イスラーム地域研究5班
研究会報告

B.Hourcade 氏 講演会報告

日時:11月17日(水)17:30〜19:00
場所:東京大学東洋文化研究所・3 階大会議室
 Bernard Hourcade 氏は、フランスの CNRS (国立科学研究センター)上級研究員(Directeur de recherche)で、ご専門はイランの地理学である。興味深い種種の地理学的統計を掲載した Atlas d'Iran(Paris, 1998)の編者の一人として有名である。フランスでは、国家が支給する主たる研究費は、CNRS を通じて研究者の手に渡ることになっており、そのために、CNRS に所属する形で学問分野別に研究グループが数多く作られている。イラン研究者を集めたグループ「イラン世界」(Monde iranien)もその一つであり、Hourcade 氏はそのグループの責任者の地位にある。すなわち、氏は今日のフランス・イラン学の中心的存在なのである。国連大学主催のシンポジウムへ参加するために来日されたのを機に、5 班では氏に講演を依頼し、ご快諾を頂いた。

 講演のテーマは、"TEHRAN, THE NEW IDENTITY OF A WRONGLY KNOWN CAPITAL" だった。
 Hourcade氏は、都市テヘランの歴史概観から話をはじめ、アゼルバイジャンからの大量の移住者によって膨張した都市居住民数、裕福な人々や上流階級が住む北部と庶民や移住者などが住む南部というテヘランの伝統的な都市構造などについてまず説明した。
 次いで、最近のテヘランの変化について、アゼルバイジャン以外の地域からの移住者が激増していること、中心部にいわゆる「中流階級」の人々が住む地域が発展してきていること、豊かな北部と貧しい南部という従来の区別が必ずしも有効ではなくなってきていること、その例として、中下層階級の住む場所と考えられていた南部にコンサートホールが建設されるなど、南北の融和が進み、新しく「テヘラン市民」というアイデンティティーを持つ人々の数が増えていることなどが指摘された。
 聴衆の数は20 人弱とそれほど多くはなかったが、OHP を活用した整然とした分かりやすい講演の後の質疑は活発で、特にテヘラン郊外の住民のアイデンティティーの問題などが議論された。会終了後は席を移して懇親会が行われ、英、仏、ペルシア、日本語が飛び交う中で、参加者は深更まで大いに飲み、食べ、話し合った。Hourcade 氏に日本の若い世代の研究者の活発な活動の一端を知ってもらうことが出来たという点でも意味のある催しだったと思う。

(文責:羽田 正)


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