イスラーム地域研究5班

 5a『イスラームと衣の文化』の第一回読書会報告

 

「生活の中のイスラーム」をテーマとする研究班5aの公募により発足した『イスラームと衣の文化』の第一回読書会が、8月31日(月)、上智大学にて催されました。取り上げられたテキストと発表者は以下のとおりです。

Lindisfarne-Tapper, N. & B. Ingham (eds.), Languages of Dress in the Middle East, London: Curzon Press, 1997.

1.発表者:斎藤剛(東京都立大学大学院)

コメンテーター:大坪玲子(東京大学大学院)

第1章 Lindisfarne-Tapper, N. & B. Ingham "Approaches to the Study of Dress in the Middle East"

 

2.発表者:鈴木瑛子(お茶の水女子大学大学院)

コメンテーター:村上薫(アジア経済研究所)

第9章 Norton, J. "Faith and Fashion in Turkey"

 

1に関して:

本書の目的は、衣服の特殊性(特定の環境における服装習慣)に焦点を定めることによって、「衣服の技術、言語の使用、社会関係という諸側面のあいだの密接な関係を明らかにする」(レジュメより)ことである。筆者はまず、これまで中東の衣服を扱う際に広く浸透している機能主義的アプローチを、衣服の多様性を説明できないとして批判しているが、参加者からは機能主義的議論にも一定の有効性をみる声が出た。また、筆者は衣服を言語として捉え、衣服は個人および集団のアイデンティティを創出、強化しうるとしている。しかしどのような観点から衣服と言語を結びつけているのか、また「中東」の衣服でくくる必然性があるのかというような疑問が出され、今後地域ごとの事例をみていく上で本書のタイトルの意味も考えていく必要があると思われる。さらに著者は、衣服とジェンダーに関する議論では、オリエンタリストの言説にみる中東の一般化を批判している。最近では国家規制、宗教との関連で語られることの多いヴェールであるが、イスラーム復興の影響はほとんど見られないイエメンやオマーンにおけるヴェールのもつファッション性、および匿名性など、「象徴」ではないヴェールの例も席上参加者から紹介された。全体的には網羅的で、筆者自身の方向性がはっきりと読み取れないという意見が多かった。

 

2に関して:

まずオスマン人の服装を簡単に振りかえったあとで、フェズ(トルコ帽)の禁止者であるアタテュルクの試みが検討された。そして彼の時代から後の服装の変化をたどり、現在イスラーム主義者と世俗主義者のあいだにある争いにおいて服装が果たす役割が描かれている。服装はトルコにおける近代化のレトリックとは不可分であり、それを利用するトルコの国家権力の強さが確認された。しかし本論文は経済・政治状況の描写が欠落しており、イラン革命の影響も議論されていない、というコメントがあった。いずれにせよ、トルコにおいて服装はまさに「時代を写す鏡」(レジュメより)となっているとの筆者の主張は、一同が納得するものであった。

文責:大川真由子(東京都立大学大学院)

 

5jimu@culture.ioc.u-tokyo.ac.jp