データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20ロスカボス・サミット首脳宣言

[場所] カンヌ
[年月日] 2011年11月4日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.我々,G20首脳は,2011年11月3日及び4日にカンヌで会合した。

2.我々の前回の会合以降,世界の景気回復は特に先進国において弱まり,失業率は依然容認できない水準にある。この文脈において,主として,欧州におけるソブリン・リスクのため,金融市場の緊張が増大した。新興市場にも成長鈍化の明確な兆候がある。一次産品価格の変動が,成長をリスクに晒してきた。世界的な不均衡が依然として存在する。

3.今日,我々は,協働に向けた我々のコミットメントを再確認し,我々は,経済成長を再活性化し,雇用を創出し,金融の安定を確保し,社会的包摂を推進し,グローバリゼーションが我々の国民のニーズに資するようにすることを決意した。

成長と雇用のための世界戦略

4.世界経済が直面する喫緊の課題に対処するため,我々は,行動と政策を調整することにコミットする。我々それぞれが,役割を担う。

5.我々は,短期的な脆弱性に対処し,成長のための中期的な基盤を強化するための,成長と雇用のための行動計画に合意した。

 ・先進国は,信頼を醸成し成長を支持する政策を採用すること,及び財政健全化を達成するための明確で信頼に足る,具体的な方策を実施することにコミットした。我々は,2011年10月26日の欧州首脳による,ギリシャ債務の持続可能性の回復,欧州の銀行の強化,伝播を回避するためのファイアウォールの構築,及びユーロ圏における強固な経済ガバナンス改革の基礎の構築のための決定を歓迎し,その速やかな実施を求める。我々は,欧州サミットでイタリアが提出した措置及び欧州委員会による合意された詳細な評価並びにモニタリングを支持する。この関連で,我々は,IMFに四半期ベースで政策実施の公的実証を求めるとのイタリアの決定を歓迎する。

 ・国内状況を考慮に入れ,財政が依然として健全な諸国は,仮に経済状況が大きく悪化する場合,自動安定化装置を機能させ,国内需要を支えるための裁量的措置を取ることにコミットする。大きな経常収支黒字を有する諸国は為替レートの柔軟性拡大とともに国内需要を増加させる改革にコミットする。

 ・我々すべての国は,我々の国における生産を増大させるためのさらなる構造改革にコミットする。

 ・金融政策は,中期的な物価の安定を維持し,引き続き経済の回復を支持する。

6.我々は,グローバリゼーションの社会的側面を強化することを決意する。我々は,雇用と社会的包摂が,成長と信頼を回復するための我々の行動及び政策の中心でなければならないと強く信じる。したがって,我々は,優先事項として若年層の雇用に取り組むG20タスク・フォースを設置することを決定する。我々は,各国における,国内状況に適合した社会的保護の床の重要性を認識する。我々は,ILOが,労働における基本的な原則及び権利を確保する8つのILO基本条約の批准及び実施を引き続き促進することを奨励する。

7.社会的対話の重要な役割を確信し,我々は,B20,L20の成果及び両者の共同声明を歓迎する。

安定的かつ強じんな国際通貨システムに向けて

8.我々は,国際通貨システムをより代表的,安定的かつ強じんなものとするための改革において進ちょくを達成した。我々は,金融の統合からの恩恵を享受し,資本フローの変動に対する強じん性を増加させることに資する行動及び原則に合意した。これには,資本フローの管理において我々を導く一貫した結論,IMFと地域金融取極との間の協力のための共通原則,及び現地通貨建債券市場のための行動計画が含まれる。我々は,SDR構成通貨の構成が,世界的な取引及び金融システムにおける通貨の役割を引き続き反映するべきであることに合意した。SDRの構成の評価は既存の基準に基づくべきであり,我々は,IMFに対して,それらの更なる明確化を求める。時とともに変化する通貨の役割と性質にあわせ,通貨が既存の構成基準を満たすにつれ,SDR構成通貨の構成は2015年,もしくはそれよりも早く,見直されるべきである。また,我々は,より統合された公平で効果的なIMFのサーベイランスの更なる進展,並びに波及効果の特定及び対処の改善にコミットした。我々は,サーベイランスの強化に向けた我々の取組を継続しつつ,二国間及び多国間のサーベイランスのよりよい統合の必要性を認識し,サーベイランスに関する新たな統合された決定について来年早い時期の,またオーナーシップと実効性の強化についての,IMFによる提案を期待する。

9.我々は,根底にある経済のファンダメンタルズを反映するため,より市場で決定される為替レートシステムにより迅速に移行し,為替レートの柔軟性を向上させるとともに,為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避け,通貨の競争的な切り下げを回避することへのコミットメントを確認する。我々は,短期的な脆弱性を解決し,金融の安定を回復するとともに中期的な成長基盤を強化するための,成長と雇用のための行動計画に示された,為替レート改革へのコミットメントに従い行動することを決意している。我々の行動は,世界的な流動性の動向や資本フローの変動により作り出された課題に対応する上で助けとなり,したがって,為替レート改革の更なる進展を円滑化し,外貨準備の過度な蓄積を減らすであろう。

10.我々は,グローバルな資金セーフティ・ネットを更に強化する取組を継続し,我々は,IMFが,ケースバイケースで,外性的なショックに直面する,強固な政策とファンダメンタルズを有する国への,より大規模で柔軟な短期流動性を供給する新たな予防・流動性ライン(PLL)を提案していることを支持する。我々はまた,IMFが.メンバー国の緊急支援ニーズを満たす単一のファシリティを提案していることを支持する。我々は,IMFが,両提案を速やかに議論し完成するよう求める。

11.我々は,ユーロ圏の包括的な計画を歓迎し,各国の改革を含め,早期の具体化と実施を促す。我々は,信認と金融の安定を回復するとともに,資金市場と金融市場の適切な機能を確保するために,全ての資金能力と全ての制度上の能力を活用するというユーロ圏の決意を歓迎する。

我々は,2009年のロンドン・サミット以降すでに動員された大幅な資金を基に,IMFが加盟国全体の利益となるよう,システム上の責任を果たすために十分な資金基盤を持ち続けることを確保する。我々は,適時の方法で追加資金が動員されうることを確保する用意があり,我々の財務大臣に対して,次回の財務大臣会合までに,IMFへの二者間の貢献,SDR,管理勘定等IMFの特別な仕組みへの自発的な貢献を含む,様々な選択肢を並べる作業を行うことを求める。我々は,2010年のIMFのクォータとガバナンスの改革を迅速かつ完全に実施する。

金融セクターの改革と市場の健全性の強化

12.我々は,2008年にワシントンにおいて,すべての金融市場,商品及び参加者が適切に規制又は監視に服することを確保することにコミットした。我々は,我々のコミットメントを実施し,金融システムの改革を追求する。

13.我々は,いかなる金融機関も「大きすぎて潰せない」とは見なされないよう,また納税者が破綻処理のコストを負担することから保護されるよう,包括的措置に合意した。FSBは,グローバルなシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)の最初のリストを本日公表する。G-SIFIsは,強化された監督,破綻処理枠組みに関する新たな国際基準,及び2016年からは,追加的な資本要件に服する。我々は,システム上重要なノンバンクの金融主体を特定する用意がある。

14.我々は,シャドーバンキングに対する規制・監視を発展させることを決定した。我々は,高頻度取引及びダーク・リクィディティによってもたらされるリスクへの対処を含む,市場の健全性及び効率性に関する規制をさらに発展させる。我々はまた,IOSCOに対し,クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場の機能の評価を行うよう求めた。我々は,金融サービス消費者保護の原則につき合意した。

15.我々は,金融セクターが危機前の行動に戻ることを許さず,銀行,店頭(OTC)市場,報酬慣行に関する我々のコミットメントの実施を厳しく監視する。

16.これまでの成果を基礎として,我々は,金融規制のアジェンダを調整し監視するFSBの能力を高めるため,FSBを改革することに同意した。この改革は,FSBに法人格とより大きな財政上の自律性を付与することを含む。我々は,マリオ・ドラギ(Mario Draghi)氏の行ってきた仕事に感謝し,マーク・カーニー(Mark Carney)カナダ中央銀行総裁のFSB議長への任命,フィリップ・ヒルデブランド(Philipp Hildebrand)スイス国立銀行総裁のFSB副議長への任命を歓迎する。

17.我々は,すべての国・地域に対し,租税,健全性,及びマネーロンダリング・テロ資金供与対策の分野における国際基準を遵守するよう促す。我々は,必要な場合には,既存の対抗手段を用いる準備がある。租税の分野では,我々は進ちょくを歓迎し,すべての国・地域,特にグローバル・フォーラムが特定した,その枠組みが適格でない11の国・地域に対し,グローバル・フォーラムのレビューを通じて特定された不備に取り組むため必要な行動をとることを求める。我々は,包括的な租税情報交換の重要性を強調し,改善のための手段を定義するグローバル・フォーラムにおける作業を奨励する。我々は,多国間税務執行共助条約に調印するという我々すべてによるコミットメントを歓迎し,他の国・地域がこの条約に参加することを強く奨励する。

商品価格変動への対処及び農業の促進

18.金融規制アジェンダの一環として,我々は,商品デリバティブ市場の規制及び監督向上に関するIOSCOの提言を承認する。我々は,市場規制当局には,市場における濫用行為を抑止するための効果的な介入権限が与えられるべきであるということに合意した。特に,市場規制当局は,他の介入権限とともに,適当な場合には事前の持ち高制限の設定権限を含む,持ち高管理に関する正式の権限を有し,行使すべきである。

19.農業生産の増加は,世界の人口を養うための鍵である。そのため,我々は,2011年6月に我々の農業大臣によって合意された食料価格の変動及び農業に関する行動計画の枠組みにおいて行動することを決意する。特に,我々は,農業生産性の研究及び発展に投資及び支援することを決定する。我々は,農産品市場の透明性を強化するための「農業市場情報システム」(AMIS)を立ち上げた。食料安全保障を改善するために,我々は,適切なリスク管理手段及び人道的緊急手段を発展させることにコミットする。我々は,世界食糧計画により非商業人道目的のために購入される食料が輸出制限又は特別な課税の対象とならないことを決定する。我々は,政策を調整し,市場危機の際の共通の対応を策定する国際社会の能力を改善するための,「迅速対応フォーラム」の設立を歓迎する。

エネルギー市場の改善及び気候変動に対する闘いの追求

20.我々は,エネルギー市場の機能及び透明性を向上することを決意する。我々は,JODI石油・データベースの適時性,完全性及び信頼性を向上させ,同様の原則に基づいてJODIガス・データベースについて作業することにコミットする。我々は,短期,中期及び長期における石油,ガス及び石炭の見通し及び予測に関する産出国・消費国間の年一回の継続的な対話を求める。我々は,関連機関に対し,価格報告機関の機能及び監督について提言するよう求める。我々は,最貧困層への的を絞った支援を提供しつつ,無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を中期的に合理化し段階的に廃止するという我々のコミットメントを再確認する。

21.我々は,気候変動に関するダーバン会議の成功にコミットし,会議の議長国として南アフリカを支持する。我々は,カンクン合意の実施,及びダーバンのバランスのとれた成果の一部として,緑の気候基金の稼働を含む,ダーバンにおけるすべての交渉分野におけるさらなる進展を求める。我々は,気候変動資金に関する国際金融機関による報告書を議論し,財務大臣に対し,UNFCCCの目的,規定及び原則を考慮しながら作業を継続するよう求めた。

保護主義の回避及び多角的貿易システムの強化

22.世界経済にとって極めて重要なこの時期に,保護主義を防止し内向きにならない方途として多角的貿易体制の価値を強調することは重要である。我々は,トロントで合意されたように,2013年末までのスタンドスティルのコミットメントを再確認し,新たな輸出規制及び輸出を刺激するためのWTO 非整合な措置を含む,既にとられた可能性もある,いかなる新たな保護主義的措置も是正することにコミットし,WTO,OECD 及びUNCTADに対し,状況を監視し続けるとともに半年ごとに公に報告を行うことを求める。

23.我々は,ドーハ開発アジェンダ(DDA)マンデートを支持する。しかし,過去と同じように引き続き交渉を行えば,我々は,DDAを完結できないことは明白である。我々は,これまでに達成された進ちょくを認識する。信認への貢献のために,我々は,2012年に,後発開発途上国の関心事項及び,成果を得られるものについては,DDAマンデートの残る要素を含め,交渉を進めるために斬新で,信頼性のあるアプローチを追求する必要がある。我々は,閣僚に対し,来るジュネーブにおける閣僚会合において,このようなアプローチに取り組むよう,また,グローバル化する経済の中での多角的貿易体制に対する課題及び機会に関する議論を行い,メキシコ・サミットまでに報告することを指示する。

24.さらに,より効果的でルールに基づく貿易制度への貢献として,我々は,貿易関係及び政策における透明性を向上させるとともに紛争解決メカニズムの機能を強化する上でより積極的な役割を担うべき,WTOの強化を支持する。

開発の課題への対処

25.経済的なショックは,最も脆弱な人々に不均衡に影響することを認識し,我々は,より包括的で強じんな成長を確保することにコミットする。

26.アフリカの角における人道的危機は,食料不安への緊急及び長期的な対応を強化する緊急の必要性を強調する。我々は,特に低所得国における,小規模自作農の利益になるような,農業への投資の強化と価格変動の影響の緩和を目的とする,カンヌ最終宣言に言及される具体的イニシアティブを支持する。我々は,試行プロジェクトとして,目的を絞った地域の緊急人道食糧備蓄体制を立ち上げる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)のイニシアティブ,及びASEAN+3の緊急米備蓄のイニシアティブを歓迎する。

27.インフラの不足が,特にアフリカの,多くの途上国において,潜在的成長を著しく阻害することを認識し,我々は,ハイレベル・パネル及び国際開発金融機関(MDBs)の提言を支持し,11の模範インフラプロジェクトを強調し,国際開発金融機関に対し,関係国と協働しつつ,ハイレベル・パネルの基準に合致するプロジェクトの実施を追求するよう求める。

28.ミレニアム開発目標を達成するため,我々は,ODAの役割を強調する。先進国による援助のコミットメントは達成されるべきである。新興国は,他の途上国に対する支援を開始ないしその水準を引き続き拡大するであろう。我々はまた,開発のニーズと気候変動に対処するために,徐々に新たな資金源を見出す必要があることに合意する。我々は,ビル・ゲイツ氏の強調した革新的な財源の一連の選択肢について議論した。我々の一部は,これらの選択肢の一部を実施済みであるか,もしくは検討する用意がある。我々は,我々の一部の国における,特に開発支援のための,金融取引税を含め,様々な目的のために金融セクターに課税するイニシアティブを認識する。

腐敗との我々の闘いの強化

29.我々は,腐敗との闘い,市場の公正性の促進及びクリーンなビジネス環境支援のための行動計画の実施について重要な進ちょくを成し遂げた。我々は,強固な国際的法的枠組みの迅速な実施,腐敗及び外国公務員の贈賄を防止し対抗するための国内的措置の採択,腐敗との闘いにおける国際協力の強化,及び官民部門間の共同イニシアティブの発展の必要性を強調する。

21世紀のためのグローバル・ガバナンスの改革

30.我々は,グローバル・ガバナンスに関するデービッド・キャメロン英国首相の報告書を歓迎する。我々は,G20が非公式なグループであり続けるべきであることに合意する。我々は,トロイカを公式化することを決定する。我々は,国連を含むメンバー国以外の各国との一貫した効果的な関与を追求し,我々の作業への貢献を歓迎する。

31.我々は,主要経済国を対等な立場で集め,行動を触媒するというG20創設の精神が基本となるものであることを再確認し,それ故,我々の集団的な政治的意思をもって我々の経済及び金融アジェンダ並びに関連国際機関の改革及びより効果的な作業に取り組むことに合意する。我々は,FAO及びFSBにおいて実施される改革を支持する。我々は,我々の多国間貿易枠組みを強化することにコミットした。我々は,国際機関,特に国連,WTO,ILO,世銀,IMF及びOECDに対し,社会的影響及び経済政策に関することも含めた対話及び協力を向上させ,調整を強化することを求める。

12月1日に,メキシコはG20の議長国を開始する。我々は,2012年6月に議長国メキシコの下で,バハ・カリフォルニアのロス・カボスにおいて会合する。2013年にロシアが,2014年にオーストラリアが,2015年にトルコがG20の議長国を務める。我々はまた,G20の改革の一部として,2015年の後は各年のG20議長国は,中国,インドネシア,日本,韓国からなるアジア・グループからはじまり,交替制の地域グループから選ばれることに合意した。

32.我々は,フランスにG20議長国と成功裡に終わったカンヌ・サミットの主催について感謝する。