イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究

日本学術振興会科学研究費 基盤研究(A) 
研究代表者:長澤榮治  

開発とトランスナショナルな社会運動

研究会名 開発とトランスナショナルな社会運動
代表者鷹木恵子(桜美林大学) ktakaki◆obirin.ac.jp
◆を半角@に直してご利用ください
研究会の概要ジェンダーとは、社会・文化的な「男性らしさ」「女性らしさ」を問う概念であるばかりでなく、男女の権力関係、不平等、不公正を照射する概念であるとすれば、behaviorとともに、actionにも注目する必要があるだろう。開発は、主体が誰であれ、現状を変革しようとするactionである。この研究会では、「開発と社会公正」という大きな括りの下で、そうしたactionの一つの位相を、トランスナショナルな社会運動から捉えてみたい。女性運動の他に、さまざまな社会公正運動、イスラーム主義運動、宗教間対話運動、平和構築運動など、現代のグローバル化時代における特にそのトランスナショナルな動きの実相に迫っていきたい。
代表者からのメッセージ「開発」は多く分野と関わることから、他の研究会とも連携していければと考えています。市民活動家などのご参加も大歓迎です。

次回の研究会

第5回

  • 日時: 2017年11月11日(土) 13:00 - 17:00
  • 場所:東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室
  • プログラム
13:00~14:00

報告者: 石川真作(東北学院大学)

題 目: 「ドイツにおけるアレヴィーの組織化 ―「トランスナショナルな社会運動」という視点との関連で― 」

要 旨: トルコの少数派ムスリムであるアレヴィーは、本来地域共同体を基盤とし、ある種の信仰形態を持つ人々の 総称であったが、トルコの近代化と都市化にともなって多くの人口が都市に流出し、さらにはヨーロッパへ の労働移民に加わった。その間に一部は左翼運動に加わり、冷戦終結後には組織化を通してマイノリティ集 団として可視化する。そのプロセスを「トランスナショナルな社会運動」という文脈から検証する。

14:00~14:30質疑応答
14:30~14:45コーヒーブレイク
14:45~15:45

報告者: 山岸智子(明治大学)

題 目: 「ムスリマたちのオリンピック――研究ノート」

要 旨: 2016年のリオデジャネイロ・オリンピックに参加したイスラーム教徒(と思しき)女性アスリートの 活躍を振り返りながら、“インターナショナル” な場におけるジェンダーの政治問題化について考察を試み る。女性の身体を露出することをめぐる両極の見解、国籍を移動するアスリート、難民チームなどに焦点 をあて、現況の確認を行う。研究発表というよりも、トピックの存立構造をまずは参加者とともに話しあ う機会としたい。

15:45~16:15質疑応答
16:15~17:00総合討論と今後の活動打ち合わせ

なお資料準備の都合上、出席を希望されます方は、11月9日(木)までに鷹木宛てまでメールにて (ktakaki@obirin.ac.jp、@を半角にしてご利用ください)にてご連絡頂けますと大変助かります。どうかよろしくお願い致します。


これまでの活動

第4回

  • 日時: 2017年6月18日(日) 13:00 - 17:00
  • 場所:東京大学 東洋文化研究所 3階 第一会議室

資料準備の都合上、ご出席希望の方は、6月16日(金)までにktakaki@obirin.ac.jp 宛までメールにてご連絡頂けますと大変助かります。 (@を半角に変えてご利用ください)

13:00-14:00研究報告: 嶺崎寛子(愛知教育大学)
題 目 :「ディアスポラからみた国民国家とグローバル化―アフマディーヤの事例から」

要 旨 : 世界中に数千万人の信者を抱える英領インド発祥のイスラームの少数派、アフマディーヤ。インド・パキスタン分離独立後のパキスタンへの本部移転、パキスタン政府の迫害によるロンドンへの本部移転など、2度の越境を経て、グローバルな宗教共同体として急速に発展している。教団が言語や地域を超えて隆盛を誇る理由を、文化人類学的なフィールド調査に基づいて考える。本発表では教団の概要紹介を行うとともに、3月の現地調査で得た知見などを踏まえ、教団の結婚戦略と信徒女性の国際移動についても論じたい。

14:00-14:30コメント: 石川真作(東北学院大学) + 質疑応答
14:30-14:45休憩
14:45-15:15ミニ研究報告: 志賀恭子(同志社大学大学院博士課程)
題 目 :「アメリカ東海岸トルコ移民社会における女性の役割-ギュレン運動家を中心に」

要 旨 : アメリカ東海岸におけるトルコ出身者の集住地区は、呼び寄せ家族により形成されてきた。昨今、トルコ本国の政治的諸勢力間の分断により、移民の家族内で分裂が起こっている。その状況下、アメリカ東海岸におけるトルコ市民運動のギュレン運動も変容している。発表者は、トルコ移民女性が分裂の解決に向けて鍵を握っていると考える。本発表では、ギュレン運動活動家の女性を中心に追いながら、トルコ移民社会の現状について報告する。

15:15-15:45コメント: 幸加木文(千葉大学) + 質疑応答
15:45-16:00休憩
16:00-16:45質疑応答 + 総合討論
16:45-17:00今年度の研究活動の打ち合わせ

第3回

14:00-15:00報告1 イラン政治の保守化と変容する家族と結婚制度
報告者: 中西久枝(同志社大学)
<要旨>
ハタミ政権下で進展した女性関連立法は女性の家族と結婚に関わる権利を拡大したが、 その後の政治の保守化はイラン女性の権利にいかなる影響を与えたのか、女性の家族 と結婚に関する意識の変化について最近の研究動向を紹介しつつ、今後の研究課題を 整理する。
15:00-15:15休 憩
15:15-16:15報告2 V. Moghadam Globalization and Social Movementsを読む
報告者: 鷹木恵子(桜美林大学)
<要旨>
本研究会を立ち上げるにあたり、参考にしたV.モガッダムの以下の著書について、特に 第5章 Feminism on a World Scale を中心に報告する。またそれとの関連で、女性に関 わる地中海諸国でのトランスナショナルな社会運動の具体的事例を幾つか紹介し、その 意義について考える。
Valentine M. Moghadam, 2013 Globalization and Social Movements: Islamism, Feminism,and the Global Justice Movement (2nd edition). Lanham: Rowman and Littlefield Pub.INC.
16:15-17:30質疑応答と総合討論など
18:00-20:00懇親会
 
  • 開催報告

 最初の報告は、中西久枝氏により「イラン政治の保守化と変容する家族と結婚制度―保守派の台頭と市民社会の「ジェンダー平等」をめぐる言説と社会運動―」と題して行われた。イランは1979年のイラン・イスラーム革命後、家族及び結婚に関する女性の権利が後退し、それを回復する努力が女性NGOや女性活動家たちのネットワークによって展開されてきた。一般には、政治が保守化した時期には女性の権利はより制約がかかると指摘されてきたが、実際には、政治の保守化による女性の権利への抑圧的な立法に対抗して、アフマディネジャド政権期に見られたように、「100万人署名運動」のような社会運動がおこった。この運動は1980年代、1990年代とは異なり、新中間層が中心となり、政治思想や社会階層を超えた広がりを見せた。また、この運動で女性たちが要求したジェンダー平等の精神を貫こうとする各要求項目は、その後法案改正の動きを生み出し、女性の権利の再拡大が一部見られたものの、ジェンダー平等的な社会の設立への希求は運動として地下活動化した。他方、100万人署名運動は、2009年の大統領選挙の不正疑惑に対する数百万人規模の票の数え直し運動(「緑の波」あるいは「緑の運動」)という形で、市民の本質的なレベルでの政治参加を希求する運動として継承された。また、現政権樹立後は、女性の副大統領がグローバルな規範としてのジェンダー平等をSDGsから引き出し、国家目標として推進する新しい動きがある。これは、90年代までのイスラーム法の再解釈から女性の権利を人権として捉えるアプローチとは異なる。また現政権下で復刻した女性雑誌ザナーンは、婚姻関係によらない男女の同棲の実態を描くなど、イランの現代社会が革命以来急速に変化したことを提示することで、イスラーム体制への新たな挑戦を行っている。出席者からは、報告で事例として取り上げられた「白い結婚」(事実婚)や交通事故死の際の保険支払額の男女同額化に関する法案などについて質疑やコメントがあった。

 二番目の報告は、本研究会立ち上げに際して参考にしたV.モガッダムの著書Valentine M. Moghadam, Globalization and Social Movements: Islamism, Feminism,and the Global Justice Movement (2nd edition). 2013, Lanham: Rowman and Littlefield Pub.INC.について、鷹木恵子から「第1章 社会運動と現代政治」「第5章 世界的スケールにおけるフェミニズ」を中心に内容紹介と解説がなされた。まずイラン系アメリカ人社会学者でジェンダー・ポリティックスやジェンダーと開発などを専門とする、現在ノースイースタン大学教授のV.モガッダム氏のプロフィール紹介の後、第1章の内容として、グローバル化と社会運動との関連性を、世界システム論とフェミニズムの視点から分析考察するという本書の理論的枠組みについて解説がなされた。それを踏まえて、本書での三つの事例、イスラミズムとフェミニズムと社会公正運動のうち、第5章のフェミニズム運動について、特に新自由主義経済のグローバル化と関連させて分析考察されている内容が多数の事例と共に紹介された。出席者からは、世界システム論の捉え方では国家単位での検討がなされない点やまたイスラミズム運動のグローバル化とユニヴァーサル化の違いについての有益なコメント、さらに社会運動についての実際の調査研究に伴う諸課題などについての議論がなされた。以上の二つの報告にはイランという点での共通点もあったことから、総合討論では双方に関連する活発な質疑や議論が交わされた。

 

第2回

  • 日時 2017年1月28日(土) 14:30~17:30
  • 場所 東京大学東洋文化研究所 3階 第1会議室
  • タイムテーブル
14:30~14:45挨拶
14:45~15:30発表1 Marta Saldaña "GCC National Identity and Citizenship Policies and their Impact on National Women"
15:30~15:45ブレーク
15:45~16:30発表2 Luciano Zaccara "Comparing Women's Political and Electoral Performance in Iran and the GCC"
16:30~16:45ブレーク
16:45~17:30質疑応答
 
  • 開催報告

 カタルから来訪している二人の研究者を迎えて研究会を開催した。最初に講師二人の簡単な紹介と趣旨説明が司会からあった後、Marta Saldaña氏から、GCC National Identity and Citizenship Policies and their Impact on National Womenと題する講演があった。GCC諸国(湾岸協力会議加盟国)では、ナショナル・アイデンティティの語りと市民権(帰化)の条件が、国家の統治の問題と強く結びついていることが説明されたのち、市民権は市民の権利というよりも、国王/首長から与えられるものとして認識されている傾向が強いことが明らかにされた。そして多くのGCC諸国では、憲法上は男女平等が謳われているが、家父長主義や「アラブの伝統」を強調する姿勢にのために、女性は実態的にはより劣等で依存的な地位に置かれているとした。その例として、GCCの女性と結婚した外国人の夫が法的にGCC諸国に帰化できるのはオマーンだけであること、GCCの女性と外国籍の夫との間に生まれた子供たちには原則としてGCCの市民権は与えられないこと、などが指摘された。またMarta Saldana氏によるアンケート結果から、安全保障への問題意識の高さに比して、ジェンダー平等に問題があると考える回答者はとても少なく、政治指導者や政治参加は男性が中心であるとの認識が強いことも示された。

 コーヒーブレークをはさんだ後、Luciano Zaccara氏より、Comparing Women Political and Electoral Performance in Iran and GCCと題する講演があった。イランとGCC諸国における選挙の歴史、国・地方レベルでの選挙の実施の有無、を一覧した後、イラクにも言及しながら各国の憲法上の選挙権の位置づけやジェンダー平等を確認した。また、全世界をみわたして女性が政治指導者となっている国の数や地域ごとのパーセントを示し、西アジアのみならずアジア全体で女性の政治指導者が非常に少ない現状が明らかにされた。さらにペルシア/アラビア湾を囲む国々で、指名を受けて女性が大臣になった例はあるがその担当は教育・環境・健康など、比較的重要度が低いと思われる分野であること、そしてイランの大統領選における女性候補者数の推移が示された。世界的に見て、国会議員の数に女性の占める割合が高いところは、クオータ制を導入しているところであることを図示したうえで、クオータ制の導入されていないイラン、イラク、GCC諸国では、議会(国政だけでなく地方評議会も含める)において女性がはかばかしいパフォーマンスを行えていないことが結論付けられた。

 質疑応答では、アンケート調査を行った際の現地の状況、GCC諸国特有の女性の労働市場の問題、クオータ制導入の意義、女性が国家の指導者になるかならないかは宗教的というよりも社会的な性格というべきではないか、GCC諸国では集会結社の制限が厳しいために市民社会的な活動が難しい事情、などの論点をめぐって活発な論議が交わされた。

 
 

第1回

  • 日時:2016年10月22日(土) 14:00 - 17:30
  • 会場:桜美林大学・四谷(千駄ヶ谷)キャンパス
  • タイムテーブル
14:00-14:15挨拶と研究会の趣意説明 鷹木恵子(桜美林大学・人文学系)
14:15-15:15 研究報告1 トルコの市民社会運動における女性の役割と課題 - ギュレン運動を一例に-
報告者: 幸加木文 (千葉大学法政経学部特任研究員)
要 旨: 2016年7月15日夜に発生し、その直後に鎮圧されたトルコのクーデタ未遂事件において、トルコ政府に首謀者と名指しされたのがギュレン運動という市民社会運動であった。国際的な耳目を集めながらも実態が十分には知られていないギュレン運動について、特に女性たちの活動に着目しながら、運動における女性の役割や課題を検討してゆきたい。具体的には「アブラ(姉)」と呼ばれるまとめ役の働きや、男性優位と言われるギュレン運動内での女性の位置付けに関する問題点等を解明したい。
15:15-15:30休憩
15:30-16:30研究報告2 パレスチナの女性たちによる社会運動
報告者: 小林和香子(日本ユニセフ協会)
要 旨: パレスチナは、長い間、紛争・占領下にある。その中で女性たちは、社会が掲げてきた民族解放運動・イスラエルの占領に対する抵抗運動やイスラム原理主義の台頭にも多大な影響を受けてきた。そのような状況の中で、女性たちが果たしてきた役割、あるいは期待されてきた役割を検証するとともに、平和的社会の構築に向けて女性たちが国際社会とも連動しながら取組んできた活動について、現地での開発支援・調査の経験をもとに報告する。

  • 開催報告

 趣意説明として、研究会代表の鷹木から、ジェンダーとは社会・文化的な性別を問う概念であるばかりでなく、性差間の権力関係、不平等、不公正をも問う実践的概念でもあるとすれば、現状を変革しようとする広義の「開発」と関わるものであり、本研究会ではその一つの位相として、社会運動を対象として検討していくことが説明された。また女性運動やフェミニズム運動だけではなく、広く社会公正運動や宗教間対話運動、平和構築運動なども対象とし、現代における特にそのトランスナショナルな動態に注目していくことも説明された。

 続いて、幸加木文氏が「トルコの市民社会運動における女性の役割 ― ギュレン運動を一例に―」と題して研究報告を行った。はじめに、2016年7月15日夜に発生し、その直後に鎮圧されたトルコのクーデタ未遂事件の概要とその後の影響について概括した。そして、この事件の首謀者としてトルコ政府に名指しされたギュレン運動というトルコの宗教的な市民社会運動と、その精神的指導者とされるフェトゥッラー・ギュレンという人物の特徴を列挙しながら、その変容を指摘した。そのうえで、特に運動の女性たちの活動に着目し、「ヒンメット」と呼ばれる資金集めや勉強会、メンバー内の結婚の斡旋等の諸活動と、そこで果たされる「アブラ(姉)」と呼ばれる女性責任者の役割を論じた。一方で、運動の政治的志向や「非民主的」手法による金銭の徴収、強制などの慣行が指摘されるなど、運動に向けられる種々の批判や課題についても指摘した。

  出席者の方々からは、ギュレンおよび運動の変容時期やトルコの政教関係についての質質疑があった。また今後の研究上の課題として、現在進行するクーデタ失敗後に逮捕された運動メンバーの証言を分析することにより、これまで明らかになっていなかったギュレン運動の内部構造の解明を期待できるというコメントなどがあった。

  もう一つの研究報告は、小林和香子氏による「パレスチナの女性たちによる社会運動」と題するものであった。現在も紛争・占領下にあるパレスチナの女性たちが行ってきた社会運動はその時代の政治状況と彼女たちの社会での立場に伴い抵抗運動・解放運動・平和構築運動などと変化を遂げてきた。本報告では、女性運動が開始した20世紀初頭から今日までを6つの期間に分け、その特徴と変化を分析した。(1)女性による抵抗運動が始まった委任統治時代(1923~1948年)、(2)ナクバ後(1948年~1967年)の民族解放運動、(3)イスラエル占領下に入った1967年以降の女性解放と民族解放の同時実現に向けた運動、(4)女性たちによる抵抗運動が最も活発化したインティファーダ期(1987年~1993年)、(5)「民主化」・「平和構築」運動が目立ったオスロ和平プロセス期(1993年~2000年)、(6)「スムード」と「国際化」を進めているアル・アクサ・インティファーダ(2000年)~現在までに分けて、それぞれ検討がなされた。報告の後、出席者から、運動に参加した女性たちの政治的思想、社会的階層や地域的差異(ガザ、西岸、ディアスポラ)などに関する質問やコメントが寄せられた。出席者は23名で、総合討論では時間が足りないほどの質疑応答や議論がみられた。 (文責:鷹木恵子)