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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)

[場所] ラムサール
[年月日] 1971年2月2日
[出典] 外務省条約局,条約集(昭和55年 多数国間条約)1415‐1425頁
[備考] 
[全文]

昭和四十六年二月二日 ラムサールで作成

昭和五十年十二月二十一日 効力発生

昭和五十五年五月九日 国会承認

昭和五十五年六月六日 加入の閣議決定

昭和五十五年六月十七日 加入書寄託

昭和五十五年九月二十二日 公布及び告示(条約第二十八号及び外務省告示第三二七号)

昭和五十五年十月十七日 我が国について効力発生

 前文

 締約国は、

 人間とその環境とが相互に依存していることを認識し、

 水の循環を調整するものとしての湿地の及び湿地特有の動植物特に水鳥の生息地としての湿地の基本的な生態学的機能を考慮し、

 湿地が経済上、文化上、科学上及びレクリエーショシ上大きな価値を有する資源であること及び湿地を喪失することが取返しのつかないことであることを確信し、

 湿地の進行性の侵食及び湿地の喪失を現在及び将来とも阻止することを希望し、

 水鳥が、季節的移動に当たつて国境を越えることがあることから、国際的な資源として考慮されるべきものであることを認識し、

 湿地及びその動植物の保全が将来に対する見通しを有する国内政策と、調整の図られた国際的行動とを結び付けることにより確保されるものであることを確信して、

 次のとおり協定した。

  第一条

1 この条約の適用上、湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞つているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水{鹹にかんとルビ}であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が六メートルを超えない海域を含む。

2 この条約の適用上、水鳥とは、生態学上湿地に依存している鳥類をいう。

  第二条

1 各締約国は、その領域内の適当な湿地を指定するものとし、指定された湿地は、国際的に重要な湿地に係る登録簿(以下「登録簿」といい、第八条の規定により設けられる事務局が保管する。)に掲げられる。湿地の区域は、これを正確に記述し、かつ、地図上に表示するものとし、また、特に水鳥の生息地として重要である場合には、水辺及び沿岸の地帯であつて湿地に隣接するもの並びに島又は低潮時における水深が六メートルを超える海域であつて湿地に囲まれているものを含めることができる。

2 湿地は、その生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上又は水文学上の国際的重要性に従つて、登録簿に掲げるため選定されるべきである。特に、水鳥にとつていずれの季節においても国際的に重要な湿地は、掲げられるべきである。

3 登録簿に湿地を掲げることは、その湿地の存する締約国の排他的主権を害するものではない。

4 各締約国は、第九条の規定によりこの条約に署名し又は批准書若しくは加入書を寄託する際に、登録簿に掲げるため少なくとも一の湿地を指定する。

5 いずれの締約国も、その領域内の湿地を登録簿に追加し、既に登録簿に掲げられている湿地の区域を拡大し又は既に登録簿に掲げられている湿地の区域を緊急な国家的利益のために廃止し若しくは縮小する権利を有するものとし、当該変更につき、できる限り早期に、第八条に規定する事務局の任務について責任を有する機関又は政府に通報する。

6 各締約国は、その領域内の湿地につき、登録簿への登録のため指定する場合及び登録簿の登録を変更する権利を行使する場合には、渡りをする水鳥の保護、管理及び適正な利用についての国際的責任を考慮する。

  第三条

1 締約国は、登録簿に掲げられている湿地の保全を促進し及びその領域内の湿地をできる限り適正に利用することを促進するため、計画を作成し、実施する。

2 各締約国は、その領域内にあり、かつ、登録簿に掲げられている湿地の生態学的特徴が技術の発達、汚染その他の人為的干渉の結果、既に変化しており、変化しつつあり又は変化するおそれがある場合には、これらの変化に関する情報をできる限り早期に入手することができるような措置をとる。これらの変化に関する情報は、遅滞なく、第八条に規定する事務局の任務について責任を有する機関又は政府に通報する。

  第四条

1 各締約国は、湿地が登録簿に掲げられているかどうかにかかわらず、湿地に自然保護区を設けることにより湿地及び水鳥の保全を促進し、かつ、その自然保護区の監視を十分に行う。

2 締約国は、登録簿に掲げられている湿地の区域を緊急な国家的利益のために廃止し又は縮小する場合には、できる限り湿地資源の喪失を補うべきであり、特に、同一の又は他の地域において水鳥の従前の生息地に相当する生息地を維持するために、新たな自然保護区を創設すべきである。

3 締約国は、湿地及びその動植物に関する研究並びに湿地及びその動植物に関する資料及び刊行物の交換を奨励する。

4 締約国は、湿地の管理により、適当な湿地における水鳥の数を増加させるよう努める。

5 締約国は、湿地の研究、管理及び監視について能力を有する者の訓練を促進する。

  第五条

 締約国は、特に二以上の締約国の領域に湿地がわたつている場合又は二以上の締約国に水系が及んでいる場合には、この条約に基づく義務の履行につき、相互に協議する。また、締約国は、湿地及びその動植物の保存に関する現在及び将来の施策及び規制について調整し及びこれを支援するよう努める。

  第六条

1 締約国は、必要なときは、湿地及び水鳥の保全に関する会議を招集する。

2 1の会議は、諮問的性格を有するものとし、特に次のことを行う権限を有する。

(a) この条約の実施について討議すること。

(b) 登録簿に係る追加及び変更について討議すること。

(c) 登録簿に掲げられている湿地の生態学的特徴の変化に関する情報であつて第三条2の規定により通報されるものについて検討すること。

(d) 締約国に対し、湿地及びその動植物の保全、管理及び適正な利用に関して一般的又は個別的勧告を行うこと。

(e) 湿地に関係のある事項であつて本来国際的性格を有するものについての報告及び統計を作成するよう関係国際機関に要請すること。

(f) この条約の実施を促進するため、その他の勧告又は決議を採択すること。

3 締約国は、湿地の管理につきそれぞれの段階において責任を有する者が湿地及びその動植物の保全、管理及び適正な利用に関する1の会議の勧告について通知を受けること及びこれらの者が当該勧告を考慮に入れることを確保する。

  第七条

1 前条1の会議に出席する締約国の代表には、科学、行政その他の適当と認められる分野において得られた知識及び経験により湿地又は水鳥の専門家とされる者を含めるべきである。

2 会議に代表を出席させる各締約国は、一の票を有するものとし、勧告は、投ぜられた票の単純過半数による議決で採択する。ただし、締約国の二分の一以上が投票することを条件とする。

  第八条

1 自然及び天然資源の保全に関する国際同盟は、他の機関又は政府がすべての締約国の三分の二以上の多数による議決で指定される時まで、この条約に規定する事務局の任務を行う。

2 事務局は、特に、次の任務を行う。

(a) 第六条1の会議が招集されかつ組織されるに当たつて助力すること。

(b) 国際的に重要な湿地に係る登録簿を保管すること及び登録簿に掲げられている湿地に関する追加、拡大、廃止又は縮小につき第二条5の規定により締約国が行う通報を受けること。

(c) 登録簿に掲げられている湿地の生態学的特徴の変化に関し第三条2の規定により締約国が行う通報を受けること。

(d) 登録簿の変更又は登録簿に掲げられている湿地の特徴の変化をすべての締約国に通知すること及び次回の会議においてこれらの事項が討議されるように取り計らうこと。

(e) 登録簿の変更又は登録簿に掲げられている湿地の特徴の変化に関する勧告を関係締約国に周知させること。

  第九条

1 この条約は、署名のため無期限に開放しておく。

2 国際連合、いずれかの専門機関若しくは国際原子力機関の加盟国又は国際司法裁判所規程の当事国は、次のいずれかの方法により、この条約の締約国となることができる。

(a) 批准につき留保を付さないで署名すること。

(b) 批准を条件として署名した後、批准すること。

(c) 加入すること。

3 批准又は加入は、批准書又は加入書を国際連合教育科学文化機関事務局長(以下「寄託者」という。)に寄託することによつて行う。

  第十条

1 この条約は、前条2の規定に基づいて七の国がこの条約の締約国となつた後四箇月で効力を生ずる。

2 その後は、この条約は、批准につき留保を付さないで署名した日又は批准書若しくは加入書を寄託した日の後四箇月で各締約国について効力を生ずる。

  第十一条

1 この条約は、無期限に効力を有する。

2 いずれの締約国も、この条約が自国について効力を生じた日から五年の期間が満了した後は、寄託者が書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、寄託者がその通告を受領した日の後四箇月で効力を生ずる。

  第十二条

1 寄託者は、この条約のすべての署名国及び加入国に対し、できる限り速やかに次の事項を通報する。

(a) この条約の署名

(b) この条約の批准書の寄託

(c) この条約の加入書の寄託

(d) この条約の効力発生の日

(e) この条約の廃棄の通告

2 寄託者は、この条約が効力を生じたときは、国際連合憲章第百二条の規定により、この条約を国際連合事務局に登録する。

 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 千九百七十一年二月二日にラムサールで、英語、フランス語、ドイツ語及びロシア語により原本一通を作成した。解釈に相違がある場合には、英文による。原本は、寄託者に寄託するものとし、寄託者は、その真正な謄本をすべての締約国に送付する。