データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第19回APEC首脳会議 ホノルル宣言 - 継ぎ目のない地域経済を目指して

[場所] 
[年月日] 2011年11月13日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 1993年に,米国が最初の首脳会合をシアトル近郊のブレーク島で開催した際,APEC首脳は,世界経済におけるアジア太平洋地域の発言力の高まりを歓迎した。今日,我々,APEC首脳は,太平洋の中心であるホノルルに集い,最も楽観的な期待すらを超える成果を示している地域を目の当たりにしている。我々の地域は,今や世界の成長の牽引役であり,これは,我々が,地域経済統合というAPECの使命と,自由で開かれた貿易・投資というボゴール目標への着実なコミットメントを通じて達成してきたものである。

 我々は,世界経済にとって不確実性の時期に集う。成長と雇用創出は多くのエコノミーにおいて弱まり,欧州における金融上の挑戦や我々の地域で相次いでいる自然災害からのものを含め重大な下方リスクが存在する。

 これらの課題は,前進のための手段としての協力に対する我々のコミットメントを強化してきたに過ぎない。横浜ビジョンに基づいて,我々は強固で,持続可能かつ均衡ある地域及び世界経済の成長を支援することを固く決意する。

 我々は,2008年から2009年の世界的景気後退の影響下において,一層の貿易自由化が,持続可能かつ世界的な回復を達成するのに不可欠であることを認識する。我々は,ドーハ・ラウンド交渉(DDA)が直面する困難に関して深い憂慮を有しており,近い将来にDDAの全ての要素が妥結することが困難なことが現実である。我々は,過去と同じように交渉を行えば,DDAを完結できないであろうが,DDAの最終妥結に向けてより良い進展を可能にする努力を放棄することは,誰一人として意図していない。我々は,実務者に対し,斬新で,信頼性のあるアプローチを探求し始める決意を持って,来るWTO閣僚会議,及びそれ以降の交渉に臨むことを指示する。これらは,暫定的に若しくは確定的にコンセンサスが得られるドーハ・アジェンダの特定の部分を前進させる可能性を含む。

 我々のエコノミーと他のエコノミーが,新たに展開する挑戦と好機に対処し続ける際,開発を引き続き優先事項としつつ,WTOが貢献することが重要である。我々は,現状維持(スタンドスティル)を通じて保護主義に対抗する約束を再確認し,2015年末までこのコミットメントを延長する。我々は,2011年12月の第8回閣僚会議に集うWTO加盟国・地域に,反保護主義の約束に関する合意を通じたAPECにおけるコミットメントを基礎とするよう促す。我々は,APEC貿易担当大臣に対し,WTOにおけるDDAの進展を促進するための方途を評価するためにカザンでの2012年の貿易担当大臣会合を活用することを指示する。我々は,来るWTO閣僚会議において,ロシアのWTO加盟プロセスが妥結することを期待する。

 本年のAPECにおいては,我々のエコノミーや市場をより互いに緊密にさせるべく,万人に裨益する継ぎ目のない地域経済に向けた具体的な措置を取ることにコミットした。

地域経済統合の強化及び貿易の拡大{前16文字太字}

 APECの中心的な使命は,我々のエコノミーの統合深化及び域内の貿易拡大であり続ける。我々は,これらの目標を追求するため,貿易・投資が全てのエコノミーにとって雇用創出や経済繁栄のために不可欠であることを認識しつつ,APECに集った。更に,我々は,地域の経済統合の強化がまた,地域の平和と安定の推進において重要な役割を果たすことを認識する。

 我々は,貿易協定やAPEC地域の経済統合という目的を推し進めるための主要な方法であるアジア太平洋自由貿易圏を通じることを含め,次世代型の貿易・投資課題に取り組むことによって,2011年にこれらの目的を追求した。特に,我々は,生産性を向上させ,経済成長を確保するためのイノベーションの推進に向けた最適な道筋として地域におけるイノベーションのモデルを設定するため,実効的,無差別的かつ市場主導型のイノベーション政策を推進するための一連の政策を促進する(附属文書A参照)。我々はまた,グローバル生産網への中小企業の参加を拡大するための貿易協定の中に含まれうる協力分野を決定した(附属文書B参照)。

 加えて,我々は,市場を更に開放し,地域貿易を円滑化させるために,以下の措置をとる。

・2015年までにサプライチェーンの能力をAPEC全体で10パーセント改善させるという我々の目標への主要な貢献として,少額貨物の関税を免除し,輸入申告要件を簡素化するための,商業的に意義のある免税輸入限度額(デミニミス)を我々のエコノミーにおいて確立する。

・我々のエコノミーの経済成長や雇用創出に貢献するべく,中小企業の能力を向上させるために,中小企業が域内貿易で直面している主要な障壁に対処するための具体的な行動を取る。

・WTO情報技術協定がAPECエコノミーの貿易投資の促進とイノベーションの推進に果たした貢献を強化するために,同協定の対象範囲及びメンバーシップを拡大するための交渉の着手に指導的な役割を果たす。

・地域における渡航を,より早く,簡単かつ安全なものにする方法を探求するため,APEC旅行円滑化イニシアティブを立ち上げる。

・国内障壁を削減し,均衡ある,あまねく広がる,持続可能な成長を促進するために,2015年までにAPEC構造改革新戦略(ANSSR)に関する計画を実施する。

・情報の移動に対する障壁を削減し,消費者情報保護を向上させ,地域的な情報保護体制の相互運用性を促進するために,APEC越境個人情報保護規則制度を実施する。

・食料安全保障に関する新潟宣言を実施し,輸出規制及び他のWTOに整合的でない貿易措置に関連する,2008年にAPEC首脳により,初めてなされた我々の現状維持(スタンドスティル)のコミットメントを再確認する。そして,

・航空貨物サービスの自由化を追求することにより,商取引を円滑化し,経済成長を促す。

グリーン成長の促進{前9文字太字}

 我々は,共通のグリーン成長目標を進めることにコミットした。我々は,エネルギー安全保障を高め,経済成長と雇用の新しい源泉を創出する方法として,世界的な低炭素経済への移行を加速化することにより,地域の経済的及び環境的課題に取り組むことができるとともに,これに取り組まなければならない。

 我々は,2011年にこれらの目的を大いに進展させた。2012年に,エコノミーは,エコノミーの経済状況を考慮しつつ,WTOにおけるAPECエコノミーの立場を予断することなく,2015年末までに我々の実行税率を5%又はそれ以下に削減することを決意した,我々のグリーン成長及び持続可能な開発目標に対して直接的,積極的に貢献する環境物品に関するAPECのリストの作成に取り組む。エコノミーはまた,環境物品・サービス貿易を歪曲する現地調達要求を含む非関税障壁を撤廃する(附属文書C参照)。これらの具体的な措置を取ることは,我々の企業や市民がより低コストで重要な環境技術にアクセスすることを助け,これはまたそれらの活用を促進し,APECの持続可能な開発目標に重要な貢献をする。

 我々はまた,グリーン成長目標を進展させるために,以下の措置を取る。

・必要不可欠なエネルギー・サービスを要する者にはこれを供与する必要性を認識しつつ,無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し及び段階的に廃止するとともに,我々が毎年レビューする進展についての自発的な報告メカニズムを設立する。

・APEC全体のエネルギー集約度を2035年までに45%削減することを目指す。

・エネルギー・スマートな低炭素共同体を支援するために,輸送,建築,電力網,雇用,知識共有及び教育に関する具体的な措置を取ることによって,エネルギー効率性を促進する。

・我々の経済成長計画へ低排出開発戦略を取り入れ,APECをてことして,低炭素モデル都市やその他の計画を通じることを含め,このアジェンダを前進させる。

・違法に伐採された林産品貿易を禁止するための適切な措置を実施するよう取り組み,違法伐採及びそれに関連する貿易に対処するため,APECにおける追加的活動に着手する。

規制の収斂・協力{前8文字太字}

 正当化し得ない煩雑な時代遅れの規制を撤廃することを含む規制改革は,環境や公衆の衛生・安全を保護すると同時に,生産性を向上させ,雇用創出を促進し得る。加えて,貿易・投資の流れがより国際化していくに従い,不要な貿易障壁が経済成長や雇用を抑制することを防ぐために,国際基準への整合化を含め,規制手法の一層の整合化が必要となる。

 我々は本年,規制作業に関する政府部内での調整を確保し,規制の影響を評価し,またパブリック・コンサルテーションを実施することを含む,良き規制慣行を我々のエコノミーが実施するため,2013年までに具体的な措置を取ることにコミットすることにより,これらの目標を前進させた(附属文書D参照)。

 我々は,規制システムの収斂や協力を向上させるために,以下の措置を取ることに合意した。

 ・スマートグリッドの互換性基準,グリーン建築,太陽光技術を含む,新しいグリーン技術に関連する貿易の技術的障壁を防止するための共通目標を追求する。

 ・世界銀行との革新的な能力構築パートナーシップである世界食品安全基金を支援することを含め,食品安全制度の強化,貿易の円滑化を行う。

・APECにおける更なる協力を通じ,2014年までのAPEC腐敗対策及び開かれた政府のコミットメントの履行を確保する。

今後に向けて{前6文字太字}

 我々は,強固で,あまねく広がる地域成長を促進するため,APECエコノミーにおける女性の経済的な機会の拡大のための具体的な行動をとることにコミットする。我々は,女性と経済に関するサンフランシスコ宣言を歓迎し,またその履行をモニターすることを約束する。

 我々は,APECビジネス諮問委員会(ABAC)の我々の作業への貢献を称賛する。民間企業が貿易,投資及びイノベーションの原動力であることを認識し,APEC作業グループへのより大きなインプットや,新しい官民政策パートナーシップの設立を通じ,我々は,APECにおける民間企業の役割の強化にコミットする。悲惨な自然災害の影響を受けた人々との連帯を表明しつつ,我々は,より回復力のある共同体やビジネス界の構築に向けた努力の中心的な要素として,民間部門や市民社会を,より実質的に,緊急時の備えに関する努力に組み込んでいくことを約束する。

 APECエコノミーの経験や制度の範囲を認識し,我々は,効果的な経済・技術協力を実施することへのコミットメントを遵守することを通じ,継ぎ目のない地域経済に向けた野心的なビジョンを支持することの重要性を再確認する。

 今まで多くの前進がなされたが,真に継ぎ目のない地域経済に向けた我々の作業は未だ最初の段階にある。我々は閣僚及び実務者に,この作業を前進させ,またアジア太平洋共同体の経済的基盤を強化することを指示する。ロシアが議長を務める2012年のAPECに再び招集された際に,我々は更なる前進を目にすることができることを期待する。