データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国ビジネス・フォーラム共同宣言

[場所] ワシントン
[年月日] 2009年9月22日
[出典] 日本経済団体連合会
[備考] 
[全文]

 われわれ、オーストラリア、ブラジル、カナダ、デンマーク、ドイツ、欧州、インド、日本、ケニア、米国の主要経済団体の指導者やその代表は、9月21日、22日の両日、ワシントンDCにおいて会合を開催した。われわれは、気候変動に関する次の国際協定に関する意見交換を行ない、共通の目的のために前進し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)やエネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム(MEF)において現在行われている交渉への貢献を行った。

 本年2月17日、18日のコペンハーゲンにおける経済団体の代表による気候変動ラウンドテーブルでの議論を土台に、われわれは2日間の亘る検討を行った。

 われわれは、現在行われている国際気候変動交渉について、以下の通り、宣言する。

 5つの大陸と数百万の企業を代表する世界の主要な経済団体の指導者として、気候変動への取り組みにリーダーシップを発揮し、12月のコペンハーゲンにおける次の協定の合意に貢献する。経済界は、政策担当者と引き続き協力していく用意がある。また、低炭素経済、エネルギー効率の高い経済の形成に貢献すべく、投資を継続していく。

 われわれは、世界的な金融危機は一時的なものであると期待しているが、それによりもたらされている経済状況の変化を依然憂慮している。過去2年間における経験は、UNFCCCやMEFでの交渉が思慮深く効率的に行われることが重要であることを強く示唆している。UNFCCCやMEFで形成される政策は、限られた資源を最適に配分し、かつ、計測・報告・検証可能なものでなければならない。

 われわれは、経済界が関心を有する事項についての本年7月のイタリア・ラクイラにおけるG8サミットおよびMEFでの議論の進展に留意する。われわれは、野心的で達成可能でグローバルな協定に政府が合意することを求める。コペンハーゲン会合は、その合意に達するためのものとなるである。協定は、緩和、適応、技術、資金の分野における国際的な協力行動に関して、明確な枠組みを与えるものでなければならない。また、協定は、気候変動のリスクに対する科学的な理解に整合的で、全ての国における共通だが差異ある責任と能力の原則を尊重した長期の共通のビジョンを基礎とするものでなければならない。次期協定に関する国際交渉に対する貢献として、われわれは以下を提案する。

経済発展と競争力

 われわれは、次の協定が、経済発展を促進し、経済社会の競争力を強化し、産業における公平な競争条件を確保するようなものとなることについて、強い関心を有している。

われわれは、いくつかの政府が、輸入品に対して一方的な国境調整措置を課すことを検討していることを憂慮している。こうした国境調整措置の提案は、報復措置を招き、貿易の流れを著しく制限し、進歩的な技術やビジネス慣行の普及を阻害する可能性がある。

 国際的な気候変動交渉は、自由で開かれた貿易投資に対して障害を設けることに使われるべきではない。むしろ、われわれは政府に対して、世界貿易機関(WTO)における作業を通じて、関税および非関税の貿易障壁を除去するよう求める。

 特定の産業に着目するセクトラル・アプローチは、国際的な技術協力を強化しながら、行動を促す方策として提案されてきた。経済界は、この提案が可能性を有することを信じている。セクトラル・アプローチが有用なものとなるかどうかは、どのように設計するか、および、各セクターが異なる国で事業を行っている中でさまざまな事業環境の違いを明確に理解できるか、にかかっている。

 経済に対するエネルギー部門の重要性に鑑み、十分熟練した労働力の確保が経済界にとって極めて重要である。われわれは、技術分野に進む若者の数を増やし、現在の従業員の技術を土台として将来のエネルギー・システムを創造しなければならない。

エネルギー安全保障とエネルギー効率

 われわれは、入手可能で近代的なエネルギー・サービスが与えてくれる生活の質の向上を、どの地域の人々も強く求めていることを認識する。エネルギー安全保障は、持続可能な発展の促進と気候変動への対応のための包括的な国際的取り組みの一部分と考えられなければならない。

 エネルギー効率を高めることは、エネルギー安全保障を強化し、温室効果ガスの排出を削減するもっとも重要な手段である。エネルギー効率は、家庭部門、産業部門、運輸部門、商業部門において、費用対効果が高い形で改善される必要がある。

 われわれの国の多くにおいて、エネルギー供給セクターは、過剰で長大な規制により、新たなエネルギー・プロジェクトの遅延を余儀なくされている。われわれは、それぞれの国の政府に対して、設置、許可をはじめとする規制要件を合理化するよう求める。これにより、必要なエネルギー・インフラストラクチャーの移設が、より予見可能な形で行えるようになる。

技術

 温室効果ガスの削減に相当の貢献ができる技術はすでに多数存在しており、大いに活用されるべきである。また、新しく、ある場合においては革新的な低炭素エネルギー技術は、開発され、商品化されなければならない。ポスト京都議定書の協定は、投資をさらに刺激し、既存の技術や将来の技術の研究開発・商品化に対する投資の機会を企業に対し与えるものでなければならない。その際、全ての技術オプションを検討すべきである。

 国内・国際の気候変動政策は、エネルギー供給を増加させる既存の技術のさらに幅広い商業的な活用を支援し、需要側・供給側双方のエネルギー効率を高めるものでなければならない。先進国は、途上国との技術協力を主導し促進しなければならない。技術移転・取引を促進し、新興国や途上国におけるエネルギー効率を高めるために、技術協力、官民パートナーシップ、革新的な資金供給、キャパシティ・ビルディングは、すべて必要である。

 経済界は、新しい技術のコストを下げ、質を向上させるために、世界中の政府が資金供給の拡大を約束することを必要としている。また、われわれは、地域の技術イノベーション・センターの設立に関して民間部門の意見を聴くよう求める。

 気候変動に対応する技術の開発は、競争が促進され、知的財産権の保護が尊重される自由市場政策の下でもっとも進展する。強制実施をはじめとする知的財産権の保護を弱めるようないかなる措置も、新しい技術の創造や市場への導入に必要な経済界の投資へのインセンティブを脅威に晒すこととなる。

資金

 低炭素や環境負荷の少ない財・サービスのグローバル市場は、今後数年で数兆ドルの規模になる可能性を秘めている。この事実は、膨大な規模の投資が世界中で奨励・促進されなければならないことを示している。公的資金は、気候変動問題の解決策を進歩的なものとし、途上国が新しい技術にさらにアクセスできるようにするために重要である。しかし、民間部門の資本投資に代わるものはない。

 民間部門が資金を投入するかどうかは、投資環境と、組織的なアレンジメントが効果的かどうかに、かなりの部分を依存している。われわれは、資金が、国有企業の近代化のための引き受けに直接充てられるべきではないと信じている。海外直接投資を含む民間部門の行動を促すような基金が設立されることを望んでおり、政府から政府への資金フローとなるべきではない。基金は、技術を利用可能とし、国情に応じた緩和行動(Nationally Appropriate Mitigation Action)を促進するために、途上国が活用できるようなものとすべきである。

 炭素市場を含む多くの資金メカニズムはすでに存在している。政府が、これらの資金メカニズムの透明性、効率性、機能性を高め、より予見可能性が高いものとすれば、少ない資金でより成果を挙げるよう改善することが可能である。とりわけ、次の協定には、いくつかの国におけるクリーン・テクノロジーへの資金手当ての機会を与え、新興経済や発展途上経済における気候変動への対応措置が実施できるようにするよう、共同実施(JI)やクリーン開発メカニズム(CDM)の改革が含まれるべきである。こうした改革は、CDMにおける官僚主義を改善しCDM理事会や国家指定機関によるプロジェクト承認手続を合理化することや、CDMプロジェクトの対象を拡大すること、CDMプロジェクトの方法論を標準化すること等により行うことができる。

 CDMや他の金融インセンティブは、産業の公正な競争を阻害すべきではない。政府と産業界は、ベスト・プラクティスや最良の技術の採用を妨げている障害を特定し除去するために、共同して取り組むことができる。

 さらに、われわれは、現在の経済状況において気候変動にかかる資金調達の問題をいかに解決していくかを議論できるよう、各国の財務大臣が、より直接的に交渉に関与することを強く求める。

適応

 気候変動による悪影響への適応、特に、水、健康、農業、将来における発電・送電に関するものは、国際レベル、国レベル、地域レベルで取り組んでいく必要がある。こうした適応への取組みは、地域の技術を活用し、持続可能な地域のインフラストラクチャーを構築し、現在途上国に存在する経験を活用するようなものでなければならない。われわれは、すぐに活用可能な適応のための新規資金の必要性を認識する。

経済界の声をさらに伝えていくために

 われわれは、政府と協力し、コペンハーゲンやその後においても、気候変動問題に建設的な役割を果たす用意がある。各国政府は、気候変動交渉を前進させるものとしての経済界の関与や知見を、認識し受け入れるべきである。経済界が提供する幅広い技術的な専門知識が、国際的なプロセスにおいてより良くより明示的に採り入れられるよう、改革が行われるべきである。UNFCCCやMEFにおいてより公式の役割を果たすことができるようになれば、国際的な経済界は、それを歓迎するであろう。

 われわれは、信頼を醸成し、理解を共有する分野を特定し、創造的な解決策を生み出し、国際交渉に現実的で価値あるインプットを行うため、このエネルギーと気候に関する主要経済国ビジネス・フォーラムを継続し、定期的に会合を行う予定である。

  オーストラリア産業グループ

  オーストラリア商工会議所

  ビジネスヨーロッパ

  カナダ経営者評議会

  インド工業連盟

  ケニア製造業者協会

  ブラジル全国工業連盟

  日本経済団体連合会

  米国商業会議所21世紀エネルギー研究所

  米国国際ビジネス評議会