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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ジュネーブ・閣僚による生物多様性のための即時行動の呼びかけ

[場所] ジュネーブ
[年月日] 2010年9月3日
[出典] 環境省仮訳
[備考] 
[全文]

我々、生物多様性条約締約国会議の既開催国及び開催予定国の環境大臣は、スイス政府の支援を受けて、2010年9月3日にジュネーブの地に集い、以下の事柄を確認する:

● 生物の多様性は、人間社会の健康と人類の生存の基盤となる、地球の良好な状態を維持する上で重要な役割を果たす;

● 生物多様性を保全し持続可能な利用を行うとともに、遺伝子資源と関連する伝統的知識の利用によって得られる便益を分配することによってのみ、我々は自身が依存する生態系サービスの供給を確実に続けさせることができる。

以下、我々が強く懸念を抱く事柄について述べる:

● 2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させるというヨハネスブルグ生物多様性目標は達成されておらず、生物多様性はかつてない速度で失われ続け、そして気候変動により悪化してきている;

● 条約の実施は、以下によって制約を受けている。

 特に途上国、とりわけ経済移行国、後発開発途上国及び小島嶼途上国における人材、技術及び資金資源の不足;より広範な政策、戦略及びプログラムへの生物多様性の統合の不足;アクセスと利益配分(ABS)に関する国際的枠組みの欠如;生物多様性の重要性に関する意識の欠如と、生態系サービスの価値と機会のコストに関する不十分な理解;

● 2010年5月に発行された地球規模生物多様性概況第3版では、人間の行動が環境に負担をかけているため、地球の生態系の次世代における維持能力は、もはや当然のものではなく、そして、生物多様性の損失を促進する圧力は、これまで考えられていたよりも一層悪いものであることが確認されている;

● 地球規模生物多様性概況によって論証されたように、現在の傾向が継続した場合、今世紀末までに、主要な生態系が財とサービスを提供し続ける能力は回復不能な損害を受け、いくつもの「転換点(tipping points)」に到達してしまうと思われる;

● 今後千年間の生物多様性の運命は、これからの10~20年間の作為あるいは不作為によって決定されるであろう。

我々は以下を宣言する:

生物多様性の保全、その要素の持続可能な利用、そして遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分という、条約の3つの目的が平等に考慮されるべきである。

● すべての国が、生物多様性に関する共通の長期目標(ビジョン)、短期目標(ミッション)並びに世界的、地域的及び国内の目標に、積極的に取り組むべきである;

● これらの目的は野心的かつ現実的なものである必要があり;また政策立案者及び国民によって理解可能なものである必要がある;

● 国内目標は各国の事情及び能力に鑑みて策定されるべきものである;

● これらの新しい生物多様性戦略を実施するには、途上国に対する適切で予測可能な財源や技術移転を提供するための資源動員戦略が必要である;

● 新しい生物多様性短期目標(ミッション)は、すべての関係者による全面的な参画が必要とされると共に、ビジネスと生物多様性のイニシアティブを歓迎し、そして2010年以降の生物多様性戦略実施に係るビジネス界の積極的な参画が求められる;

● 気候変動と生物多様性損失の問題は密接不可分であり;それぞれがお互いの影響を悪化させ合っているものの、しかし同時に、両方の問題に対処可能な政策の選択肢が存在している。そのような相乗便益を特定することは、世界的に、地域的に及び国レベルで必要なことである。特に、ボランタリーなREDD/REDD+メカニズムの実施にあたっては、生物多様性の強化が行われるべきである。

我々は、第65回国連総会の生物多様性に関するハイレベル会合に参加するす全ての政府に対し、名古屋でのABS議定書の完了、並びに、生物多様性の損失を抑止し、最終的には阻止することで、極めて重要な生態系サービスの維持を図る21世紀の新たな生物多様性目標の採択及び実施について、生物多様性条約第10回締約国会議の参加者たちに明確な指針を与えるよう呼び掛ける。我々は、2011年から2020年までの新たな生物多様性戦略が、生物多様性に関係するすべてのパートナーが行う活動に対して包括的な枠組みを提供することを強調する。

我々は、国連が2011年から2020年を国際生物多様性の10年と宣言することを検討すべきと提案した日本のイニシアティブを支持する。

また、我々は条約に加盟していないすべての国に対して、出来る限り早く加盟するように呼びかける。

我々は、非公式かつ閣僚レベルの、COP議長国による生物多様性フォーラムの設立を決定する。当フォーラムは、関連する生物多様性関係の諸閣僚級会合の際に、意見交換を行うとともに、2011年~2020年の条約戦略計画の実施に当たって及び国連総会が宣言した場合には「国連生物多様性の10年」の期間中にリーダーシップを発揮することを目的として、定期的に開催される。フォーラムの会合は、事務局長の支援の下、締約国会議の議長を務める国により開催される。

我々は、2010年9月22日にニューヨークで開催される第65回国連総会のハイレベル会合及び2010年10月27日から29日に愛知県名古屋市で開催される第10回締約国会議の閣僚級会合に対して、「ジュネーブ・閣僚による生物多様性のための即時行動の呼びかけ」を提出することを決定する。

                       ボセー城、ジュネーブ

                          2010年9月3日

[各国署名]

COP2~COP10議長国

(インドネシア、アルゼンチン、スロヴァキア、ケニア、オランダ、マレーシア、ブラジル、ドイツ、日本)

COP11 議長国候補(インド)

スイス

(注)ブラジル、ドイツ、インド、スイスを除き代理署名