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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第10回APEC首脳会議,APEC首脳宣言

[場所] ロス・カボス、メキシコ
[年月日] 2002年10月27日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々は、自由で開かれ、繁栄したエコノミーというAPECのビジョンを実現することにより経済成長をより強固にすることを目的として、ロス・カボスにおける第10回APEC首脳会議に参集した。我々は、我々のビジョンにとり深刻な脅威となっているテロリズムとの闘いの重要性につき合意した。我々は公平で共有された繁栄をもたらすという最終的な目標を実現するための主要な要素としてボゴール目標の達成に向けた歩みを継続し、加速することを決意した。我々は自由で開かれた貿易及び投資を追求するための最大限の政治的な支援を与えることが必要であると強く認識した。

 我々は、本年の会合のテーマである「経済成長と発展のための協力の利益を拡大するービジョンの実施」にあるように、APECは重要な措置の実施に関与していることを確認した。我々は一層のアセスメント、責任及び行動を通じて、我々のAPECの目的をより広範囲なAPECコミュニティーのための具体的利益につなげていくことを決意した。我々は、特にマイクロ企業、情報へのアクセス、人材養成、金融、保健等に係る我々の個別及び共同の努力を通じた、より包括的な世界経済に向けた我々のコミットメントを確認した。

自由で開かれた貿易及び投資というAPECビジョンの実施

 我々は、我々のコミットメントを実施するとともに、貿易が経済成長に果たす基本的な役割と、APECが多角的貿易体制を強く支えていく必要性について議論した。

・我々は閣僚に対し、市場の開放、多角的貿易体制の強化、特に発展途上国の経済成長と貧困削減の促進、持続可能な開発の推進、規律の改善、WTOと他の諸制度との調整の改善、及び世界の全ての市民への機会の提供をもたらす交渉を継続するよう要請した。

・我々はドーハにおける新たな多角的貿易交渉の開始を歓迎し、2005年1月1日までに確実に右交渉を終結するため、全てのエコノミーが合意された期限までにドーハ開発アジェンダ(DDA)の全ての分野における実質交渉を進めるよう促した。カンクンで行われる2003年WTO第5回閣僚会議までの過程において全ての分野にわたって進展が得られるよう要請した。

・我々はこれらの交渉が、全てのエコノミー、特に発展途上のエコノミーにとって、農業改革、モノとサービスへの市場アクセスの改善及び貿易規律の明確化と改善の分野において、実質的な利益が得られるとの展望を維持するものであるということに合意した。

・我々は交渉の目的の一つが、あらゆる形態の農業輸出補助金並びに不当な輸出禁止と輸出制限の撤廃であるべきことにつき合意した。

・我々は、また、ルールに関する交渉グループにおける進行中の作業に対し引き続きコミットしている。それらの交渉は1994年のGATT第6条の実施に関する協定及び補助金及び相殺措置に関する協定の下で、その基本概念及び原則、並びに、これらの協定及びその諸措置と目的の有効性を保ちつつ、規律の明確化及び改善を目指すものである。

・我々は、APECが、投資、競争、貿易円滑化、政府調達における透明性、貿易と環境等を含む全ての分野の議題において信頼醸成活動を奨励し調整することにより、ドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉に一層貢献すべきである旨合意した。

・我々は、全てのエコノミーがドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉に効果的に参加できることを目的としたAPECの活動を歓迎した。我々は、WTOがより効果的で一貫したプログラムと貿易関連の技術支援の供与に向けたAPECのリーダーシップを踏まえることを奨励した。

・我々はロシアとヴィエトナムのWTOへの早期加盟を支持した。

・我々は、地域及び二国間の貿易協定が、WTOのルール及びAPECの目標と原則に一致すべきことを念頭に置きつつ、APEC内におけるこれらの貿易協定に関する意見交換を行うことを要請した。

 我々はアジア太平洋地域における成長重視型政策を如何に実施していくかについて議論した。昨年、我々は上海アコードにおいて、我々の新しいビジョンに合意した。それは、貿易と投資を拡大するという約束の実現を強調し、その基本的な使命を拡大して、経済の新たな進展を含め、経済・技術協力の必要性を再確認するものであった。

 我々はこの一年間に達成された重要な進展を認識し、ボゴール目標を実現し、多角的貿易体制を支持しようという我々のコミットメントを前進させる上海アコードを時宜にかなうよう実施することの重要性を確認した。今日、ロス・カボスにおいて、我々は:

・2006年までにAPEC域内における貿易取引費用を5%削減するとのコミットメントを実施するというAPEC貿易円滑化行動計画を支持した。我々は、貿易円滑化によって多大な経済・貿易の利益が生じることを認識し、また、行動計画における途上エコノミーへの適切な人材育成支援への呼びかけに特に留意した。また、我々は閣僚に貿易を円滑化する行動と手段を選択し、実施しながら前進し続け、また、関連する取引費用の削減の利益を査定するよう指示した。

・別添の「APEC透明性基準の実施のための声明」{前20文字下線}を採択し、これらの基準ができる限り早急に、遅くとも2005年1月までには実施されるよう指示した。2005年1月より前に国内法あるいは国際的な合意の下でこれらの基準を実施する可能性のあるエコノミーは、直ちに、全てのAPECエコノミーに対し等しい待遇を認めなければならない旨合意した。

・事前旅客情報システム(APIS)に関するパスファインダー、税関手続きの簡素化及び調和に関する国際規約の改正議定書(改正京都議定書)、電子検疫(SPS)認証(e−cert)、電子原産地証明(ECO)、電気及び電子機器の適合性評価に関する相互承認取り決め(EEMRA)第2及び第3部、及び企業統治を支持した。

・また、パスファインダー・イニシアティブの一つとして、ニュー・エコノミーのための適切な貿易政策に関する一連の目標値を盛り込んだ別添の「貿易とデジタル・エコノミーに関するAPEC政策実施のための声明」を採択した。

・全てのAPECメンバーに対しこれらのイニシアティブへの参加を考慮することを強く促すとともに、実務者にパスファインダーを採用すべき事項で、APECメンバーに利益をもたらすイニシアティブの特定作業を継続するよう指示した。

・ボゴール目標の達成に向けた我々の行動進捗状況をモニターするための、より強化された個別行動計画のピア・レビュー・プロセスを賞賛した。

・グローバル経済と地域経済における変化に対応しつつ、ボゴール目標の達成についての我々の強いコミットメントを示した大阪行動指針の拡大を支持した。

経済ファンダメンタルズの強化

 我々は、経済の回復について議論し、その強化と拡大のペースに関する不確実性が依然として残ることに留意した。このような状況において、特に金融システムにおけるより良い信頼醸成、銀行監督の強化を通して、金融システムの健全性と効率性を強化し、また、市場開放政策を補完し、持続可能な経済成長及び良い統治を促進し、経済ショックに耐え、全てにとってより良いビジネス環境を生み出す、より広い構造・規制・制度改革を継続することは大変重要である。

・我々は、第9回財務大臣プロセスの成果を歓迎した。我々は、慎重かつ透明な財政運営がマクロ経済の安定を維持し、金利を下げ、経済成長を促す助けになることを固く信じる。

・我々は、構造的財政赤字を回避し、公共支出の効率性を高めるために取り組むことを決意した。

・我々は、地域的債券市場の発展を含め、金融市場の更なる開放性、多様性及び競争性を促進することで合意した。この関連で、我々は、証券化・信用保証市場の発展に対する障害を明示し、詳細な行動計画を促進するための政策対話を組織し、2003年にAPECの首脳に進捗を報告する財務大臣のイニシアティブを賞賛した。

・我々は、適切な水準の貯蓄が経済の安定と成長に必要であること、及び国内・国外貯蓄が生産的な投資に向けられるよう貯蓄が最も効率的に配分される制度的枠組みと構造改革の実施が不可欠であることを認識した。

・我々は、APECメンバー・エコノミーにおいて企業統治の水準とプラクティスを改善するための措置を実施することにより、市場に対する自信と投資家の信頼を強化し、貿易と投資に影響を及ぼす政策の透明性を高めることを決意した。我々は、変化する市場環境を反映するために、メンバー・エコノミーが定期的に域内の企業統治プラクティスをレビューする必要を認識した。

・我々は、e−APEC戦略の実施を歓迎し、健全なマクロ経済政策、e−ビジネスとブロードバンド・ネットワークを促進するための投資及び技術発展を刺激する法及び規制の枠組み、域内の人々のインターネット及びそれを使用する技術へのアクセスを確保するプログラムを実行するために作業を加速することを要請した。

・我々は、APECエネルギー大臣の、エネルギー市場改革、及び域内の成長と発展が適切なエネルギー・インフラストラクチャーによって支援されることを確保するために必要な重要民間投資を呼び込むための更なる透明性に対するコミットメントを支持した。

・我々は、貿易及び投資の自由化及び円滑化を達成するにあたっての構造改革の重要性を認識し、この分野における対話と作業を更に促進することに合意した。

テロリズム対策と経済成長

 域内の経済成長の鍵であるモノ、資本及び人の円滑な流れを維持する一方で安全をより確かなものとする必要に留意しつつ、我々は、テロ組織による域内の安全と繁栄に対しての挑戦について議論した。我々は、2001年のテロリズム対策に関する首脳声明に対応したメンバー・エコノミー及びAPECの数々のフォーラムの努力を歓迎した。

・我々は、APEC域内における最近のテロ行為を最も強い言葉で非難し、テロリズムに対抗し対処する上での協力を強化する我々の決意を再確認した。

・我々は、貿易、金融及び情報のフローを一層効率化し保護する一連の具体的措置を取ることにコミットする「テロリズムに対する闘いと経済成長に関するロス・カボス声明」を採択した。

・我々は、すべてのエコノミーが同声明の全ての要素を実施できるよう確保するためのキャパシティ・ビルディング計画の促進を要請した。

・我々はまた、APECエネルギー安全保障イニシアティブのメカニズムの下で域内のエネルギー安全保障の強化、特に本年9月の第8回国際エネルギー・フォーラムにおいて高く評価された石油データの月例報告を支持する。

公平で共有された繁栄に向けて

 我々は、キャパシティ・ビルディング及び経済・技術協力に関するAPECの取組について議論を行った。説明責任を高めるために、我々は、閣僚に対し、経済・技術協力の焦点及びキャパシティ・ビルディングの目的を改善するとともに、我々の行動が、十分に監督・評価されることを確保し、APECの貿易・投資の自由化と円滑化の目標を完全に支持し、グローバリゼーションの挑戦に取り組むよう指示した。

 我々は、APECのキャパシティ・ビルディング及び経済・技術協力の目的を追求する上で、国際金融機関や民間セクターとの間でパートナーシップを構築する必要性につき合意した。

 我々は、経済・技術協力及びキャパシティ・ビルディングの目的が効率的に実施されるように確保するための我々の作業を査定する必要があるということを認識した。APEC事務局のこの作業への関与は必須であり、我々は、ABAC、女性指導者ネットワーク、APECスタディ・センター等の他のAPEC利害関係者の関与もまた不可欠であることを認識した。

 我々は、グローバル化の恩恵と挑戦を建設的に議論するための主要な努力としての、「グローバル化と繁栄の共有に関する対話」の実現を賞賛した。

 我々は、グローバリゼーションの社会的側面に取り組むことの重要性に留意し、構造的変化の対価を最小限にするためのソーシャル・セーフティー・ネットを開発することの必要性を確認した。

・ 我々は、グローバル化が経済の進展の推進力となることを認識し、情報へのアクセス、人のキャパシティ・ビルディング、資金調達環境及び健康の改善を通じて、我々の経済・技術協力活動が、マイクロ・中小企業とともに人々の能力を高めることを目指す必要性に合意した。

・我々は、APEC内のインターネット利用が、2000年のブルネイにおける接続能力目標の設定時から2倍以上になったことを留意した。我々は、2010年までに全ての人のアクセスという目標を実現するためのコミットメントを再度表明し、また、地方、マイクロ企業、中小企業、女性、青年及び障害者に対する接続能力に関しての更なる行動に焦点を当てることの重要性を認識した。

・我々は、e−APEC戦略、北京人材養成イニシアティブ及びニュー・エコノミーのための人材養成戦略による貢献を、デジタル・ディバイドからデジタル・オポチュニティーへの変容の必要性への効果的な対応として、留意した。我々は、サイバー教育の拡大を歓迎するとともに、教師の質の改善、語学教育の促進及び遠隔学習活用の増加の促進を目的としたより多くの活動を求めた。我々は、また、APEC教育基金の再活性化とAPECサイバー教育協力コンソーシアムの拡大に関する、重要な進歩を歓迎した。

・我々は、中小企業大臣会合の成果を歓迎し、マイクロ企業法人化発展問題も含め、APEC中小企業発展統合計画(SPAN)の進展を留意した。我々は、また、APEC域内における貿易及び経済発展に対する中小・マイクロ企業の重要な貢献を認識した。この意味で、我々は、閣僚及び実務者に対し、地域的な輸出業者を含めた彼らの成長を妨げる障害を除去するための計画を作成することを求めた。

・我々は、マイクロ企業に関するハイレベル会合の成果を歓迎するとともに、マイクロ企業への配慮は、男女間の公平、経済成長、貧困緩和及びソーシャル・セーフティー・ネットの強化という我々の目的に向けた進展の鍵となると信じる。我々は、マイクロ企業の発展のためのサブ・グループを形成するという中小企業大臣会合における決定を歓迎した。我々は、関係するAPECフォーラム及び他のAPECの利害関係者による取組に配慮しつつ、サブ・グループの行動計画の策定が調整されることを求める。

・我々は、マイクロ企業に対する資金調達環境の整備がマイクロ企業拡張の拡大にとって不可決であることに合意した。また、我々は、マイクロ及び小規模ビジネス・企業家の資本に対するアクセスを確保するために市場原理に基づいた資金調達手段を開発し、促進するという努力を評価する。我々は、健全で、持続可能なマイクロ企業に対する資金調達の手段を成長と拡大及び、それら国内金融システムへの段階的且つ完全な統合を助長することを可能にするような政策環境及び法律的、規制的な枠組みを構築するように、政府が行動すべきことで合意した。

・我々は、健康への投資が、経済成長、労働者のパフォーマンスと生産性、及び貧困の緩和に資することを認識した。我々は、疾患の危険に対する初期予防を含め、最も脆弱な人口に焦点を当て、健康管理プロセスの全ての段階においてより効率的な投資を行う必要がある。

・我々は、閣僚に対し、域内での深刻な疾患の発生及びバイオ・テロのような重大な脅威を監視し、対応するための地域公衆衛生調査ネットワーク及び早期警戒システムを構築するという現在進行中の作業を進展させるように指示した。

・我々は、閣僚に対して、開発途上エコノミーが、彼ら自身の自立的なヘルスケア・サービス認定制度を設立するためのキャパシティの構築を支援するように指示した。

・我々は、域内の生命科学イノベーションの戦略計画を進めるための政府、民間部門及び学会の代表者から成る生命科学イノベーション・フォーラムの設立を求めた。これには、域内の人々を悩ます伝染性で生活様式からもたらされる疾患のリスクの探知と予防、手当てと治療が最優先事項として含まれなければならない。

 我々は、確かな科学に基づいたバイオテクノロジー製品の安全な使用を加速することを誓約し、第1回農業バイオテクノロジー政策対話の終結を歓迎した。我々は、我々の目標を支援するキャパシティ・ビルディング活動を要請した。

 我々は、健康的な環境及び我々の市民の生活の質に対し関心を向けることが持続可能な経済成長にとって不可欠であることを認識した。この点に関して、我々は、APECエネルギー大臣、海洋関連担大臣及びその他のAPECフォーラムの、持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)に対する貢献を歓迎した。我々は、WSSDに対し、価値ある貢献及びフォロー・アップ作業を継続することで合意した。我々は、21世紀再生可能エネルギー開発イニシアティブの下での進捗を賞賛し、食糧安全保障及び持続可能な経済開発のための海洋の重要性に留意した。

我々のコミュニティーとの連携

 我々は、我々のコミュニティー、特に、実業界の人々、女性及び青年との有意義な対話への参加の努力について議論した。我々はまた、APECの活動に、より大きなコミュニティーを巻き込む必要について議論した。

・我々は、我々のコミュニティーへの真正な関与を更に奨励するために、非メンバーの参加に関するAPECガイドラインの改訂における閣僚の作業を歓迎し、閣僚に対して、APECのフォーラムが外部の組織との連携・協力において積極的であることを確保することによりガイドラインを実施するように指示した。

・我々は、「発展の共有と地域規模でのセキュリティ強化」に関するABACの報告を歓迎した。我々は、APECの議題に対するABACの貢献を高く評価し、閣僚に対し報告を注意深く考慮するように指示してきた。我々は、APECがテロリズム対策、企業統治、マイクロ企業の発展促進及びWTOドーハ開発アジェンダの支援等の分野で、ABACにより提起された多くのイニシアティブを既に進めていることに留意した。

・我々は、ジェンダーの問題に関するAPECの作業を支持し、第2回女性問題担当大臣会合の勧告を歓迎した。我々は、社会・経済生活における男女間の不平等をなくす必要性、特に経済において女性が果たす多様な役割の価値を認識した。我々はまた、グローバル化が先住民女性を含む女性に与える特有の問題を認識した。

・我々は、若い企業家がニュー・エコノミーによって得られる機会について議論する貴重な場を提供した「社会的責任を持つAPEC青年指導者・企業家フォーラム」の成果を歓迎した。

・我々は、自主性、コンセンサスの形成、個別及び共同行動、柔軟性、開かれた地域主義といったAPECの基本原則に対する我々の信頼を再確認した。