イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究

日本学術振興会科学研究費 基盤研究(A) 
研究代表者:長澤榮治  

イスラーム圏における「ジェンダー化された暴力/苦悩」

研究会名 イスラーム圏における「ジェンダー化された暴力/苦悩」
代表者嶺崎寛子(愛知教育大学) minesaki◆auecc.aichi-edu.ac.jp
◆を半角@に直してご利用ください
研究会の概要中東における紛争が加速度的に泥沼化した2000年代以降、イスラーム・ジェンダー研究で一際重要なのは、女性に対する暴力やトラウマ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかる研究であろう。
女性に対する暴力、特に性暴力や加害者心理については、精神医学、心理学、臨床心理学等の分野で研究が進み、文化を越えた生理的反応としてのトラウマ反応とそれが身体に与える影響が明らかになりつつある。本研究会では、これらの研究成果を踏まえつつ、イスラーム圏の暴力やそれに伴う苦悩を学際的な視点から検討する。イスラーム圏のジェンダー化された暴力は伝統文化やイスラームの文脈で理解されがちだが、本研究会ではそれを、都市化やグローバル化の影響を受けたきわめて現代的な現象として捉えたい。また暴力などが生み出す「ジェンダー化された苦悩」やそのケアについても検討する。
暴力が社会化・内面化されるプロセスや、暴力や苦悩を加速させる要因など、その社会的文脈や背景を明らかにし、「ジェンダー化された暴力/苦悩」の実態の一端を解明し、理解枠組の構築をめざす。
代表者からのメッセージ若手が自由に発言し、オープンな議論のできる出入り自由な研究会を目指します。ご関心のある方はお気軽にご連絡ください。

次回の研究会

決まりしだい本欄でお知らせします。


これまでの活動

第4回

  • 日時: 2019年2月2日(土) 14:00~
  • 場所: 京都大学人文科学研究所4階大会議室

【合評会・ライラ・アブー=ルゴド『ムスリム女性に救援は必要か』】

*未読の方の参加ももちろん歓迎します。

コメンテーター

  • 村山由美さん(南山宗教文化研究所)
  • 渡部純さん(東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程・福島県立福島商業高校教諭)
 

主催:イスラーム圏における「ジェンダー化された暴力/苦悩」研究会(基盤研究A「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」内公募研究会)
共催:基盤研究A「<ジェンダーに基づく暴力複合>の文化人類学的研究、
フィールドから語るイスラーム、ジェンダー、セクシュアリティ研究会(基盤研究A「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」内公募研究会)


第3回

  • 日時: 2019年1月30日(水) 14:00~16:15
  • 場所: 愛知教育大学第二共通棟431号室

第3回は、LGBTに関心のある愛知県の方を対象に、LGBTへの関心を共通項として中東地域やグローバルな状況にも目を向けていただく機会を提供する、という趣旨で行います。

Part 1 講演会「性的マイノリティについて考える-学校における理解の促進と受け入れのために-」
14:00-16:15

講演1 浦田幸奈氏(愛知教育大学卒業生、尾張地区中学教員、NPO法人ASTA)
「誰もが自分らしく生きられる社会をつくるために~学校・学級における性的マイノリティとの共生~」

講演2 三浦徹氏(お茶の水女子大学理事・副学長・附属図書館長)
「女子大学におけるトランスジェンダー学生の受け入れについて」

Part 2 研究会
16:45-17:35

保井啓志(東京大学大学院)
「LGBTフレンドリーのその先:イスラエルの事例からLGBTポリティクスを問い直す」

<講演会>
主催:愛知教育大学男女共同参画委員会
共催:イスラーム圏における「ジェンダー化された暴力/苦悩」研究会(基盤研究A「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」内公募研究会)

<研究会>
主催:イスラーム圏における「ジェンダー化された暴力/苦悩」研究会

 

第2回

  • とき 7月8日(土) 13:00~17:00
  • ところ 南山大学S棟S55教室
13:00-13:10趣旨説明・参加者自己紹介
13:10-14:10菊池真理さん(筑波大学大学院 人文社会科学研究科)
「ジェンダー化/身体化された暴力/苦しみを生きる」

<発表要旨>
人々は、集合的暴力や紛争・戦争による身体化された暴力/苦しみをどのように生きているのだろうか。 暴力/苦悩と、悼み/癒しの問題について、いくつかの事例(スリランカ中心)から検討する。

14:10-14:50質疑応答
14:50-15:10休憩
15:10-16:00太田(塚田)絵里奈さん(慶應大学文学部非常勤講師)
「社会変動に現れる暴力と危機:2011年エジプト革命(アラブの春)を経験して」

<発表要旨>
太田(塚田)さんは2008年10月から2011年5月まで、エジプト人女性とルームシェアをしながら タハリール地区・内務省隣のビルで暮らし、幸か不幸か、「アラブの春」の展開を間近で感じる状況下に おられました。革命と暴力について、ご体験をもとにお話いただきます。

16:00-17:00質疑応答
(参加者の皆さまの、フィールドでの紛争や暴力の経験などもお話いただき、 共有して議論を深めたいと考え、質疑応答を長めに取ってあります)

主催:「イスラーム圏における「ジェンダー化された暴力/苦悩」研究会(基盤A「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」公募研究会)

共催:まるはち人類学研究会

開催報告

◆「ジェンダー化/身体化された暴力/苦しみを生きる」 菊池真理(筑波大学大学院 人文社会科学研究科)(当時)

本発表では、スリランカ東沿岸部のタミル村落における事例をもとに、村人たちが暴力/苦しみを身体化したまま、身体と言語を用いて他者に働きかけ、他者と共に住まう世界を作ろうとすることを明らかにしようとした。彼らは、日常生活において、他者に対する応答責任の有限性に気づき、自省的に自らを他者との関わりのなかで捉え直す時に、倫理的な感覚や態度を養っていたように思われる。また、内戦とその後の厳しい社会環境や困窮した日常生活で枯渇に晒されやすい他者とのつながりを作りなおす契機が垣間見られた。暴力/苦しみを身体化しながらも他者と共にあろうとする日常的な生の形態は、暴力に対して彼らが日常的に施し得る一つの治療を提供し得るということができよう。

◆「社会変動に現れる暴力と危機:2011年エジプト革命(アラブの春)を経験して」 太田(塚田)絵里奈(慶應大学文学部非常勤講師)(当時)

報告者は中世(10~15世紀)アラブ社会史研究のため、2008年からエジプト国立カイロ大学大学院に留学した。帰国を間近に控えた2011年の初頭、「アラブの春」と総称される大規模反政府運動により、エジプトにおいてはムバーラク大統領の長期政権が打倒されるに至ったことは、報告者のみならず多くのアラブ研究者にとって予想外の驚きであった。エジプトにおける反政府運動は報告者が居住していたダウンタウン地区のタハリール広場を主要舞台として展開したことから、奇しくも革命の進展を目の当たりにすることとなった。本研究会においては、大きな社会変動がもたらした「暴力」や「危機」の諸相について、自身の経験をもとに報告を行なった。

冒頭では、2000年代エジプトの抗議運動や労働争議から、政財界の癒着や警察捜査に対する不満、不信感の高まりを経て、2011年1月25日の大規模抗議デモに至った経緯を確認した。続いて、結果的に「革命」となった反政府デモの展開と政府の対応を時系列的に整理しつつ、いずれの段階でいかなる暴力や市民生活への影響、社会の危機が出現したのかを述べた。報告者の実感としては、大統領自身が政権の終焉を約した直後に親大統領派による官製デモや治安悪化工作が顕著化したことが、以後の反政府運動の方向性を決定づける分水嶺となった。政権崩壊は軍によるクーデターとしての側面もあったが、軍の登場によって革命の舞台からただちに暴力性が排除されたわけではなかった。また国民は政権打倒に向け一枚岩ではなく、市民生活への影響が拡大するなかで、一部は「革命疲れ」のような状況にもあった点も指摘した。

2011年エジプト革命の暴力としては、警察・治安部隊によるデモ隊の強制排除や新大統領派と反大統領派の衝突が耳目を集めた。だが過激化したデモ隊や自警団による破壊活動や尋問、拘束、私的制裁なども革命が生み出した暴力の一環と見ることができるのではないか。また愛国心の高まりは、社会の混乱や国民分断の要因を国外に求める論調へと転化し、外資系企業や外国人に対する攻撃をも招いた。そして革命の高揚感のなかで、女性に対する暴力的かつ深刻な人権侵害が生じ、かつそれを被害者の自己責任に帰する共通認識が見られた点も看過できない。

革命の暴力は反政府運動の進展によって主体も性質も変化していった。そのなかであえて共通項を挙げるならば、体制への不満と閉塞感、ゼノフォビア、ジェンダー規範などのエジプト人に広く共有される意識や価値観ではないだろうか。実際に暴力を行使したのは一握りであっても、その行為に結びつく価値基準を歴史的に肯定、あるいは自明のものとして受容してきた社会的・文化的土壌が存在していたと考える。


第1回

  • タイムテーブル
13:30-13:40研究会趣旨説明「ジェンダー化された暴力/苦悩」をイスラーム圏から/その外から考える」
嶺崎寛子(本公募研究会代表者:愛知教育大学)
13:40-14:00参加者自己紹介
14:00-14:20研究会の方向性の調整・確認、今後の研究会の日程調整
14:30-15:30「中東におけるジェンダー化された暴力と政治」
嶺崎寛子(本公募研究会代表者:愛知教育大学)
15:40-17:00「「失踪」の暴力とその解決――アルゼンチンの「人権問題」と市民社会」
石田智恵(日本学術振興会特別研究員)(質疑応答を含む)
17:00-17:30全体討論
 
 

実施報告

◆趣旨説明等:「中東におけるジェンダー化された暴力と政治/国家」 嶺崎寛子(愛知教育大学准教授)

分科会の趣旨、設定理由について、分科会の代表の嶺崎より趣旨説明があった。学際的な場であること、地方の院生や女性研究者が参加しやすい会にすることなど、都市と地方の格差を踏まえた研究会にしたい旨、説明した。
その後、中東の暴力の現状や問題関心や問題設定についてなどをまとめ、発表した。

◆「「失踪」の暴力とその解決:アルゼンチンの「人権問題」と市民社会」 石田智恵(JSPS特別研究員PD)(当時)

本報告では、アルゼンチン1970年代後半にみられた国家暴力「強制失踪」を主題とし、まずその発生の背景と性質、特徴を示し、この問題についての議論が現地で現在までどのように展開してきたかを紹介した。暴力の背景を軍事政権とゲリラ勢力の対立として捉えその両者に責任を帰すことに批判が提示されるようになる一方、現在支配的な「人権問題」としての論じ方には人種・民族的問題と政治問題を切り離す傾向があるという点も指摘できる。次に「(強制)失踪」という特異・新奇な事態に関する研究・議論の傾向を概観し、近年の文化人類学の議論を参照しつつ「死」と「失踪」の違いについて論点を提示した。文化人類学における「死」の主題は多くが「死の儀礼」すなわち葬送・弔いの社会的実践に関するものだが、これらを参照し、社会における「失踪」という事態の位置づけを「死」と比較して捉えることで「失踪」の独自性を指摘した。後半ではこれをふまえ、「失踪」に対する独自の「解決」の試みを紹介し、また報告者の現地調査に基づき、親族の失踪に直面した人々の組織的活動や、死亡が確認された「失踪者」の事例を紹介しながら、「失踪」がどのような影響を人々にもたらし、人々はその新奇な「問題」にいかに取り組んできたのかを報告した。死を証明する遺体がない「失踪」の状態が引き延ばされるという特異な現実は、親族にとってある意味で「死」を求めたり、死亡が確認されることで悲しみよりも安堵を得るといった特異な経験に現れていることがわかる、また、死亡が確認されることが必ずしも「失踪者」を「死者」と呼び変えることにはならないという点を重要な事実として指摘した。