イスラーム地域研究5班
研究会報告

「国際商業史研究会」David Gordon Kirby教授講演会・報告

  1. 日時・場所:4月9日(金)14:00-17:00 東京大学文学部・法文1号館・315番教室
  2. 講師:ロンドン大学教授David Gordon Kirby氏
  3. 題目:「バルト海貿易の諸形態」"Patterns of Trade in the Baltic"
  4. 要旨:
    カービー氏はフィンランド現代史を中心とする北欧・バルト海地域史を専門とし、講演では中世初期から近世にいたるバルト海貿易を広い視野からサーヴェイし、冬期に氷結するバルト海の自然条件のもとでの船舶航行と港湾立地の特徴を述べたのちに、バルト海貿易の諸形態を時代別に論じた。中世初期には比較的高価な奢侈品取引を中心とし、ガラス製品・武具・甲冑などを輸入し、毛皮・琥珀・蜜蝋を輸出していたが、12世紀以降は西ヨーロッパ側で食糧・原料の需要が増大したので、バルト海貿易は低価・重量商品の輸出に転換しはじめ、さらに中世末期には、西ヨーロッパ繊維製品の輸入も減少する。また同時期にはスコーネ地方の年市も衰退に向かった。中世から近世への転換は、ふつうハンザ諸都市からオランダへの貿易主導権の移行として描かれるが、ハンザ諸都市の商業活動はバルト海・北海間の交易にとどまらず、バルト海内交易や中央ヨーロッパ内陸交易をも含み、それらは近世にも長らく繁栄をつづけた。バルト海貿易の運命は、これらの社会経済的条件ばかりでなく、ゾイデル海東岸の諸港を没落させた(気候の温暖化による氷河溶解に起因する)泥土堆積によっても左右された。そして17世紀にオランダがバルト海貿易を掌握したのは事実であるが、この部門がオランダ経済に対してもつ比重や、バルト海地域の世界市場への包摂過程にオ ランダ商人のはたした役割については、多くの議論の余地がある。バルト海が一次産品供給地に転化した基本的条件は、この地域が処女地に接する辺境地帯であり、したがって人口増加が都市の発達をもたらさなかった事実にある。カービー氏はこのように述べて、国民的枠組みをこえた広域的活動を、貿易そのものよりも商人に着目して研究すべきであると提唱し、講演をしめくくった。


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