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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第4回APEC閣僚会議共同声明

[場所] バンコック
[年月日] 1992年9月10日ー11日
[出典] 外交青書36号,459ー466頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1. 第4回アジア・太平洋経済協力(APEC)閣僚会議は1992年9月10〜11日バンコックにおいて開催された。豪州,ブルネイ・ダルサラーム,カナダ,中華人民共和国,香港,インドネシア,日本,韓国,マレイシア,ニュー・ジーランド,フィリピン,シンガポール,チャイニーズ・タイペイ,タイ及び米国の閣僚がAPECのプロセスについて引き続き議論するために同会合に出席した。ASEAN中央事務局,太平洋経済協力会議(PECC),南太平洋フォーラム,(SPF)がオブザーバーとして出席した。閣僚及びオブザーバーの全員のリストは別添1(省略)の通りである。

2. 本会議は,タイのアーサー・サラシン外務大臣及びアマレート・シラオン商務大臣が共同で議長を務めた。

3. 閣僚は,アナン・パンヤラチュン・タイ国首相閣下が以下を強調した基調演説をしたことを感謝した。

ーAPECは,世界情勢をとりまく急速な変化と不確実性にもかかわらず,増長しつつある保護主義に対する強い防御を築きつつ,地域の成長と繁栄を促進させる上で枢要な役割を果たす態勢があること,

ーAPECは,APECがその上に協力を築くことができるような均衡のとれた結果をウルグァイ・ラウンドにて達成することを奨励すること,

ー独特の形で多様性及び開放性を有する協議の場としてのAPECは,経済その他の分野における広範な分野で,未だに開拓されていない多大なる可能性を有していること,

ーAPECがアジア・太平洋地域における主要なサブ・リージョナルな自由貿易地域間の有り得べき架け橋としての可能性が注意深く探究されねばならないこと,及び,

ー相互に補完的なサブ・リージョナルな経済機構の密接に入り組んだネットワークの一つとしてのAPECは,地域経済協力にみならず,メンバーたる諸経済それぞれにおける均衡のとれた発展を促進し得る開かれた,進化しつつある過程であること。

4. 閣僚は,以下を含む諸点につき議論を行った。

A. 地域経済の動向及び諸問題

B. ウルグァイ・ラウンドとこの地域における貿易自由化

C. APECワーク・プログラム

D. APECの将来のステップ

E. 将来の参加

地域経済の動向及び諸問題

5. 閣僚は,1992年8月10日〜11日,東京でカナダ,日本及び韓国が共同で議長を務めた経済動向及び諸問題に関するアド・ホックグループ会合のレポートを検討した。右会合は,「APEC地域の2000年のヴィジョンと課題」と題する地域の経済的繋がりに関する日本の調査と「APEC地域の最近の経済動向と見通し」と題する地域経済の展望及び動向に関する韓国のレポートにつき討議を行った。

6. 閣僚は,これらの研究がアジア・太平洋地域の中の主要な経済フロー及び進化しつつある相互依存性を数量化することに資する独創的かつ画期的な研究をAPECに提供したことに留意した。右相互依存性,就中,太平洋の両側の間の相互依存性は,商品貿易,サービス貿易,直接投資及び人的交流の分野で明瞭である。この地域における,相互依存性及び構造変化を促進している重要な要素として,開放的な経済政策及び堅実な経済運営との連携,グローバリゼーションのプロセス及び多国籍企業の役割がある。

7. 閣僚は,APEC地域の展望として持続的かつ力強い経済成長があるとの見方を有し,地域の経済ダイナミズムを維持する上で多角的貿易体制の強化及び太平洋横断貿易の拡大の推進の重要性に留意した。

8. 閣僚は,APECメンバー間の主要な経済統計の定期的な回付に関する手配を検討するとの豪州の提案を歓迎し,高級実務者に本件提案を更に検討するよう指示した。

9. 閣僚は,経済の動向及び諸問題に関する対話がAPECの作業の中心的な要素をなすことに留意した。閣僚は,第2回アド・ホックグループ会合の成功へのそれぞれの貢献に対し,日本及び韓国に謝意を表明し,高級実務者にアド・ホックグループの次のステップ,特に,経済の動向及び諸問題に関する対話が如何に将来の閣僚間の対話に貢献し,APEC諸ワーク・プロジェクト及び他の活動にとりより広い背景を提供するための方法につき検討するよう指示した。

10.この目的のため,閣僚は,高級実務者に対し,1993年の閣僚会議で使用するため,地域の諸経済の短期から中期の経済展望のレヴューの準備及び高級実務者がその次回の会合において,決定する優先的問題分野の検討を確実に行うよう指示した。取り上げられうる問題を検討するに際し,高級実務者は,開放的な経済政策及び貿易,成長及び発展のための投資及び技術の流れ,構造変化,人材養成,域内の所得格差の減少,及び地域統合の進展の持つインプリケーションを含む東京のアドホックグループ会合のレポートが明らかにしている諸問題に依拠することができる。

ウルグァイ・ラウンド

11.ウルグァイ・ラウンドの成功を達成する決定的な重要性を認識し,閣僚は別添2(省略)として添付したURに関する別途のAPEC宣言を発出した。

地域の貿易自由化

12.閣僚は,高級実務者により合意された地域の貿易自由化に関する非公式グループの報告を検討し,エンドースした。閣僚は,グローバリゼーションの過程及び北米自由貿易協定(NAFTA)やASEAN自由貿易地域(AFTA)といったサブ・リージョナルな貿易取極を含め,地域に関連した貿易政策問題との関係において,合意を築き,情報を分かち合う手段として,APECの貿易政策対話の重要性に留意した。閣僚は,APECの諸経済は投資リンケージ並びに地域的及びサブ・リージョナルな貿易取極が外向的でガットと整合し,より広い貿易自由化のプロセスを支援するよう奨励すべきであり,また,かかる問題に関する活発な対話が引き続き行われるべきであるとした非公式グループの見解をエンドースした。閣僚は,ウルグァイ・ラウンドの見通しがより明瞭になった際に貿易政策を担当する閣僚間の会合を召集する意図を再確認した。

13.閣僚は,「地域の貿易自由化へのアプローチに関する選択を確認し,勧告を行う」とのソウル閣僚会合よりのマンデートを進展させるべく非公式グループによって明確化された現実的な方策について討議した。閣僚は,非公式グループに対し,表面化しつつある貿易諸問題の将来を考え,要請し,より長期の措置及びより短期の行動計画双方わ追求すべきとの見解をエンドースした。

14.地域貿易自由化を次の10年間にかけて進めるために,閣僚は,2000年に向けてのアジア・太平洋における貿易に対する展望を明言し,APECによって検討されるべき制約と問題を明らかにし,1993年に米国で開かれる次回閣僚会合に最初の報告をするねために小規模な賢人グループを設立するべきことにつき合意した。閣僚は,報告中に述べられている賢人グループの構成及び指示委任事項に関する提案をエンドースした。

15.より近い時期において,閣僚は,非公式グループにより勧告された4つの提案の実施が作業に有意義な成果をもたらすものであることにつき一致した。閣僚は,高級実務者に対し,以下の4提案を実行するよう指示した。

(1) よりよい情報の流れを通じて地域貿易を容易にするためにAPECメンバーの関税に関する電算データ・ベースを,フィージビリティー・スタディーの結果に従って確立する。

(2) 地域の関税協力理事会(CCC)の活動を考慮しつつ,税関の手続きと慣行を調和させ,容易ならしめるために計画された現在の地域的活動を調査し,かつ,その作業を促進乃至補完するためにAPEC内で取り得る追加的な手段を勧告する。

(3) 市場アクセスの行政的側面を明確化,また討議し,これら措置の障壁とコストを減らし,継続的に右をレヴューするための過程に関する提言を含む報告を第5回APEC閣僚会議に提出する。

(4) APECメンバーを調査し,可能であれば1993年に閣僚に提出すべき投資規則手続きに関する詳細なガイドブックを,将来における電算化によるガイドブックの継続的な保持とアップデートの可能性を有する形で準備する。

16.閣僚は,これら方策の実施が地域貿易化に関する更なる作業に対し確固たる基礎を与えること,及び貿易自由化と貿易政策問題が来年の米国における第5回APEC閣僚会議の中心的な討議事項をなかべきことにつき合意した。

APECワーク・プログラム

17.閣僚は,APECワーク・プログラムに関する総合報告書をレヴューし,多くのワーキング・グループが実体的に進捗を成しており,かつ明瞭な利益を本地域にもたらしていることにつき,満足の意をもって留意した。

18.閣僚は,ワーク・プロジェクトの可能性を最大限に引き出すべくそれを更に発展させるため,関係実務者が調整のとれた努力を強化すべきことに合意し,次の諸点に留意した。

a. 貿易投資データのレヴュー

 サービス貿易のデータ及び投資フローのデータに関するインベントリーの作成作業が継続されている。更に,APEC諸経済間でほぼ対照可能な商品貿易のデータを得るための努力が行われる。

b. 貿易促進:協力のためのプログラムとメカニズム

 各参加のメンバーのコンピュータ・システムにつなぎ,貿易,産業及び経営の情報交換を可能とするAPECの電子情報ネットワークが機能している。1994年に日本で第1回アジア太平洋国際貿易フェアを開催すべく準備が進められている。

c. アジア・太平洋地域における投資・技術移転の拡大

 アジア・太平洋投資・技術情報ネットワークの創設に関する種々の選択肢が専門家会合により議論される。日本は,APECの全参加メンバーの協力の下,「工業団地開発ハンドブック」を編纂する。

d. アジア・太平洋多国間人材養成構想(HRD)

人材養成ネットワークの多くの有益な活動が経済開発管理,経営管理及び産業技術に関して実施されている。米国・APECパートナーシップ,日本・APECパートナーシップ,太平洋経済協力会議(PECC)による人材需給見通し及び豪州によるアジア・太平洋地域における大学間交流計画等,教育と訓練に関する他の活動も実施されてきている。APEC教育大臣会議がワシントンD.C.で1992年8月に開催され,教育に関連する問題を議論するため,APEC教育フォーラムを創設するとの提案がエンドースされた。

e. 域内エネルギー協力

エネルギー政策問題の議論をより容易にするAPECのエネルギー・データベース及びデータベースからの情報のためのフォーマットが開発されており,1993年3月には使用可能となる。クリーン石炭技術の利用についての勧告が作成されており,1992年11月以前に全参加メンバーに対し配布される。APECのメンバーにおけるエネルギー効率化の手法に関する概要が,1992年10月までに配布される。天然ガス利用車の技術についての情報を共有するためのネットワーク,光電池他の太陽エネルギー技術についての情報を共有するための情報交換のプログラム及び地域の再生可能なエネルギーのプログラムの作成が策定されている。

f. 海洋資源保全:APEC地域における海洋汚染問題

赤潮/貝毒問題に関する実際的な行動のために提言が作成された。詳細な計画案及び(1)情報交換(2)人材養成(3)技術交流に関連するプロジェクトの経費見積りを作成するために作業チームを設立することが提案された。報告書は,1993年央に予想される次のワーキング・グループ会合の前に,完成することとなっているが,その時期には提案の評価がなされ,プログラムの運営は既に始まっている。参加者は取り上げられる追加的な議題,特に陸上に起因する汚染に関連した議題に関する提案を提出するよう要請された。

g. 電気通信

香港とチャイニーズ・タイペイの電気通信環境データを含んだ補充版,「電気通信機関内における人材養成の取り組み方法」に関するガイドラインを提示する訓練手引き,及び「テレポート実現に向けて解決すべき課題」に関する報告が出版された。幾つかの電子データ交換(EDI)のパイロット・プロジェクトが地域におけるEDI利用に対する一般の認知を広げるために実施されている。

h. 漁業

進行中のワーク・プログラムとしては管理措置に関する国際的な協力な必要とする種に関する調査,漁業資源に関する情報,既存の管理措置及び科学的な支援措置を組み合わせた概観ペーパー,APEC参加者間における漁獲後の技術の移転のための既存施設・機会の明細,更に,APEC地域より発生する海産物の世界及び国内における市場に関する定期的な動向・予測の編集である。

i. 運輸

短期の活動,即ち,運輸ボトルネック,既存データ,運輸のシステム及びサービス,及び他の国際的な機関における関連作業に関する調査が行われてきている。地域の運輸に対する中期的な展望を概説する文書の大要も準備されている。

j. 観光

観光と航空との相互関係の調査及び観光のワーキング・グループと他の国際組織との関係,観光環境に関する研究,データ集計と統計報告の改善,観光への障壁の明確化,観光訓練の改善及び,現在の観光プロジェクトに関する目録の編集を含む特定の作業計画が作成されつつある。

19.閣僚は,3つの新しいメンバー,即ち中華人民共和国,香港,及びチャイニーズ・タイペイがAPECワーク・プログラムに対し行った積極的貢献を歓迎した。閣僚は,特に,中国が1993年5月に上海での中小企業輸出拡大促進セミナー,1994年にアジア・太平洋貿易促進セミナーを,そしてAPEC貿易促進訓練コースを開催することを申し出たこと,香港が「電気通信インフラの状況及びAPEC諸経済の規制環境」に関する研究の補遺を出版するため資金面の貢献を行ったこと,また,協力を通ずる中小企業の発展促進に関するチャイニーズ・タイペイのプロジェクト提案が貿易促進ワーク・プロジェクトに編入され,電気通信及び漁業に関するワーキング・グループにより検討されたことに留意した。

20.閣僚は,ワーク・プログラムの一般的な問題に留意し,総合報告書の中に含まれた政策の提言に留意した。10のワーク・プロジェクトの一層の進展を図るため,閣僚は高級実務者に対し,如何にワーキング・グループ活動を調整し,重複を避け,補完性を明確にするかに関し,ワーキング・グループにガイダンスを与えるように指示した。

21.閣僚は,ソウル宣言に述べられているAPECの目的に関しワーキング・グループの焦点を改善するために,高級実務者がワーキング・グループの全体的な調整及び管理につき積極的な役割を果たすように指示した。

22.閣僚は,APECが開かれたプロセスにあることを再確認した。セミナー,シンポジウム及びワーク・ショップを含めたAPECのワーク・プロジェクト へのアジア・太平洋の非メンバーからの参加は非メンバーと同様メンバーにとっても有益たりうるものである。

APECの将来のステップ

23.閣僚は,ソウルでの閣僚共同声明に規定されている通り「APECの将来におけるステップ」と題されたタイ事務局作業ペーパーに基づく本件に関する掘り下げた研究を高級実務者が実施することを多とする旨表明した。閣僚は,地域の経済協力を促進する上で,機構化により,一層APECの役割を強化し,その効率性を高め得る段階にAPECが到達したことを認識した。徹底的な検討の後,閣僚は,APECが効果的な支持機構(サポート・メカニズム)としての事務局を,また,APEC活動実施のための経費を支弁するAPEC基金を設立することが時宜を得かつ適切とする高級実務者の提言に合意した。この関連で,閣僚は,APECの将来におけるステップに関する総合報告書をエンドースし,別添3(省略)のAPECの機構的取り極めに関するバンコック宣言を採択した。

24.閣僚は,APEC事務局がシンガポールに置かれることをに合意した。

25.閣僚は,APECの管理・運営費用を賄うため,APECメンバーが,決められた比率に従い,APEC基金に毎年拠出することに合意した。閣僚は,各々の活動のためにAPEC基金を使用するためにはコンセンサスが必要であるとの意見であり,高級実務者に対し,APEC基金の割当てに関するガイドラインの詳細を可及的速やかに策定することを委任した。閣僚は,ワーク・プロジェクトのシェパードと他のグループの議長に対して次回の高級事務レベル会合に先立ち会合を持ち,詳細な予算案を編成するよう指示した。高級事務レベル会合は閣僚の承認のため,2百万米ドルを上限とする1993年会計年度のための詳細の予算案を準備すべきである。

26.閣僚は,APECプロセスへの民間セクターの参加問題を討議した。閣僚は,ワーク・プログラムの現実的妥当性を高める上での民間部門の役割の重要性を再認識し,貿易促進や電気通信等のワーク・プロジェクトにおける積極的な貢献に謝意を表明した。閣僚はワーク・プロジェクトが民間部門の技術的専門性と資金力から利益を受けるため,民間部民による直接的な関与を更に慫慂することの必要性を強調した。閣僚は,高級実務者に対し,民間部門をAPECワーク・プロジェクトにより十全に関与させる方法を明確にし,1993年の第5回閣僚会議に報告することを委任した。

将来の参加

27.閣僚は,幾つかの国々と組織がAPECプロセスに何らかの資格で参加することにつき引き続き表明している関心に留意した。閣僚は,APECが開かれたかつ進展するプロセスであることを再確認し,ソウルAPEC宣言に規定された参加基準,即ち,参加に関する決定はその時点の全ての参加者のコンセンサスに基づきなされること,

また,APECへの参加は

(A) アジア・太平洋地域に強固な経済的結びつきを有し,そして,

(B) ソウルAPEC宣言に具現化されたAPECの目的と原則を受け入れるアジア・太平洋地域の経済に対し原則として開かれていることを想起した。

28.閣僚は,また,APECがその強化と有効性を主たる関心事項とすべき段階に入っており,そして,更なる参加に関する決定については,APECの現在及び将来の参加者双方に対する利益に関し注意深い検討を要するとの見解も表明した。

29.統合された北米経済の現実が出現しつつあること,及び,北米経済とアジア・太平洋地域の残りの地域との増大しつつある経済的連繋に留意し,閣僚は,高級実務者に対し,メキシコのAPEC参加問題を検討し,米国での第5回閣僚会議に対しその検討結果を報告するよう要請した。閣僚はまた,高級実務者に対し,他によるとAPEC参加というより広い問題をレヴューするよう要請した。

今後のAPEC閣僚会議開催場所

30.第5回閣僚会議は,1993年に米国で開催される。第6回閣僚会議は1994年にインドネシアで開催される。また,閣僚は,日本,フィリピン及びカナダが1995年,1996年,1997年に開かれる第7回,第8回,第9回の閣僚会議をそれぞれの国で開催するとの申し出を歓迎した。

その他の事項

31.閣僚とその代表団は,タイ王国政府及び国民が彼らを温かく盛大に歓迎し,また,会議のための素晴らしい施設を提供し,種々の配慮を行ったことに深甚なる謝意を表明した。