イスラーム地域研究5班

5b「異文化の接触」(高山博、岸本美緒担当)研究会報告

5班「イスラームの歴史と文化」Bグループでは、11月18日(水)午後3時から5時まで、東京大学法文二号館、文学部多分野交流室で、「異文化の接触」(高山博、岸本美緒担当)をテーマにした研究会を開催しました。17名の研究者が参加する中、草生久嗣氏が「ビザンツ異端論駁書とイスラーム像 −12世紀証言よりの照射−」について、工藤晶人氏が「18世紀ヨーロッパ人が記録したアルジェリアのムスリム達」についての報告を行い、熱のこもった質疑応答が行われました。以下、その概要を紹介します。

1 草生久嗣 「ビザンツ異端論駁書とイスラーム像 −12世紀証言よりの照射−」

報告者は、まず、ビザンツ帝国で作成された『イスラーム論駁』文書の基本論調と特性を紹介したあと、これらの文書がこれまで、教条主義的な偏向という理由で、歴史家達によって歴史史料としての価値を疑われてきた経緯を説明した。次に、12世紀の神学者エウティミオス・ジガベノスによって書かれた『イスラーム論駁書』を取り上げ、その成立の背景を検討した上で、それが実用性を重視して著されたものであり、同時代証言として十分に史料的価値を有するものだという結論を得た。
この報告に対しては、当時のビザンツ帝国において、教会知識人たちが描いたイスラーム像とビザンツ人一般が有するイスラーム像との相違点、イスラム教徒のキリスト教への改宗の実態などについて、多くの質疑応答がなされた。

2 工藤晶人 「18世紀ヨーロッパ人が記録したアルジェリアのムスリム達」

報告者は、18世紀以前のフランス人によるマグリブに関する記録とそれをめぐる研究動向を紹介したあと、同時期の在アルジェ・フランス領事館関係者(ロージエ・ド・タシ、ヴァンチュール・ド・パラディ)の著作の中で、マグリブのエスニック・グループがどのように認識されていたかを分析し、こうした文書から作成者の認識を抽出すること、その認識の背後にある事実を推測することの難しさと意義を論じた。
報告後、この時期のムスリム認識とアルジェリア植民地化以降のムスリム観との関わり、ヨーロッパ人の観察したイスラーム像と実際のイスラームの信仰形態とのずれなどをめぐって、活発な質疑応答が行われた。

                               (文責 高山博)

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