データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC大阪会合における内外記者会見での村山内閣総理大臣の冒頭発言

[場所] 大阪
[年月日] 1995年11月19日
[出典] 村山演説集,216ー218頁.
[備考] 
[全文]

 APEC大阪会合は,APECを「ビジョン」の段階から「行動」の段階に移行させたという意味で,歴史的な意味をもった会合であったと思います。

 我々首脳は,「アジア太平洋地域の豊かな未来の実現のための行動」という大きなテーマの下,長期的観点に立って幅広い議論を行い,「行動のための首脳宣言」を発出しました。これにより,APECの将来に向けての問題意識を首脳レベルで共有することができたと思います。

 我が国は,経済発展段階や国情の大きく異なる各メンバーの多様な意見を良く聞き,議論を尽くした上で,とりまとめていくのが日本のりーダーシップであるという考え方で行動しましたが,これは,他のメンバーから,高く評価していただきました。

 我々が採択した「行動指針」は,ボゴールで設定された政治的目標に向けての包括的かつ具体的な道筋を示すものとして,我々が世界に対し自信を持って示すものであります。我が国としても,確固たる決意をもって,「行動指針」を実施してまいります。

 会議では,多くの首脳が,自主的な自由化,経済改革等の自らの経験について発言されました。「行動指針」は,この地域に既に存在するこれらの自主的自由化への志向に基礎をおき,各メンバーの自主的行動と共同行動を組み合わせるという,「アジア太平洋方式」を提示するものであります。この方式は,各メンバーの継続的努力と緊密な協議を必要とするものでありますが,私はこの多様な地域で自由化を進めるための実際的で効果的な方法は,これしかないと考えます。

 また,「行動指針」の柱の一つとして,自由化・円滑化と並び,経済・技術協力の重要性を強調する発言もありました。私からは,これらの三本柱をバランス良く,実施していくことが重要である旨発言いたしました。

 また,今次会合では,各首脳がAPECの自由化に真剣に取り組む決意を内外に示すため,具体的な自由化措置を「当初の措置」として提示しましたが,これは自主的なコミットメントを基本とする今後のAPECでの自由化の信頼性を高めることに,大きく貢献するものであると考えます。我が国の当初の措置については,他のメンバーから,実質的で広範なものとして,高い評価を得ております。

 APECメンバーの自由化・円滑化支援に関連して,私は,我が国が提唱した経済・技術協力の枠組みである「前進のためのパートナー」が活用されることに対する期待を述べました。さらに,この仕組みも含めて,貿易・投資の自由化・円滑化に関連する協力事業を拡大するべく,APEC中央基金に,必要に応じ,適切な案件の形成を受ける形で,今後数年間で合計百億円を上限に拠出することを表明し,歓迎されました。あわせて,他のAPECメンバーにおいても,同様の観点から,積極的協力がなされることを期待する旨述べました。

 APECが,更なる発展を確保するためには,従来,十分扱われてこなかった課題についても,取り組んでいく必要があることが指摘されました。

 この関連で,私からは,特に,この地域の急速な経済成長が,人口増加と相まって,食料,エネルギーの需要を急増させ,環境に与える負担を高める可能性について指摘し,APECが今後これらの問題に適切に取り組む必要があることを提案し,他のメンバーの賛同を得ました。

 なお,本日の会議の中で,力ナダ,ニュージーランド等より,来年のシンガポールでのWTO閣僚会合の前,来年の年央に貿易担当大臣会合を開催することにつき提案があり,米国等いく人かの首脳も賛同されました。具体的な貿易担当大臣会合の開催時期及び態様等については,来年の秋にフィリピンにおいて,APEC閣僚会合及び非公式首脳会合が開催されることも念頭に置きつつ,今後,事務レベルで検討させることとしました。

 非公式首脳会議の意義に鑑み,明年,フィリピンにおいて,第四回目の非公式首脳会議を開催することが合意されました。

 最後に,今般の大阪会合の成功のため,多大な御協力をいただいた地元の皆様に対し,心より,御礼申し上げたいと思います。