全体の透明性と説明責任を高めることができることを認識する。我々は、国内法に従い、データ保護とプライバシーの権利に十分配慮しつつ、責任あるICTイノベーションを受け入れ、セクターを超えた協力を可能にし、腐敗の防止と撲滅のための協力とパートナーシップを強化することに引き続きコミットする。

19. 我々は、2023年にインド議長国の下で開始された腐敗のジェンダー的側面に関する議論を歓迎する。我々は、G20メンバー国によるこの問題に関する集団的なイニシアティブの基礎となる、エビデンスに基づく研究の開発に向けて努力する。我々は、それぞれの国内法に沿って、腐敗対策戦略において、ジェンダーの側面に留意し、対応することを目指す。我々は、腐敗の対策や撲滅において、女性の完全かつ平等で有意義な参加とリーダーシップを確保することを求める。

20. 我々は、腐敗に対する国際的な協力に向けた我々の努力を持続させるために、G20以外の諸国、地域グループ及び組織を含む他のステークホルダーとの交流を強化することの重要性を認識する。我々は、G20のエンゲージメント・グループとの交流及び対話の重要性を認識し、ACWGでの議論への継続的な参加を歓迎する。我々は、さらに、他のG20の作業工程と協調し、我々の努力を相乗させることにより、腐敗に対する国際協力への包括的かつ全体的なアプローチを追求するよう努める。

21. 我々は、証拠に基づく信頼できる枠組みを用いることにより、様々な形態を含む腐敗を効果的に測定することの重要性を認識する。我々は、この点において、国際機関やその他のステークホルダーとの関与と協力を継続する。

22. ウクライナにおける戦争は世界経済に更なる悪影響を与えてきている。この問題に関して議論が行われた。我々は、3月2日の国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土からの完全かつ無条件での撤退を要求している国連総会や、国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する。*1* *2*

23. 平和と安定を守る国際法と多国間システムを堅持することが不可欠である。これには、国際連合憲章に謳われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取組、外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない。

今後の方向性

24. 我々は、法的拘束力のある文書を含む、腐敗対策の取組に対する我々の義務とコミットメントを強化・実施することを通じて、腐敗に対するゼロ・トレランスへのコミットメントを新たにしつつ、模範を示し続ける。我々は、この目的のために我々の努力を強化することを期待し、G20ACWGが既に取り上げている問題に引き続き焦点を当てるよう努力する。我々はまた、G20ACWGにおける新たな検討分野を歓迎する。我々は、野心的なG20腐敗対策行動計画2025-27の策定において、これらの取組を示すとともに、既存のコミットメントの実施及びその他の重要なトピックに焦点を当てることを期待する。

25. 我々は、2023年におけるリーダーシップと、腐敗対策閣僚会合を再招集したインド議長国に謝意を表明する。また、我々は、腐敗との闘いを強化するための国際協力を促進するための広範かつ実践的な提言を提供することに焦点を当てた議長国を歓迎し、評価する。今回のG20腐敗対策閣僚会合は、包括的な腐敗対策に係るアジェンダを追求し、ACWGの今後の活動に方向性を与えるというG20フォーラムの強い政治的決意を象徴するものである。我々は、将来のG20議長国に対し、必要に応じて、腐敗対策閣僚会合を再び開催し、2020年の腐敗対策閣僚コミュニケ及び2023年の腐敗対策閣僚会合の成果物と議長総括におけるコミットメントの実施を支援することを求める。

(了)


{*1* ロシアは、パラグラフ22が含まれていることから、この文書が議長総括であると認識し、その他の文言については同意する。ロシアは、ウクライナ情勢、地政学的緊張、制裁について、独自の見解を表明した。ロシアはさらに、G20は安全保障問題を扱うには適切なプラットフォームではないとし、地政学的な内容が含まれることに反対した。}

{*2* 中国は、G20が安全保障問題を扱うのに適したプラットフォームではないとし、地政学的な内容を含めることに反対した。}