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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候変動シンポジウム伴野外務副大臣開会スピーチ「気候変動シンポジウム~気候変動のより良いガバナンスの探求~」において

[場所] 東京
[年月日] 2011年3月2日
[出典] 外務省
[備考]
[全文]

 本日は、気候変動を巡る国際交渉において主要な役割を担っておられる方々を日本にお招きし、シンポジウムを開催することを大変嬉しく思います。日本政府を代表して、一言ご挨拶をさせて頂きます。外務副大臣を仰せつかっている伴野でございます。

 本日の目的は、真の「地球益」を守る観点から、国際社会として何をなすべきか、真剣に考えることです。気候変動という地球規模課題に有効に対処するための効果的な国際的枠組みは如何にあるべきか,そのような枠組みを構築するため今後の交渉を如何に進めるべきかを大所高所から議論することが必要です。本シンポジウムが、気候変動問題対処のための新しい枠組みの在り方について、力強いメッセージを発することを心から期待しています。

COP16の成果

 昨年末のCOP16では、大変困難な交渉の末に「カンクン合意」が採択され、全ての主要国が参加する公平で実効的な国際枠組みの構築に向けた重要な一里塚となりました。議長国メキシコの皆様の尽力に改めて敬意を表します。

 我が国も気候変動交渉を前進させるため、最大限の努力を行ってまいりました。気候変動対策を積極的に進める途上国等に対する支援として、官民合わせて150億ドルの短期支援を表明し、既に約72億ドルの支援を実施しています。

 また、昨年は森林保全に関する国際社会の取組強化のために設立した「REDD+パートナーシップ」の共同議長国として、10月に名古屋において「森林保全と気候変動に関する閣僚級会合」をホストし、森林保全に関して国際社会が取るべき行動の大枠を閣僚級で合意し、COP16に向けて弾みをつけました。

 COP16で得た建設的な雰囲気を維持し、本年はカンクン合意に盛り込まれた幅広い要素を具現化・具体化していく作業を、切迫感を持って進めることが肝要です。

京都議定書

 京都議定書は、歴史上初めて国家に具体的な排出削減義務を課した国際約束として先駆的役割を果たしてきました。重要なのは、この精神を各国と共有し、全ての主要国が参加する公平かつ実効的な国際枠組みを構築することです。

 COP16では、京都議定書第2約束期間の設定には賛同しないとの我が国の発言が大きな注目を集めました。ここで、若干の誤解があろうかと思うので改めて強調したいのは、我が国の京都議定書第2約束期間に対する立場は、「地球益」を守る観点からのものであり、日本が気候変動対策に消極的との指摘は全く当たりません。

 世界の排出量の27%しかカバーしない京都議定書第二約束期間を設定しても、問題の解決にはなりません。全ての主要国による「行動の空白期間」を生じさせないことこそが肝要であり、そのためにカンクン合意を速やかに実行に移し、2013年以降全ての主要国による削減を実現すること、そして、真に公平かつ実効的な国際枠組みを早期に構築することを目指すべきです。日本はこれに向けて建設的に議論していく所存です。

真に公平・実効的な国際枠組みの構築に向けて

 真に公平かつ実効的な国際枠組みとは如何なるものかを考える上で、国際社会の基本構造が大きく変化していることに目を向ける必要があります。1990年には世界の排出量のうち65%を先進国が占めていましたが、2007年には既に49%まで比率が下がり、今後更に割合は減少していく見込みであろうと思います。先進国が率先して取組を行う必要がありますが、同時に新興国も気候変動問題解決に向けて責任ある役割が求められています。カンクン合意を発展させ、各国の取組の透明性を確保し、一層の取組を促す枠組みを構築する必要があります。

 また、気候変動対策に欠かせない資金・技術を有する民間の力を最大限活かすような枠組みが必要となっています。環境保全は民間の経済活動を圧迫するものではなく、新たな成長の機会を提供しうるものです。新たなインセンティブの付与や規制の在り方等を通じて、環境と経済の両立を可能とする市場メカニズムを構築すべきです。

 また、途上国の皆様への支援は、重要な構成要素の一つです。日本は、2012年末までの短期支援として既に表明した150億ドルの支援策を着実に実施してく覚悟です。長期資金に関しては、緑の気候基金について、途上国のニーズを迅速にキャッチし、対応できる実効的なものとなるよう、制度設計に積極的に参画していく所存です。また、技術メカニズムの機能も充実したものとなるよう、官民が協力して大いに貢献していく所存です。

 MRVも重要な課題と認識しています。MRVは途上国に負担のみを強いるのではなく、緩和行動を支援する資金・技術協力を受けやすくするためのものです。我が国は、キャパシティービルディングに積極的に取り組んでいきます。

 また、如何なる国際枠組みも、アフリカ、小島しょ国、後発開発途上国等気候変動に脆弱な国々への配慮無くして、信頼を得ることはできません。人間の安全保障を外交の柱に掲げる我が国として、脆弱国であるそれらの国々への対策の重要性を強調したいと考えています。TICAD,大洋州・島サミット、カリコム等の枠組みを通じて、途上国の皆様方との協力や対話を強化していきます。

グリーン成長と日本の取組

 今後、各国は環境保全と経済成長を両立させるグリーン成長モデルを採用することが不可欠です。日本は経済成長を遂げながら、省エネ対策や技術革新を進め、GDP当たりのエネルギー消費量をほとんど増やさなかった実績を既に持っています。また、昨年6月に決定した「エネルギー基本計画」では、エネルギー起源CO2の排出量を2030年に1990年比で30%程度もしくはそれ以上削減する見通しを示し、これに必要となる抜本的な取組を進めていく所存です。更に、同じく昨年6月に閣議決定した新成長戦略では、その一つの柱として、日本が持つトップレベルの環境技術を普及させ、2020年までに50兆円を超える環境関連新規市場と、140万人の環境分野の新規雇用を創出することを目指す「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」を掲げました。その後、同戦略を更に充実させ、総合的なグリーン・イノベーション戦略の策定に向け、取り組んでいるところです。

 日本が2013年以降も排出削減の取組を強力に推し進める方針に全く変更はございません。国際交渉に弾みをつけるために提示した、2020年までに1990年比で前提条件付き25%削減との意欲的な目標、2050年80%削減の長期目標を掲げ、我が国が中長期的に率先して温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた地球温暖化対策基本法案を今国会に提出しており、その成立に向けて引き続き全力で取り組んでいきます。

 国内の削減対策としては、地球温暖化対策のための税を本年10月から導入すべく、現在関連法案を国会審議中であるほか、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度の平成24年度からの導入に向けて今国会に法案を提出する予定です。

 このような我が国のグリーン成長の経験や気候変動対策を途上国の皆様ともしっかりと共有し、途上国の皆様の取組を積極的に支援することにより、グローバルな排出削減に繋げていきたいと考えています。

COP17に向けた展望・結語

 COP17は、真に公平かつ実効的な国際枠組みの構築に向けた最大の好機であり、「カンクン合意」を踏まえて、緩和・MRV、資金、技術、REDD+等の主要分野について、より具体的な内容に合意すべきです。日本として、議長国の南アフリカを最大限サポートし、明日・明後日にはブラジルと共催で、主要な国の交渉担当者を招いた非公式会合を東京で開催します。いずれにしても、気候変動問題は今を生きる全ての大人の責任であり、問題であると思っております。未来への責任を共に果たそうではありませんか。

 本日のシンポジウムが、COP17に向けた今年の国際交渉に建設的なインプットとなると共に、中・長期的観点に立った気候変動問題への国際社会の取組の基本理念を問い直す契機となることを切に希望し、私からの挨拶といたします。