イスラーム・ジェンダー学の構築のための
基礎的総合的研究

国際ワークショップ「2011年以降の中東における法と平等:ジェンダーの視点から」/ International Workshop "Law and equality in the Middle East from a gender perspective: a post-2011 view"

プログラム/ Program:

14:00-14:10開会の言葉(長沢栄治)/ Opening Remarks (Eiji Nagasawa)
14:10-14:15講演者紹介(大河原知樹)/ Introduction (Tomoki Okawara)
14:15-15:15講演(シブリー・マッラート)/ Lecture(Chibli Mallat)
15:15-15:35休憩/ Coffee Break
15:35-15:45コメント(大野聖良)/ Comment(Sera Ohno)
15:45-16:25ディスカッション/ Discussion
16:25-16:30閉会の言葉/ Closing Remarks
16:30-17:00交流会/ Networking

講演者紹介/ About the Lecturer

Chibli Mallat is an international lawyer and a law professor. He held the EU Jean Monnet Chair of Law at Saint Joseph's University in Lebanon from 2001 to 2017, and has taught in the US at Princeton University, Yale and Harvard law schools, the University of Virginia Law School, in Europe at London University's School of Oriental and African Studies, the Ecole des Hautes Etudes in Paris, the University of Lyon, and in Lebanon at Saint Joseph's University, the Islamic University, and the University of Utah. Since 2016, Mallat has resided in Beirut, where he is the principal of Mallat Law Offices.

討論者紹介/ About the Discussant

大野聖良氏
専攻:ジェンダー研究(法政策、国際移動論)
日本の人身取引問題や外国籍女性の人権問題について研究。現在の関心は、日本の入管政策とジェンダー。
Sera Ohno
Major: Gender Studies (Legal policy, International migration theory)
She has been working on the human trafficking issue and human rights issue of foreign nationals in Japan. Her current interest is on the Japanese immigration policy and gender.

主催:科研基盤研究(A)イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的・総合的研究(代表:東京大学・長沢栄治)
共催:科研基盤研究(B) 債権法を用いた「現代中東法」のモデル化とその比較法的考察(代表:東北大学・大河原知樹)
東京大学東洋文化研究所班研究「中東の社会変容と思想運動」(代表:長沢栄治)
後援:江草基金


開催報告

 本ワークショップは、シブリー・マッラート氏(米ユタ大学法学部教授, 在レバノン・マッラート法律事務所所長)の来日にあたり、科研基盤研究(A)イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的・総合的研究(代表:東京大学・長沢栄治)の主催により、科研基盤研究(B)債権法を用いた「現代中東法」のモデル化とその比較法的考察(代表:東北大学・大河原知樹)、東京大学東洋文化研究所班研究「中東の社会変容と思想運動」(代表:長沢栄治)の共催、および江草基金の後援を得て、2017年11月3日、東京大学東洋文化研究所大会議室にて開催された。

 鳥山純子氏(日本学術振興会特別研究員PD)の司会のもと、「イスラーム・ジェンダー学」科研代表の長沢栄治氏が、開会の辞を述べた。

 つづいて、大河原知樹氏(東北大学)より、講演者シブリー・マッラート氏について紹介された。マッラート氏は、イスラーム法理論や中東諸国の法律を専門とする研究者として、The Renewal of Islamic Law: Muhammad Baqer as-Sadr, Najaf and the Shi'i International(2004), Introduction to Middle Eastern Law(2007)などの著作で知られると同時に、国際弁護士、そして人権擁護活動家として活躍されている。

 

 マッラート氏の講演は、Law and equality in the Middle East from a gender perspective: a post-2011 viewというタイトルで行われ、2011年革命以降の女性たちが置かれている私的領域と公的領域の改革について、①中東諸国の家族法におけるジェンダー平等をめざした法改正の動向、②サウジアラビアの法的実践、③公的領域における女性と「非暴力」という3つの点からの議論が展開された。

 はじめに、中東諸国の家族法について、20世紀に女性の地位を引き上げる形で整備されてきた家族法を概観し、2011年以降は改正をめぐる状況がそれほど進展していないことを指摘した。マッラート氏は、その理由として、革命後の性急なイスラーム化の動きや、宗派主義の拡大による弊害などを挙げた。しかしながら、法の実践におけるジェンダー平等実現の可能性を示す例として、サウジアラビアの事例が参考になることを述べた。

 そこでつづいて、サウジアラビアの法廷における二つの判例が紹介された。一つは、夫による妻に対する暴力について、妻へ賠償金と夫のへのタアズィール刑による鞭打ちが判決された案件である。従来、クルアーンの章句を根拠として、夫による妻への暴力が容認されることも少なくなかったムスリム社会において、法典ではなく法の実践においてジェンダー平等が実現しうる例である。もう一つは、相続における男女の不平等を、生前のワクフ設定により解消した例である。

 最後に、2011年の後に顕著となった公的領域における女性の動向について、「非暴力」と「暴力」の視点から考察が行われた。2011年の革命において、女性たちは公の場に出て「非暴力」でその要求を声に出した。ところが、その反動として、女性たちは「暴力」による攻撃を受けることになったという。イラン、シリア、リビア、バハレーン、エジプトなどの各地で女性をターゲットとした様々な「暴力」が起こっている。

 マッラート氏は、1時間を超える講演を、「ジェンダー平等への闘いはとても長い。人類の歴史における「暴力」から「非暴力」への道のりと同じくらい長いのである。」という言葉で結んだ。

 つづいて、コメンテーターの大野聖良氏(日本学術振興会特別研究員PD)が登壇した。法政治や国際移動の分野でのジェンダー研究を専門とする大野氏からは、マッラート氏の講演に対する講評・質問のほか、日本における女性の政治参加・社会進出とミソジニー(女性嫌悪)や、滞日外国籍女性の人権など、日本社会のジェンダー(不)平等についての興味深い問題提起がなされた。大野氏は、私的領域と公的領域の連続性の中で女性の生を捉えることの意義や、中東において「女性」というカテゴリーから排除されうる者(性的マイノリティ等)の存在、中東における「ジェンダー平等」とは何か、などの重要な問いを投げかけた。

 30名を超える参加者の中からも質問が相次ぎ、中東・イスラーム研究の枠を超えた貴重な議論が展開された。本ワークショップでは、マッラート氏による中東の現在への鋭い洞察に直接触れることができただけでなく、日本におけるジェンダー平等をいかに捉えるか、という重要な問題について考える貴重な機会をもつことができた。

(小野仁美・立教大学 非常勤講師)