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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2023年APEC財務大臣会合に関する共同声明

[場所] カリフォルニア州サンフランシスコ
[年月日] 2023年11月13日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1. 我々APECの財務大臣は、2023年11月13日にカリフォルニア州サンフランシスコにおいて、ジャネット・イエレン米国財務長官を議長とする第30回年次会合を開催した。また、アジア開発銀行総裁、米州開発銀行総裁、世界銀行総裁、国際通貨基金(IMF)専務理事、OECD事務総長及びAPECビジネス諮問委員会議長も出席した。

2. APEC2023のテーマである「全ての人々にとって強靭で持続可能な未来を創造」の下、我々は、APECの全ての人々と未来の世代の繁栄のために、2040年までに、開かれた、ダイナミックで、強靭かつ平和なアジア太平洋共同体を目指すAPECプトラジャヤ・ビジョン2040を、アオテアロア行動計画の実施等を通じて達成するとの強いコミットメントを再確認する。

グローバルな成長の強化

3. APECエコノミーは、前回会合以降、強靭さを維持しており、多くのエコノミーにおい

て、経済活動のソフトランディングと並行して、必要なディスインフレーションが進行中であるという前向きな兆候が見られる。サプライチェーンは概ね安定し、労働市場は総じて強さを維持し、サービス部門の活動は多くの国において成長を続けている。しかし、世界・地域経済の中期的な見通しは引き続き、不均一であり、パンデミック前よりも弱い。下振れリスクには、地経学的緊張の高まりや世界的な金融環境のタイト化の継続などがある。

4. この文脈において、我々は、我々の政策努力が、中長期的な成長を再活性化するために十分に調整された政策手段を用いて、短期的なマクロ経済及び金融の安定と成長の保全に焦点を当てるべきであることを認識し、この目標の達成におけるマクロ経済政策、構造政策、貿易政策及び投資政策の相互補強的な役割を強調する。我々は、2021年の為替レートに関するコミットメントを再確認する。我々はまた、WTOを中心とした、自由で、開かれた、公正で、無差別的で、透明性のある、包摂的かつ予見可能な貿易・投資環境を実現するために、引き続き協働していくことの重要性を再確認するとともに、それが、経済成長、技術革新、雇用創出、開発及び域内の経済統合にとって重要であることを強調する。

5. 我々は、経済成長、イノベーション、雇用創出及び開発に対する国際貿易及び投資の重要性を引き続き強調する。我々は、特にインフレ率が引き続き目標を上回っており、パンデミックからの脱却のため財政が逼迫しているエコノミーにおいて、財政余地を徐々に再構築するための努力を支持する。この文脈において、我々はまた、債務の透明性を向上させるための公的及び民間債務者並びに債権者の協働等を通じて、財政の持続可能性を維持し、債務脆弱性に効果的に対処することの重要性を認識する。同時に、我々は、財政政策は、コモディティ価格の変動の中での食料安全保障の支援、貧困の削減、世界の温室効果ガス排出量のネット・ゼロ又はカーボンニュートラルに向けた進展を加速するために必要な投資等、重要な優先事項に対して、効率的に調整され、対象を絞ったものとすべきであることを認識する。我々は、APECメンバー間の継続的な経済協力が、これらの優先事項を達成するための鍵であることに留意する。

6. 我々は、APECメンバー及び世界経済による力強い、バランスのとれた、安全な、持続可能かつ包摂的な成長の達成を支える政策努力にコミットする。我々は、域内のエコノミー間の政策協力及び経験共有を促進するための活発なフォーラムとしてのAPEC財務大臣プロセス(FMP)の重要性を再確認する。我々は、2023年のFMPを通じて、現代のサプライサイド経済学の組み込み、我々の気候及び持続可能性の目標を達成するための資金の動員・調整、及びデジタル資産の責任ある開発の支援を通じ、持続可能で包摂的な成長を促進する上でAPECが果たす重要な役割について議論した。

現代のサプライサイド経済学

7. 我々は、現代のサプライサイド経済学(MSSE)の標題の下で議論された、強靭で包

摂的かつ持続可能な長期的成長を促進するマクロ経済政策を支持することにコミットする。MSSEは、労働供給、人的資本、公共インフラ、研究開発、環境の質など、重要な経済的インプットの供給を妨げる市場の失敗に対応するための政策の活用を追求する。これらの政策は、しばしば、不平等を是正し、気候変動への対応にも資する形で、長期的な成長を引き上げることができる。我々は、この分野におけるAPECエコノミーによる供給面の進行中の努力に感謝し、経験と教訓の共有の継続を含め、プトラジャヤ・ビジョン2040を達成するための長期的な成長の原動力を促進することにコミットする。

サステナブル・ファイナンス

8. 我々は、APEC域内が、環境、社会及び経済の結果に深刻なリスクをもたらし得る

気候変動及び自然災害に対して引き続き最も脆弱な地域の一つであることを認識しつつ、環境面で持続可能な成長を達成することにコミットする。我々は、エコノミーによって異なる、エネルギー移行の取組を支える財務当局及び国際金融機関の役割を認識する。我々は、必要としている人々に不可欠なエネルギー・サービスを提供することの重要性を認識しつつ、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し、段階的に廃止するというAPECのこれまでのコミットメントを想起する。私たちは、APECの全ての人々に利益をもたらし、新たな機会を生み出す移行を実現するために、すべての利害関係者の特有のニーズと利益に対応する必要性を認識する。我々は、エネルギー移行の努力を引き続き支持し、第13回APECエネルギー大臣会合が、エコノミーがクリーンで、持続可能で、公正で、安価かつ包摂的なエネルギー移行を加速するためには、より集中的な努力が必要であると認識したことに留意する。我々はまた、バイオ・循環型・グリーン経済に関するバンコク目標の実施を引き続き支援する。

9. 我々は、最新の科学の発展を考慮に入れつつ、異なる国内の事情に沿って、包括的な気候関連政策、創造的なツール、利害関係者間の継続的な対話と協力等を通じ、緊急かつ体系的で、大規模な資金をあらゆる資金源から動員・整合させることによってのみ、今世紀半ば頃までに、温室効果ガス排出量削減によるネット・ゼロ/カーボンニュートラルの目標を実効的に達成すると認識する。我々は、意味のある緩和行動及び実施の透明性の文脈において、開発途上エコノミーのニーズに対応するため、2020年までに、また2025年まで年間1,000億米ドルの気候資金を共同で動員するという目標への先進エコノミーによるコミットメントを想起し、再確認する。我々は、気候変動への適応を含む気候目標を達成するための官民セクターの投資を可能にする明確な枠組み及び政策を立案・実施する上での当局の役割を認識する。我々はまた、市場ベースのサステナブル・ファイナンスメカニズム及び革新的な資金調達手段の開発及び利用における民間セクターの関与の役割を認識する。我々は、コンプライアンス市場及びその他のツールに加え、自主的炭素市場が、排出量を削減し、緩和プロジェクトを支えるために資金を流す上で果たし得る補完的な役割を評価する。我々は、自主的炭素市場の信頼性、深さ、効率性及び相互運用性を促進・改善する上で当局が果たし得る役割を認識する。我々はまた、最新の科学の発展や異なる国内の事情を考慮しつつ、移行計画・経路、タクソノミー及び投資のベンチマーク等、資金調達を気候変動目標に整合させるツールの開発を支持するとともに、アプローチ間の相互運用性を強化する方法も模索する。我々は、長期的な成長の原動力の一つとして、サステナブル・ファイナンスを促進し、支援するために、民間セクター、国際機関及びその他の利害関係者との更なる対話と協働にコミットする。

デジタル資産

10. 我々は、デジタル資産技術の開発及び利用における世界的な著しい成長を認識

する。我々は、APEC域内の多くのエコノミーが、デジタル資産の採用に関して最前線に立っていることに留意する。強靭で包摂的、かつ革新的なデジタル資産エコシステムを支援するために、我々は、デジタル資産を取り巻く環境が変化する中で、各々の法律・規制と整合的な形で、高い規制基準を維持し、規制とデータのギャップを埋め、金融の安定性を促進することにコミットする。我々はまた、これらの成果を達成するために、メンバー・エコノミー間の継続的な意思疎通、情報共有及び協議へのコミットメントを維持する。我々は、適用可能な国内の法的枠組みも尊重しつつ、エコノミーに対し、デジタル資産の責任ある開発のための勧告について、適切に、国際機関及び基準設定機関に関与することを奨励する。我々は、消費者保護、金融の健全性及び金融の安定性に関連したものを含む潜在的なリスクを軽減しつつ、これらの目標に向けて取り組む中で、この分野におけるイノベーションの主要な推進力である民間セクターへの継続的な関与を歓迎する。我々はまた、プトラジャヤ・ビジョン2040に明記されているように、デジタル・インフラの強化、デジタル変革の加速、デジタル格差の縮小の重要性を認識する。

エンゲージメントのビジョン

11. 我々は、我々の共通の目標を達成するために、財務大臣プロセス(FMP)における

財務当局、国際金融機関、民間セクターの機関及びその他の利害関係者間の継続的な協働と対話を支持する。我々は、セブ行動計画及びアオテアロア行動計画の実施におけるメンバー・エコノミーによる進展を認識し、添付の附属文書に列挙されている、年間を通じた、APECのイニシアティブ、プロジェクト及び報告書に係る継続的な作業を歓迎する。我々は、APECビジネス諮問委員会(ABAC)及び他の民間セクターの貢献者との継続的な協働関係を歓迎し、また、FMPの議論を強化し、セブ行動計画の実施を推進する上での彼らの支援に感謝する。我々はまた、ABACの財務大臣への提言を認識する。我々は、アジア開発銀行、米州開発銀行、国際通貨基金、経済協力開発機構及び世界銀行グループによるFMPの作業への継続的な支援に感謝する。

今後の道のり

12. 我々は、2023年のAPEC財務大臣プロセスのホストを務めた米国に感謝し、2024

年にペルーで開催される第31回会合で再会することを楽しみにしている。



附属文書:2023年の成果物、イニシアティブ及び報告書

1. 我々は、現代のサプライサイド経済学及び自主的炭素市場に関するAPEC大臣への報告書及び公正なエネルギー移行のための資金調達に関する米国のチャンピオン・エコノミー・イニシアティブに関する大臣への文書を歓迎する。

2. 我々は、APECエコノミー及び日本とフィリピンが共同議長を務める災害リスクファイナンス・保険に係るワーキンググループ(DRFI-WG)による、特に2023年のワークプランに関する努力及び進展を認識し、感謝する。我々は、現在及び将来の災害やショックを軽減し、それらに対応するための災害リスクファイナンス・保険の重要性を強調する。我々は、ABAC、アジア開発銀行、OECD及び世界銀行グループによる、このFMPワークストリームにおけるリーダーシップに感謝する。

3. 我々は、アジア太平洋金融フォーラム、アジア太平洋金融包摂フォーラム及びアジア太平洋インフラ・パートナーシップにおける官民協働の進展を歓迎する。

4. 2024年APECにおけるセブ行動計画の見直し及び財務大臣プロセスに関する最終的な新ロードマップに関する議論を開始することを目的として、我々は、来年のホストであるペルーに対し、これらの作業を行うに当たってポリシー・サポート・ユニット(PSU)との協議を開始するよう委嘱する。