イスラーム地域研究5班

研究発表要旨

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1998年1月30日(金)

研究発表 1 パキスタン南部の神と聖者―その祈りと歌のかたち 村山和之(和光大学)

 パキスタン・イスラーム共和国を南北に貫く生命の源インダス河。それがアラビア湾へと注ぎこむ下流域に広がるスィンド州とバローチスターン州は、さまざまな願望や畏れを抱く民衆を惹きつけてやまないピール(イスラーム聖者)と、玄奘の記録にも「外道」と記された多神教(ヒンドー教)の神々が穏やかに共存する宗教的磁場ともなっている。

 今回の報告では、13世紀ルーミーとほぼ同時代に「踊り」をサマーとしてこの地方に紹介した聖者シャハバーズ・カランダルの、スィンド州・セヘワーン・シャリーフにある墓廟での命日祭(ウルス)の様子を、特にそこに参詣し祈りと歌を捧げる様々な人々の姿を中心に、ビデオを使って紹介してみたい。興味深いことに、この聖者に冠せられる呼称のひとつは、スィンド人ヒンドー教徒が崇拝するインダス河の神の名と重なる一方、中東イスラーム世界でよく知られる水の聖者ヒズル信仰とも関わりがあるように伺える。インダス河流域を舞台としたシンクレティズムの現状の一端を探ってみたい。

    

概説・研究動向  東トルキスターンのスーフィーたち 澤田稔(帝塚山学院短期大学)

 中国新彊維吾爾自治区南部、歴史上いわゆる東トルキスタンにおけるスーフィーたちの活動を概観したい。東トルキスタンのイスラーム化は10世紀半ばに始まり、その完成を見るのは16世紀初頭のことであったとされている。この地域は、14世紀半ばに成立したモグーリスターン・ハン国(東チャガタイ・ハン国)に支配され、イスラーム神秘主義者の活動が盛んになっていく。そのなかには、ハン国の創始者トグルク・ティムールをイスラームに改宗させたというスーフィーもいる。さらに、16世紀後半からは、ナクシュバンディー教団のシャイフ、アフマド・カーサーニー(マフドーミ・アーザム)の子孫たちがマー・ワラー・アンナフルから進出し始め、タリム盆地西辺のヤルカンドとカシュガルを拠点に活動する。いわゆるカシュガル・ホージャ家の勢力である。彼らは、政権をになうトグルク・ティムールの子孫たちに関わりながら、17世紀後半頃から独自の政治勢力に成長していく。このようなカシュガル・ホージャ家の歴史とともに、史料に散見する系統不明のスーフィーたちの活動にも言及したい。

 

1998年1月31日(土)

研究発表 2 砂漠の聖者の末裔たち―聖者性の継承についての事例研究 赤堀雅幸(上智大学)

 聖者に対する信仰が、聖者の死後どのように継続されるのか、また信仰の組織化がどのように行われるのかを、エジプト西部砂漠のベドウィンの間の聖者信仰を事例に考えてみる。やや例外的とも思われる事例を扱うことで、これまで見過ごされてきた問題点がないか、人類学における神話・儀礼分析の手法がイスラームの聖者信仰の理解に応用できないかに特に留意したい。

 フギーと呼ばれるこの地域の聖者に対する信仰については、すでに「聖者が砂漠にやってくる」(『オリエント』第38巻第2号)で若干論じた。今回は聖者の死後、彼らの聖性が一定の出自に引き継がれ、それがいわば「聖者の末裔」部族を形成するという点を中心に聖者の境界性と両義性などを議論し、皆さんの御批判を仰ぎたい。

5jimu@culture.ioc.u-tokyo.ac.jp