データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ロスカボス成長と雇用のアクションプラン

[場所] ロスカボス
[年月日] 2012年6月
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 世界経済におけるリスクと不確実性が著しく高まっている。我々の市民全てにとっての雇用の見通しを向上させるため,我々全体としての焦点は,現在,需要,成長,信認,金融の安定を強化することに当てられている。我々は,我々の強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みを通じてそれらの目標を達成するための世界的に調整された経済計画に,本日合意した。この計画は,カンヌ・アクションプランを組み入れ拡張するものであり,より強固で息の長い回復を実現するための我々の取組みを大幅に強化する。「ロスカボス成長と雇用のアクションプラン」は,協力と調整がより良い経済的な成果をもたらすとの前提からスタートしている。我々は,以下のようなコミットメントを果たすための強固かつ断固たる行動をとるとの我々のコミットメントにおいて,結束している。

 最も重大なリスクであると認識されるものに照らし,我々の政策行動は以下の点に焦点を当てるべきであることに我々は合意した。

・ユーロ圏における政府債務と銀行の危機への断固たる対処。ユーロ圏の当局は,状況の安定の助けとなる,多くの有意義かつ重要な行動をとってきたが,重大なリスクが残っており,更なる行動が必要である。

・デレバレッジの潜在的な影響への対処を含む,金融の安定の確保。

・需要と経済成長の増進と,多くの先進国において特に若年者の間で継続して高くかつ上昇している失業の減少。

・各国固有の事情を勘案しつつ,先進国における財政健全化のペースが回復の後押しにとって適切となることの確保,及び,トロント・コミットメントに沿った,中期的な財政の持続可能性に関する懸念への対処。

・余剰生産能力が限られ,備蓄がそれほど多くないという環境における,地政学的リスクが供給主導の持続的な石油価格の急騰をもたらしうる可能性への対処。

・新興国が,世界的な回復と良質な雇用創出に貢献する,強固で持続可能な成長の道筋を維持することの確保。

・保護主義への対抗と開かれた市場の維持。

 我々がこれらのリスクに成功裏に対処する能力は,財政赤字を持つ国では公的部門から民間部門へ,経常黒字国では対外部門から国内部門への需要の移転を奨励すること等により,安定と成長を促進し,進行中の不均衡を減少させるためのより強固な行動をとる我々の能力に影響される。我々は,対内的及び対外的な不均衡の両方を減少させるための取組みを強化する必要があることに,完全に合意している。

 我々がカンヌで合意した通り,我々は,強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の共通の目標へ向けたコミットメントの実現の進捗を評価するための,「ロスカボス・アカウンタビリティ評価の枠組み」(付属文書A)を確立した。この枠組みは,3つの柱に基づいている。第一に,評価を確かなものとするための指針は,次の通りである:各国主導であること,「遵守,さもなくば説明」とのアプローチに基づくこと,具体的であること,メンバー国間で一貫していること,公平であること,オープンかつ透明であること。第二に,メンバー国の政策についてのレビューと議論を含むピア・レビューのプロセス,及び,国際機関からのより詳細な評価である。最後に,評価の成果を要約し,毎年首脳に報告することである。

 我々は,この枠組みの下での我々の最初の評価(付属文書B)を行った。我々は,カンヌ・アクションプランで示された,回復を促進し強固な成長と雇用創出の基盤を築くためのコミットメントは,引き続き概ね適切であることに合意した。しかしながら,最近のリスクの高まりにより,カンヌ・コミットメントを実施し,これを増強することの重要性は高まった。カンヌ・アクションプランのいくつかの要素において良い進展が見られたが,複数の分野において更なる進展が必要である。我々は,進行中のアカウンタビリティ評価を実施し,ロスカボス・アカウンタビリティ評価の枠組みに示されているように,進捗を評価するための指標の検証を向上させる。

 ロスカボス・アクションプランは,以下に示されている通り,短期的及び中期的な影響をもたらす政策措置の組み合わせを含む。これは,政策への信認の強化を確保し,特定の分野への対応における各国の異なる能力を反映するためである。

短期的なリスクの対処,コンフィデンスの回復,成長の促進

 この計画の中心には,リスクを最小化し成長を促進するための最も強固な行動は,財政政策と金融政策の行動に支えられた,我々の金融システムの安定と適切な機能を促進する行動であるとの共通の合意がある。

 短期的なリスクに対処し,コンフィデンスを促進し,経済と金融の安定を確保し,経済の回復を強化するため,我々は以下の行動に合意した。

1. G20のうちユーロ圏のメンバー国は,ユーロ圏の一体性及び安定性を守り,金融市場の機能を改善し,国家と銀行の間のフィードバックのつながりを断ち切るためのすべての必要な措置をとる。

・我々は,前回のサミット以降にユーロ圏によって採られた,成長を支え,金融の安定性を確保し,財政責任を促進するための重要な行動を歓迎する。この文脈において,我々は,スペインによる銀行システムの資本強化の計画及びスペインの金融再編当局を支援するとのユーログループの発表を歓迎する。財政協定の採択及びその継続的な実施は,成長促進策及び構造改革とともに,財政及び経済の更なる統合に向けた重要なステップである。欧州安定メカニズムを早急に確立することは,欧州のファイアーウォールの相当な強化となる。

・我々は,経済通貨統合の完成に向かって前進するユーロ圏の行動を完全に支持する。この目的に向けて,我々は,銀行の監督,破綻処理及び資本強化,並びに預金保険を含むより統合された金融アーキテクチャーに向けた具体的なステップを検討するとの意向を支持する。

・ユーロ圏のメンバー国は,赤字国においては競争力を強化するための構造改革,黒字国においては需要と成長を促進するための構造改革を通じて,ユーロ圏の域内調整を促進する。

・G20のうちの欧州連合のメンバー国は,構造的な基準に基づいて評価されることとなる財政再建を実施するとの堅固なコミットメントを維持しつつ,欧州単一市場の完成や,EIB,試験的なプロジェクト債,構造基金・結束基金といった欧州の金融手段のより的を絞った投資,雇用,成長及び競争力のためのより良い活用を通じたものを含め,成長を支えるための措置を迅速に前進させることを決意する。

2. 我々の全ての国における財政政策は,財政の持続可能性を促進し政策の信認を強化する方法で,回復の強化と維持に焦点を当てる。

・先進国は,総じて,2010年から2013年の間に赤字を半減するとの短期的なコミットメントを達成する道筋に乗っている。先進国は,信頼に足る中期的な財政健全化計画を実施することにより,中期的なトロント・コミットメントを達成することにコミットしている。

・需要と回復を支える成長志向の政策を追求する必要性を認識しつつ,米国は,財政が持続可能な長期的軌道に乗っていることを確保することによって財政健全化のペースを測り,これにより,2013年の急激な財政収縮が避けられる。

・日本は,復興支出を可能な限り迅速に実施する。

・オーストラリア,ブラジル,カナダ,中国,ドイツ,インドネシア,韓国,英国,米国は,各国の状況と現在の需要の状況を考慮しつつ,財政の自動安定化機能の発動を許容する。

・イタリアは,成長を強化する措置とともに,財政健全化を前倒しするとのアジェンダを実行する。

・スペインにおける財政政策は,引き続き健全化に焦点を当てる。

3. 金融政策は,価格の安定の維持と世界経済の回復の持続に焦点を当てる。この文脈において,先進国の中央銀行がとる行動は,世界経済の成長と安定の促進に重要な役割を果たしてきた。中央銀行は引き続き警戒し,目的を達成するため適切に行動をとる。

4. 我々の中央銀行,金融市場監督当局,財務省は,引き続き緊密に対話し,不確実性が高まっているこの時期において,金融の安定を維持するためFSBを通じて協力する。我々は,信用チャネルを保護し世界的な支払・決済システムの健全性を保護するための適切な行動をとりつつ,中期的に我々の金融システムを守るために必要な金融セクターの制度改革のモメンタムを維持する。

5. 仮に経済状況が更に大幅に悪化した場合,アルゼンチン,オーストラリア,ブラジル,カナダ,中国,ドイツ,韓国,ロシア,米国は,各国の状況とコミットメントを考慮しつつ,内需を支えるための更なる措置を調整し,実施する用意がある。

6. 新興国は,価格の安定を確保しつつ,内需を支えるためにマクロ経済政策を調整する。適切な時期と場合には,マクロ健全性措置もまた,国内の信用の伸びと流動性を管理する助けとして用いられる。

7. 地政学的リスクが供給主導の石油価格の急騰をもたらしうることを認識しつつ,余剰生産能力が限られ,備蓄がそれほど多くないという環境において,メンバー国は,必要な場合,追加的な行動をとる用意がある。我々は,十分な供給を確保するとの産油国のコミットメントを歓迎する。特に,我々は,サウジアラビアが,必要な場合,1日当たり250万バレル以上の現在の余剰生産能力を動員する用意があることを歓迎する。

8. 全ての政策分野において,我々は,国内的な目的のために実施する政策が他国に与える負のスピルオーバーを最小化することにコミットする。我々は,強固で安定した国際金融システムが我々の共有する利益であること,及び,市場で決定される為替レートに対する我々の支持を再確認する。我々は,為替レートの過度の変動及び無秩序な動きは,経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。

中期的な成長のための基盤の強化

 全てのメンバー国は,優先分野に焦点を当てつつ,コンフィデンスを高め,世界的な生産を引き上げ,雇用を創出するための,カンヌで策定された6点の計画に立脚することに合意する。

1. 先進国は,自国の財政が持続可能な道筋にあることを確保する。

・米国及び日本は,自国の中期財政健全化計画の強化と実施の重要性を認識しつつ,政府債務対GDP比の着実な減少につながる行動にコミットする。

・米国は,バランスのとれたアプローチを通じて,2016年までに連邦債務対GDP比を着実に減少させる道筋に置くことにコミットする。

・日本は,2015年度及び2020年度のプライマリー・バランスの目標を達成し,債務の対GDP比を2021年度以降低下させるとのコミットメントを再確認する。

・メンバー国は,我々の次の首脳会合までに,それが現在存在していない場合には,2016年以降の債務対GDP比についての信頼に足る野心的な各国毎の目標を,それを達成するための明確な戦略とタイムテーブルとともに特定することに合意する。これらの戦略においては,税と給付制度の改善を含む歳出の改革を検討する。

2. 我々は,経常黒字国では内需を増加させ,財政赤字国では公的部門から民間部門へ需要を移転させ,経常赤字国では国民貯蓄を増加させることにより,世界的な需要をリバランスさせるための取組みを強化する。

・経常赤字を持つ先進国における構造的財政赤字の縮減と民間貯蓄を促進するための行動は,世界的な不均衡の持続的な縮減に貢献する(米国)。

・我々は,根底にある経済のファンダメンタルズを反映するため,市場で決定される為替レートシステムにより迅速に移行し,為替レートの柔軟性を向上させるとともに,為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避け,通貨の競争的な切り下げを回避することへの我々のコミットメントを再確認する。我々は,中国及びロシアにおける為替レートの変動幅を拡大するとの重要な決定を認識する。中国は,外貨準備の蓄積のペースを徐々に減少させ,人民元の動きの決定に市場の力がより大きな役割を果たすことを許容し,為替政策の透明性を向上させるとのコミットメントに立脚している。我々は,為替制度の改革を継続するとの中国のコミットメントを歓迎する。

・新興国は,需要をリバランスするための更なる行動をとる:金利自由化の促進の継続(中国),投資比率の増加(ブラジル),貯蓄比率の増加(トルコ)。

・先進黒字国,または,比較的民需が弱い国々は,サービス部門を更に自由化し(韓国,ドイツ,日本),非効率を取り除くことにより投資を促進し(ドイツ),環境・医療等の分野におけるイノベーションにより新産業・新市場を創出する(日本)ことにより,内需を促進する。ドイツにおける民間家計の実質所得の最近の進展は,内需の強化及びユーロ圏内の域内リバランスの加速を助ける。

・石油輸出国は,変動しやすい歳入の性格を踏まえて財政の持続可能性を確保しつつ,地域的及び世界的な正の波及効果をもたらすような,生産的な公的投資の追求,及び民間投資の促進を継続する。

3. カンヌにおいて,各国は,世界的な需要を拡大・維持し,雇用創出を促し,世界的なリバランスに貢献し,全てのG20諸国において潜在的な成長を増加させるための構造改革へのコミットメントを提唱した。これらは,今後とも中核的な優先事項であり続け,カンヌ以降に行われた追加的な改革やコミットメントにも反映されている。これらの改革は,以下を含む:

・雇用と労働参加を増加させるための以下のような労働市場改革:長期失業者の再訓練(米国),職能訓練(スペイン),賃金設定の分権化等の賃金の柔軟性向上(イタリア),労働税の楔の縮減(ブラジル,イタリア),雇用創出を支えるために雇用保険をより効果的かつ効率的なものとする改革(カナダ),教育,訓練,職能開発の拡大(オーストラリア,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,トルコ,南アフリカ),給付制度の改革や手頃な育児サービスの提供等による女性の労働参加の促進(オーストラリア,ドイツ,日本,韓国),若者や障害者等,特定の層における雇用機会の向上(カナダ,韓国,英国),修習生制度による若年労働者の参加の奨励(英国),より良い教育もしくは職能開発によるフォーマルセクターでの雇用促進(ブラジル,インドネシア,メキシコ,南アフリカ)。

・主要なセクターにおいて競争を促進し生産性を高めるための製品市場改革(オーストラリア,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,メキシコ)

・住宅部門の安定化を促進する行動(米国)。

・貧困層に焦点を当てた支援の提供もしくは社会的セーフティネットの強化(インド,インドネシア,中国,メキシコ,サウジアラビア,南アフリカ)。

・先進国・新興国双方において,市場歪曲的な補助金が存在する場合には,その中期的な段階的縮小。

・生産性を高め労働のインセンティブを向上させるための税と給付の改革(オーストラリア,ドイツ,イタリア,英国)

・拡大を志向するビジネスが直面する負担を縮減することにより経済成長をより良く支持する規制改革の計画(英国)

・主要なセクターにおける一方的な関税撤廃による更なる貿易自由化の奨励(カナダ)

・ボトルネックを解消することにより生産性と生活水準を中期的に増加させるためのインフラ投資の促進(アルゼンチン,オーストラリア,ブラジル,インド,インドネシア,メキシコ,サウジアラビア,南アフリカ,英国)

・グリーンで持続可能な成長を促進するコミットメント(オーストラリア,韓国,ドイツ,メキシコ)

4. 我々は,金融セクターの規制と監督の強化に相当の進展をみた。足元の世界経済の課題は,金融セクターをより強じんで安定的なものとし,かつ,経済成長を後押しできるものとするために,合意された金融改革を効果的に実施するというわれわれのコミットメントを再確認する必要性を強調している。我々は,合意された規制改革が新興市場・途上国経済に意図せざる結果をもたらしうる程度を特定する,IMF及び世銀との共同によるFSBの作業を歓迎する。G20メンバーは,FSBが,基準設定主体と協力して,進捗を監視し,定期的に報告することを引き続き期待する。これは,金融包摂を増加させる取組みにより補完される。

5. 我々は,あらゆる形態の保護主義に対抗し,開かれた貿易を促進するとの我々のコミットメントを再確認するとともに,WTO 非整合的な貿易制限的措置の数を減少させ,金融保護主義に対抗するために,積極的な措置をとる。

6. メンバー国は,途上国における潜在的な成長力と経済の強じん性を最大化するための行動へのコミットメント,及び,先進国が援助のコミットメントを達成し,開発のニーズに応えるために国内,国外,及び新しい革新的な財源を動員することの重要性を再確認する。これらの行動は,多国間及び二国間ドナーや公的及び民間のパートナーによる,途上国のミレニアム開発目標の達成を支援する取組を補完する。新興市場国メンバーはまた,投資環境を向上させ,インフラ投資を強化することを含む,開発を促進する一連の改革を推進する。

 各国毎の改革コミットメントの詳細は,メキシコ議長国のウェブサイトに掲載されている。我々は,経済状況の進展に合わせて,将来にわたって政策の調整を継続する。我々は,我々の財務大臣に,脆弱性に対処し回復を持続させるために今後数ヶ月間緊密に協働することを求める。我々は,2013年のサンクトペテルブルク・サミットにおいて,我々の全てのコミットメントの進捗をレビューする。

付属文書A

ロスカボス・アカウンタビリティ評価の枠組み(概要)

アカウンタビリティ評価の枠組みは,以下の3つの柱に基づいており,過去のコミットメントの進捗報告を用意する際に用いられる。

1.指針

・各国主導であること:メンバー国の評価に基づくとともに,独立した第三者評価も活用する。

・「遵守,さもなくば説明」との厳格なアプローチに基づくこと。

・具体的であること:可能な場合には定量的指標を用いる。

・メンバー国間で一貫していること。同時に,適切な場合には,各国固有の状況も考慮する。

・公平であること。

・オープンかつ透明であること:全体の成果は,G20での合意後に公表される。

2. 第三者評価の提供を受けたピアレビュー・プロセス

 アカウンタビリティ評価の中心は,過去のG20におけるコミットメントの達成に関する進捗状況をメンバー国が評価するピアレビューのプロセスである。ピアレビューにおける議論は,次の要素を含む。

 

・コミットメントの達成のためにメンバー国が実行した政策行動についてのレビュー及び議論。

 

・強固で持続可能かつ均衡ある成長という目的に向けた進捗を評価するための世界経済の見通しについての議論。

 

・大規模かつ継続的な不均衡を特定するため,カンヌで承認された「参考となるガイドライン」に基づき,(約2年ごとに)メンバー国を評価。ガイドラインによって更なる分析が必要な不均衡が示唆された国について,IMFが作成する対外持続可能性報告書を議論。

 

・評価の客観性を強化するための,国際機関からの報告のレビュー。

 我々は,過去のコミットメントの進捗を測定するための共通のアプローチに合意することにコミットしている。また,我々は,コミットメントは具体的かつ計測可能であり,強固で持続可能かつ均衡ある成長の達成に関連するものである必要があることに合意する。我々は,我々の財務大臣・中央銀行総裁に,2012年11月のメキシコシティでの彼らの会合までに進捗をレビューすることを求める。

3. 大臣・総裁・首脳への定期的な報告

 ピアレビューの議論の成果として,短い進捗報告が大臣会合のために用意され,定期的な年次アカウンタビリティ評価が大臣・総裁・首脳のために用意される。

付属文書B

ロスカボス・アカウンタビリティ評価(概要)

財政政策

 予想以上に弱い経済状況がいくつかの国における財政調整の道筋に影響を及ぼしているが,トロントの財政コミットメントの達成に向けてよい進展が見られている。いくつかの国においては,財政を中期的に持続可能な道筋に置くための行動を通じ,財政政策の信認を強化する必要がある。

・ほとんどのメンバー国(オーストラリア,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア)は,IMFにより,2010年の水準から赤字を半減させるとのトロント目標を達成すると予測されている 。いくつかのケースにおいては,強力な政策行動により,2010年の赤字が予想された水準以下まで実際に低下した。需要と回復を支える成長志向の政策を追求する必要性を認識しつつ,米国は,財政が持続可能な長期的軌道に乗っていることを確保することによって財政健全化のペースを測り,これにより,2013年の急激な財政収縮が避けられる。英国は,実際の2013年の赤字の予測は,景気循環調整後の指標が用いられた場合,トロント目標を達成する。スペインは,経済の著しい弱さと銀行セクターの再編を反映し,2013年の目標を達成できないかもしれない。このように,非常に重要な構造的取組み及び赤字削減計画が実施されている。

・ほとんどの先進国はまた,2016年までに債務対GDP比を安定もしくは低下させるとのトロント・コミットメントを達成する道筋に乗っている 。米国は,連邦政府のレベルでは2016年のコミットメントを達成すると見込まれるが,IMFによれば,それ以降連邦債務は増加すると見込まれる。スペインは,目標を達成するためには追加的な行動が必要であると見込まれる。日本は,プライマリー赤字を2015年度までに2010年度から半減するとの中期目標を達成する道筋に乗っているが,2021年度以降債務対GDP比を低下させるとの長期目標に到達するためには更なる行動が必要。最後に,先進国は中期的に持続可能な財政を促進することに合意した一方で,多くの国において2016年の債務の水準は依然として高いと見込まれる。特に人口の高齢化という文脈において,中期的に持続可能な財政を達成するためには,更なる政策努力が必要である。

 メンバー国は,財政構造改革の実施というコミットメントにおいて進展を見た。ユーロ圏は,財政協定の採択により財政枠組みを強化した。いくつかのメンバー国は年金制度を改革するとのコミットメントを果たし(イタリア),その他の国では年金改革が進展している(フランス,英国)。ブラジルは,公務員の年金制度の改革を承認した。スペインは,主要な労働市場改革を実施した。G20メンバー国の一連の財政行動には,更なる進展が必要であり,これにより持続可能な財政が促進されるとともに,世界的なリバランスが促進されるだろう。ユーロ圏は,財政ガバナンスの改革の完了が必要。米国と日本は,野心的な中期財政計画を完全に実施することが必要。インド,インドネシア,メキシコは,主要な補助金の改革の継続が必要。多くの新興国・先進国において,歪みを減少させるための税制改革の更なる進展が必要。

 1.メンバー国間で一貫性をもたせるために、ここでのトロント・コミットメントの評価は、一般政府債務ベースで、2010年の赤字の実績と2013年のIMF予測とを比較し、予測に0.5パーセント・ポイントの信頼区間を許容したものである。

 2.2015年から2016年にかけての一般政府債務対GDP比のIMFによる予測を使用。

金融・為替政策

 ピッツバーグ・サミット以降,比較的柔軟でない為替レート制度を持つ新興市場国は,多くの重要な改革を実施した。特に,中国とロシアの両国は,為替レートの変動幅を拡大した。中国の為替レートは2005年以降大きく増価したが,カンヌ・サミット以降においては,特に中国の最近の改革が実施されてから短期間しか経ってないため,より柔軟な為替レートに向けた進捗は明確ではない。2011年の最後の四半期には,経常黒字の減少等により,中国の外貨準備は減少した。2012年の第1四半期には,外貨準備の蓄積が再開した。

 新興国は,先進国における金融緩和が,新興国への資本フローの水準・変動の増加やその他の金融指標の変動の増加に寄与し,マクロ経済政策の運営を複雑化させているとの懸念を表明している。メンバー国は,先進国の金融政策が負の波及効果を及ぼす可能性に引き続き警戒する必要があることを認識する一方,その政策は自国の目的を達成するために適切に方向付けられていることを総じて認識した。

構造政策

 OECDは,全ての構造改革のコミットメントのうち4分の3以上が実施中,約3分の1は完全に実施されたと見積もっている。

 複数の先進国は,製品市場改革に更なる進展が必要(ユーロ圏,日本)。世界的なリバランスを助けるため,米国は,民間貯蓄をより奨励することが必要であり,ドイツは内需を促進する措置をとるべきであり,また,いくつかの新興国は国内消費を増加させ投資の効率性を向上させる必要がある。

貿易,金融セクター,開発政策

 ほとんどのメンバー国は,アドホックな政策対応というよりはむしろ,WTOと整合的な貿易救済措置を通じて非公正な貿易慣行に対処すること等により,保護主義に対抗するとのコミットメントを維持してきた。しかしながら,いくつかの地域の政治環境は,新たな形の保護主義的措置をより受け入れつつあるようであり,これには対抗すべきだ。

 FSBは,合意されたG20・FSBの金融改革の実施に対する厳格な監視やG20への報告を,調整し促進する責任がある。

結論

 全体として,カンヌや過去のサミットでの改革のコミットメントの推進において進捗が見られるが,いくつかの重要な分野において更なる進展と新たな行動が必要。将来の評価を容易にするため,メンバー国はまた,政策コミットメントは,可能な限り明確で具体的である必要があり,強固で持続可能かつ均衡ある成長という全体の目標に向けて実質的に貢献する必要があることを認識した。我々はまた,すべての政策分野における過去のコミットメントの進捗を測定するための共通のアプローチの必要性に合意する。