データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ソウル・サミット文書

[場所] ソウル
[年月日] 2010年11月12日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み(フレームワーク)

1. 我々の前例のない,高度に調和された財政・金融刺激策は,不況の淵から世界経済を引き戻す上で機能した。このことは,世界がより効果的な国際協調の恩恵を受けることを強調した。ピッツバーグでは,我々は,強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みを立ち上げ,世界の成長と発展に関する各国の政策の集合的な影響を評価し,世界経済への潜在的なリスクを特定し,我々の共通の目標を達成するための追加の行動をとるために協働することにコミットした。

2. それ以降,我々は,各国主導の協議によるフレームワークの相互評価プロセス(MAP)を通じて,重要な進ちょくを遂げている:

○現在進行中の回復と雇用の創出を促進するため,協力的な経済政策が実施されている。

○明確なコミットメントは,財政を持続可能な軌道に乗せている。

○我々の金融システムの安定性を保護するための強固な措置が採用され,実施されている。

○世界的な需要と潜在成長力を引き上げるための,重要な構造改革が立ち上げられ,又は計画されている。

○開発を支援する国際金融機関の能力を強化するため,重要な措置がとられている。

3. 我々が前回会合した後,世界的な回復は前進を続けているものの,下方リスクは残っている。我々は更に進ちょくを遂げることを決意する。我々の強化された協調的かつ集合的な政策行動は,回復を更に確保し,我々の強固で持続可能かつ均衡ある成長という共通の目標のための強固な基盤を築くことを可能とする。

ソウル・アクションプラン

4. 今日,我々は,ソウル・アクションプランを立ち上げる。我々は,以下の目的と一致するプランを策定した。

○協力に対する揺るぎないコミットメントを確保する。

○各メンバー国の具体的な政策コミットメントを伴う行動指向型のプランの道筋を示す。

○強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の3つすべての目標を実施する。

5. 具体的には,我々は,補完文書に提示するG20メンバー国による固有のコミットメントの詳細とともに,5つの政策分野における行動をコミットする。

6. 金融政策と為替レート政策:我々は,回復と持続可能な成長に貢献する,中央銀行の物価の安定に対するコミットメントの重要性を再確認する。我々は,根底にある経済のファンダメンタルズを反映するため,より市場で決定される為替レートシステムに移行し,為替レートの柔軟性を向上させるとともに,通貨の競争的な切り下げを回避する。準備通貨を持つ国々を含む先進国は,為替レートの過度の変動や無秩序な動きを監視する。これらの行動は一体となって,いくつかの新興国が直面している資本移動の過度な変動のリスクを軽減させる助けとなろう。それにもかかわらず,調整の過大な負担に直面している状況で,外貨準備を適切なレベルに保ちながら柔軟な為替レートの更なる過大評価に直面している新興国は,その政策対応に,注意深く設計されたマクロ健全性措置もまた含めうる。我々は,安定的でよく機能する国際通貨システムを促進するための努力を再活性化させ,これらの分野で国際通貨基金(IMF)がその作業を深化させることを求める。

7. 貿易と開発政策:我々は,世界の景気回復にとって自由貿易と投資に対する我々のコミットメントの重要性を認識し,再確認する。我々は,あらゆる形態の保護主義的な貿易行動を導入せず,反対し,ドーハ交渉の迅速な妥結の重要性を認識する。我々は,金融保護主義を回避する我々のコミットメントを再確認し,投資を阻害し,世界の景気回復の見通しを悪化させる措置が増加するリスクに留意する。途上国の世界生産及び貿易に占める割合が増加することで,世界の成長,リバランス及び開発の目標は,ますます関連し合っている。我々は,途上国及び低所得国において,包括的で持続可能かつ強じんな成長に係る最も重要なボトルネックを解消するための努力に焦点を当てる。これは特に,インフラ,人材開発,貿易,民間投資及び雇用創出,食糧安全保障,強じんな成長,金融包摂,国内資金の動員及び知識の共有である。また,我々は,先進国による政府開発援助のコミットメントを達成することを含む,資金的,技術的な支援を向上させるための具体的な行動をとる。

8. 財政政策:先進国は,各国の状況によって採られるトロント・サミットのコミットメントに沿った,明確で,信頼に足る,意欲的かつ成長に配慮した中期財政健全化計画を策定及び実施していく。我々は,同時に調整がなされることによる世界的な回復へのリスクや,即時に必要とされる財政健全化を実施できないことが,信認や成長を低下させるリスクに留意する。

9. 金融改革:我々は,国家レベル及び国際レベルで基準を引き上げる行動をとり,公平な競争条件,頂点への競争を確保し,市場の分断,保護主義,規制潜脱行為を回避するような方法で,各国当局が整合的に,現在までに策定された国際基準を実施することを確保することにコミットしている。特に,我々は,銀行の自己資本・流動性の新たな基準を完全に実施し,大きすぎて潰せない問題に対処する。我々は,金融規制改革について更に作業することに同意した。

10. 構造改革:我々は,世界需要を押し上げ,維持し,雇用を創出し,世界的なリバランスに貢献し,我々の潜在成長力を高めるため,幅広い構造改革を実施し,必要な場合は以下を実施する:

○競争を促進し,主要セクターにおける生産性を高めるため,規制を簡素化し,規制障壁を削減するための製品市場改革

○市場参加率を増加させるためのより良く的を絞った給付金制度,質の高い仕事の雇用を増加させ,生産性を押し上げ,そのことによって潜在成長力を高めるための教育と訓練を含む,労働市場及び人材開発改革

○ゆがみを取り除き,労働,投資,技術革新に対するインセンティブを改善することにより,生産性を向上させる税制改革

○成長の新たな源を発見し,持続可能な開発を促進するためのグリーン成長と技術革新志向の政策措置

○赤字国においては,より高い国内貯蓄率を促進し,輸出競争力を高める一方,黒字国においては,外需への依存を低下させ,国内の成長源により焦点を当てた改革

○新興黒字国における,公的医療や年金制度,企業統治,金融市場の発展といった予防的な貯蓄を減少させるのを助ける,社会セーフティ・ネットを強化するための改革

○ボトルネックに対処し,潜在成長力を高めるためのインフラへの投資

我々は,これらの改革を追求するため,経済協力開発機構(OECD),IMF,世界銀行,国際労働機関(ILO),その他の国際機関の専門知識を活用する。

11. ソウル・サミット後のMAP:また,我々は,対外的な持続可能性を促進するため相互評価プロセス(MAP)を強化する。我々は,対外的な持続可能性を促進するための多角的協調を強化し,過度の不均衡を削減し経常収支を持続可能な水準で維持するのに資する,あらゆる政策を追求する。今後財務大臣及び中央銀行総裁により合意される参考となるガイドラインに照らして判定される,継続した大規模な不均衡は,大規模な一次産品生産者を含む,各国・地域の状況を考慮する必要性を認識しつつ, MAPの一部として,その性質や調整の障害となっている原因を評価される。一連の項目で構成される,これらの参考となるガイドラインは,予防や是正に向けた行動を必要とするような大規模な不均衡を適時に判定することを助けるメカニズムとしての役割を果たす。これらのコミットメントの達成に向けた我々の努力を支援するため,我々は,G20フレームワーク作業部会に,IMFとその他の国際機関からの技術的な支援を受けて,これらの参考となるガイドラインを用意するよう求める。その進展は,2011年前半に財務大臣と中央銀行総裁により議論される。あわせて,慶州で,我々の財務大臣と中央銀行総裁は,対外的な持続可能性に向けた進ちょくと,財政,金融,金融セクター,構造,為替レート,その他の政策の整合性について,MAPの一部として,評価を提供するようIMFに求めた。この観点から,上記の参考となるガイドラインに基づく最初の評価は,フランスの議長の下で然るべき時期に開始され,実施される。

12. 我々は,共通の責任を有する。持続的で大規模な対外赤字を持つメンバー国は,開かれた市場を維持し,輸出セクターを強化しつつ,民間貯蓄を支える政策を取り,適切な場合には財政健全化を実施することを誓約する。持続的で大規模な黒字を持つメンバー国は,国内の成長の源を強化させることを誓約する。

13. 我々は,フレームワークの利点を認識し,我々のコミットメントの実施の監視と,我々の共通の目標達成に向けた我々の進歩の評価を含めることにより,各国主導の協議によるMAPを拡大し,精ち化させることに合意した。このプロセスは,2011年にフランスの議長の下で採用される。

国際金融機関改革

14. 世界が金融危機の只中にあった時に,我々は会合し,世界経済を支えるために必要な資金を国際金融機関(IFIs)に提供することに合意した。資金を大幅に増加させ,新しい融資制度を支持するという我々の合意を受け,IFIsは極めて重要な資金を動員した。これには,IMFによる7500億ドル以上,国際開発金融機関(MDBs)による2350億ドルの動員が含まれる。金融市場は安定し,世界経済は回復し始めた。危機の最中においても,我々はIFIsの更なる改革が必要であることを認識していた。

15. 我々は,IFIsが世界経済における変化をより適切に反映するとともに,世界の金融の安定を促進し,開発を進め,最貧層の生活を改善するという役割をより効果的に担うことができるよう,IFIsを抜本的に現代化することにコミットした。2010年6月,我々は途上国・体制移行国の投票権を増加させるための世界銀行の改革を歓迎した。我々はまた,クォータ・ガバナンス改革を通じ,IMFの正当性,信頼性及び有効性を強化することにコミットし続けた。

現代化されたIMFガバナンス

16. 本日,我々は,包括的なIMFクォータ・ガバナンスの改革パッケージに関して,慶州での会合において財務大臣と中央銀行総裁があげた野心的な成果とそれに続くIMFの決定を歓迎した。この改革は,クォータと理事会の構成が新たな世界経済の現実をより良く反映することを確保し,加盟国のニーズを支援するための十分な資金を有した,クォータを基礎とする機関というIMFの性格を確かなものとすることにより,IMFの正当性,信頼性,有効性を向上させるための重要な一歩である。この改革は,ピッツバーグとトロントでのサミットにおける我々のコミットメントと整合的であり,多くの分野でそれを上回る成果を挙げた。この改革は以下を含む。

○最貧国の投票権を保護しつつ,ダイナミックな新興国・途上国への,また過小代表国への6%以上のクォータ・シェア移転,これについては,2012 年の年次総会までに完了すべく作業することをコミット

○クォータを倍増するのと同時に,クォータ増資が発効した際,それに応じ,新規借入取極(NAB)を,相対的なシェアを維持しつつ縮小

○最貧国を含む新興国・途上国のボイス・代表性を強化することを目的としたダイナミックなプロセスの継続,このため,経済的地位をより良く反映させるため2013 年1月までにクォータ計算式の包括的な見直しを行い,また2014年1 月までに次期クォータ一般見直しを完了

○二つの欧州先進国理事を減らし,またすべての複数国チェアに二人目の理事代理を置く可能性を通じた,理事会における新興国・途上国の代表性の拡大

○全理事の選任制への移行,また,理事会メンバーの数を24 で維持するとのIMF 加盟国によるコミットメントと,第14 次クォータ一般見直し完了後の理事会構成についての8 年ごとの見直し

17. 我々は2008年のIMFクォータ・ボイス改革を速やかに完了させることが喫緊の課題であることを改めて表明する。我々は,拡大されたNABに参加するすべてのG20メンバー国に対し,同意プロセス完了のための手続を加速させるよう強く促す。我々はIMFに対し,2010年のクォータ・ガバナンス改革の有効な実施に向けた,合意された期限に沿った進ちょくを,財務大臣・中央銀行総裁がG20で定期的に会合する際に,彼らに報告するよう求める。

18. 既に合意された世界銀行のボイス改革と併せ,これらは我々の鍵となる国際金融機関の現代化における重要な成果となる。これらの機関は世界の金融の安定と成長の促進に更に力強い役割を果たすだろう。我々は,財務大臣・中央銀行総裁に対し,世界銀行とIMFにおける,残されたガバナンス改革のすべての課題を追求し続けることを求めた。

サーベイランス

19. 我々は,サーベイランスの強化を含め,IMFの使命及びマンデートの改革への取り組みを継続することの重要性を認識する。

20. IMFのサーベイランスは,システミック・リスクと脆弱性がどこに存在するにせよ,それらに焦点を合わせるために,強化されるべきである。この点で,我々はシステム上重要な金融セクターを有する加盟国について,金融セクター評価プログラム(FSAP)の金融安定評価を4条協議の定期的で義務的な一部とするIMFの決定を歓迎する。我々はIMFに対し,IMFのサーベイランスのマンデート・形式を現代化するための更なる進ちょくを求める。これらは,特に,システミックな問題により焦点を合わせつつ,金融の安定・マクロ経済・構造・為替政策をカバーするサーベイランスについてのバイ及びマルチの作業を強化すること,サーベイランスのツール間の相乗効果を強化すること,加盟国のサーベイランス面での能力強化を支援すること,サーベイランスの公平さ,率直さ,独立性を確保することを含むべきである。我々は,IMFがシステミックな経済の政策による幅広い影響の波及効果の評価を実施することを歓迎する。

国際開発金融機関

21. 我々は,低所得国が十分な譲許的資金へのアクセスを有することを確保することを助けるため,国際開発金融機関の譲許的融資機関,特に国際開発協会の野心的な増資を完了するという我々のコミットメントを改めて表明する。

強化されたグローバルな資金セーフティ・ネット

22. 世界経済がより結びつきを強め,一体化するにつれ,資本フローの規模,変動が大幅に拡大した。この変動の拡大は,金融危機の間,不安定の原因となった。それはさらに,堅固なファンダメンタルズを有する国にも悪影響を与え,その影響はより開かれた経済においてより大きかった。これらの問題は今も継続している。現在の資本フローの変動は,先進国と新興国の間で異なる回復のスピードを反映している。国,地域,多国間の対応が必要である。強化されたグローバルな資金セーフティ・ネットは,資本フローの突然の変化による経済の混乱と過度な外貨準備蓄積の必要性の認識を軽減し,金融面での変動に対する各国の対応を容易にする。

23. それゆえ,我々は財務大臣・中央銀行総裁に対し,このサミットにおける我々の検討のため,グローバルな資金セーフティ・ネットを強化するための政策の選択肢を用意するよう求めた。

24. 我々は我々のマンデートから得られた以下の成果を歓迎する:

○期間の延長,アクセス上限の撤廃を含む,フレキシブル・クレジット・ライン(FCL)の強化。強固なファンダメンタルズと政策を有する国々は,予測可能性と有効性が高められた,改善されたFCLにアクセスできる。

○新たな危機予防ツールとしての予防的クレジット・ライン(PCL)の創設。これにより,健全なファンダメンタルズと政策を有するもののある程度の脆弱性もある国々が,IMFの予防的な流動性供給の恩恵を受けることが可能になる。

○システミックな性格を有するショックにグローバルなレベルで対処する能力を更に高めるための作業を継続するというIMFの最近の決定及び,同じショックに見舞われた多くの国々が同時にFCLへのアクセスを求めることができる,複数国へのFCLの同時承認の手続きについて最近明確化されたこと。

○地域金融取極(RFAs)とIMFの間の協調による潜在的な相乗効果を認めた上での,その協調を強化するための対話。

25. グローバルな資金セーフティ・ネットの強化についてのこれまでの成果に基づき,将来の危機に対処する我々の能力を改善するために,我々は更なる作業を行う必要がある。そのため,我々は財務大臣・中央銀行総裁に対し,IMFからのインプットを受けつつ,以下を検討することを求めた。

A. システミックな性格を有するショックに対処するための構造的手法。

B. 各RFAの地域ごとの状況や特性を認識しつつ,可能性のあるあらゆる分野でRFAsとIMFの間の協調を改善し,RFAsの危機予防の能力を向上させるための方策。

26. 我々の目標は,より安定的で強じんな国際通貨システムを構築することである。国際通貨システムは強じんであることを示してきたものの,緊張と脆弱性は明らかに存在している。我々は,世界経済のシステムの安定を確保するために,国際通貨システムを更に改善するための方策を検討することに合意した。我々はIMFに対し,資本フローの変動を含む,国際通貨システムのあらゆる面についての作業を深化させることを求めた。我々は,来年更なる分析と提案を検討することを期待する。

金融セクター改革

27. 国際的な金融システムが2008年に突然行き詰まったのは,銀行や他の金融機関による無謀で無責任なリスク・テイクが,規制・監督の重大な失敗と結びついた結果であった。我々の当初の優先事項は,金融市場を安定化させ,国際的な資本移動を回復させるべく迅速に行動することであったが,我々は危機の根本原因に対処する必要性を決して見失うことはなかった。我々は,改革のための原則の実行に向けた行動計画を策定したワシントン・サミットにおいて,最初の一歩を踏み出した。それ以降,我々はロンドン,ピッツバーグ,トロントと進ちょくを積み重ね,国際機関,特に金融安定理事会(FSB)及びバーゼル銀行監督委員会(BCBS)の支援を得て,金融システムの修復に向け一体となって大きく前進した。

危機の根本原因に対処するために変革された金融システム

28. 本日,我々は国際的な金融システムを変革する新たな金融規制の枠組みの中核的な要素をまとめ上げた。

29. 我々は,銀行の自己資本及び流動性の新たな枠組みに係るBCBSによる画期的な合意を承認した。これは,銀行の自己資本及び流動性の質・量・国際的な整合性を高めることにより国際的な銀行システムの強じん性を向上させ,レバレッジの積み上げ及びマチュリティのミスマッチを抑制し,不況時に取り崩すことができる最低所要資本に上乗せされる資本バッファーを導入するものである。この枠組みには,リスクベース資本に対するバックアップとしての役割を果たす,国際的に調和したレバレッジ比率が含まれる。これにより,我々は国際的な銀行システムの広汎な改革を達成した。この新基準は,銀行の過度なリスク・テイクのインセンティブを著しく減少させ,将来の危機の発生可能性と深刻さを軽減し,例外的な政府からの支援なしに銀行が近年の金融危機に当たる規模のストレスに耐えることを可能にする。これは,経済成長をより良く支えることのできる銀行システムをもたらすであろう。我々は,経済の回復及び金融の安定と整合的な合意したスケジュールに従い,これらの基準を採択し完全に実施することにコミットしている。この新たな枠組みは我々の国内法令として導入され,2013年1月1日から実施開始となり,2019年1月1日までに段階的に完全実施される。

30. 我々は,どの金融機関も大きすぎて又は複雑すぎて潰せないことがあってはならず,納税者は破たん処理の費用を負担するべきではない,という我々の見解を再確認した。我々は,システム上重要な金融機関(SIFIs)がもたらすモラルハザードのリスクを軽減し,「大きすぎて潰せない」問題に対処するためにFSBより提案された政策の枠組み,作業のプロセス及び日程を承認した。これには,以下のようなものを組み合わせた多角的な枠組みが必要である。すなわち,すべての金融機関が,金融システムを不安定にせず,納税者に損失のリスクを負わせることなく,安全かつ速やかに処理され得ることを確保するための破たん処理の枠組みやその他施策/SIFIs,及び当初は特にグローバルなシステム上の重要性を有する金融機関(G-SIFIs)について,その破たんがグローバルな金融システムにもたらすリスクがより大きいことを反映してより高い損失吸収力を有するよう求めること/より密度の高い監督・監視/個別金融機関の破たんの伝染リスクを軽減するための強固な中核的金融市場インフラ/追加的な流動性規制,より厳しい大口信用供与規制,負担金,構造に関する措置を状況によっては含み得る,各国当局が定める他の補完的な健全性要件及びその他の要件である。損失吸収力に関して,我々は,コンティンジェント・キャピタルやその他の手法の実行可能性について更に進ちょくを得るよう奨励する。我々は,FSB,BCBS,その他の関係機関に対し,2011年及び2012年における承認された作業のプロセス及び日程に従い,残された作業を完了するよう奨励する。

31. 更に我々は,G-SIFIsが国際的な再建・破たん処理計画の策定を義務付ける継続的なプロセスの下に置かれるべきことに合意した。我々は,国際的な監督カレッジを通じてこれらの金融機関に関する厳格なリスク評価を実施し,危機管理グループ内で金融機関ごとに危機時の協調に関する協定を交渉することに合意した。これらの金融機関に係る各国の政策の実効性及び整合性については,FSBにより定期的なピア・レビューが実施される。

32. 我々は,国境を越えた破たん処理に関するBCBS提言を各国レベルで実施することに対する,トロントでの我々のコミットメントを再確認した。我々は,各国レベルでの実施を支援するため,BCBSにおいて計画されているこれらの提言の現状調査を歓迎した。我々はFSBに対し,この作業を基に実効的な破たん処理の枠組みの特性を2011年までにまとめるよう求めた。

33. トロントでの我々のコミットメントに応えてFSBがIMFと協議のうえ策定した,監督の密度及び実効性の向上に関する政策提言を我々は承認した。我々は,新たな金融規制の枠組みはより実効的な監視・監督によって補完されなければならないことを再確認した。我々は,強固で明確なマンデート,行動に当たっての十分な独立性,適切な資源,定期的なストレステスト及び早期介入を含めたリスクを事前に特定し対処するための一揃いの手法と権限を監督当局が持つべきであることに合意した。

実施及びピア・レビューを含む国際的な評価

34. しかしながら,我々の改革に向けた努力はなお進行中のプロセスである。公平な競争条件や上を目指した競争を確保し,市場の分断,保護主義,規制潜脱行為を回避するような方法で,我々が新たな基準及び原則を完全に実施することが不可欠である。我々は,各国ごとに出発点が異なることを認識した。

35. 我々は本日,行動及び実施に関する我々の完全なコミットメントを再確認した。

36. 各国レベルで我々は,新たな基準及び原則を関連法令及び政策に組み入れていく。国際レベルでは,各国間における実施の整合性を確保し,基準及び原則の中で更なる改善が必要な分野を特定するため,国際的な評価やピア・レビューのプロセスが大幅に強化されるべきである。これに関連して我々は,国境を越えた国際基準の一貫した実施を涵養する手段として,IMF及び世界銀行が共同で実施する金融セクター評価プログラム(FSAP)及びFSBのピア・レビューの有用性を認識した。

37. 我々は,ヘッジファンド,店頭デリバティブ,信用格付会社の規制・監督の強化に国際的に整合的かつ無差別的な方法で取り組むことにも強く改めてコミットした。我々は,健全な報酬に関するFSBの基準の完全に実施することの重要性を再確認した。我々は,公平な競争条件の重要性を認識しつつ,国際的に整合的な方法で我々の以前のコミットメントを完全に実施するために策定された,店頭デリバティブ市場改革の実施に関するFSBの提言を承認した。我々はFSBに対し,定期的にその進ちょくをモニタリングするよう求めた。我々は, 支払・決済システム委員会及び証券監督者国際機構(IOSCO)による中央清算機関に関する基準についての進行中の作業を歓迎した。我々は,外部格付への依存軽減のためのFSB原則も承認した。基準設定主体,市場参加者,監督当局及び中央銀行は,機械的に外部格付に依存すべきではない。

38. 我々は,単一で質の高い改善された国際的な会計基準が実現することを我々が重要視していることを改めて強調し,国際会計基準審議会及び米国財務会計基準審議会に対して,2011年末までに会計基準の収れんに向けたプロジェクトを完了するよう求めた。我々はまた国際会計基準審議会に対し,会計基準設定プロセスの独立性の枠組みの下で,国際的な基準の設定プロセスにおける利害関係者の関与を,新興市場国へのアウトリーチやメンバーシップを含め更に改善するよう奨励した。

39. さらに我々は,非協力的な国・地域が国際的な金融システムにリスクをもたらすのを防ぐことへの我々のコミットメントを改めて表明し,網羅的,整合的かつ透明な評価に立脚したFSB,税の透明性及び情報交換に関するグローバル・フォーラム,金融活動作業部会(FATF)による現在進行中の作業を歓迎した。我々は,以下について合意した。

○評価プロセスに十分に協力していない,又は国際的に合意された情報交換及び協力に関する基準の脆弱な遵守状況を是正するための進ちょくが十分に見られない国・地域を,合意された日程までに取られる提言に沿った行動を基に,FSBが2011年春までに決定すること。

○トロントで首脳により合意された目標を達成するためにグローバル・フォーラムがフェーズ1及び2のレビューを迅速に進め,2011年11月までに進ちょく状況を報告すること。レビューの結果,実効的な情報交換を実現するための要素が未導入であるとされた国・地域は,直ちにその脆弱性に対処すべきである。我々は,すべての国・地域に対し,適切な相手国から求められた場合には租税情報交換協定を締結する準備を整えておくよう求める。

○非協力的な国・地域の特定,及び戦略的な不備のある国・地域の公開リストの定期的なアップデートに関する成功した作業を,FATFが推進すること。次期アップデートは2011年2月である。

40. 我々は,国際的な金融の安定に資する実効的な規制,監督,その他の金融セクターの政策の策定及び実施促進について,各国金融当局及び国際的な基準設定主体の作業を国際レベルで調整する,というFSBの役割を再確認した。我々はFSBに対し,増大する需要に見合うようFSBのキャパシティ,資源,ガバナンスを強化するための提案を,財務大臣及び中央銀行総裁によるレビューを受けるために,2011年の我々の次回会合の相当程度前に提出するよう求めた。我々は,FSBのアウトリーチを歓迎した。我々は,地域諮問グループの設立を承認した。我々は,金融安定強化に向けたG20提言実施の進ちょく状況に関するFSBの報告書を歓迎し,我々の次回会合において新たな進ちょく状況報告が出されることを期待している。

将来の作業:更に注意が必要な事項

41. 我々は多くの分野において著しい進ちょくを成し遂げてきた一方,更に注意が必要な事項も残っている。

○マクロ健全性政策の枠組みについての更なる作業:金融セクターにおけるシステミック・リスクに包括的な方法でかつ継続的に対処するため,我々はFSB,IMF及びBISに対し,過度の資本移動による影響の軽減に資する手段を含むマクロ健全性政策の枠組みについて更なる作業を行い,財務大臣及び中央銀行総裁の次の会合で彼らにアップデートするよう求めた。これらの枠組みにおいては,国レベル及び地域レベルの取組を考慮すべきである。我々は,ベスト・プラクティスの特定に向けた進ちょくを詳述した共同報告書を期待している。この報告書は,枠組みの設計及び実施に関する国際原則又はガイドラインを将来策定する際の基礎となるであろう。

○特に新興市場・途上国に関連する規制改革上の課題への対処:我々は,新興市場・途上国が特に関心を持つ金融の安定に関わる課題について作業を行うことに合意し,FSB,IMF及び世界銀行に対して,次回のサミットの前に検討し報告するよう求めた。これらの課題には,金融機関・企業・家計による外国為替リスクの管理,ホスト国でシステミックな影響を持つ外国金融機関の現地支店に関わるものを含め,新興市場・途上国の規制・監督上の能力及び預金保険スキーム,金融包摂,国境を越えて活動する金融機関に対する母国及びホスト監督当局間での情報共有,貿易金融が含まれ得る。

○シャドーバンキングへの規制及び監督の強化:銀行に対する新たな基準の完成に伴い,シャドーバンキングシステムにおいて規制の格差が生じる可能性がある。したがって,我々はFSBに対して,その他の国際的な基準設定主体と協働して,シャドーバンキングシステムの規制及び監視の強化のための提言を2011年半ばまでに策定するよう求めた。

○商品デリバティブ市場の規制・監督についての更なる作業:我々は,特にIOSCOの商品先物市場に関するタスクフォースに対して,次のステップの検討のため,その重要な作業について2011年4月までにFSBに報告するよう求めた。

○市場の健全性及び効率性の向上:我々はIOSCOに対し,最新の技術発展が金融システムにもたらすリスクを抑制するために市場の健全性及び効率性を促進する提言を,2011年6月までに策定してFSBに報告するよう求めた。

○消費者保護の向上:我々はFSBに対して,OECDやその他国際機関と協働して,情報開示・透明性・教育を含めたインフォームド・チョイス,詐欺・濫用及び過失からの保護,償還請求及び権利擁護を通じて金融消費者保護を促進するための方策について,次回のサミットまでに研究し,報告するよう求めた。

保護主義との闘いと貿易と投資の促進

42. 世界の景気回復にとって自由な貿易及び投資の重要性を認識しつつ,我々は,すべての国にとっての,及び発展の格差を是正するための経済的進ちょくを促す手段として,市場開放を維持し,貿易・投資を自由化していくことにコミットする。自由貿易及び開かれた市場の重要性は,雇用と成長にとっての貿易自由化の利益に関するOECD,ILO,世界銀行及び世界貿易機関(WTO)による共同報告書によって示されている。これらの貿易・投資の自由化措置により,強固で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20の枠組み達成が促進されるのであり,あらゆる形態の保護主義に対抗するとの我々の揺るぎないコミットメントによって,補完されなければならない。したがって,我々は,トロントで合意されたスタンドスティルのコミットメントを2013年末まで延長することを再確認するとともに,輸出規制及び輸出を刺激するためのWTO非整合な措置を含む,いかなる既にとられているかもしれない新たな保護主義的措置も是正することにコミットし,WTO,OECD及び国連貿易開発会議(UNCTAD)に対し,状況を監視し続けるとともに半年ごとに公に報告を行うことを求める。

43. WTOドーハ開発ラウンドに関しては,我々は,ジュネーブの各国代表の間での過去4ヶ月間により広範で実質的な関与がなされてきたことを歓迎する。2011年が,極めて重要な機会の窓であるが,これは狭いものであることに留意しつつ,この関与は強化され拡大されなければならない。我々は今,最終局面を完了する必要がある。ドーハ開発ラウンドを,そのマンデートと整合的に,かつ達成された進展に基づいて,成功裏に,野心的,包括的かつバランスのとれた妥結に迅速に導くための横断的な交渉に関与するよう,我々の交渉担当者に指示する。そのような結果が達成されたならば,我々は,我々の各制度において,必要あれば,批准を追求することにコミットする。

44. 我々は,貿易が途上国,取り分け低所得国において貧困を削減し,経済成長を強化するための有効な手段になり得ると強く信じる。低所得国の貿易の能力を強化するため,我々は,「開発に関する複数年行動計画」が採択されたことを歓迎する。我々は,貿易のための援助(AfT)を,2011年以降も,過去3年間(2006年-2008年)の平均を反映する水準を少なくとも維持し,他の交渉に影響を与えることなく,特恵原産地規則に関するものを含めて,我々の香港コミットメントに沿って,後発開発途上国の産品のための無税無枠の市場アクセスに向けて進ちょくを図り,貿易円滑化を支援するための全体的かつ多角的な対応を調整するよう関係する国際機関に求め,並びに途上国,取り分け低所得国における貿易金融の利用可能性を増大するための措置を支援するとの我々のコミットメントに留意する。この点に関し,我々はまた,途上国を支援する貿易金融プログラムについて,取り分けその対象及び低所国への影響について監視及び評価を行い,規制制度の貿易金融に対する影響を評価することに合意する。

45. 我々は,より深化した地域経済統合のためのアフリカの計画により引き出され得る,アフリカにおけるより速い成長の潜在性を認識する。したがって,我々は,貿易円滑化及び地域的インフラの促進を通じ,自由貿易地域の構想の実現を支援することを含む,アフリカ首脳の地域統合への取組を支持することにコミットする。我々は,国際開発金融機関(MDBs)及びWTOに対し,この努力を支持するため我々と協力することを求める。

共有された成長のためのソウル開発合意

46. 危機は,最貧国の最も脆弱な人々に不均衡に影響を与え,ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた進ちょくを遅らせた。第一の経済フォーラムとして,我々は,これらの課題に対処するため,我々の開発努力を強化し及びてこ入れする必要性を認識する。

47. 同時に,開発格差の是正と貧困の削減は,成長の新たな軸を生み出し,世界的なリバランスに貢献することにより,強固で持続可能かつ均衡ある成長というより広範な枠組みの目的を達成する上で,不可欠である。したがって,我々は,世界的な成長と繁栄において途上国,取り分け低所得国(LICs)が占める割合の迅速な拡大に向け,最善の努力を尽くしている。

48. 我々は,他の途上国,取り分け低所得国と連携して,かかる諸国が最大限の経済成長潜在力を達成・維持する能力を構築することを助けるための作業を行うことにコミットする。我々はそのため,我々のトロント・マンデートと整合的に,世界的な開発努力へのG20の貢献に関する合意を策定した。

49. 我々は,本日,「共有された成長のためのソウル開発合意」(附属書I)及び「開発に関する複数年行動計画」(附属書II)を支持する。

50. ソウル合意及び複数年行動計画は,以下の6つの核となる原則に基づく:

○第一に,ODAの供与及び他のすべての資金源の動員が大部分の低所得国にとり不可欠であり続ける一方で,永続的かつ有意義な貧困の削減は,包括的,持続可能かつ強じんな成長なしには達成され得ない。

○第二に,我々は,開発の成功には,共通の要素がある一方で,単一の公式は存在しないことを認識する。したがって,我々は,国家の政策に対する国家のオーナーシップを成功裏の開発にとって最も重要な決定要素として尊重しつつ,他の途上国をパートナーとして関与させなければならず,それによって,強固で,責任のある,説明可能でかつ透明性のあるG20と低所得国との間の開発パートナーシップを確保することを助ける。

○第三に,我々の行動は,集合的行動を求め,変化の影響への潜在力を有する世界的又は地域的にシステミックな問題を優先しなければならない。

○第四に,我々は,雇用と富を創造する民間部門の中核的な役割と,持続可能な民間部門主導の投資と成長を支援する政策環境の必要性を認識する。

○第五に,我々は,我々の付加価値を最大化し,G20が比較優位を有する,又はモメンタムを与え得る分野に焦点を当てることにより,他の主要なプレーヤーの開発努力を補完する。

○最後に,我々は,途上国,取り分け低所得国において,成長見通しの改善に対する障害を除去する重大な影響の実際の成果に焦点を当てる。

51. ソウル合意はまた,途上国,取り分け低所得国における包括的,持続可能かつ強じんな成長にとって最も重要なボトルネックを解決するために行動が必要であると我々が信じる9つの主要な柱を次のとおり特定する。すなわち,インフラ,人材開発,貿易,民間投資及び雇用創出,食料安全保障,強じんな成長,金融包摂,国内資源の動員,並びに知識の共有である。その上で,複数年行動計画は,以下を含め,これらのボトルネックに取り組むために我々がコミットする具体的かつ詳細な行動を示す。

a)公的,準公的及び民間資金からの投資の増加を促進し,また,ボトルネックとなっている分野において,国家及び地域のインフラプロジェクトの実施及び維持を改善する。我々は,インフラ金融投資動員のための措置を提言するためのハイレベル・パネル(HLP)の設立とMDBの政策枠組みをレビューすることに合意する。我々は,2010年12月までにHLPの議長を発表する。

b)投資を呼び込み,一定水準の雇用を創出し,生産性を増加させる能力を強化するために,雇用者と労働市場のニーズに合った雇用に適した技能の開発を改善する。我々は,G20訓練戦略に基づき,国際的に比較可能な技能指標の開発,及び技能開発を目的とした国家戦略の強化を支持する。

c)先進諸国との,また途上国と低所得国との間の貿易へのアクセスと利用可能性を改善する。我々の貿易に関する行動計画は,上記のパラグラフ42から45において議論される。

d)価値連鎖への責任ある民間投資を特定,強化及び促進するとともに,民間部門投資の経済的な及び雇用への影響を計測し,最大化するための主要な指標を開発する。

e)成果主義に基づく革新的なメカニズムの前進,責任ある農業投資の促進,小規模自作農業の育成,及び市場行動をゆがめることなく,食料価格の変動に関連するリスクをより良く管理及び緩和するための提言を2011年フランス・サミットのために策定することを関連国際機関に求めることを含む措置を通じて,食料安全保障政策の一貫性と協調性を強化し,農業生産性と食料入手可能性を高める。我々はまた,世界農業食料安全保障プログラム及び国連世界食料安全保障委員会を含むその他の二国間及び多国間のチャネルの進ちょくを歓迎するとともに,更なる貢献を奨励する。

f)国連グローバル・パルス・イニシアティブの更なる実施を通じたものを含め,途上国の社会保護プログラムの強化を支援することにより,及び外国送金の平均費用の量的削減を目的とするイニシアティブ実施の促進により,所得保障と負のショックに対する強じん性を改善する。

g)貧困層及び中小企業の金融へのアクセスを向上させる。金融包摂と関連する実施メカニズムに関する我々の行動計画は,以下のパラグラフ55から57において議論される。

h)途上国の租税に関する行政システムと政策を改善し,非協力的な国・地域と開発との間の関係を強調することにより,包括的な成長と社会的公平のための持続可能な歳入基礎を構築する。

i)途上国の能力を改善し,また国家の政策策定を助けるために最も広範囲な経験が利用されることを確保するために,取り分け途上国間での知識と経験の共有の規模を拡大し,主流化する。

52. 我々は,我々の個々の及び集団の双方の行動を通じて,また世界的な開発に関するすべての利害関係者と連携して,人々の生活に肯定的な変化の影響を与える複数年行動計画の高い潜在力を理解しつつ,複数年行動計画の完全,適時かつ効果的な実施にコミットし,優先順位付けを行う。我々は,これらの行動を前進させるため,引き続き,関係の国際機関と緊密に作業する。

53. 我々は,MDGsの達成への我々のコミットメントを再確認するとともに,2010年9月にニューヨークで開催されたMDGs国連首脳会合の成果を補完するために世界的に合意された持続可能な経済・社会・環境開発のための開発原則,並びに,ともに2011年に開催されるトルコにおける第4回国連後発開発途上国首脳会議及び韓国における第4回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムなどのプロセスと我々の作業を整合的なものとする。我々はまた,我々のODA公約と,最貧国の支援とモンテレー合意及びその他のフォーラム以後に策定された国内資源の動員に対するコミットメントを再確認する。

54. 我々が,2011年フランス・サミットにおいて,進ちょくをレビューし,更なるステップの必要性につき検討できるよう,我々は,開発作業部会に対し,複数年行動計画の実施を監視するという更なる任務を課す。したがって,ソウル合意に基づく開発は,将来のG20サミットの永続的な一部となる。我々は約束したことを実施する。

金融包摂

55. 我々は,金融包摂に対する我々の強いコミットメントを改めて表明し,貧困層の生活を向上し,中小企業(SMEs)の経済発展への貢献を支援するため,金融へのアクセスが改善されることの利益を認識する。我々は,途上国におけるSME金融の成功した拡張性のあるモデルに関する検査報告を歓迎する。我々は,来年の作業プログラムとして,革新的な金融包摂の原則に基づく金融包摂行動計画を策定した。

56. 我々は,金融包摂アライアンス,貧困層を支援する協議グループ,及び国際金融公社と協働して,行動計画実施を含む,金融包摂に関する我々の作業を前進させるための,すべてのG20メンバー国,関心のあるG20メンバー国以外の各国,及び関連する利害関係者のための包括的な基盤として,金融包摂のためのグローバル・パートナーシップ(GPFI)を立ち上げることにコミットする。 来年のGPFIの取組は,各国が革新的な金融包摂のための原則を実施するのを助け,金融包摂を評価するためのデータを強化し,目標を設定しようとしている国のための方法論を策定することを含む。我々は,GPFIが,フランスにおけるサミットで,その進ちょくを我々に報告すべきであることに合意する。

57. 我々は,雇用と所得の創出におけるSMEの極めて重要な役割を認識し,G20 SME金融チャレンジへの大きな反響と,コンテストを通じて現れてきた民間のSME金融の規模を拡大するための革新的なモデルを歓迎し,優秀提案を賞賛する。我々は,優秀提案とその他の成功したSME金融モデルに資金を供給するため,既存の資金供給メカニズムと新たなSME金融革新基金を利用することで,贈与,リスク資本及び民間資金を動員するための柔軟なSME金融枠組みを構築している。我々は,カナダ,韓国,米国,及び米州開発銀行による贈与と協調融資を通じた枠組みへの5280億ドルのコミットメントを歓迎する。

エネルギー

化石燃料補助金

58. 我々は,最貧困層に焦点を当てた支援を行いつつ,各国の状況に基づくタイミングで,無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の中期的な合理化及び段階的廃止という我々のコミットメントを再確認する。我々は,財務大臣及びエネルギー大臣に対し,国ごとの戦略を実施するに当たって,並びに我々がピッツバーグ及びトロントにおいて合意した目標を達成するに当たってなされた進ちょくを,フランスにおける2011年のサミットにおいて報告するよう指示する。

59. 我々は,国際エネルギー機関(IEA),世界銀行及びOECDの暫定的な報告書を留意した上で,これらの機関に対し,石油輸出国機構(OPEC)と共に,ピッツバーグ及びトロントでのコミットメントの実施における進ちょくを更に分析・レビューし,フランスにおける2011年サミットに報告するよう求める。

60. 我々は,非効率な化石燃料補助金を段階的に廃止するプログラム及び政策に関する知識,専門性及び能力を共有することの価値を認識する。

化石燃料価格の変動

61. 我々は,世界経済成長にとっての,よく機能し,透明性のある石油市場の重要性を認識する。我々は,石油データ共同イニシアティブ(JODI)を強く支持するとともに,国際エネルギー・フォーラム(IEF),IEA及びOPECに対し,JODIデータベースの質,適時性及び信頼性を改善するための特定の措置を提案する報告を求める。かかる報告は,石油生産,消費,精製及び備蓄レベルについてのデータの利用可能性を,適切な場合に改善する方法を探求する,時間的な枠組み及び実施戦略の提案を含めるべきである。中間報告は,2011年2月の財務大臣会合までに提出され,最終報告は,2011年4月の財務大臣会合までに提出されるべきである。我々はまた,IEF,IEA,OPEC及び証券監督者国際機構(IOSCO)に対し,2011年4月の財務大臣会合までに,石油現物市場価格の石油価格報告機関による評価方法,及びそれが石油市場の透明性及び機能に与える影響について共同報告を作成するよう要請する。

62. 我々は,生産国・消費国対話を強化するための新たなIEF憲章の制定を支持するとともに,主要な関係機関とエネルギー市場の見通しに関する年次シンポジウムを開催するという,IEA及びOPECの協力により策定されたIEFプランを歓迎する。我々は,IEF,IEA及びOPECに対して,各々の見通しと短期,中期及び長期の石油市場の需給に関する予測を強調し,共同報告及び共通コミュニケを作成するよう要請する。我々は,石油の現物市場と金融市場の間における連関に関する,それらの機関が現在行っている作業を歓迎する。

63. 2010年6月及び11月のIOSCOによる報告を歓迎しつつ,我々は,IOSCOに対し,石油店頭市場の状況を更に監視し,エネルギー専門家グループの作業によって情報を得た財務大臣及び関係大臣が,2011年4月に石油金融市場の規制改善及び透明性向上について次のステップを検討するために,金融安定理事会に対して報告することを求める。我々は,エネルギー専門家グループに対し,第二のステップとして不安定性に関するその作業を他の化石燃料に拡大するよう求める。

地球海洋環境保護

64. 我々は,海洋環境保護,沖合の採掘及び開発,並びに海運に関する事故の予防,及びそれらの結果への対処につきベスト・プラクティスを共有するという目標に向け,地球海洋環境保護(GMEP)イニシアティブによって達成された進ちょくを歓迎する。我々は,GMEP専門家サブグループが行った作業を認識するとともに,海洋環境の保護の観点からトロント・サミットのマンデートを実施する第一歩として沖合石油及びガスの採掘,生産及び輸送の国際的規制のレビューの進ちょくに留意する。

65. 米国のBPディープ・ウォーター・ホライズン原油漏れに関する国家委員会及びオーストラリアのモンタラ調査委員会から適切な調査結果が入手可能になる際,GMEPイニシアティブについての将来の作業は,関連する発見事項から恩恵を得るべきである。我々は,GMEP専門家サブグループに対し,国際海事機関(IMO),OECD,IEA,OPEC,国際規制者フォーラム及び国際採掘業者協会の支援及び関連する利害関係者との協議の下,ベスト・プラクティスの効果的な共有作業にかかる取組を継続するために,2011年のフランスにおけるサミットにおいて,更なる報告を提供するよう求める。

気候変動及びグリーンな成長

66. 世界的な気候変動の脅威への対処は,すべての国にとって喫緊の優先課題である。我々は,強固で行動志向の措置をとり,国連気候変動交渉に引き続き十分に専心するという我々のコミットメントを改めて表明する。我々は,共通だが差異のある責任とそれぞれの能力を含む,国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の目的,規定及び原則を再確認する。我々は,カンクン において2010年11月末から開始されるUNFCCC交渉を開催するメキシコに感謝する。我々のうちコペンハーゲン合意への賛同国は同合意とその実施に対する支持を再確認する。我々すべては,緩和,透明性,資金,技術,適応及び森林保全の中核的問題を含む,成功裏のかつバランスのとれた結果が達成されることにコミットする。この点について,我々は,国連事務総長により設立された気候変動資金に関するハイレベル諮問グループの作業を歓迎するとともに,財務大臣がその報告を検討するよう求める。我々はまた,短期資金支援の実施を支持し,奨励する。

67. 進行中の生物多様性の喪失は世界の環境と経済の課題である。気候変動及び生物多様性の喪失は相互に密接に関連する。我々は生態系と生物多様性の経済学に関する世界的な研究の成果を確認する。我々は名古屋でのCOP10の成功裏の結果を歓迎する。

68. 我々は,貧困層のエネルギーへのアクセスを確保しつつ,雇用の創出と環境面で持続可能な世界成長を推進する国主導のグリーンな成長政策を支持することにコミットする。我々は,本質的に持続可能な開発の一部である,持続可能なグリーンな成長が,質の高い開発の戦略であり,エネルギー効率化及びクリーン技術の活用等を通じるものを含む,多くのセクターにおいて国々が古い技術を革新することを可能にすることを認識する。この目的のため,我々は,技術移転及び能力構築を含めた我々の国々及びそれ以外における政策及び実践を含む,エネルギー効率及びクリーン・エネルギー技術の開発及び展開に資する環境を,適切に創出するための措置をとる。我々は,クリーン・エネルギー担当大臣会合の下での既存のイニシアティブを支援し,ビジネスリーダーと共に研究開発及び規制措置についての協力に関して更に議論することを奨励し,エネルギー専門家グループに対して,監視の上,フランスにおける2011年サミットに進ちょくにつき報告するよう求める。我々はまた,資金を動員し,明確で一貫性のある基準を確立し,長期的なエネルギー政策を策定し,教育,企業及び研究開発を支援し,国家レベルの法制アプローチについての国境を超えた協力と調整を促進することを継続することにより,エネルギー及び資源効率性,並びにグリーンな輸送及びグリーンな都市における投資を刺激することにコミットする。

腐敗対策

69. 腐敗は経済成長と開発にとって深刻な障害であることを認識し,我々は, G20腐敗対策行動計画 (附属書III)を支持する。過去の宣言に基づき,かつ,主要貿易国の首脳としての我々の役割を認識し,我々は,腐敗を防止し及びこれと闘う特別な責任を認識し,効果的で世界的な腐敗防止体制の構築への共通のアプローチを支援することをコミットする。

70. この点について,我々は,国連腐敗防止条約(UNCAC)に加入又は批准し,効果的に実施すること,及び透明かつ包括的なレビュープロセスを促進すること,外国公務員への贈賄を防止する法律を採択及び施行すること,腐敗した公務員の世界金融システムへのアクセスを防止すること,腐敗した公務員の入国拒否,犯罪人引渡し及び財産回復において協力する枠組みを検討すること,公益通報者を保護すること,腐敗対策機関を保護することを含む,腐敗対策行動計画に詳述されている鍵となる分野において模範を示す。我々はまた,事業活動の遂行及び公的部門における妥当性,公正性及び透明性を促進するため,腐敗と闘う官民連携の促進への献身的な取組に着手し,腐敗を防止する闘いに民間部門を関与させていくことにコミットする。

71. G20は,そのコミットメントへの説明責任を負う。国際的な腐敗対策標準のためのピア・レビューを行う既存のメカニズムへの参加を超えて,我々は,腐敗対策行動計画期間において,我々のコミットメントの実施に係る進ちょくに関する年次報告を将来のサミットに提出するよう腐敗対策作業部会に対して任務を課す。

ビジネスサミット

72. 民間部門主導による成長及び雇用創出の重要性を認識しつつ,我々は,「持続可能で均衡ある成長のためのビジネスの役割」とのテーマの下で世界のビジネスリーダーを招集し,11月10,11日に開催されたソウルG20ビジネスサミットを歓迎する。我々は,来るサミットにおいてG20ビジネスサミットを継続することを期待する。

協議

73. 我々は,我々の意思決定の広範な影響にかんがみ,より広範囲の国際社会と協議する必要性を認識する。我々は,国際機関,取り分け国連,地域機関,市民社会,労働組合及び学界との建設的なパートナーシップに立脚しつつ,よりシステマティックな方法でG20の協議活動を実施するための取組を増進させていく。

74. 国際経済協力に関する第一のフォーラムとして,G20が代表的かつ効果的であることの重要性に留意しつつ,我々は,最低2か国のアフリカ諸国を含めた5か国を超えない非G20メンバー国をサミットに招待することを含め,非G20メンバー国の招待に関する一連の原則につき,広範な合意に達した。