データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第21回APEC首脳宣言「強靭なアジア太平洋,世界成長のエンジン」

[場所] バリ,インドネシア
[年月日] 2013年10月8日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 我々,アジア太平洋経済協力(APEC)の首脳は,「強靭なアジア太平洋,世界成長のエンジン」のテーマの下,アジア太平洋地域における断固たるリーダーシップを示すため,インドネシア・バリのヌサ・ドゥアに集まった。

2. 過去19年間のボゴール目標下での自由で開かれた貿易の達成に向けた決意と粘り強い努力は,アジア太平洋地域にまれに見る繁栄の時代をもたらした。ルールに則った多角的貿易体制及び開かれた地域主義への我々の共通の信念は,地域全体で何億人も貧困から救い出し,また,現在,我々の成長を刺激する革新的で開かれた新興エコノミーを育成し続けている。

3. 我々は,主要なテール・リスクを抑え,金融市場の状況を改善し,回復を持続するため,多くの重要な政策措置をとった。それにもかかわらず,世界の成長はあまりに弱く,依然として下方リスクの方が強く,世界貿易は弱体化し,また,経済予測は望むより弱く不均衡な成長を示唆している。我々は,より質が高く生産的な雇用の創出,民間投資の誘引,貧困削減,生活水準向上のための地域全体でのパートナーシップの緊急性を共有する。また,マクロ経済政策を強化し,アジア太平洋地域の持続可能であまねく広がる成長促進のために協働する必要性を認識する。我々は,域内における成長の相互強化作用を確実にし,経済・金融の安定性を維持し,負の波及効果を防ぐため,堅実で責任あるマクロ経済政策を実施する。

4. APEC域内の貿易成長と投資フローは世界のその他の地域を上回ってきたが,それでも我々は,新たな貿易・投資障壁を引き上げる圧力に抗しなければならない。そのため,我々はスタンドスティル(当方注:新たな保護主義措置の不導入)のコミットメントを2016年末まで延長し,既存の保護主義的,貿易阻害的な措置の撤回の誓約を再確認した。我々は,世界的回復を強化し,横浜ビジョンで支持された,均衡がとれてあまねく広がる,持続可能かつ革新的で安定的な成長を確実にするための共同の努力を怠らず,信頼を強化し,金融の安定を育成し,中期的成長の潜在力を強化する断固とした措置をとることを誓った。

5. 我々の地域がますます世界成長の主要なエンジンとなるにつれて,我々は,将来を見据え,我々のニーズの変化に順応し,アジア太平洋の発展に向けた道筋を再び活気づけるとの責務を負った。我々は,地域経済統合の強化・深化及び域内の国際貿易・投資の障壁撤廃に向けた共同のコミットメントを続ける。我々は,新天地を開拓し,エコノミーがより質が高く生産的な雇用を創出するのを助け,未来に向けた意味のあるパートナーシップを組織化する,より大きな連結性を追求する。

6. 我々は,地域経済統合の過程へのリーダーシップや知的インプットの提供といったAPECによる継続的努力等を通じて,アジア太平洋自由貿易圏を実現するとのコミットメントを再確認する。APECは,情報共有,透明性,能力構築を調整するに当たり重要な役割を有し,域内の地域貿易協定及び自由貿易協定(RTA/FTA)についての政策対話を行う。我々は,域内のRTA/FTA間の意思疎通を促進し,APECエコノミーが実質的な交渉に関与するための能力を向上させることに合意した。

7. 我々は,これらのコミットメントを繁栄と機会に変える。そして,そのために,以下の具体的な行動をとることにコミットした。

多角的貿易体制の支持及びボゴール目標の達成

8. 我々は,ドーハ開発アジェンダの交渉が,より幅広い多角的体制にとって決定的な節目にあることを認識し,多角的貿易体制と第9回WTO閣僚会議を支持する独立文書を発出した。

9. 我々は,貿易・投資が,より質の高い雇用創出と人々の一層の繁栄のために重要であることを認識し,2020年までに自由で開かれた貿易・投資を実現するというボゴール目標達成に向けてAPECの役割を支持するというコミットメントを再確認した。

10. さらに,我々は,エコノミーと市場をますます緊密に結びつけるため,

a.2015年末までにAPEC環境物品リストの関税を5%以下に引き下げるというコミットメントの履行を進展させる。

b. 環境物品・サービス官民連携(PPEGS)を設立し,同分野に係る貿易・投資課題への対応を促進した。

c. 農村開発や貧困緩和を通じ,持続可能であまねく広がる成長に資する物品貿易を探求する。

d. 現地調達要求に係る本年の作業を認識し,雇用創出と競争力強化のためのAPECベストプラクティスを歓迎した。

e. 官民投資対話の進展等を通じてAPEC投資円滑化行動計画の履行を継続し,企業の社会的責任(CSR)事業及び持続可能な投資を構築・改善するための実務者の民間部門との協力を推奨する。

f. APECイノベーション・貿易履行プラクティスの速やかな完成等を通じ,2011年と2012年に合意された次世代の貿易・投資課題に対処するための行動を進展させる。

g. より質の高く生産的な雇用を創出し,産業の生産性を向上させるサービス貿易を促進するため,民間部門のより幅広い参加を進める。

連結性の促進

11.より効率的な物品,サービス,資本及び人の移動に対する必要性の高まりを認識し,我々は,物理的,制度的,人と人との連結性を加速する長期的コミットメントを通じて,地域の戦略的展望を形成する。

12.2020年までのボゴール目標,及び2010年の横浜ビジョン「ボゴール,そしてボゴールを超えて」の達成に向けた取組の一環として,我々は,継ぎ目なくかつ包括的に連結・統合されたアジア太平洋を実現することを熱望する。我々は,地域の高質な交通ネットワークの強化,取引コストの削減,地域をより競争的かつ密接なものとしていくこと等によって,均衡のとれた,安全かつあまねく広がる成長を加速・推進するとともに,地域における成長の軸を連結するための青写真を描く。これらを前進させるため,附属書Aに記載されている具体的措置を継続して行う。

13. 物理的連結性としては,我々は,インフラ開発・投資に関する複数年計画を通じて,物理的インフラの開発・維持・刷新において協力することをコミットする。本計画は,APECエコノミーが投資環境を改善し,官民連携を促進し,インフラ計画の準備・立案・優先順位付け・構造化・実行に当たっての政府の能力及び調整を向上させることを支援する。本計画の下での第一歩として,APEC専門家アドバイザリー・パネル及び試験的な官民連携(PPP)センターをインドネシアに設置することに合意した。我々は,政府,民間部門及び国際機関を関与させることで,世界の資本の効率的な配分を促進し,インフラ資金調達を探究・改善するための取組を奨励する。インフラ開発・投資を促進するための具体的な行動は,附属書Bに記載されている。

a. 我々は,サプライチェーンの能力を改善するための体系的なアプローチの推進等によって,個々のエコノミーの状況も考慮しつつ,時間,費用及び不確実性の面で,2015年までにサプライチェーンの能力を10%改善させるための取組を加速させる。

b. エコノミー,特に途上エコノミーがサプライチェーンの能力向上に当たって直面する具体的な障壁を克服することを支援するために,実務者に対して能力構築計画を作成するよう指示する。

c. サプライチェーン連結性に係るAPEC貿易・投資自由化サブファンドを設立し,本能力構築計画を実行するために必要な資金の拠出を奨励する。

14. 制度的連結性としては,我々は,

a. 透明性及び競争の促進やより機能的な市場の構築といった,我々の究極の目的を強化するような財政の透明性及び公的説明責任の推進等により,2010年APEC構造改革新戦略(ANSSR)を進展させる。

b. 2011年に特定した,3つの良き規制慣行の実施を発展・活用・強化するための具体的な行動をとるとともに,本目標を達成する一助としていくつかのエコノミーが用いている,1規制に関する情報の単一オンライン・ロケーション,2将来的な規制の立案,3既存の規制の定期的レビュー等を含む3つの選択的なツールに留意する。

c. 人々が教育や訓練を受けるための機会を創出し,域内の結びつきを強化し,より質の高い雇用の創出に貢献し,生産性の伸びを高め,実行可能な協力を通じて経済成長を更に促進するような国境を越えた教育を,個々のエコノミーの状況に従って自発的に推進するとの我々の2012年のコミットメントを進展させる。

d. これまでの連結性に係る取組に基づいて,APEC域内でのグローバル・バリュー・チェーンの構築及び協力を促進する。

15. 人と人との連結性としては,我々は,

a. 2020年までにAPEC域内の大学レベルの留学生を年間100万人とする目標を承認するとともに,学生,研究者及び教育機関の移動を向上する更なる取組,並びに既存の二国間合意のネットワークを支援する。

b. 渡航を,安心かつ安全に保ちつつ,よりアクセスしやすく,便利で,より効率的なものとすることで,観光を促進し,ビジネスの円滑化を図る渡航円滑化イニシアティブに関する取組を進める。

c. 共同体意識,及びアジア太平洋地域の成長に貢献するとの共通の責任感を育てるため,より広範かつ定期的に青少年がAPECに関与するよう促進する計画を作成する。

衡平性を伴う持続可能な成長

16. 世界経済の現状にかんがみ,我々は,開発の格差を埋め,衡平性を伴う持続可能な成長への道筋を維持するためのアジェンダに焦点を当てた。我々は,アジア太平洋地域における人々の福祉を改善しつつ,強靱性を高め,成長を維持し,格差を減少させる実行可能な解決策を実施することにコミットする。

17. 我々は,次の具体的な行動を検討することにより,我々の利害関係者が経済成長に完全に参加するための能力向上,関与,機会提供に向けた更なる対策をとることに合意した。

a. ジェンダー関連の構造改革措置の策定,改善された情報通信技術による訓練支援,起業文化の啓発,質の高い教育及び雇用機会への平等なアクセス,特に女性が所有する中小企業への資本を含む市場及び金融サービスへの更なるアクセス促進等を通じた環境整備により,女性の経済への参画を拡大する。

b. 金融・市場アクセスの改善,起業精神の育成,新興企業の成長加速,業務継続のための能力強化及び国際市場への拡大と世界的なサプライチェーンへの参画に向けた中小企業の能力向上により,中小企業の国際競争力を高める。

c. 貿易金融商品が貿易円滑化を促進し,国際貿易に携わる中小企業を支援し得ることを認識し,中小企業のための貿易金融促進に向けた域内協力を進める。

d. 貧困層及び中小企業の金融適格性を向上させ,金融システムへのアクセスを持たない人々へ金融サービスの恩恵を拡大するための伝達経路を改善し,それにより地域の金融包摂を向上させる,責任ある革新的なアプローチを促進する。

e. サプライチェーンにおいて重要な役割を担うための能力強化,及び官民の強固な連携構築により,食料安全保障の達成における農業者及び漁業者,特に小規模農家及び女性の重要な役割を促進する。

f. 国境を越えた公式・非公式の域内協力を強化するAPEC腐敗対策・法執行機関ネットワークの設立を通じ,腐敗,贈収賄,不正資金洗浄及び違法取引との闘いにおける法執行当局間の一層の協力を推進する。

g. 地域の科学・技術・イノベーションを促進するため,政府,科学者及び企業間の協力を強化し,また,科学・技術・イノベーションの共通課題に対処する上でのアジア太平洋の首席科学顧問等による政策議論を評価する。

18. 我々は,資源不足が経済成長を追求する我々の能力を制限する大きな課題を呈することを認識し,また,自然及び人的災害が特に社会の最脆弱層に及ぼす重大な経済的影響に留意した。これら課題に対し,我々は次の対策をとる。

a. 統合された政策及び協調的アプローチの促進を通じて,水とエネルギーと食料安全保障のネクサス(連環)に取り組む。

b. APECエコノミーに永続的な食料安全保障を提供するため,2020年までにサプライチェーン連結性を向上させ,効率性を達成し,ポストハーベストロス及び食品廃棄を減少させ,食料システム構造を改善するための,2020年に向けたAPEC食料安全保障ロードマップを実施する。

c. 食料輸出の禁止やその他制限は,特に主要産物を輸入に頼るエコノミーに価格の不安定化をもたらし得ることを認識し,保護主義に対抗する誓約を再確認する。

d. 食料安全保障,貧困撲滅,伝統的な文化・知識の保全,生物多様性の保護及び貿易・投資の円滑化のために,海洋及び沿岸資源の健全性及び持続可能性を維持する,海洋関連事項(海洋関連大臣により提示された優先分野に沿った事項を含む)の主流化に関するAPECイニシアティブの下での分野横断的な取組を追求する。

e. 必要とする人々に不可欠なエネルギー・サービスを提供する重要性を認識しつつ,浪費を助長する非効率な化石燃料への補助金を,APECエコノミーが合理化及び段階的に廃止することを支援するため,域内の能力構築を継続する。

f. 浪費を助長する非効率な化石燃料への補助金に対する自発的な相互審査メカニズムの方法策定を歓迎し,いくつかのエコノミーによる相互審査の開始を歓迎する。

g. いくつかのエコノミーにより利用されている二国間クレジット制度を注目すべき域内メカニズムの事例としつつ,持続可能な投資と新技術の開発を確保し,エネルギー安全保障と効率性,温室効果ガス排出の低減を推進するための有望なアプローチとして,官民連携を通じたクリーンで再生可能なエネルギー開発の取組を活性化させる。

h. 野生動植物法執行ネットワークやその他の既存の機構を通じた国際協力を強化し,違法取引される野生動植物への需要と供給を減少させ,野生動植物の違法取引及びその影響に関する市民の意識及び教育を向上させ,野生動植物の取引犯罪を重く扱うことにより,野生動植物違法取引と闘う。

i. 加盟エコノミー間で高齢化の速度が異なることに留意し,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現する持続可能な保健制度を促進し,また,健康的で生産的な社会を確保するための健康増進及び予防的措置を重視する。

j. 新興感染症対策及び公衆衛生システムの強化を目的とした,公的部門と民間部門にまたがる,能力構築の取組及び有効な地域的・世界的な連携に関与する。

k. 医薬品の価格や入手可能性の観点及び,我々の地域文化の健康信仰の一部として受容されているため,いくつかのエコノミーで既に利用されている補完代替医薬品等の伝統医療を,各エコノミーのニーズと状況に従って,安全かつ有効に利用することへの理解を促進する。

l. 投資の拡大,並びに官民連携,保健制度及びコミュニティー参加の強化による,国連合同エイズ計画GETTINGTOZERO戦略2011-2015に示された新たな目標,特に的を絞った予防及び治療措置を通じたHIV感染ゼロ,差別ゼロ,HIV関連死ゼロの目標の達成に向けた取組を通じ,感染症と闘う。

m. 災害発生直後における人命救助のための緊急支援対応要員及び同対応要員が携行する資機材の円滑な移動を確保するための取組を進めるとともに,業務継続計画(BCP)への民間部門の関与等を通じた防災協力を強化する。

将来に向けて

19. 我々は,エコノミー間の開発水準,経験及び制度の幅を認識し,効果的な経済・技術協力を行うとの永続的なコミットメントを通じて,継ぎ目のない連結した地域経済に向けた野心的なビジョンを支持することの重要性を再確認する。

20. 我々は,女性の経済への包摂が企業のパフォーマンス及び経済的繁栄にとり重要であることを認識し,また,経済への女性参画が横断的性格を有することを認め,民間部門のより一層の参加を得つつ,APEC活動全般にわたって,ジェンダーへの配慮を優先事項として取り込む努力を推進することをコミットした。

21. 我々は,連携を通じてAPECの活動を豊かなものにしているAPECビジネス諮問委員会(ABAC)を賞賛する。我々の活動に民間部門が関与する重要性を認識し,ABACの更なる関与を歓迎する。

22. 我々は,他の多角的フォーラムや重要な地域的及び世界的組織アーキテクチャーとの継続的な協力と相乗効果を求める。我々は,現在の複雑な課題を解決するための信頼できるアプローチを確保する,APECとその他のグループ間の相互補完性及びより深い理解を育成する活動を奨励する。

23. 我々は,経済統合を促進・深化させ,継目のない経済を作り上げることが,地域を内部及び経済ショックの影響に対してより強靱にすることを認識した。我々は,我々の経済をバリューチェーン上で付加価値の高い方へ牽引し,1994年のボゴール宣言が目指したような持続的成長と均衡のとれた経済発展をもたらすため,地域経済が強靱であり,成長があまねく広がり,各エコノミーがより連結し,人々が安定した持続的成長から衡平な恩恵を共有することを引き続き確保するよう,実務者に指示した。

24. 我々は,アジア太平洋の経済発展の見通しに対して全幅の信頼を有し,世界経済の回復において主導的な役割を果たすことにコミットしている。アジア太平洋地域において強固かつ持続可能で均衡のとれた,あまねく広がる成長を達成するとの目標の下,我々は,イノベーション,連結した成長及び共有する利益に基づく開かれた経済を構築するために協働することを期待する。我々は,地域の成長モデルを変革する行動を推進し,構造改革,APEC成長戦略,都市化,イノベーション及び食料安全保障を含むがそれに限定されない経済の再構築を進めるための今後の取組の重要性を強調した。

25. 我々は,ベトナム,パプアニューギニア,チリ,マレーシア,ニュージーランド及びタイからの,それぞれ,2017年,2018年,2019年,2020年,2021年及び2022年にAPECを開催するとの申し出を評価した。

26. 我々の恒久的なコミットメントは,アジア太平洋地域に平和,安定及び繁栄を保証する。そのため,我々は,閣僚及び実務者に,この作業を継続し,アジア太平洋共同体の共有する経済的基盤を強化するよう指示するとともに,2014年の中華人民共和国によるAPEC開催時に再び集まる際に,更なる進展を再検討することを心待ちにしている。

附属書A:APEC連結性に関する枠組み

附属書B:APECインフラ開発・投資に関する複数年計画