イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究

日本学術振興会科学研究費 基盤研究(A) 
研究代表者:長澤榮治  

2016年10月の活動報告

公募研究会「開発とトランスナショナルな社会運動」の第1回研究会を開催しました

プログラム

  • 日時:2016年10月22日(土) 14:00 - 17:30
  • 会場:桜美林大学・四谷(千駄ヶ谷)キャンパス
  • タイムテーブル
14:00-14:15挨拶と研究会の趣意説明 鷹木恵子(桜美林大学・人文学系)
14:15-15:15 研究報告1 トルコの市民社会運動における女性の役割と課題 - ギュレン運動を一例に-
報告者: 幸加木文 (千葉大学法政経学部特任研究員)
要 旨: 2016年7月15日夜に発生し、その直後に鎮圧されたトルコのクーデタ未遂事件において、トルコ政府に首謀者と名指しされたのがギュレン運動という市民社会運動であった。国際的な耳目を集めながらも実態が十分には知られていないギュレン運動について、特に女性たちの活動に着目しながら、運動における女性の役割や課題を検討してゆきたい。具体的には「アブラ(姉)」と呼ばれるまとめ役の働きや、男性優位と言われるギュレン運動内での女性の位置付けに関する問題点等を解明したい。
15:15-15:30休憩
15:30-16:30研究報告2 パレスチナの女性たちによる社会運動
報告者: 小林和香子(日本ユニセフ協会)
要 旨: パレスチナは、長い間、紛争・占領下にある。その中で女性たちは、社会が掲げてきた民族解放運動・イスラエルの占領に対する抵抗運動やイスラム原理主義の台頭にも多大な影響を受けてきた。そのような状況の中で、女性たちが果たしてきた役割、あるいは期待されてきた役割を検証するとともに、平和的社会の構築に向けて女性たちが国際社会とも連動しながら取組んできた活動について、現地での開発支援・調査の経験をもとに報告する。

開催報告

 趣意説明として、研究会代表の鷹木から、ジェンダーとは社会・文化的な性別を問う概念であるばかりでなく、性差間の権力関係、不平等、不公正をも問う実践的概念でもあるとすれば、現状を変革しようとする広義の「開発」と関わるものであり、本研究会ではその一つの位相として、社会運動を対象として検討していくことが説明された。また女性運動やフェミニズム運動だけではなく、広く社会公正運動や宗教間対話運動、平和構築運動なども対象とし、現代における特にそのトランスナショナルな動態に注目していくことも説明された。

 続いて、幸加木文氏が「トルコの市民社会運動における女性の役割 ― ギュレン運動を一例に―」と題して研究報告を行った。はじめに、2016年7月15日夜に発生し、その直後に鎮圧されたトルコのクーデタ未遂事件の概要とその後の影響について概括した。そして、この事件の首謀者としてトルコ政府に名指しされたギュレン運動というトルコの宗教的な市民社会運動と、その精神的指導者とされるフェトゥッラー・ギュレンという人物の特徴を列挙しながら、その変容を指摘した。そのうえで、特に運動の女性たちの活動に着目し、「ヒンメット」と呼ばれる資金集めや勉強会、メンバー内の結婚の斡旋等の諸活動と、そこで果たされる「アブラ(姉)」と呼ばれる女性責任者の役割を論じた。一方で、運動の政治的志向や「非民主的」手法による金銭の徴収、強制などの慣行が指摘されるなど、運動に向けられる種々の批判や課題についても指摘した。

  出席者の方々からは、ギュレンおよび運動の変容時期やトルコの政教関係についての質質疑があった。また今後の研究上の課題として、現在進行するクーデタ失敗後に逮捕された運動メンバーの証言を分析することにより、これまで明らかになっていなかったギュレン運動の内部構造の解明を期待できるというコメントなどがあった。

  もう一つの研究報告は、小林和香子氏による「パレスチナの女性たちによる社会運動」と題するものであった。現在も紛争・占領下にあるパレスチナの女性たちが行ってきた社会運動はその時代の政治状況と彼女たちの社会での立場に伴い抵抗運動・解放運動・平和構築運動などと変化を遂げてきた。本報告では、女性運動が開始した20世紀初頭から今日までを6つの期間に分け、その特徴と変化を分析した。(1)女性による抵抗運動が始まった委任統治時代(1923~1948年)、(2)ナクバ後(1948年~1967年)の民族解放運動、(3)イスラエル占領下に入った1967年以降の女性解放と民族解放の同時実現に向けた運動、(4)女性たちによる抵抗運動が最も活発化したインティファーダ期(1987年~1993年)、(5)「民主化」・「平和構築」運動が目立ったオスロ和平プロセス期(1993年~2000年)、(6)「スムード」と「国際化」を進めているアル・アクサ・インティファーダ(2000年)~現在までに分けて、それぞれ検討がなされた。報告の後、出席者から、運動に参加した女性たちの政治的思想、社会的階層や地域的差異(ガザ、西岸、ディアスポラ)などに関する質問やコメントが寄せられた。出席者は23名で、総合討論では時間が足りないほどの質疑応答や議論がみられた。 (文責:鷹木恵子)