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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第15回APEC首脳会議首脳宣言:我々の共同体のつながりを強化し、持続可能な未来を構築

[場所] シドニー
[年月日] 2007年9月9日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.我々、アジア太平洋経済協力(APEC)フォーラムの首脳は、2007年9月8日及び9日、オーストラリアのシドニーに参集した。我々は、APECが1989年にオーストラリアで発足したことを想起し、そのとき以来のこの地域の経済の力強い発展に大いに満足した。我々は、地域経済の統合、自由で開かれた市場、及び人々の安全について我々の共同のコミットメントが、我々の経済力並びに人々の福利及び繁栄における顕著な改善に大いに貢献してきたことに意見の一致を見た。

2.開放的、効率的、透明かつ柔軟な経済の推進は、アジア太平洋共同体における経済成長の継続及び強力かつ持続可能な未来の構築に必要不可欠である。このことは経済の不安定さや自然災害及び持続可能な成長に対するその他の脅威によって引き起こされる妨害に対する最良の防御となる。我々は、長期的な繁栄を支えるためにそれぞれの役割を果たすことについて合意してきた。我々は、人々の生活をより一層改善するために、この目的の遂行において強力な指導力を示すつもりである。我々は、メンバーの構造的経済改革を支援するために、APECの活動に新たなはずみをつけるよう閣僚に指示してきた。

3.我々は、力強い経済成長が持続するだろうということ、及び貧困を削減し、生活水準を向上させる我々の目標をより一層進展させることができることを確信している。我々の目標の達成に直接影響を与え得る展開や状況に対して、我々は注意を怠らず、敏感であり続けるだろう。

気候変動、エネルギー安全保障、及びクリーン開発

4.我々は気候変動、エネルギー安全保障、及びクリーン開発という課題に取り組んでいる。この問題に関する我々の決意は、今回の会議で発表された独立した宣言においてその概要が述べられている。

多角的貿易体制の優位

5.世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド交渉は重要な局面を迎えている。開かれた市場は繁栄と発展を生み出す。貿易機会の拡大は、経済成長及び生活水準の向上に寄与する。APECエコノミーは世界の貿易のほぼ50%を占めている。したがって、我々は皆、強固で、拡大し、ルールに基づく多角的貿易体制の主要な利害関係者である。

6.WTOのドーハ・ラウンド交渉が直面している重要な局面と各APECメンバーにとって重要なこれらの交渉の成功裡の妥結の達成への我々の継続する決意とを反映して、我々は独立した声明を発表した。この声明は、進展を図ることが喫緊に必要であることを表明するとともに、野心的かつバランスのとれた成果をもたらすために新たなエネルギーをもって作業を行うとの我々のコミットメントを誓約するものである。

地域経済統合

7.開かれた市場及び経済協力に対するAPECメンバーの取組は、実質的に地域統合を推進させてきた。我々は皆、恩恵を得てきた。この地域の経済成長は世界のその他の地域を凌駕し、この地域の貧困に苦しむ人々の数は1989年以降半分になった。

8.我々は、アジア太平洋地域の経済統合を更に推進する方法に関する閣僚からの報告を歓迎し、かつ承認した。我々は以下の行動をとることにより、この目的に向けた努力を加速させる次のことに同意した。

●自由貿易協定及び地域貿易取り決めを含む、貿易及び投資に対する障壁をより一層の削減

●資本市場を含む、経済効率及び地域のビジネス環境を改善すること

●運輸、電気通信、鉱業、エネルギーのような部門における統合の促進

9.我々は、閣僚及び実務者に対し、本作業を更に遂行し、地域経済統合を推進するために取られた手段の要旨を、2008年に報告するよう指示した。

自由貿易協定及び地域貿易取り決め

10.ドーハ・ラウンド交渉の成功裡の妥結は、引き続き我々の貿易の最優先事項である。地域貿易取り決め及び二国間の自由貿易取り決めもまた、貿易及び投資の自由化、並びに我々をより緊密化する上で重要な役割を演じている。

11.我々は、地域における貿易協定の統一化を促進することの重要性に関するAPECビジネス諮問委員会の見解に留意した。

12.様々な現実的かつ段階的な取組を通じて、我々はアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の選択肢及び展望を検討するであろう。

構造改革に対する新たな取組みを含む、経済効率及びビジネス環境の改善

13.我々は、世界的生産網及びビジネスのリスク、経費、競争力に対する世界的生産網及び地域市場の統合の影響についてのビジネス界の指導者の見解に留意してきた。地域経済統合には、貿易及び投資の自由化・円滑化の向上だけでなく、貿易及び商取引に影響を及ぼす国内措置の問題により注意喚起する必要がある。我々は、個別及び共同の指導力を発揮することにより、これらの問題に取り組み、ビジネス環境を改善することを約束する。この点に関して我々は以下のことを行った。

●構造改革によって、国内市場の効率をより一層改善し、生産性を向上し、我々エコノミーの強靱性を高め、高い成長率を維持する必要があることに同意。我々は「構造改革実施のための首脳の課題(LAISR)」の作業を強化する努力を歓迎し、閣僚にこの作業の継続を指示。

●構造改革を推進する国内組織の強化の重要性を認め、地域内の構造改革の優先事項に取り組むため、2008年に閣僚級会合を召集することに合意。

●2010年までに貿易取引費用の更なる5パーセント削減を目標とする新しいAPEC貿易円滑化行動計画を歓迎。

●地域における知的所有権(IPR)の保護と執行の強化を継続することに合意。我々は、強力な知識集約型経済には、創造性と革新を促進し、IPRの適切な管理と利用のためのツールを提供する環境だけでなく、包括的でバランスの取れたIPR制度が必要であることを認めた。我々はまた、APECが市場における模倣品・海賊版の売買行為に対処する努力を継続することに合意した。

●経済成長と開発への投資の決定的な重要性を強調し、投資環境の向上に関してこの地域が措置を取るべきことについて合意した。そのためには、投資の促進と保護を強化する投資制度の自由化、及び金融機関と市場を強化するための国内改革を必要とするだろう。我々は投資協定の諸原則を特定させることも視野に入れ、二国間の投資協定及び既存のFTAの中で投資に関連の深い要素の研究を始めることに合意した。

●各エコノミーの生産的投資を支援し、リスクを管理し、経済発展と地域統合を強化するために、民間資本市場を含む流動性の高い資本市場の重要性を認めた。我々は、金融機関等が果たす重要な役割を認めると共に、地域の資本市場における制度的基盤と提供可能な商品の範囲広げる選択肢の検討、財務大臣に指示した。

●我々は繁栄と予見可能なビジネス環境を築くために、腐敗と戦い、良き統治を促進する我々の関与を確認した。「改善された国際的な法的協力を通じた腐敗との戦い」に関するAPECの声明は、逃亡犯罪人引渡し、司法共助及び汚職利益の回収及び返還に関する協力を強化するための強いコミットメントを再確認するもの。我々は腐敗と戦うために相互補完的な公的部門と民間部門のそれぞれの行動規範を含む腐敗防止の原則を承認し、腐敗と戦うこれらの現実的な手段の完全な実施を主張した。

人間の安全保障の強化

14.我々は自然災害に対する我々の地域の脆弱性、および人間の安全保障に対する脅威から生ずる計り知れない人的、経済的損失を度々経験してきた。我々は皆、テロ、感染症、不法薬物及び汚染された製品、並びに自然災害による国境を越えた潜在的に拡大しうる、人々と経済に対する新しいリスクと挑戦に直面していることを認識した。我々は人間の安全保障が経済成長と繁栄にとって不可欠であると確認した。

15.我々は、人間の安全保障に対する挑戦における協力を強化し、またその際、ビジネスのニーズを十分に対応し続けることを決意した。我々はテロ集団を解体し、大量破壊兵器の拡散により引き起こされる危険を除去し、我々の経済と金融のシステムをテロ集団による悪用から保護する責務を再確認した。我々は、テロ攻撃後の貿易回復を円滑化するAPECの貿易回復プログラムを歓迎し、各エコノミーがパイロットプロジェクトを実施するよう奨励した。我々は、意図的な汚染からの食品供給の保護に役立つ「APECの食品防御自主的原則」を歓迎した。我々は取引費用を減らし、民間部門との協力を促進するより一貫した安全のための措置に向けて作業するよう閣僚に指示した。

16.我々は、緊急事態や自然災害に対する地域社会の強靱性を高めるため、APECの努力を更に強化する必要性について合意した。我々は、感染症の大流行に対する備えとHIV/AIDSを含む感染症と戦う能力を高めるとともに、税関、海上、航空、大量輸送部門への脅威を防止するAPECの取組みを歓迎した。我々は、感染症流行時に機能し続けることを確保するためのAPECガイドライン、及びHIV/AIDSと共に生きる労働者の職場における支援的な環境作りに役立つガイドラインを承認した。我々は、インフルエンザの共有を支持し、予防注射及びそれから派生するその他の福利厚生への透明、公平及び衡正なアクセスを促進することに合意した。

17.我々は科学的リスク評価に基づいたアプローチを用い、不必要に貿易を阻害することなく、地域の食品と消費財の安全基準と実践の強化へのより積極的なアプローチを検討する必要性について合意した。この分野における更なるキャパシティー・ビルディングは優先事項である。我々はこの重要な分野において更に作業を行い、その進展について報告するよう閣僚に指示した。

18.我々は、高価で不安定なエネルギー価格に関連する、現在顕在化している経済的リスクを認識し、アジア太平洋の増加するエネルギー需要は、拡大する貿易と投資により供給を高め、利用効率を高めることにより、最もよく満たされることを確認した。我々はエネルギー安全保障が、自由かつ開かれた貿易、投資のための安全かつ透明性の高い枠組み、明快な価格シグナル、市場の透明性、効率的な統治及び競争により特徴付けられる効率的なエネルギー市場を通して最もよく満たされることを確認した。

APECの強化

19.我々はAPECを強化し、より効率的かつ対応力のあるものとするための現在進行中の努力を確約した。我々は、メンバーの拠出金を大幅に増加し、新しいAPECポリシーサポートユニットを設置し、事務局長専任化に関する閣僚による決定を歓迎した。

20.我々は、我々の多様なエコノミーの経験の共有、及びAPECのコミットメントの実施を支援するための経済的及び技術的協力の提供から生じる有益性を特に認識した。我々は、新しいポリシーサポートユニットに任意拠出を行うメンバーに謝意を表明し、またAPECのキャパシティー・ビルディング・プログラムへの謝意を表明しつつ他のメンバーへ呼びかけた。

21.我々はAPECのメンバーシップ問題を議論し、APECが地域統合と開放経済に向けて展開してきたモメンタムを維持しつつ、新規参加問題に対応することが重要であることに合意した。我々は、2010年にメンバーシップ問題を再検討することに合意した。

22.我々は、2011年と2012年にそれぞれAPECを主催するとの米国とロシア連邦の申し出を歓迎した。

23.我々は、第19回APEC閣僚会議における共同声明をすべて支持した。

24.我々は、2008年にペルーのリマで再会するというペルー国大統領からの招待を歓迎した。