データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20新潟農業大臣宣言

[場所] 新潟
[年月日] 2019年5月12日
[出典] 農林水産省,外務省
[備考] 仮訳
[全文]

序文

(1)農業は、古の石器時代から現代の科学の時代にいたるまで、文明とともに発展してきた。今や我々は、我々の食料システムにとって、新たな課題と可能性の時代に突入している。増加する世界の人口に対し、食料安全保障を達成し栄養を改善するため、生産性の向上と、食料の損失・廃棄の削減を含む流通の効率化が必要である。これは、持続可能な天然資源の管理と一層両立し、かつ、持続可能な開発のための2030アジェンダにも示されている「誰一人取り残さない」精神に合致するかたちで達成されるべきである。デジタル化及びイノベーションは、農業・食品バリューチェーンの様々な段階において新しい機会を切り開き、上述した課題の多くの解決に貢献するであろう。しかしながら、これらの機会を活用するためには、農業・食品分野は、物的及び人的資本に対する新たな投資を引きつける必要がある。

(2)世界の農地の約60%及び世界の農産物貿易額の約80%を占める、我々G20の農業大臣は、農業・食品分野の持続性を強化する我々の役割及び責任を強調する。我々は、本日の新潟での議論において、これまでの大臣会合の成果に立脚しつつ、現在の、そして新たに生じつつある課題の解決策を提供し、包摂的成長と持続可能な発展の達成に向けて農業・食品分野のあらゆる潜在能力を現実のものとするため、我々の経験と知識を最大限活用することの重要性を確信した。

1.農業・食品分野の持続可能性に向けたイノベーションの必要性

(3)我々は、農業・食品分野の持続的な生産性向上にとって、イノベーションと知識が極めて重要であることを再確認する。我々は、革新的な解決策の創出に向け、農業界を含む官民の取組が行われていることを認識する。同時に、農業・食品分野における生産性と持続可能性の向上に向けた潜在能力を最大化するためには、これらの解決策が、生産者及び関係者によって、農業・食品以外の分野との協力も含め、円滑かつタイムリーに導入されることが重要であることを再確認する。

(4)我々は、新潟での議論において、特に幅広い問題に解決策を与えることができる情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、ロボット工学といった先端技術の活用及びアクセスを通じて農業のイノベーションを奨励することの重要性を強調する。我々は、農業が、すでに他部門において利用されているものも含め、これらの技術から得られる可能性は極めて大きいことに留意する。データプライバシーのために適用可能な法的枠組みを尊重しつつ、ICTやデジタル技術の持つ潜在能力を広げるため、我々は適切なデジタルインフラ、そして、全ての者が生産及び市場を含むデータへアクセス及び利用するための基盤を整備することの必要性を強調する。これに関し、我々は国際的な協力の促進に向け努力する。我々は、2019年1月の食料・農業グローバルフォーラム(GFFA)において、全てのG20メンバーが参加しているわけではないものの、デジタル技術の利用に関する将来の方向性、可能性及び課題、そして更なる協力に向けた国際的なフォーラムを設置する意図が議論されたことに留意する。加えて、G20により立ち上げられた、農業の生産性及び持続可能性向上のための分析枠組みから得られた教訓にも留意する。

(5)近年の技術の進歩や組織上及び財政上を含むその他の形態のイノベーションにより、農業者が新たな技術及びイノベーションを導入し、責任を持って利用できるようにするためには、より幅広い知識と技能を身につける必要が生じていることを我々は認識する。我々は、新規就農者及び小規模農家を含む全ての農業者が、年齢、性別及び住んでいる場所に関わらず、知識及び技能へアクセスできる環境が必要であることを強調する。我々は、よく訓練された人材が将来に向けた最も重要な財産の一つであることを認識し、人材開発及び全ての人々のための生涯学習に対する非農業部門からの知識及びインプットを奨励する。

(6)女性は農業・食品分野において重要な役割を担っている。我々は、女性がFVCsにおいて対等な貢献者及び受益者になることを妨げている障壁を取り除く道を追求する。特に、イノベーション及び技能訓練への平等なアクセスを通じて女性の地位を向上させることは、農業・食品分野における持続可能な発展及び成長のために重要である。

(7)我々はまた、イノベーション及び技能訓練が、農業・食品分野への新規参入者、特に若者を引きつけるために重要であることを強調する。技能を有する人々が起業のためのスキルを習得し、研究開発の過程により直接的に関与し、金融システムや普及サービスを利用しやすくなれば、農業・食品分野における更なるイノベーションに貢献するであろうと、我々は確信する。我々は、国内外の産学官連携により共同研究開発を奨励することの重要性を再確認する。我々は、農業生態系リビングラボのような、実際の環境において農家、科学者及びその他の関心のあるパートナーが農法及び技術の共同設計、監視及び評価に関するアプローチを歓迎する。

2.農業・食品分野の包摂的かつ持続可能な成長に向けた農業・食品バリューチェーンへの着目の必要性

(8)我々は、ほとんどの国において農家の収入の主な部分は国内市場からもたらされていることに留意しつつ、国内での付加価値を増大させるに当たり、地元、地域及び国際的なFVCsの重要性を強調する。FVCsの発展は、農業者及び農業・食品分野全体の生産性及び価値を高めることに資する。我々は、家族農家や小規模農家、女性、若者を含む全ての関係者の相互利益のために、これら関係者がイノベーション及び知識を最大限活用できるようにすることで、各国それぞれのFVCsが包摂的で公正な形で発展していくことを追求する。この点において、我々は国際連合の家族農業の10年について留意する。

(9)効率性及び生産性を向上させ、特に食料の損失・廃棄を削減するような持続可能なFVCsが発展することは、食料安全保障に向けた闘い、天然資源の有効活用、温室効果ガスの排出削減への貢献につながる。我々は、飢餓及び栄養不良の削減に向け継続的に努力していくことに加え、FVCs全体に渡る食料の損失・廃棄の削減に主導的役割を担うべく努力する。特に、我々は、加工、小売及び消費段階における食料の損失・廃棄を防止するために市民社会及び民間関係者と協力することや、収穫前後の食料損失を削減するための農法及び技術を開発途上国と共有することを奨励する。これに関し、我々は、食料の損失・廃棄の測定方法及び削減に係る技術プラットフォームの取組を歓迎する。さらに、我々は、成長のための栄養(N4G)サミット2020の東京開催に向けた日本の取組を支持する。我々は、付加価値及び農家の収入の向上に貢献するアグロツーリズムや地元産品の販売促進等の取組と同様、FVCsが農村地域の再活性化にも役立つことを認識する。

(10)我々は、開かれた、予見可能かつ透明性のある貿易が、FVCsの確立及び効果的な運用にとって不可欠であることを認識する。これに関し、我々は、2018年のG20貿易・投資大臣会合において、農業・食品グローバルバリューチェーンへの参加支援や付加価値の向上のための、G20による政策立案の選択肢に関する重要な要素について議論が行われたことを歓迎する。我々はまた、農業に関係する貿易ルールを改善するために進行中の国際的な取組を歓迎する。国際的なルールや義務と整合しない措置は、FVCsが効率良く機能することを損なう可能性があることに留意し、我々G20農業大臣は、全ての国に対し、この分野における義務を尊重することを求める。同時に、我々は、FVCs発展のための画一的な戦略はないと確信する。農業・食品分野の効果的かつ持続可能な成長を達成するためには、各国における農業の構造、生産、加工及び流通のハード及びソフトインフラ、生産者団体に期待される役割及び消費者の購買行動を考慮する必要がある。

(11)我々は、異常気象の増加、天然資源の劣化、病害虫の流行及び行き過ぎた価格の乱高下に対しFVCsが強靱であることが重要と強調する。我々は、関係者のリスク管理能力を強化するため、FVCsにおけるリスク評価、リスク管理及びリスクコミュニケーションについての包括的アプローチが重要であることを再確認する。同時に、我々は、食品市場における透明性が、農業者の収入を向上させ、食品価格の乱高下を和らげることを可能にすることを強調する。これに関し、我々は農業市場情報システム(AMIS)、地球観測に関する政府間会合による全球農業モニタリング(GEOGLAM)、農業リスク管理プラットフォーム(PARM)の役割を支持する。

3.世界的課題に対応するための協力及び知識の交換の必要性

(12)我々は、気候変動、再び増加に転じた世界の飢餓及び生物多様性の減少等の世界的課題に直面している。我々は、農業がこれらの課題に対して脆弱である一方、これら課題への対応に貢献できると認識する。我々は、農業大臣として、より持続可能な農業・食品分野に向けた前進を促す持続可能な開発のための世界的枠組みとして、持続可能な開発のための2030アジェンダ及び持続可能な開発目標(SDGs)を支持することを再確認する。特に、我々は、飢餓を終結し、食料安全保障及び栄養改善を達成し、持続可能な農業を推進することを狙いとする。我々は、また、気候変動の緩和及び適応における農業の役割を最大化するよう努める。この点において、G20ハンブルク行動計画またはその他の関連する枠組みが、ガイダンスとなる。

(13)我々は、自然災害及び異常気象は農業・食品分野にしばしば深刻な影響を及ぼし、その持続可能性を損なう可能性があることを認識する。これらのリスクを軽減し、リスクに備え、管理するためのこれまでの取組の重要性を認識しつつ、我々は、農業・食品分野における全ての関係者が最適なリスク管理措置を選択できるような効果的な政策環境が必要であることを強調する。我々は、気候変動や革新的技術の適用を含む政策設定に対し情報を提供する科学的評価の役割の重要性を認識し、持続可能な農業のための気候変動対応技術及び農法の導入・拡大そして適用の加速に向けた研究協力を強化するG20首席農業研究者会議(MACS)の取組を歓迎する。

(14)我々は、動植物の衛生を確保することは、農業・食品分野の成長と持続、食品安全及び食料安全保障、生態系機能及び地球上の全ての生物の維持のための主要な要素の一つであると認識する。我々は、国際獣疫事務局(OIE)を含む国際機関への支援と情報共有の強化及び特にアフリカ豚コレラや高病原性鳥インフルエンザ等の越境性動物疾病に対処するためのOIE基準の実施が重要であることを再確認する。我々はまた、国連総会における2020国際植物防疫年の決議の採択を歓迎し、ヨトウムシのような越境性植物病害虫に対処する研究協力を促進するMACSの取組を歓迎する。我々は、附属文書1に記述されるように、植物の健康の重要性に対する意識の向上を目指す。

(15)我々は、偏りのない多部門によるアプローチを通じて薬剤耐性(AMR)と闘う努力を継続することの重要性を重ねて主張する。我々は、フードチェーン全体に渡り陸生及び水生動物並びに農業を含む「ワンヘルス」の国家行動計画を通じてこの問題に取り組むことの価値を強調し、これに関し2017年及び2018年にG20が行ったコミットメントを想起する。我々は、TripartitePlus(WHO、FAO、OIE及びUNEP)、コーデックス委員会、国際植物防疫条約(IPCC)及び総会を含めた国連関係の他の組織等の分野横断的・学際的な場において進行中の議論に留意する。我々は、「ワンヘルス」アプローチが世界規模で効果的であることを確保する上での農業・食品分野の役割を認識する。

(16)我々は、消費者の健康を保護するため、世界的に食品安全及び栄養を改善し促進していくに当たっての我々の役割及び責任を強調する。我々は、食品安全及び栄養に関する開発途上国のための能力構築と、この分野における協調的な取組を強化することの重要性を再確認する。

(17)我々は、責任ある農業投資の継続的推進が農業・食品分野の持続可能性の向上に重要な役割を果たしていることを考慮する。我々は、適切な場合には、世界食料安全保障委員会(CFS)の国家の食料安全保障の文脈における土地所有、漁業と森林に関する責任あるガバナンスのための任意ガイドラインや、CFSの農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則、責任ある農業サプライチェーンのためのOECD-FAOガイダンスを含む、国際的に受け入れられている原則や優良事例の導入及び適用を支持する。我々は、これまでの大臣コミュニケや首脳宣言に沿って、これらの取組の促進における我々の役割を再確認する。

4.世界的なアウトリーチ活動とストックテイクの必要性

(18)我々は、農業・食品分野における上述の課題への対応において、附属文書2にまとめられたものを含む優良事例の交換から学ぶことが重要であると認識する。我々は、この会合で蓄積された成果と知識が、よい参考事例となり、G20の内外の全ての関係者に寄与することを期待する。我々は、G20農業大臣によって立ち上げられたイニシアティブのストックテイクを歓迎する。その成果は、附属文書3に記載されている。我々は、全てのG20メンバーに対し、これらイニシアティブの継続的な活動のため、必要に応じたタイムリーかつ信頼性の高い情報を提供するとともに、AMISのように特に必要とされる場合は、自発的な財政貢献を含む積極的な支援を継続することを求める。

5.未来の協力に向けて

(19)我々は、農業・食品分野が直面している課題に対し、これまで以上に、全ての関係者が地域、国内、国際的に共同して取り組むことにより、対処しなければならないと再確認する。我々は、農業・食品分野の将来的な繁栄及び持続可能性を目指すに当たり、産業界、市民社会、学術界、政策立案者及び国際機関を含む全ての関係者の協力を奨励する。我々G20農業大臣は、この会合が提供する議論の機会を活用し、来年も議長国サウジアラビアのもとで我々の協力を続ける意思を確認する。