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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候変動、エネルギー安全保障およびクリーン開発に関するシドニーAPEC首脳宣言(第15回APEC首脳会議)

[場所] シドニー
[年月日] 2007年9月9日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

我々、APEC首脳は、経済成長、エネルギー安全保障及び気候変動が、APEC地域にとり、基本的かつ相互に関連した課題であることに合意する。

開かれた貿易及び投資によって支えられているAPECの活力は、貧困を減少させ、生活水準を向上させ、経済的・社会的発展をもたらしてきた。

我々の成功は、部分的には、エネルギーの安定的供給に依存してきたが、その利用はまた、大気汚染問題及び温室効果ガス排出の一因ともなってきた。

APECにとっての重大な課題は、全世界人口の41%を占める我々の地域の願望として、クリーンで持続可能な開発のための新しい方針の全体像を描くことである。

我々は、幅広く且つ野心的な行動を通じて、環境の質的問題に対処し温室効果ガス削減に寄与しつつ、この地域のエコノミーのエネルギー需要を確保することにコミットしている。

将来の国際的行動

我々は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)への我々のコミットメントを再確認する。UNFCCCの原則に基づき、我々は、以下の諸点が、衡平かつ実効的な2013年以降の国際的な気候変動の取り決めの基礎とならねばならないと確信する。

包括性

我々は、すべてのエコノミーによる衡平かつ環境的・経済的に有効な方法で、共通の世界目標に寄与すべく、一致した国際的行動を必要とする。

差異のある国内事情及び能力の尊重

将来の国際的な気候変動の取り決めは、エコノミー間の経済的・社会的状況の差異を勘案し、我々の共通だが差異のある責任と各エコノミーの能力と一致している必要がある。

柔軟性

包括的なグローバルな努力を確保するために、我々は、多様な取り組みを認め、かつ気候変動に関する広範な分野にわたる実際的行動及び国際協力を支援するような柔軟な取り決めを支持する。我々は、共通の世界目標に対して計測可能な寄与をする国内の行動を支持し、市場メカニズムの実効的な作用の重要性を強調する。

低排出・ゼロ排出エネルギー源及び技術の重要な役割

化石燃料は、我々の地域及びグローバルなエネルギー需要において、引き続き主要な役割を果たすであろう。それらの、特に石炭の、よりクリーンな利用のための低排出・ゼロ排出技術に関する共同研究、開発、普及及び移転を含む協力は不可欠となるであろう。エネルギー効率の向上並びに再生可能エネルギーを含むエネルギー源及び供給源の多様化もまた重要になるであろう。原子力安全、保全及び核不拡散、とりわけその保障措置を確保した形での原子力エネルギーの利用は、これを選択するエコノミーにとって、一助となりうる。

森林と土地利用の重要性

持続可能な森林経営及び土地利用の実践は、炭素循環において重要な役割を果たし、2013年以降の国際的な気候変動の取り決めにおいて言及される必要がある。

開かれた貿易と投資の促進

気候変動及びエネルギー安全保障政策の追求は、貿易及び投資への障壁の導入を避けるものでなければならない。開かれた貿易、投資及び環境政策は、低排出の製品、技術及びベスト・プラクティスの普及にとって極めて重要である。

実効性のある適応戦略への支援

気候変動の影響への適応は、適切な政策交流、資金調達、キャパシティー・ビルディング及び技術移転を通じるものを含め、国際社会によって支援されるべき国内開発戦略にとっての優先事項である。

2013年以降の国際的気候変動の取り決めの支持

我々は、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させるという国際的目標にコミットする。世界は、世界的温室効果ガス排出の増加を減速、停止させ、そして減少に転じさせることを必要としている。

従って我々は、2013年以降の国際的な気候変動の取り決めを希求しており、その取り決めは、上述に加え、現行の取り決めを強化し、拡大し、深め、また地球規模での温室効果ガス排出削減を導くものである。

UNFCCCの締約国であるAPECエコノミーは、今年のUNFCCC締約国会議で、包括的な2013年以降の取り決めに向けて積極的かつ建設的に取り組むことに合意した。我々は、12月にバリにおいて議長としての役割を担うインドネシアへの強力な支持を誓約する。

我々は、2013年以降の国際的取り決めへの道を切り拓くため、長期的で願望としての排出削減目標に関する共通の理解に到達するための作業に合意する。我々は、長期的な国際目標の提案についての日本及びカナダの努力を評価する。

我々は、UNFCCCの下での2013年以降の世界的取り組みに向けた詳細な寄与に関する合意を探るために、主要経済国を召集するという米国のイニシアティブを歓迎する。

我々は、「気候変動に関するハイレベル会合」の開催についての国連事務総長のイニシアティブに対する我々の支持を誓約する。

国連の気候プロセスが、気候変動問題に関する国際交渉のための適切な多国間フォーラムであることを認識しつつ、クリーンな開発を推進するため、我々は、二国間、地域的及びグローバルなパートナーシップを通じて作業することに合意する。

APEC行動アジェンダ

我々は、他のフォーラムにおいてAPECエコノミーによって実施されている行動を補完するAPECにおける実際的且つ協同的行動及びイニシアティブの前進的プログラムを発表する。これらのイニシアティブは、UNFCCCの目的と原則に沿って全世界の温室効果ガス排出の削減に更なる貢献をするよう考案されている。その「行動アジェンダ」を添付する。我々は、他のフォーラムにおけるコミットメントを損なわないことを前提に、概要以下のとおり決定した。

●2030年までに(2005年を基準年として)少なくとも25%エネルギー集約度を削減するというAPEC地域全体での願望としての目標を達成すべく作業することにより、エネルギー効率改善の重要性を強調する。

●この地域の森林面積を2020年までに全ての種類の森林を少なくとも2,000万ヘクタール増加させるというAPEC全体での願望としての目標を達成すべく作業する。この目標が達成されれば、年間の世界の炭素排出量(2004年)のおよそ11%に等しい、約14億トンの炭素が蓄えられることになる。

●特にクリーン化石エネルギー及び再生可能エネルギー源といった分野において、我々の地域におけるエネルギー研究に関する共同作業を強化するため、「アジア太平洋エネルギー技術協力ネットワーク(APNet)」を設立する。

●キャパシティー・ビルディングを向上させ、森林部門における情報共有を強化するため、「持続可能な森林経営及び再生のためのアジア太平洋ネットワーク」を設立する。

●環境物品及びサービスの貿易、航空輸送、代替エネルギー及び低炭素エネルギーの利用、エネルギー安全保障、海洋生物資源の保護、政策分析能力並びにコベネフィット・アプローチに関する措置を更に推進する。

結論

APEC地域は気候変動、エネルギー安全保障及びクリーン開発という課題へのグローバルな対応において、主要な利害を有している。経済成長及び技術開発は、我々の今後合意されるアプローチにおいて、欠くことのできない要素である。これらの課題の規模は、新しく革新的な国際協力の形を必要としている。

我々、APEC首脳は、気候変動に対する恒久的でグローバルな解決のために、国際社会のすべてのメンバーと共働するという我々のコミットメントを再確認する。

行動アジェンダ

気候変動、エネルギー安全保障及びクリーン開発に関する以下のAPECの行動及びイニシアティブは、UNFCCCの目的及び原則に沿ってグローバルな温室効果ガス排出の削減への更なる貢献を示すものである。この行動アジェンダの実施において、共同研究、開発、普及及び技術移転が重要になるであろう。

エネルギー効率

エネルギー効率の向上は、経済成長及び発展を促進しつつ、エネルギー安全保障を強化し、温室効果ガス排出に対処する上で費用対効果が高い方法である。我々は従って、他のフォーラムにおけるコミットメントを損なわないことを前提に、

●エネルギー集約度を2030年までに(2005年を基準年として)少なくとも25%削減するという、APEC地域全体での願望としての目標を達成すべく作業することに合意する。

●この願望としての目標を考慮し、異なるエコノミーの個別の状況を勘案しつつ、すべてのAPECエコノミーが、エネルギー効率改善のための個別目標及び行動計画を策定することを奨励する。

●2007年5月にAPECエネルギー大臣によって立ち上げられた自主的な「APECエネルギー・ピア・レビュー・メカニズム」を通じて、進捗状況を推進し且つ見直し、2010年にAPEC首脳に報告することに合意する。

森林

森林は、炭素循環において極めて重要な役割を果たす。持続可能な森林経営を促進し、違法伐採と闘い、基本的な経済的・社会的原動力に取り組むことを含め、造林及び植林を奨励し、森林減少、森林劣化及び森林火災を減少させるためには、進行中の行動が必要とされる。我々は、従って、

●APEC地域における全ての種類の森林の面積を2020年までに少なくとも2,000万ヘクタール増加させるという地域の願望としての目標を達成するために作業することに合意する。

●2007年7月にシドニーで立ち上げられた「森林及び気候に関するグローバル・イニシアティブ」を歓迎する。

●その選択肢の追求に関心のあるエコノミーを対象とする持続可能な森林経営に関する法的拘束力のある枠組みに関する継続中の作業を含む、その他の枠組みの形成を歓迎する。

●キャパシティ・ビルディングの促進及び森林部門における情報共有の強化のための「持続可能な森林経営及び再生のためのアジア太平洋ネットワーク」の設立に合意する。「アジア森林パートナーシップ」を含む全ての森林に関する地域的イニシアティブ間の協力は重要となろう。

●世界銀行により提案されている森林・炭素パートナーシップ・ファシリティを含む、森林プログラムのパートナーシップの発展のため、関係国際機関と調整をおこなう。

低排出技術及び技術革新

低排出・ゼロ排出技術の共同研究、開発、普及及び移転は、気候変動に取り組むための我々の共通の努力において極めて重要になるであろう。我々は、従って、

●地域におけるエネルギー研究の協力を強化するため、「アジア太平洋エネルギー技術協力ネットワーク(APNet)」の設立に合意する。ネットワークへの参加はAPEC地域のすべての研究機関に対して開かれる。このネットワークの目的は、クリーンな化石エネルギーや再生可能エネルギーなどの分野における研究連携及び協力の円滑化である。APNetは、2008年に、主要なエネルギー研究会議において発足することとなる。

代替及び低炭素エネルギーの利用

低炭素エネルギー利用に関する理解の向上のためには、一貫した政策及び規制の設定を必要とする。我々は、従って、

●APECエネルギー作業部会における協力作業を通じ、特に石炭のクリーンな利用及び炭素回収・貯留の分野における、低排出・ゼロ排出エネルギーの利用の普及を前進させる政策の促進に合意する。

●APECバイオ燃料作業部会での作業を通じた、実績に基づいたバイオディーゼル基準の開発を支持する。

●メタン、水素、再生可能エネルギー及び炭素隔離、並びに「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」を含む、広範囲のエコノミーを巻き込んだ国際的パートナーシップにおける進行中の作業を歓迎する。それらは鍵となる新クリーン技術を推進するものである。

エネルギー安全保障

我々は、経済成長及び持続可能な開発の中核をなす、手ごろな価格で安定したエネルギー供給の地域にとっての重要性を強調し、また我々は、地域における長期的なエネルギー需要に対処するためAPEC域内での継続的な努力にコミットする。

環境物品及びサービスの貿易

開かれたグローバルな貿易及び投資のシステムは、我々のクリーン開発目標の中核を成すものであり、世界貿易機関(WTO)における市場開放は我々の気候及びエネルギー安全保障上の目標を進展させるだろう。我々は、従って、

●環境物品及びサービスの貿易自由化に関して、WTOドーハ開発アジェンダ交渉で達成された進捗につき、2008年のAPEC首脳会議において検討及び議論することに合意する。

民間航空輸送

我々は、航空上の排出問題に対処するための協同行動に関する展望を有する。我々は、従って、

●航空機の排出ガスによる気候に関連した影響に取り組むための将来のグローバルな行動はいずれも、相互の同意及び関連の国際法的措置に基づく航空機の排出に対するバランスの取れた取り組みを策定する上での国際民間航空機関(ICAO)の主導的役割に留意しつつ、すべてのAPECエコノミーの見解を含む、すべてのエコノミーの利益を反映する必要があることに合意する。

●この部門からの温室効果ガス排出に対処する実際的な協力の方策を促進するために、2007年3月にAPEC運輸担当大臣によって立ち上げられたAPECの官民共同作業を支持する。

●航空交通管理システム、航空機設計及び代替燃料等の重要な分野における作業を前進させるため、第2回官民共同「航空機の排出ガスへの対応策に関するAPEC戦略セミナー」を2008年早期に召集することに合意する。

政策分析能力

向上した対話と政策、及び技術協力は、我々の努力を支えるものとして有意義である。我々は、従って、

●エネルギー効率向上及び温室効果ガス削減のための効果的且つ首尾一貫した政策手段に関する意見交換の価値を支持する。

●気候変動の影響に経済及び社会を適応させることを目的とした方策を含め、気候変動政策の経済的影響を評価する取り組みに関する意見及び専門知識を共有するために、地域経済のモデル化関連機関の協力を向上することを支持する。

海洋及び沿岸資源

持続可能な海洋及び沿岸資源は、炭素循環における不可欠の一部をなす。我々は、従って、

●海洋生物資源の保護向上を目的とした、「珊瑚礁、漁業及び食の安全に関する珊瑚三角イニシアティブ」を歓迎する。

コベネフィット・アプローチ

我々は、持続可能な開発も同時に促進するようなグローバルな環境問題への対処へのアプローチを支持する。