データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 金融システムの強化に関する宣言

[場所] ロンドン
[年月日] 2009年4月2日
[出典] 外務省仮訳
[備考] 
[全文]

我々、G20の首脳は、金融セクターの規制を改革するためワシントンで示したコミットメントに沿って、規制と監督を強化する措置を採ってきており、これからも採り続ける。我々の原則は、透明性及び説明責任の強化、健全な規制の拡大、金融市場における公正性の促進、国際連携の強化である。本付属文書の内容は、我々の宣言におけるコミットメントを発展させ、その詳細を提供する。我々は本日、ワシントン行動計画に規定された47の措置の全てに関する進捗報告を公表した。特に、我々は以下の主要な改革について合意した。

金融安定理事会

我々は、金融の安定を促進するための役割が拡大されたことを踏まえ、金融安定化フォーラム(FSF)は拡充され、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ金融安定理事会(FSB)として再構成されるべきであることに合意した。

金融安定理事会は、

・金融システムに影響を与える脆弱性を評価し、これらに対処するために必要な措置を特定し、監視する。

・金融の安定に責任を有する当局間の協調と情報交換を促進する。

・市場の動向及びその規制政策に対する影響について、監視し、助言する。

・規制基準の遵守に関するベスト・プラクティスにつき助言し、監視する。

・国際基準設定主体の政策策定作業について、共同での戦略的な検証を実施し、その作業が時宜を得て、調整がとれ、優先順位の高いものに焦点を当て、規制の抜け穴に対処していることを確保する。

・金融システム上最も重要な、国境を越えて活動する金融機関 を継続的に特定することを含め、監督カレッジに関する指針を策定するとともに、その設置、機能、参加を支援する。

・特に、金融システム上重要な金融機関について、国境を越えた危機管理における緊急時の対処計画の立案を支援する。

・マクロ経済上及び金融上のリスクの高まり及びそれに対処するために必要な行動を特定し、国際通貨金融委員会(IMFC)及びG20財務大臣・中央銀行総裁会議に報告するため、早期警戒において、IMFと協働する。

金融安定理事会のメンバーは、金融の安定確保を追求し、金融セクターの開放性と透明性を高め、国際的な金融に関する基準(12の主要な国際基準及び規範を含む)を実施することにコミットし、IMF・世界銀行による公表された金融セクター評価プログラム(FSAP)の報告書等の資料を用いて、定期的なピア・レビューを実施することに合意する。金融安定理事会は、こうしたコミットメントと評価プロセスの詳細を明らかにし、これを報告する。

我々は、双方が他方の役割と権限を補完しながら、連携を強化するという金融安定理事会とIMFのコミットメントを歓迎する。

国際的な連携

国際的な連携を強化するために、我々は以下について合意した。

既に設置された28に加えて、2009年6月までに、国境を越えて活動する重要な金融機関について残りの監督カレッジを設置する。

国境を越えた危機管理に関するFSFの原則を直ちに実施するとともに、国際的に活動する主要な金融機関の母国当局は、当該金融機関に共通の関心を有する関係当局のグループが少なくとも年1回会合を持つことを確保すべきである。

国境を越える銀行の破綻取り決めに関する国際的な枠組みを策定するためのIMF、金融安定理事会、世界銀行及びバーゼル銀行監督委員会(バーゼル委)による継続的な努力を支持する。

出口戦略に関する更なる作業と国際協力の重要性。

IMFと金融安定理事会は、2009年の春の総会の際、共同で早期警戒を始めるべきである。

健全性規制

我々は、健全性規制のための国際的な枠組みを強化することに合意した。

・自己資本の最低水準に関する国際基準は、景気回復が確実になるまで、変更されるべきではない。

・悪化した経済状況の中で貸出を円滑にするため、適切な場合には、最低所要自己資本を超える資本バッファーは、取り崩しが許容されるべきである。

・景気回復が確実になれば、健全性規制の基準は強化されるべきである。規制上の最低所要水準を超える資本バッファーが積み増され、資本の質も強化されるべきである。自己資本の定義を調和させるための指針は、2009年末までに作成されるべきである。バーゼル委は、自己資本の最低所要水準について検討を行い、2010年中に提言を策定すべきである。

・金融安定理事会、バーゼル委、グローバル金融システム委員会(CGFS)は、会計基準設定主体と協働して、2009年末までに、銀行が景気悪化時に取り崩し可能な資本等のバッファーを好況時に積み増すことを銀行に求めることも含め、本日公表された景気循環増幅効果(プロシクリカリティ)を軽減するための提言の実施を進めるべきである。

・リスク・ベースの所要自己資本は、国際的に比較可能で、オフバランス・エクスポージャーを適切に勘案し、かつ、銀行システムにおけるレバレッジの拡大を抑制することに資する、簡素で透明性が高く、リスク・ベースではない指標によって補完されるべきである。

・バーゼル委及び当局は、2010年までに、デュー・ディリジェンス及び定量的な保有義務を考慮することを含め、証券化のリスク管理に係るインセンティブを改善する作業を進めるべきである。

・全てのG20諸国は、バーゼルIIの資本枠組みを段階的に採用すべきである。

・バーゼル委及び各国当局は、2010年までに、国境を越えて活動する機関を含む金融機関におけるより強固な流動性バッファーを促進する世界的な枠組みを策定し、合意すべきである。

規制の範囲

我々は、システム上重要な金融機関、市場及び商品の全てが、適切な程度の規制及び監督の対象となることについて合意した。

特に、

・我々は、システミック・リスクの高まりを制限するため、規制当局が、規制対象の銀行、シャドーバンク、私募ファンドの場合を含め、金融システム全体にわたるマクロ健全性上のリスクを特定し、考慮することができるよう、規制システムを改編する。我々は、金融安定理事会に対し、国際決済銀行及び国際基準設定機関と協働してマクロ健全性に関する手法を策定し、2009年秋までに報告書を提出するよう求める。

・巨大複合金融機関には、そのシステム上の重要性を踏まえ、特に注意深い監視が必要である。

・我々は、各国規制当局が、あらゆる重要な金融機関、市場及び商品について、その破綻や重大なストレスがシステミック・リスクにつながる可能性を評価するため、関連情報を収集する権限を持つことを確保する。これは、国・地域を越えて可能な限りの整合性を実現するため、国際的なレベルでの緊密な協調の下になされる。

規制の潜脱を防止するため、IMF及び金融安定理事会は、次回の財務大臣・中央銀行総裁会議までに、各国規制当局において、金融機関、市場、商品がシステム上重要であるかを評価するための指針を作成する。その指針は、金融機関の法律上の形態よりもその行為に焦点を当てるべきである。

・ヘッジファンド、又は、そのマネージャーは、登録される。また、それが個別的に又は集合的にもたらすシステミック・リスクを評価するのに必要な、レバレッジ等の適切な情報を監督当局あるいは規制当局に対し継続的に開示することを求められる。適切な場合には、登録に最小規模要件を設けるべきである。適切なリスク管理が行われることを確保するため、これらは監督の対象となる。我々は、金融安定理事会に対し、ファンドがマネージャーとは異なる国・地域に所在する場合にも、効果的な監督が確保されるよう、関係当局間の協力と情報共有のためのメカニズムを策定することを要請する。我々は、金融安定理事会を通じて協力することにより、2009年末までに、これらの原則を実施するための方策を策定する。我々は、金融安定理事会に対し、次回の財務大臣・中央銀行総裁会議に対し報告を行うことを求める。

・監督当局は、ヘッジファンドをその取引相手方とする機関が、効果的なリスク管理を行うことを求めるべきである。これには、そのファンドのレバレッジを監視し、個別の取引相手に対するエクスポージャーに制限を設定するメカニズムを含むべきである。

・我々は、特に、効果的な規制・監督を受ける中央清算機関の設立を通じ、信用デリバティブ市場における標準化と強靭性を促進する。我々は、業界に対し、2009年秋までに標準化に関する行動計画を策定するよう求める。

・我々はそれぞれ、金融システムにおける動向に歩調を合わせて、規制枠組みが及ぶ範囲を定期的に見直し、適応させていく。また、グッド・プラクティス及び国際的なレベルで整合的なアプローチを促進する。

報酬

我々は、報酬体系が金融機関の長期的な目標及び健全なリスクテイクと整合的であることを確保すべく、重要な金融機関における賃金と報酬に関し、FSFが作成した原則を支持する。我々は、2009年の報酬の支払いまでに、各国監督当局がこの原則の実施に有意義な進展があることを確保すべきことに合意した。バーゼル委は、2009年秋までに、この原則を同委員会のリスク管理ガイダンスに統合すべきである。本日公表されたこの原則は、次の点を求めるものである。

・金融機関の取締役会は、報酬体系の設計、運用及び評価について積極的な役割を果たすこと。

・ボーナスを含め、報酬の仕組みが、リスクを適切に反映し、その支払いのタイミングと組み合わせがリスクの生じる期間に応じたものであること。リスクが長期にわたって実現する場合は、支払いは短期に完了すべきではない。

・金融機関は、報酬に関し、明確で包括的かつ適時の情報開示を行うこと。株主を含む利害関係者は、実効的な監視を行うため、報酬政策について適切かつ適時に情報を提供されるべきである。

監督当局は、金融機関の健全性を総合的に判断する一環として、金融機関の報酬政策を評価する。必要な場合には、監督当局は、金融機関の所要自己資本を増加させることを含め、介入措置を採る。

タックス・ヘイブン及び非協力的な国・地域

財政及び国際基準を、非協力的な国・地域によるリスクから守ることは必要不可欠である。我々は、全ての国・地域に対して、健全性、租税、マネーロンダリング及びテロ資金対策の各分野における国際基準を厳守するよう求める。この目的のため、我々は、適切な機関に対して、FSAPプロセスを含む既存のプロセスに基づき、客観的なピア・レビューを実施し強化することを求める。

我々は、2004年のG20において支持され、国連モデル租税条約に反映されている情報交換に関する国際基準を、各国が採用することを求める。我々は、税に関する情報交換の国際基準に反しているとグローバル・フォーラムによって評価された国のリストを本日経済協力開発機構(OECD)が発表したことに留意する。我々は、数多くの国・地域による新たなコミットメントを歓迎し、速やかに実施を進めることを奨励する。

我々は、税に関する透明性についての国際基準を満たさない国・地域に対して合意された行動をとる準備ができている。この目的のために、我々は、以下のような各国が検討すべき効果的な対抗措置の項目表を策定することに合意した。

・納税者及び金融機関に対する非協力的な国・地域に関係する取引報告の開示義務の強化。

・幅広い種類の支払いに対する源泉徴収。

・非協力的な国・地域に居住する受取者に対する支払いの経費控除の否認。

・租税条約に関する政策の見直し。

・国際機関及び地域開発金融機関に対する同機関による投資政策の見直しの要請。

・二国間の援助プログラムの作成に際し、税に関する透明性及び情報交換の原則を一層重視。

我々はまた、こうした国・地域との金融関係に関連する更なる選択肢について検討することに合意した。

我々は、2009年末までに、途上国にとって新たな協力的な税環境の利益を確保することをより容易にするための提案を策定することにコミットしている。

我々はまた、国際的な健全性規制、税及び監督基準の厳守を強化することにもコミットしている。IMFと金融安定理事会は、国際基準設定主体と協力し、既存のFSAPをすでに実施している場合にはそれに積み上げる形で、関連の国・地域による実施状況の評価を提供する。我々は、金融安定理事会に対し、健全性基準の厳守と国・地域との協力を実施するための措置の項目表を策定するよう求める。

我々は、金融活動作業部会(FATF)が、合意された評価報告書がある場合にはそれらを用いて、国・地域によるマネーロンダリング及びテロ資金対策基準の遵守状況を評価するためのレビュー・プロセスを、改定し更に活性化すべきことに合意した。

我々は、金融安定理事会及びFATFに対し、次回G20財務大臣・中央銀行総裁会議において、各国による基準の採用と実施について報告を行うことを求める。

会計基準

我々は、公正価値会計の枠組みを再確認しつつ、会計基準設定主体が、流動性及び投資家の保有期間を踏まえ、金融商品の価格評価の基準を改善すべきであることに合意した。

我々はまた、会計事項に対処する景気循環増幅効果に関するFSFの提言を歓迎する。我々は、会計基準設定主体が、2009年末までに以下のための措置を採るべきであることに合意した。

・金融商品の会計基準に関する複雑性を低減する。

・より広範な信用情報を取り込むことで、貸倒引当金に関する会計上の認識を強化する。

・引当、オフバランス・エクスポージャー及び評価の不確実性について、会計基準を改善する。

・監督当局とともに価格評価基準の適用における明瞭性及び整合性を国際的に実現する。

・単一の質の高いグローバルな会計基準に向けた重要な進捗をもたらす。

・独立した会計基準設定プロセスの枠組み内において、国際会計基準審議会の定款の見直しを通じ、健全性規制当局及び新興市場国を含む利害関係者の関与を改善する。

信用格付会社

我々は、不可欠な市場参加者である信用格付会社の活動に対するより効果的な監督について合意した。我々は、特に、以下について合意した。

・その格付けが規制目的で用いられる全ての信用格付会社は、登録を含めた、規制監督制度の対象となるべきである。その規制監督枠組みは2009年末までに構築され、証券監督者国際機構(IOSCO)の「基本行動規範」と整合的であるべきである。IOSCOはそれが完全に遵守されるよう調整を図るべきである。

・各国当局は、コンプライアンスについて執行するとともに、利益相反を管理し、格付プロセスにおける透明性と品質を確保するための格付会社の実務及び手続きの変更を求める。特に、信用格付会社は、仕組み商品の格付けを区別し、格付実績ならびに格付プロセスを裏付ける情報及び前提についての完全な開示を提供すべきである。監督の枠組みは、国・地域を通じ整合的であるとともに、IOSCOを通じることを含め、各国当局間で適切な情報共有が行われるべきである。

・バーゼル委は、健全性規制における外部格付の役割の見直しを促進し、対処を要する負のインセンティブがないか判断すべきである。

次なる段階

我々は、財務大臣に対し、これらの決定及び添付の行動計画の実施を完了するよう指示する。我々は、金融安定理事会とIMFに対し、FATF及びグローバル・フォーラムと協働しつつ、進捗状況を監視し、次回の財務大臣・中央銀行総裁会議に報告書を用意するよう要請した。