イスラーム地域研究5班

イブン・ハルドゥーンに関する講演会の報告

 

5班aでは、東京大学文学部イスラム学科との共催により、下記の要領で、研究会を開催いたしましたので、ご報告申し上げます。

講師:アブドゥッラフマーン・ラクサーシー氏(モロッコ国立ムハンマド5世大学文学人文科学部哲学社会学科イスラム研究教授)

講演題目:Ibn Khaldun and Philosophy

日時:1999年3月4日(木)、15:00より

会場:東京大学本郷キャンパス・法文1号館1階、112教室

報告:赤堀雅幸(上智大学外国語学部)

Abderrahmane Lakhsassi, "Ibn Khaldun," in Seyyed Hossein Nasr and Oliver Leaman (eds.) History of Islamic Philosophy, Part 1, London: Routledgeにおいて展開した議論を参考にしつつ、ラクサースィー氏は、イブン・ハルドゥーンのイスラーム哲学史上における位置、とりわけマグリブでの思想伝統における役割を明確な口調で説明した。イブン・ハルドゥーンの哲学に対する立場を、それが人間にとって自然であり、歴史家にとって有益であることを認める一方で、信仰にとって害あるものとして退けたとし、ガザーリー、イブン・スィーナー、とりわけイブン・ルシュドなどとの類似と差異を選り分けてみせた。また、イブン・ハルドゥーンの時代性にも注目し、彼が生きた時代が思想的のみならず、すべての面における激動の時代であったことを強調し、その時代に多くの相矛盾するような潮流を容易に飲み込み溶解する形で彼の思想が形成されていることを指摘した。加えて、イブン・ハルドゥーンが当時の民衆文化をどのようにとらえていたのか、自らの思想とどのように関連づけていたのかについても持論を展開した。19世紀にまで継続する第二期へとイスラーム思想が移行するときにあって、イブン・ハルドゥーンこそははるか高みに立ち、イブン・ルシュドをもって終幕を迎えたイスラーム思想の第一期を見晴らした思想家であったというのが、彼の結論である。

この議論に対して、思想研究を主とする参加者からはマシュリクにおける思想伝統との対比など、地域性の問題、また歴史認識の問題などで様々な質疑が寄せられ、そのたびにラクサースィー氏は活発に回答を提示した。また、民俗学、人類学を専門とする参加者からは、モロッコにおける民衆文化をイブン・ハルドゥーンの著作における口承文芸についての記述との関連から問う質問や、ラクサースィー氏自身の研究においてイブン・ハルドゥーン研究とベルベルの口承文芸研究が取り結ぶ関係などについても質問が寄せられた。

5jimu@culture.ioc.u-tokyo.ac.jp