データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

[場所] ロシア・モスクワ
[年月日] 2013年2月16日
[出典] 財務省
[備考] 
[全文]

1.我々、G20財務大臣・中央銀行総裁は、世界経済の現在の課題を議論し、我々の首脳によって合意された政策アジェンダを進めるために、会合した。世界経済及び強固で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20フレームワーク

2.欧州・米国・日本における重要な政策措置と、中国経済の強靭さのおかげで、世界経済に対するテール・リスクは後退し、金融市場の状況は改善した。しかし、我々は、重要なリスクが残っており、世界経済の成長は未だ弱過ぎ、失業率は多くの国々において受け入れ難いほど高いままであることを認識している。我々は、弱い世界経済のパフォーマンスは、政策の不確実性、民間のデレバレッジ、財政による抑制、傷ついた信用仲介機能、及び不完全な世界需要のリバランスによるものであることに合意する。このような状況下では、ユーロ圏においてより強固な経済・通貨統合の構築を継続し、米国と日本においては財政状況に関する不確実性を解消し、そして大きな一次産品生産者の特別な環境を考慮しつつ黒字国において国内の成長源を強化するための、継続的な努力が必要である。

3.世界経済の弱さに対処するためには、野心的な改革と協調した政策が、強固で持続可能かつ均衡ある成長を達成し、信頼を回復する鍵となる。我々は、より強靭な金融システムを構築するための金融改革のアジェンダや、成長を引き上げるための野心的な構造改革を含む、我々のこれまでのコミットメントを引き続き実施する。我々は、持続可能な財政を確保することにコミットしている。先進国は、ロスカボスで我々の首脳が行ったコミットメントに沿って、信頼に足る中期的な財政戦略をサンクトペテルブルグ・サミットまでに策定する。信頼に足る中期的な財政健全化計画が策定され、短期の経済状況や財政余地の存在を考慮に入れつつ実施される。我々は、必要に応じ経済への信用の流れを改善する措置を支持する。金融政策は各々のマンデートに従って、国内の物価安定に向けられるとともに、経済の回復を引き続き支援するべきである。我々は、国内目的のために実施される政策が他の国々に与える負の波及効果をモニターし、最小化することにコミットする。我々はフレームワーク作業部会における波及効果に関する現在進行中の作業の結果に期待する。

4.我々は、構造改革のコミットメントの実施に関する評価プロセスを採用しており、これは、我々の将来の構造政策の方向性に情報を与える。

5.我々は、世界的な不均衡の持続的な削減を達成するために協力し、国内貯蓄に影響を与え生産性を改善する構造改革を追求するという、我々のコミットメントを再確認する。我々は、根底にあるファンダメンタルズを反映するため、より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性に一層迅速に移行し、為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避け、そしてこの観点から、共に成長できるよう互いにより緊密に協働する、という我々のコミットメントを再確認する。我々は、資金フローの過度の変動及び為替レートの無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。我々は、通貨の競争的な切り下げを回避する。我々は、競争力のために為替レートを目的とはせず、あらゆる形態の保護主義に対抗し、我々の開かれた市場を維持する。

投資のための長期ファイナンス

6.我々は、インフラを含む、投資のための長期ファイナンスは、全ての国々における経済成長と雇用創出にとって主要な貢献要素であると認識する。我々は、国際機関が我々の要請に基づき作成した分析レポートを歓迎する。この分析レポートは、その利用可能性を含め、長期のファイナンスに影響を与える要素を評価しており、将来のG20の作業に健全な基礎を提供するであろう。レポートによれば、長期投資資金の利用可能性と構成は、様々な要素により影響を受けており、その影響は借り手やセクターによって異なる。また、レポートは、現地通貨建て債券市場、国内資本市場、機関投資家を含む長期資金のいくつかの供給源には、投資のために、より大きな役割を果たす余地がある、としている。同時に、各国特有の要因が長期資金へのアクセスに影響を与えており、従って各国が長期資金を呼び込むためにできることはたくさんある。

7.強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の目標を支援するために長期ファイナンスが果たす非常に重要な役割を認識し、我々は、投資のためのファイナンスに関する新たなスタディ・グループを設立することに合意した。本グループは、民間部門・公的部門の長期ファイナンスの供給源の役割を考慮しつつ、分析レポートで提起されている論点の検討を進め、G20の作業計画を決定するために、世界銀行、OECD、IMF、FSB、国連、UNCTAD及び他の関係する国際機関とともに緊密に作業を行う。

8.この作業を支援するため、我々は、OECDに対し、他の関連する国際機関とともに、長期の投資ファイナンスを促すために用いられる政府や市場ベースの様々な手法・インセンティブに関する分析、及び年金資金の長期投資に関する調査レポートを提供するように求める。我々はまた、「機関投資家による長期投資ファイナンスに関するハイレベル原則」に関するOECDのレポートをサンクトペテルブルグ・サミットまでに期待する。FSBは、規制改革が長期資金の供給にもたらしうる影響を引き続きモニターする。我々は開発金融機関に対して、貸出能力を最適化させ、また、PPPによるものを含む他の供給源からの長期ファイナンスの動員においてこれらの機関が果たす触媒的な役割を高めるための、手法を検討することを求めている。我々は世界銀行と他の関連する国際機関に対し、インフラ・プロジェクトの準備や設計の手続きにおける弱さに対応するため一層の努力を払うとともに、既存のG20の作業を必要に応じて活用しつつ、これらの課題への対応を提言することを奨励する。我々はまた、開発金融機関に対して、国家開発銀行との相互の関わりについての既存の方法を分析することを求める。

9.厚みのある安定した地域資本市場は、長期ファイナンスの信頼できる供給源として、非常に重要な役割を引き続き果たしている。我々は、現地通貨建て債券市場の発展を支援するための、G20行動計画の実施に関する世界銀行と他の国際機関による進行中の作業を歓迎する。我々は、2013年7月までの行動計画の完全な実施と進捗報告書を期待する。我々は、国際機関に対し、各国の経験や地域のイニシアチブを考慮しつつ、金融の深化において、現地通貨建て債券市場が如何にしてより大きな役割を果たしうるかついて検討することを依頼する。

政府借入と公的債務の持続可能性

10.公的セクターのバランスシートを強化するという我々の目標を追求するため、公的債務の持続可能性に対するリスクをより良く評価するための作業が必要である。これは、特に、国ごとの状況を考慮に入れ、公的セクターの報告の透明性と比較可能性を検討し、金融セクターの脆弱性に起因する公的債務への波及効果をモニターすることを含む。我々は、IMFと世界銀行が各々のマンデートに従ってこれらの問題に関して進めている作業の更新を期待する。

11.公的債務管理の現在の慣行もまた、注目に値する。従って我々は、IMFと世界銀行に対し、効果的な公的債務管理に関する現存のガイドライン、すなわち「公的債務管理のためのガイドライン」を、これらが現時点でもなお有用であることを確保するために再検討することを求める。我々はまた、公的債務を起債、管理、償還するための優れた慣行を評価するという、OECDによる進行中の作業に留意する。

国際金融アーキテクチャー

12.我々は、二国間取極を通じてIMFに資金を供給するとのロスカボスにおけるG20首脳のコミットメントに関し、IMF世銀東京総会以降の進捗を歓迎し、IMFと貸出国に対し、未締結の取極を完結させることを求める。

13.我々は、IMFの信頼性、正当性、及び有効性を高めることの重要性を強調する。我々は、2010年のIMFクォータ・ガバナンス改革を批准することが緊急に必要であることを再確認する。我々は、新たなクォータ計算式に係る最終的な合意に到達するプロセスを、第15次クォータ見直しに統合するとの、IMF理事会の決定に留意する。我々は、IMFの全加盟国とともに、ソウル・サミットで合意された通り、クォータ計算式に関する合意を達成し、2014年1月までにクォータ見直しを完了させることにコミットする。我々は、9月のサンクトペテルブルグ・サミット、及びそれに続く2013年10月のG20大臣会合とIMFC会合において、主要な要素に関するものも含め、これらの目標に向けた継続的な進歩を確保することを非常に重視している。我々は、計算式に基づくクォータ配分が、ダイナミックな新興市場及び途上国の力強いGDPの成長によって大きく変化している、IMF加盟国が世界経済に占める相対的な重みをより良く反映すべきとの、従来のコミットメントを再確認する。我々は、このクォータ見直しの一部として、IMFに加盟している最貧国の声及び代表性を擁護する必要性を再確認する。

14.カンヌ・サミットにおける首脳宣言に沿って、我々はグローバルな流動性指標に関するIMFとBISの現在進行中の作業に留意し、我々の次回の会合においてこの作業を評価する。我々は、このBISの調査の普及を求め、IMFにグローバルな流動性に関する事項をサーベイランスに織り込む可能性を探るよう求める。

15.ソウル、カンヌ及びロスカボスにおいて、我々の首脳は、効果的な金融セーフティ・ネットの重要性を認識した。地域金融取極(RFAs)が果たす重要な役割を踏まえ、我々は、我々が2011年に合意した協力のための原則を基に、RFAs相互の間のより効果的な対話、及びIMFとRFAsとの間の協力・相互補完の強化の余地を評価する。我々は、この論点についてIMFにおいて進行中の作業に留意し、サンクトペテルブルグでの首脳会議までに更なる政策提言についてのあり得る選択肢を評価するため、我々の次回の会合でその作業についてのアップデートを期待する。

金融規制

16.我々は、国際決済銀行(BIS)との強固なつながりを維持しながら、より大きな財政上の自立性、金融規制政策の策定及び実施を調整するための組織基盤を強化する、FSBの法人化を歓迎する。FSBは、2014年末までに完了することを目途に代表構造の見直しを検討している。

17.我々は、国際的に合意された金融セクター改革の完全、適時かつ一貫した実施に引き続きコミットする。我々は、全ての国・地域が、合意されたバーゼルⅢ改革を可能な限り迅速に実施することを強く促す。我々は、4月の会合における、バーゼルⅢの枠組み、FSBによる実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性、及びOTCデリバティブ市場改革の実施に関する進捗報告、並びに9月のサンクトペテルブルク・サミットにおける、全ての改革の実施に関する包括的な進捗報告を期待する。我々は、バーゼル委員会がリスク調整資産の比較可能性に更に焦点を当てることを歓迎し、7月の会合までのアップデートを期待する。我々は、全てのグローバルなシステム上重要な金融機関の破綻処理が可能であることを確保し、国際的に活動する銀行の母国と現地の破綻処理当局が効果的に協調する上での全ての障害に迅速に対処するために必要な措置を取るという我々のコミットメントを再確認する。全てのグローバルなシステム上重要な銀行に対する実用的な破綻処理計画は、2013年6月末までに策定されるべきである。我々は、FSBに対し、「大きくて潰せない」問題の終結に向けた進捗の評価について、サンクトペテルブルク・サミットまでに報告することを要請する。

18.我々は、全ての国・地域が合意されたOTCデリバティブ改革を実行に移すために、必要な法規制上の枠組みの整備を迅速に完了すべきであることを強調する。我々は、全ての加盟国がこれらの改革を完遂するためにコミットした行動についてサミットに報告するというFSBの計画を歓迎する。FSBは、OTCデリバティブ改革の実施モニタリングを引き続き調整する。我々は、国内の規制枠組みが域外との抵触、不整合、ギャップ及び重複を回避することを確保するために、全ての国・地域が引き続き協力していくことを強く奨励する。我々は、OTCデリバティブ市場の規制に関する複数の当局による2012年12月の声明、特にクロスボーダー規制の問題を考慮する際のアプローチに関する合意に留意する。我々はまた、店頭デリバティブ規制改革のマクロ経済上の影響評価の結果を期待する。グローバルな取引主体識別子(LEI)システムの規制監視委員会(ROC)が先月設立されたところであり、我々は、グローバルなシステムを2013年3月に立ち上げるためにLEI財団が設立されることを期待する。

19.我々は、シャドーバンキングセクターに対する規制及び監視を強化する意思を再確認する。我々は、これまでの会計基準のコンバージェンスの遅れへの懸念に留意し、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)に対し、質の高い単一の基準を達成するための主要な未決着のプロジェクトに関する作業を2013年末までに最終化することを要請する。我々は、外部格付への依存低減のためのFSB行程表を当局が実施していくことを支援するためにFSBが近く予定するピアレビューを歓迎するとともに、基準設定主体に対し、この分野で更なる作業を行うことを要請する。我々はまた、格付市場における透明性の向上及び競争の強化に関する証券監督者国際機構(IOSCO)の報告書及びこれらの課題に関する更なる作業を期待する。我々はまた、本年、原則及良き慣行が広汎に採用されることの促進を含む、現在のFSBのアジェンダの下で調整される金融指標の監視及びガバナンスの枠組みの改善に向けた措置の更なる進捗を期待するとともに、サンクトペテルブルク・サミットでの我々の首脳に対する報告を要請する。我々は、合意された改革を実施する我々のコミットメントを侵害せずに、必要に応じて、金融規制改革から生じる新興市場・途上国への重大な意図せざる影響を監視していくというFSBの意向を歓迎する。

20.税の分野では、我々は税源浸食と利益移転を扱ったOECDの報告を歓迎し、財政の持続可能性の重要な部分は、我々の歳入基盤の確保であるということを認識する。我々は税源浸食と利益移転に対処するための手法を策定し、必要な共同行動をとることを決意しており、OECDが7月に我々に示す包括的な行動計画に期待する。我々は、全ての国・地域が多国間執行共助条約に署名するよう強く奨励する。我々は透明性及び情報交換に関するグローバル・フォーラムに対し、情報交換についての国際的な基準の実施を継続的に評価し監視することに引き続き素早い進歩をとげることを奨励し、2013年4月までに進捗報告書を期待する。我々は、適切な場合には自動的な情報交換の実践を拡大するというコミットメントを再確認し、この分野での最近の進捗を称賛する。我々はその領域における多国間の実施についてのOECD の分析を支持する。

21.我々は、金融活動作業部会(FATF)による全ての目的の追及の継続、とりわけ、戦略的なマネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)上問題を有する高リスク国の特定及び監視の継続に引き続きコミットし、奨励する。我々は、FATF評価プロセスの2013年における完成を期待し、事業体の受益者を識別することを含む、FATFによる継続的な取組を支持する。

22.健全性の分野において、我々は、国際的な規制・監督上の協力及び情報交換の基準の遵守の向上を促すために、FSBにおける更なる進捗を要請する。

金融包摂

23.我々は、金融包摂に関するグローバル・パートナーシップ(GPFI)が達成した、金融包摂作業計画の実施における進捗を歓迎し、我々の7月の会合での進捗報告を期待する。我々は、実施パートナーとともに、GPFIを通じて金融包摂に関するG20ピアラーニング・プログラムの実施を支援するというコミットメントを再確認し、包括的な金融包摂支援枠組みを設置するという、世界銀行と開発機関のイニシアチブに留意する。我々は、2013年7月の我々の会合までに、GPFIが、金融包摂アライアンス、CGAP、IFC、OECD、世界銀行からの支援を受けて、革新的なアプローチ、商品の品質、金融リテラシーと消費者保護を含むようG20金融包摂基本指標集を拡張することを期待する。我々は、サンクトぺテルブルグ・サミットまでに、GPFI、OECD/INFE、世界銀行により、女性及び若者が金融サービス及び金融教育へのアクセスを得ることに対する障壁に関する、政策提言を含む進捗報告書が提出されることを期待する。

24.我々は、金融リテラシーの測定及び金融教育プログラムの評価のための実践的な手法の策定について、OECD/金融教育に関する国際ネットワーク(INFE)及び世界銀行が着手している作業を歓迎するとともに、7月の我々の会合までの、金融教育のための国家戦略に関する進捗報告を期待する。我々は、G20/OECD作業部会によって着手された、金融消費者保護に関するG20ハイレベル原則の実施を支援するための作業に関する、サンクトペテルブルク・サミットまでのアップデート報告を期待する。我々は、国際金融消費者保護ネットワーク(FinCoNet)のメンバーにより実施された作業及び世界銀行の金融消費者保護に関するグローバル・サーベイに基づく、監督当局を支援するための消費者保護監督手法及びベストプラクティスに関するFinCoNetによる状況報告書を待っている。

エネルギー、一次産品、気候ファイナンス

25.我々は、国際的な商品・エネルギー市場の透明性を高め、機能の向上を促進することに対するG20の貢献に関する進捗について、首脳への報告書を作成する。我々はIEA、IEF、OPECによる、ガス及び石炭の国際的な市場の透明性を向上させるためにG20諸国が取りうる実践的な手段についての報告書、及びPRAに対する原則の実施についてのIOSCOの報告書、そしてIOSCOがIEA、IEF、OPECとともに行った、PRAに対する原則が現物市場に与える影響の評価を期待する。我々は引き続き、データ・イニシアティブ共同機構(JODI)石油データベースの適時性、完全性及び信頼性の改善に向けて作業を行い、今年の進捗報告レポートを期待する。我々は、JODIガスデータベースに関する取組みの進捗を歓迎し、2013年の立ち上げを期待する。

26.我々は、グリーン成長と持続可能な開発政策を我々の構造改革アジェンダに組み入れる取り組みについて、本年自発的に自己報告を行う。我々は、最貧困層への的を絞った支援を提供しつつ、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を中期的に合理化し段階的に廃止することに向けた進捗を、我々の首脳に報告する。我々は、広範な参加を奨励する観点から、そのような化石燃料補助金の自発的なピア・レビュー・プロセスに関する方法論の提言を策定し、それを実施する。我々は、その結果をサンクトペテルブルグにて首脳に報告する。我々は、気候ファイナンス分野の基本的な論点に関して、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の目的、規定、原則を考慮しつつ、自発的な知識と経験共有を通じて、G20諸国の間でより良い理解ができるよう引き続き取り組み、2013年に首脳に報告する。