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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 釜山宣言(第13回APEC首脳会議)

[場所] 釜山(韓国)
[年月日] 2005年11月19日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々、アジア太平洋経済協力(APEC)メンバーの首脳は、2005年のAPECのテーマである「一つの共同体に向かって〜挑戦に立ち向かい、変化を起こす〜」の下、人々のために安定、安全及び繁栄を達成するという共通のビジョンを推進すべく、韓国の釜山における第13回APEC首脳会議に参集した。我々は、アジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資、という「ボゴール目標」の重要性を再確認し、「釜山ロードマップ」に従ってこれに取り組むことを誓約した。この新たな約束と共に、本年、我々は、我々のビジョンの築き石とするため、この地域における透明で安全なビジネス環境の確保を誓った。我々はまた、この地域に存在する様々な格差や相違を解消するため、諸課題に直面し最大限の努力を行った。その結果、APECは、アジア太平洋地域を包含する唯一のフォーラムとして、過去の誓約を守ったのみならず、APECが向かうべき将来の方向性を提示することにも成功した。

更なる自由貿易の推進

 この地域の経済成長の原動力は強化された多角的貿易体制であるという確固たる信念の下、APEC首脳は、首脳会議開始以来、世界貿易機関(WTO)を支持してきた。我々は、世界の主要貿易経済のフォーラムであるAPECは、多角的貿易体制の強化において指導力を発揮しなければならないと信じる。我々は、独立の声明において我々の強い政治的意思を表明し、その中で、ラウンド終結時には野心的で全体的なバランスの取れた成果を達成できるべく、WTOドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉を迅速に進展させることへの我々の確固たる支持を宣言した。我々はまた、ロシアとベトナムのWTO加盟の迅速な妥結のための努力を支持した。

 我々は、ボゴール目標達成に向けた進展についての中間評価の結果を歓迎し、自由で開かれた貿易及び投資に向けてAPECが重要な進歩を遂げたことを確認した。我々は、ボゴール目標に向けた個別及び共同の努力の双方が、急速且つ持続的な経済成長と我々の国民の福祉の大幅な向上に貢献したと確信している。

 変化しつつある国際貿易環境から生じる新たな課題に対応し、表明されている期限までにボゴール目標を達成するため、我々は、以下から成る「ボゴール目標に向けた釜山ロードマップ」を承認した。

●多角的貿易体制の支持

●共同及び個別行動の強化

●質の高い地域貿易協定及び自由貿易協定(RTAs/FTAs)の促進

●釜山ビジネスアジェンダ

●キャパシティ・ビルディングへの戦略的アプローチ

●パスファインダー・アプローチ

 我々は、地域における衡平な成長と共有された繁栄を確実にするため、経済・技術協力(ECOTECH)を推進する確約を再確認した。我々は、ECOTECHはそれ自体が重要であるのみならず、貿易と投資の自由化及び円滑化の推進に関連する分野横断的な問題であることを強調した。

 我々は特に、釜山ロードマップの一つの要素である「釜山ビジネスアジェンダ」を歓迎した。このアジェンダは、ビジネス界の具体的な関心事項に応え、2010年までの更なる5%の貿易取引費用の削減、包括的なビジネス円滑化プログラム、並びに知的財産権(IPR)・貿易円滑化・腐敗の防止・投資及び貿易の安全に関する新たな取組を要請している。

 我々は、質の高いRTAs/FTAsは自由で開かれた貿易及び投資を達成するための重要な手段であり、現在の取組が、地域のRTAs/FTAsにおける質の高さ、透明性及び幅広い整合性を追求することを要請した。我々はまた、RTAs/FTAs交渉にとって有意義な参照としての機能を果たす「RTAs/FTAsにおけるAPEC貿易円滑化モデル措置」を歓迎し、一般に受け入れられているFTA の章の中で可能な限り多くの章につき2008年までにモデル措置を策定することを求めた。

 アジア太平洋地域における経済成長と貿易のためには強力な知的財産権(IPR)の保護と取締が重要であるとの認識に立ち、我々は、「APEC模倣品・海賊版対策イニシアティブ」を歓迎し、模倣品・海賊版の国際取引の防止、インターネット上の海賊行為の削減、及びインターネット上の模倣品・海賊版の販売防止に関する模範ガイドラインを承認した。我々はまた、民間部門との緊密な協議の上で、地域におけるIPR保護及び取締の課題を取り上げる将来の取組を2006年に行うことを要請した。

 我々は、閣僚に対し、ビジネスを行いやすい環境をアジア太平洋に創出することを目指し、国境内における問題への取組を指示した。我々は、必要な構造改革を成し遂げるための政策指向的アプローチとして、「構造改革作業計画(LAISR 2010)」の採択を歓迎した。我々はまた、APECが中小企業の活動に適した環境を創造するための「民間部門開発アジェンダ」を策定するイニシアティブを歓迎した。

 我々は、APECビジネス諮問委員会(ABAC)からの提言に留意した。我々は、アジア太平洋におけるビジネス環境改善に向けた試みにおいて、引き続きビジネス部門と共に取り組んでいく。

安全で透明性のあるアジア太平洋地域:人間の安全保障の強化

 我々は、数千人の命を奪い、アジア太平洋地域の経済的繁栄と安全の不安定化を意図した、地域におけるテロ行為を非難した。これらの行為は、APECの目的である繁栄の推進及びその補完的使命である安全の強化に対する明らかな挑戦である。現在も継続するこれらの脅威に立ち向かうため、我々は、国際テロ集団の解体、大量破壊兵器及びその運搬手段の脅威の排除、及び我々の地域に対するその他の直接的な脅威との闘いにおける進展をレビューし、これらの重要な目的を促進するために適切な個別及び共同の行動をとるという、バンコク及びサンティアゴで我々が行ったコミットメントを再確認した。我々は、テロとの闘いに用いるいかなる措置も、国際法、特に国際的な人権、難民及び人道に関する法の下でのあらゆる関連義務の遵守を確保することへの確約を確認した。

 我々は、テロ対策、貿易の安全確保及び安全な渡航に関するAPECのコミットメントの実施を奨励した。我々は、「放射線源の安全な取扱と貿易」、「携帯式地対空ミサイル(MANPADS)に対する空港の脆弱性の低減」、「総合サプライ・チェーン・セキュリティー」及び「国際貿易の安全確保と円滑化に関するAPEC枠組み」に関する新たなイニシアティブを歓迎した。我々は、「地域的出入国警戒リスト(RMAL)」の試験的開始の成功とその2006年中の拡大に向けた取組、並びに船舶・港湾の安全基準及びその他の安全に関するイニシアティブ推進のために行われたキャパシティ・ビルディングを歓迎した。

 我々は、過去1年間の恐ろしい地域的自然災害を想起し、残された家族の方々に対し、哀悼の意を表した。我々は、将来の災害による影響の緩和及び共同の対応能力向上のための行動をとることにより、我々のメンバーを守ることを約束した。我々は、閣僚が本年発生した災害に迅速に対応したことを賞賛した。

 我々は、効果的な監視、透明性と開放性、並びに緊密な国内、地域及び国際的協調と協力にメンバーをコミットさせる「インフルエンザ流行への備えと影響の軽減に関するイニシアティブ」を承認した。我々はまた、多部門での準備計画、時宜を得たデータ及びサンプルの共有、貿易と渡航に関する科学に基づく意思決定、及び改正された「国際保健規則」の適切な場合における早期実施を約束した。我々は、WHO、FAO、OIE、及び「鳥及びインフルエンザ流行に関する世界的パートナーシップ」による努力と、2005年に開催された「鳥インフルエンザへの備えに関するAPEC会合」及び「インフルエンザ流行への世界的な備えに関する保健大臣会合」の成果を支持し、2006年に開催される「新興感染症に関するAPECシンポジウム」に期待した。

 我々は、鳥インフルエンザをその発生地に限定させ人間の発病を防止することに向けたAPECメンバー間の協力及び技術的支援の強化、対応可能かつ財政支援を受けた地域専門家リストの策定及び初期段階でインフルエンザ流行に緊急に対処する能力の向上、地域的対応と連絡網を試すための2006年早期の机上模擬演習をはじめとする流行への備えに関する試験、公衆及びビジネスへのアウトリーチ及びリスクの連絡の強化、透明性の向上及び貿易や渡航者への危険減少のための国境検査手続及び管理に関する情報交換を含む、共同の実用的な措置につき合意した。

 我々は、原油価格高騰の影響に対する懸念を共有し、エネルギー市場の供給と需要への同時の取り組みを通して緊急に対処することに合意した。その手段には、投資の増加と国境を越えた貿易の拡大及びエネルギー技術の開発の加速化により、地域の脆弱性を低下させエネルギー供給を確保するための協調的努力、並びに化石燃料の需要低下及び石油業界の投機的需要の低下に資するエネルギーの効率化、省エネ及びエネルギー源の多様化措置の促進がある。

 我々は、貧困撲滅、経済成長及び汚染削減に対処する形でのエネルギー源拡大の必要性、及び気候変動に関する目標への取組の必要性を強調した。この関連で、我々は、年内にカナダのモントリオールで開催される「国連気候変動会議」を歓迎した。

 我々は、腐敗の罪を犯した公務員と個人及び賄賂を贈った者並びに不法に入手した資産に対し安全な避難先を与えないこと、国際商取引におけるものを含めて贈収賄に関与した者を訴追するための地域的協力の強化に合意した。我々はさらに、関連APECメンバーによる「国連腐敗防止条約」の原則の実施は、アジア太平洋地域における一層クリーンで誠実且つ透明性が高い共同体に向けた我々のコミットメントを推進する上で、肯定的な影響を与え得ることに合意した。我々は、2005年APEC・CEOサミットにおいてCEOが「ABAC腐敗防止への誓い」に署名したことを歓迎し、このキャンペーンにおける官民連携を奨励した。

未来に向けたAPECの進歩

 我々は、APECの未来に向けた道を開いていく上で重要な道標が本年のAPECで築かれたと確信する。我々は、APECがメンバーの繁栄に益々貢献するとともに、いかなる新たな課題にも自信を持って立ち向かうであろうことを固く信じる。

 我々は、全ての市民が貿易自由化及び経済成長から生じる恩恵を共有する機会を確保する重要性を認識した。我々は、社会・経済的な不均衡の問題に関する課題と障害に立ち向かう方法につき研究を行うことに合意した。APECは、経済・技術協力とりわけキャパシティ・ビルディングの提供、経済改革の奨励及び腐敗対策などの措置を通じ、経済成長の受益者の輪を拡大するために、現在の取組を発展させていく意向である。

 我々は、地域の経済発展のために女性が果たしてきた重要な貢献を認識し、全てのAPECフォーラムの活動においてジェンダーの統合を確保することを確約した。

 我々は、今後は技術革新及びメンバー間における先端技術の共有が重要であることを強調した。我々は、ブルネイ目標達成のために成された努力を認識し、閣僚に対し、その勢いを維持することを指示した。我々は、APECが世界情報社会サミット(WSIS)に伝えたメッセージを全面的に支持した。

 我々は、APECを一層効果的かつ結果指向型にするために本年行われたAPEC改革の努力による具体的な成果を歓迎した。我々は、閣僚に対し、APECメンバー、市民社会及びビジネスからの新たな関心事項に応えるべく、APEC改革への取組の継続を指示した。我々は、経済・技術協力に関連するAPECの活動の生産性向上を目指して執られた措置を支持した。

 我々は、我々の努力がアジア太平洋共同体の構築に貢献してきたことに留意し、文化のアジェンダが人々の間の理解の深化を促進し心理的な障壁を低下させることにより、我々の努力に貢献することを歓迎した。

 我々は、第17回APEC閣僚会議において閣僚間で合意された共同声明を全面的に承認した。